2-1 グラジオラス~武装の準備ができた~ その2
「はい、お待た」
5分経つと彼女は画面から目を離してニッと笑った。
「私は笠井鞠鈴、マリリンでいいよ。えっと香菜さんはなんか案件振られてる?」
(キラキラネームの先輩!)なんて驚いている場合ではない。
「いいえ、とくには」
「そう、雪恵チーフになんか見繕ってって言われてたんだけど、まずはAZカフェのキャンペーン用パンフとチラシ、これチェックよろしく」
「チェックですか」
「明日納品だからもう90%できてるけど、紙媒体とWEBとアプリ広告、これの一貫性とかレスポンス取るからQRコードの動作確認、あと今回は星も数えるんで…」
私は慌ててメモを取り出した。
「んじゃ、しくよろ~。ちな、私は定時で帰るんで質問あったら5時までにね、推しのライブがあるから即行消えるよん」
「はい、お昼までに終わらせます」
私はメモを見ながら仕事時間を概算した。
「え?」
「はい?」
「いや、雪恵チーフからは香菜ねえさんは慎重派だって聞いてたからさ」
(香菜ねえさん?)
「でもお急ぎなのでは」
「急いでるのは私だけ、明日納品だから午後でもいいのよ」
「でも、早いにこしたことはないかと」
「ん-、でもさ、早くてミスされるより、ゆっくりでも正確な方がいい仕事もあるから。とくにこの最後のチェックは時間があるんだしゆっくりやっていいんよ、てか、ゆっくりやって」
「はぁ」
「うちの案件ってこのタイプが一番多いの、これチェックすれば仕事の流れがわかるはずなんよ。どんな順番で流れてくるかとか、誰が関わってるかとか」
「なるほど、でもマリリンさんってすごいですね。私みたいな新人でも動けるようにすごく指示が的確です」
「それは私じゃないわよ、雪恵チーフからのお達し」
「雪恵さん、いやチーフが」
「香菜ねえさんは総務にいたんだっけ、じゃあびっくりするかもね。ここは雪恵ワールドなの。ああ、身内なら直接聞けばいっか」
あらら、やっぱりバレてたのね。
「でもそういうのは」
「コネでもなんでも利用すればいいじゃない。ここにいる人たちは気にしないわよ」
「実力主義ってことですか?」
「うーん、てか、みんな社員じゃないんでそういうの関係ないの」
「えっ、派遣?」
「じゃなくて、個人事業主と契約してるって考えた方がいいね。社員は管理職だけ」
そうか、出世とか関係ないから私が『逢沢』なのも割り込み異動しても気にしないのか。こりゃ気が楽だ。
マリリンは私に指示を出すと、自分の仕事に戻っていった。脇目も振らず素晴らしい集中力で画面を見つめ、絶え間なく手を動かしている。たぶん推しのために。
(没入型かぁ)
こんなスピードに私はついていけない。けど、私の特性は速さじゃなくて正確さなのだとしたら(多少は使い道があるってことよね)。うなずき深呼吸をひとつして私も画面に向かった。
推しも待つ人もいない私には時間だけはたっぷりある。




