2-2 アイリス~素敵なお知らせ~ その3
デスクに戻ると新規案件のデータをクラウドから下ろして開いた。カグヤさんから前回のプレゼン資料のフォルダとロックされた『(秘)申し送り』のファイルが届いている。別便で来たパスワードで開いてみると怪しげなワードが並んでいて…。
>新しいモン好き
>無駄にイケオジ
>女に手が早いので要注意
>Yukie Love
>会いに来ちゃうクライアント
ミーハーでセクハラおじさんかぁ。無駄にイケオジなんて言われると気になってしまうので、検索してみると佐山社長のプロフィールと写真が出てきた。
なるほど、そこそこのイケオジかな。これに注意しろってことは外見に自信があるから褒めるようにってことか。
58歳のオジサマが見た目を褒められて嬉しいか?
いやでもこの人、歯がホワイトニングで眩いほどに真っ白だ。こんだけお金かけてるなら褒めて欲しいよね。
(北海道でプロ野球の監督してそう)
Yukie Love?
雪恵さんのファンってことかしら、雪恵さんがファンなのかな、わからん。
「カグヤさーん、ちょっといいですか? 佐山社長のことで」
「いいわよー。15分後にお茶しよう」
カグヤさんは私より5個も年下で先輩とは言いにくい人。いつもメイドさんみたいな可愛い格好しているけど、彼女も仕事は速い。集中すると声が聞こえなくなるタイプだから声掛けのタイミングが大事。
「この『申し送り』なんですけど」
「それは営業から回ってきたんよ、どこわかんない?」
アイスミルクティーのストローを咥えながらカグヤさんは教えてくれた。ほんとはカグヤちゃんって言いたいくらい可愛いんだけど、それはさすがに失礼だろうなぁ。
「ツッコミどころはいろいろあるけどYukie Loveって何でしょう」
「彼って雪恵チーフのこと大好きなの。でもそれで一度修羅場になったらしい」
「修羅場!」
「雪恵チーフが佐山さんとこに打ち合わせに行ったら口説き始めちゃって、それが奥様にバレて大目玉って話よ」
「ひえええ、マジ?」
「それ以来、雪恵チーフは佐山社長のとこには行ってないわ。そしたら佐山社長がこっちに来るって言いだして」
「それで『会いに来ちゃうクライアント』、なんだか大変そうな人ですね」
「営業にとってはね、私たちにはいいお客さんよ。新しいことやるとすごく面白がってくれるの。たいていのクライアントさんって無難なの欲しがるからさ、だから新人にはこの人の仕事振るのよ」
「面白がるんですか」
「採用されるかは別だけど、思いッきり弾けても大丈夫なの。香菜ネエも自由に楽しんでね」
「なんか気が楽になりました」
「アイデア出そう?」
「そうですね、いくつか思いついてます」
「頼もしー、やっぱ雪恵チーフがOK出しただけある」
「あの、コネ採用と思わないんですか?」
「雪恵チーフがそんなにウェットとは思えないもん。それに大企業ならともかく、ここにコネ使ってまで入る?」
「あ」
言われるまで自分の視野の狭さに気付かなかった。バカだなぁ、私が憧れてやまないデザイン部なんて彼女たちにはステップのひとつに過ぎない。
ヒラヒラと手を振ってデスクに戻っていくカグヤさんは、とても軽やかで自由に見えた。
「こだわらずに自由な発想で」
私が偉そうにあの花屋さんに言った言葉が、見事にブーメランになって私に突き刺さってる。
これはもう、笑うしかないじゃない。




