2-2 アイリス~素敵なお知らせ~ その1
上出来なことに私は異動してから2カ月ほど経つと仕事に慣れ、既存の案件ならなんなくこなせるようになった。しかも会社に行くのが楽しいというおまけつきで。
「マリリンパイセン、チェック終わりました」
「いくつ間違ってた?」
「5カ所です、上々ですよ」
マリリン先輩の仕事の速さに最初こそ付いていけるか心配だったが、速いだけあってミスも多い。私のダブルチェックが入ってちょうどいいくらい。そうやって人の仕事をサポートしているうちに、実戦で使う知識がどんどんたまっていって、私のような新人でも使える人材に育っていくという仕組みなわけね、了解了解。
この他にも隅々にまで雪恵さんのアイデアで構築されていて、家庭を持っている人でも効率よく働くことでほぼ残業しないで回っている。
例えば誰かが急に熱を出して早退しても、2重3重のサポートが入って仕事を進めておいてくれる『お互い様』システム。もちろんクラウドで情報共有して社外秘以外なら自宅からのアクセスも可能だ。
それがマリリン曰くの『雪恵ワールド』ということなんだろう。
兄と結婚することになって、家庭を守り子育てしながらでもキャリアを無駄にしないですむ手だてを考えたに違いない。
(雪恵さんってすごい人だったんだ)
兄にはもったいない…とまでは言わないが、その気になれば兄がいなくても十分やっていけそうだ。彼女は紛れもなく『一人で立っている』女性なんだと痛感する。
それと同時に雪恵さんにお嬢さん扱いされるたびにいじけていた自分が恥ずかしくなった。
(もう『お嬢さん』なんて言われないようにしなきゃ)
1カ月後の全体会議に新規案件が乗り、私も初めて招集されてワクワクしながら参加させてもらうことになった。
「これは新規とはいえ、クライアントはおなじみの佐山社長んとこです。営業部が例によって安請け合いしてきましたぁ。予算少なめです」
営業部はときどきやらかすのだが、全体の見積もりを下げるためにデザイン部の予算を削ってくる。
「今回はリクルーティング用の広告、企業イメージ向上を重視でお願いします。媒体はwebサイトとSNSとセミナー用動画です」
「はいはーい、前回は私がやったのでパスでーす」
雪恵チーフから議題の発表があると、月光さんがすぐに手を挙げた。ちなみにこの部署の女子7人のうち5人はキラキラネームだ。
(ん? 評判良くなかったのかしら)
「あれは良くできてた。でも佐山さんは新しいモノ好きだから同じ手は使えない、非常にめんどくさい人です」
「ですよね~」
「というわけで新人の逢沢さん、やってみる?」
「わ、私ですか」
「どう?」
雪恵チーフがにっこり笑いかけ、会議室のみんなの視線が私に集中してくるのがわかる。「私なんて」と言いかけて言葉を飲み込んだ。こういうネガティブワードを使うと、雪恵さんのこめかみに小さなお怒りマークが出るのを私は学んでいる。
「やります、やらせていただきます」
「そう、じゃあサポートはマリリンと詩彩で。おっとマリリンは来月で退社だっけ、じゃあ最後の仕事になるわね。念のためバックアップも決めときましょう、情報共有よろしく」




