2-1 グラジオラス~武装の準備ができた~ その3
「なあ雪恵。香菜は、あれは少しは使えるのか?」
(あら、やっぱり気にしてるのね)
夕食後のリビングでコーヒーを飲みながら、そんなことを訊いてきたのは香菜さんが異動して1週間ほどしたある日のことだった。厳しいことを言ってたけれども妹のことは心配と見える。
可愛いとこあるじゃない。
「問題ないわ。頑張ってるし上手くやってる」
「そうか」
「うちの部署はほとんどが3年以内の新人ばかりだから、入ってすぐに仕事ができるようにシステムは組んであるのよ」
「あれがデザイン系に向いているなら、無理に事務をやらせなければよかったかな」
「そうね、1年経ってもエクセルをマスターできないなんて相当なものよ。あのコはきっと感覚優先の仕事が向いてるわ。なんで事務をやらせたのか不思議なくらい」
「母さんがすぐに嫁に行かせるつもりだったんで、穴埋めが効く部署にしろってね」
「お義母さまは自分の娘をどれだけご存じなのかしら」
旦那にとっては実の母親なので気を付けているが、ついつい言葉に棘が出てしまう。苦手なタイプというより彼女の考え方に賛同できないことが多い。
3階建てで完全隔離の2世帯住宅を造ったときから、お互い接触が少ない方がいいですよというサインを出していたつもりだったが、通じたかしらん。
「母さんは何も知らないさ、あいつ自身が隠し続けたせいもあるが、見事に自分の理想の娘としか見ていない」
「それがかえって危なっかしいわね。あの男運の悪さは『運』で片づけられるレベルじゃないわ」
「是非ともご教示願いたいね」
「私もあまり男を見る目はないかもよ」
「それは俺が決めることじゃなさそうだな」
私が口を出すと財産のこととか絡んで来ちゃうから言いたくないのよね。仕事のことならアドバイスできるけど。
「彼女、どういうわけか自己肯定感がものすごく低いでしょ」
「控えめというよりオドオドしてるか」
「そうね。自信が持てれば違うと思うんだけど、とりあえず仕事でがんばってみるしかないんじゃないかしら」
「それで仕事に生きるってなって行き遅れるのもなあ」
「あなたも頭が古いのね、べつにいいじゃない結婚して幸せになれる保証なんてないのよ」
「そうなのか?」
「男にとってはそうでも、女にとってはギャンブル。とくに彼女はあの男運ではかなりの確率でハズレを引きそうだもの」
クズ男に引っかかって泣きを見た女性を何人も見ている。結婚してからそれに気付くのでは遅いこともあるもの。これは私みたいな良妻と結婚したうちの旦那ではわからないでしょうね。
「とりあえずは上司としてサポートするのがベストだと思う。もちろんプライベートでも助けてあげたいわ、あなたよりは私の方が話しやすいでしょうし」
それにしても。
どうして彼女は自分の魅力に気付かないんだろう。女の私が見ても十分素敵なのに、すぐに「私なんか」って言うのにはイライラするわ。アラサーって歳も気にしすぎ。
でも私の部下になったからには鍛えさせてもらうわよ。




