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2-1 グラジオラス~武装の準備ができた~ その1

挿絵(By みてみん)

兄がいま社長をしている会社は祖父の代に創業していて別に老舗ってほどでもない。当時は町の小さな不動産屋だったらしい。

それがバブルであっという間にAZホールディングスとやらになって、いろいろな事業に手を出してきた。成功もあったし失敗もあったが、いまは不動産の他に飲食やイベント、コンサルなんかも手掛けていてそれなりに名前も知られている。


ただしデザイン会社ではなく、デザイン部の仕事は社内や傘下の会社の広告や広報用のデザインが主だ。もちろん外注すると高いからと、そこまで高度なデザイン性を要求してないから、だそうだ。


そんな会社だがいっそM&Aで売り飛ばせば一生遊んで暮らせるだろうに、兄はそうはせず「事業を継ぐ責任を背負った」と言いきった。


(かっこつけちゃって)


そりゃあね、私がその立場だったら逃げ出してるからなんも言えないけど。


私はそういった兄の覚悟やお祖父ちゃんたちからのアドバンテージをちゃっかり利用した。周りから見ればズルい女だよね。


身内のコネを使って強引に人事異動をさせた…たぶんそう思われるだろうし、それはまぁまぁ当たり。陰口は叩かれるだろうけど、私はここで成果を出すまで鈍感力を発揮して、ニコニコと笑顔でどんな仕事だってこなすしかない。オバサン呼ばわり上等。


エクセルの起動画面を見なくてすむならお安い御用だわ。


部署に合わせて着ていく服も変えた。いままではスーツだったがTシャツにデニム、スニーカー。ただしブランドや色使いには気を遣ったつもり。ルールが緩いコーデはかえって難しいが、ダサいと思われてはデザイン部にはふさわしくなかろ。


そして異動当日、私は段ボールを抱えてデザイン部へ向かった。


「本日よりお世話になります。逢沢香菜です、よろしくお願いします!」


渾身の笑顔と体育会系挨拶で、なんとか陰キャ色を払拭しようとしたのだが、デザイン部はそれはそれは忙しそうで誰も振り返らなかった。


(あちゃ、外したか)


「ああ、私の隣が空いてるからそこ使って」


ひとりだけ反応してくれた人がいた。私より明らかに若いがタメグチ…当たり前よね、私はここでは新人だもの。


「はい、失礼します!」


「ごめん、ちょっとめんどくさいとこやってるから、5分待って」


彼女は鋭い目つきでじっと画面を見つめているが、その画面上を高速でマウスポインタ―が行き交い、左手はせわしなくショートカットを打っていた。私は邪魔をしないように抱えた段ボールをそっと机に置いて中身を整理し始めた。


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