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強さゆえの別離

 ミリタリー魔法< スタングレネード >はピンなどついていなかった。

 私はロマッリとケリマへ得意になってスタングレネードを披露してしまった。

 残念ながら二人はスタングレネードを4つまとめて至近距離で食らった……。


 だが、私は一瞬で立ち直ったのだ。

 ヘルメットの中に黒いフルフェイスマスクを被っているのもある。

 まさかこのマスクを自動装備するのは、これを見越してのこと!?



「こぉ!むぅ!すぅ!めぇぇぇ!なにをしたぁ!?」


 ロマッリがフラフラしながら私を探しているようだ。

 不思議なことに頭にまで青筋が立っている。


 一方、ケリマは本当に静かだ。

 あの一瞬で耳を塞いだのだろう。

 下を向いて目をシバシバさせている。復活は間近だ。



 私が至急やるべきことは、体に巻きつけられた鎖をほどくこと!

 早くほどかないとロマッリがギロチンのように私を「ヒュンヒュン」回す。

 そして次にやることは、あの黒岩オオトカゲを倒すこと。


 最後に二人のご機嫌を取ることだ!


 鎖を解いた私は、あの雑魚トカゲに向かって駆け出した。

 一刻も早く後ろの二人から離れたいとか、そういう気持ちじゃない。

 純粋に二人に攻撃が及ばないようにする、優しさから来ているのだ!



< スタングレネード 2つ >


「シャーァァアアウ!」


 トカゲも私に向かって来ている。

 望むところだ。



 ―――プシューーー!

 ―――バン!バン!


 私のスタングレネードと黒岩オオトカゲの吐いた息が同時に炸裂した。


 ヤツも目潰しが得意らしい。

 白っぽい煙が周りを漂っていてなにも見えない。

 トカゲにグレネードは効いたのだろうか?



 ―――ガブッ!


 視界を失った私は、顔を横にした黒岩オオトカゲに噛みつかれてしまった。

 私の頭から下半身までを口で挟んだトカゲは、顔を元の方向に戻した。

 そして気持ちよさそうに「クチャクチャ」やり始めた……。


 ブヨブヨとした噛み応えだと思うが、この食感を楽しんでいるように感じる。

 私はいつまでも「クチャクチャ」されているわけにはいかない。


< バンドルマイト 小さめ >


 元のサイズから考えると、爆発する赤い筒の2・3本というところだろうか?

 小さなサイズのバンドルマイトの導線に触って点火する。

 そして、そのまま喉に向かって投げた。



「大丈夫か?小娘女王?」


 ケリマさん!?

 気配を感じさせないケリマが私のすぐそばで心配そうに見つめていた。

 やはり、いい人だ。涙が出そうになる……。


 私は親指をグッと突き出した。

「クチャクチャ」音がしているが大丈夫だ。

 なんともないぜ!



 ケリマも笑顔で私に親指を突き出した。

 さすが友達だ!



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



 ―――パァァアン!


 黒岩オオトカゲが腹から爆発する。

 私は相変わらず吹き飛ばされてゴロゴロと転がった。



 爆発直後の煙の中から、とても背の高い細身の女性が飛び出してきた。

 いつにも増して真っ黒だった……。

 肌の上から真っ黒でドロドロな液体がこびりついている。


「も、申し訳ございません!」


 私の謝罪はケリマの耳には届かなかったのだろう。

 ケリマは私を蹴り転がした。


「貴様!やっていいことと、悪いことがあるだろ!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」


 もう一匹のトカゲが迫ってきているのに、ケリマは私を蹴り続けた。

 痛みは感じないが、心が痛い……。

 スタングレネードを食らわせた直後に、トカゲの体液を浴びせてしまった。



 ―――ブオン! ジャラジャラジャラ


「ガアアアアア!」


 ロマッリの鎖つきのギロチンが私たちに迫ってきたトカゲの首に刺さる。


「しゃがめ!ケリマ」

「チッ!」


 ケリマは舌打ちをしてしゃがんだ。


 ―――ブゥウン! ジャラジャラジャラ


「ギャアアアアウ」


 もう1本の鎖つきギロチンが交差するように飛んできた。


「雑魚がウロチョロしやがるからだ!」


 ロマッリがトカゲの首に刺さった2本のギロチンを交差させて首を掻っ切る。

 大黒岩トカゲの頭はゆっくりとその場に転がり落ちた……。



「貴様!最初からそれをやれよ!」

「たまたま上手くいっただけだ。勘弁しろ。それより、お前どうした?日焼けでもしたか?いつもより真っ黒だぞ!?」


 ロマッリが腹を抱えて笑い始めた。

 ケリマは「キッ」と私を睨みつける。


 本当に反省しています……。


「おい小娘女王!俺は今機嫌がいいから許してやるが、効果がよくわからない魔法を俺たちに使うなよ?」

「本当に申し訳ありませんでした。ケリマさんにもなんとお詫びしてよいか」

「私は感覚を大事にしてるからこんなに薄着なんだぞ!」



 きっとケリマは涙目になって怒っているに違いない。

 軽い気持ちで味方にミリタリー魔法を使ってはいけない。

 身に染みてよくわかった。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「お嬢様。ブレスをもらったようですが、本当に大丈夫ですか?」

