2-3 ストレリチア(極楽鳥花)~自由~ その3
プレゼンの基本は、A案が無難、B案に対案、C案にはっちゃけ、てなパターンが多いのだけど、今回はA,Bにはっちゃけ、C案に落ち着くというのを狙ってみた。
その意図を気付かれたかもしれない…でもよほどのことがない限り3本目を選ぶはず。先の2本は面白みはあるがさすがに企業向けではないというか、先輩たちに企業向けを意識しないように作ってもらったのだ。
3本目が私の制作、発注時の希望に一番近いはず。しかし、社長は自分が(CG)出演しているA案が気になる様子。どんだけ自分が好きなんだか。
「う~ん、みんな良くできてるんだけど、せっかくだからもうちょっとなんかない? おたくとは長い付き合いだけどさあ、いちおう競合他社との差別化ってほしいじゃない」
「はい? えっとですねぇ」
そう来たか。
私が戸惑う様子を見て意地悪そうにニヤニヤしている、プレゼンは3本でOK出したくせに。
「だめなのかな?」
「では…あまりリクルート向けではないですが、こちらをご覧ください」
私はポケットからUSBメモリーを取り出し、PCに差し込んだ。もちろんこれは『奥の手』を出したという演出だ。
画面に映されたのは細い糸が無数に現れ、人の形に撚り合わさり、やがて四方八方へと走り出していく動画。私がかつてSNS用に作ったもので、当時はなかなか好評でちょいバズリした自信作。ただし、かなり抽象的で企業の案件には使えないだろうとボツにしていた。
「御社は現在アパレルが中心ではありますが、元は江戸時代から続く織物業が発祥とお聞きしました。糸が撚り合わさり、人となっていき御社を盛り立てていく人材になって欲しいという意味を込めております」
ハッタリ…いやこじつけだ。
3本全部にダメ出しをされたときのための4本目なのだが、通用するだろうか?
「これは、アートだ…面白い。中毒性がある、ずっと見ていられる」
このオジサマがこんな感想を言うと思ってなかった、心の中で小さくガッツポーズ!
「ビッグサイトに出展するときに使えそうだ」
「発注、お待ちしております」
私は深々と頭を下げ、プレゼンは無事終わった。
心臓がまだバクバク言っているけど、部屋の隅でマリリンとシノアがピースサインを出してくれているのが見えてほっとしたのは覚えてる。
(ありがとう、さようなら花屋さん。あなたが私を紙屑のように捨ててくれたからいまの私がある)
頬の筋肉の緊張がほぐれ笑顔が顔に広がっていく。この時の私は久しぶりに心から笑っていたはずだ。




