2-3 ストレリチア(極楽鳥花)~自由~ その2
そして翌週の水曜日、噂のクセツヨ社長がやってきた。
「雪恵ちゃーん! おひさぁ」
「いらっしゃいませ、佐山社長」
(キャバクラか?)
ハイテンションの社長をいなす雪恵さんはとても上品に笑っていたので、私は心の中でそっと突っ込むだけにしておいた。
190近い長身で、日焼けした胸をはだけて胸毛の上に金のネックレスが光っている。歯のホワイトニングは予想よりはるかに眩しくて、廊下の奥から歯が歩いて来るように見えた。笑いを堪えたのは私だけじゃないはずだ。
(ほんとに息抜きに雪恵さんの顔を見に来てるのかしら)
私にとって最初の仕事らしい仕事。トシ食ってるけど『新人』が緊張しないわけがない。でもこの社長がこちらに来てくれたおかげで、マリリンやシノアの力も借りられてとっても心強い。
ここにも雪恵さんの配慮がある気がする。
「それで、この子が今日の新人さん? お嬢ちゃんよろしくね」
「デザイン部の逢沢です。よろしくお願いいたします」
お嬢ちゃん! 久しぶりに言われてカッチーンと来たが、もちろんお行儀よく笑顔を返す。
「逢沢って雪恵ちゃんの」
「義理の妹です」
へええ、と言いながらキャバ嬢を値踏みするようにジロジロと見てきた。クライアントでなかったら足を踏んずけてやりたいが、きっとこれも私を試してるんだろう。その手に乗るもんですか。
今日のプレゼンは会議室の中でもMediaRoomを指定、ミニシアターのように大き目のモニターを用意した。大袈裟だがハッタリもある。
営業部の報告の後、デザイン部のプレゼンをスタートした。
部屋を暗転させると3本の動画を続けて再生。1本あたり30秒ほどなのであっと言う間に終わるのだが、社長は口をはさみたくて仕方なさそうだった。隣に座ったお守り役?の担当者が必死に止めてくれている。
当然ながら動画の上映が終わると真っ先に社長が騒ぎ出した。
「ねぇねぇ、最初の動画で踊ってるのって僕だよね」
「はい佐山社長、お疲れさまでした」
「いまのAIってすごいんだね、たのしー。2本目はゲーム仕立てだね、『転生したらSAYAMAの社員だった件』て感じ?」
「気に入っていただけましたか?」
「僕、ラスボスをやりたいな」
「ドラゴンでも魔王でも、お好きにどうぞ」
「3本目は実写かと思ったけど社内でドローンなんか飛ばしてないからあれもAIで作ったの?」
「はい、本番ではドローンを使います」
「あのレクタイムにドローンで遊んでたカットはさすがに」
「はい、実写です」
「AIもすごいけどやっぱり実写の力は強いねぇ」
ひと通りは好感触なリアクションだが、このクセツヨ社長がこのまま終わるわけがない。何か企んでいるようにニヤニヤ笑っていたので、私もちょっとギアを上げることにした。