「煙幕ですか?ヘルメットがなかったら涙が出たかもしれませんね」

「あれはバジリスクといって、石化のブレスを使うのです」


 モーリスが青い顔をして私を見た。


 ブヨブヨ甲冑はブヨブヨしたままだ。

 石化というヤツはしないようだ。


「おいおい。あいつは黒岩オオトカゲだ。捕食行動でブレスをかけて弱らせて獲物を食うんだ。ブレスを吸い込み過ぎなければ石化などしない」

「だが、石化するんだぞ!?バジリスクだろ!?」

「私たちの大陸ではあんなのオオトカゲだ。バジリスクってのは羽が生えてるヤツだ。睨まれたらすぐに石化が始まる」


 モーリスと西の大陸からきた二人では見解が異なるようだ。

 西の大陸のほうが危険そうだ……。



「まったくひどい目にあわされた」

「だが樽娘女王が黒岩オオトカゲを一人で倒せるのがわかっただろ?」

「だからなんだ?」


 ケリマは坑道の湧き水で体を洗っている。


「だからこうするんだ」


 ロマッリは予備として引きずっていた支柱を坑道に刺し始めた。


「おい小娘!お前は後ろの足手まといを守ってやれ!」

「ロマッリなに考えてる!こいつにはまだ無理だ!」

「ここを塞げばしばらくはモンスターも通れんだろ。問題ない」


 ケリマの抗議を無視して支柱で坑道を塞ぐ。

 そして、モーリスや部下たちを支柱の外へ押し出した。


「俺とケリマでコフィのダンジョンの入口まで行ってきてやる。そこまで行けば”ダンジョンホード”がいつ頃になるかケリマならわかるだろう」

「待てロマッリ!ならば私一人で行く!お前はこいつらを守るんだ!」

「ならば投げ槍とスリングを出してみろ。隠し持ってる毒だって古いだろ?モンスターを舐めるなよ?」

「クソがっ……」


 ケリマは悔しそうに下を見た。


 私はロマッリたちがなにを言っているのかしばらくわからなかった。

 コフィのダンジョンの入口とは、いったいどこまで行くつもりなのか……。


「お待ちください!そんな危険な真似はさせられません!」

「今さらなにを言っている?小娘がお子様なのは当然か。俺たち二人が抜けたら過酷な旅になるからな。心してかかれよ!」

「そうだな。男4人も連れてるのに雑魚しかいないからなあ……」


 ケリマは大きくため息をつくと、ロマッリの甲冑に手を伸ばした。


「やめろ馬鹿!俺のだぞ!?」

「うるさい禿げ!お前はギロチンだけでドラゴン以外は殺せるだろ」


 ケリマは美しいナイフを4本も持ってジーンに渡した。


「そいつは傷の執事の給金じゃ買えないからな!ちゃんと返せよ!」

「ありがとうございます。ケリマさん。ロマッリさん」


 ジーンはナイフを両手に載せて深くお辞儀をした。


「じゃあな。小娘女王。前にも言ったが、”ダンジョンホード”は早くて来月だ。それまで他の鉱山の入口の封鎖を解いてろ」

「私たちは早く戻れたら馬車の近くで待ってる。もし、遅くなっても、お前たちぐらいすぐに見つけてやるからな」

「そうだな。それでも戻らなかったときは、充分強くなってからこのペンダントを探しに来い。どこかのモンスターの腹に入ってるはずだ」

「禿げた骸骨と一緒にか?」


 二人は笑いながら振り返ることなく坑道に消えていった……。



 下を向いて泣いている私を見ないように。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



< バンドルマイト・解除 >


 私はブヨブヨ甲冑を解除して涙を拭いた。

 寂しさで涙に暮れている場合じゃない。

 ロマッリのいう通り、私たちの旅の難易度は桁違いに上がるのだ。


 戦力も労働力も鋭い洞察力も一気に下がった。

 私が4人を守らないといけない。

 魔力より体力優先で進まないとならないだろう。倒れれば一日が終わる。



「モーリス。今月中に残り2つの鉱山の入口とつなげる為のルートを考えてください。崩落地域、もしくは崩落させても影響の少ない地域から支柱を集めて来れるようなルートで」

「かしこまりました。私が関わっていない封鎖地域と、私が関わっているが近くに崩落地域があるルートを考えましょう」

「お願いしますね」


 今までのようには行かない。

 だが、やりかた次第でマシになる。

 非力な私たちが可能な方法を探すのだ。


「お嬢様、本当に大丈夫ですか?鉱山の入口まで戻る手もありますが?」

「来月まで一週間しかありません。封鎖地域の開放を優先します」

「かしこまりました」


 ジーンが心配なのは当然なことだろう。

 だが、鉱山の入口でロマッリとケリマの帰りを呆然と待つわけにはいかない。

 きっとそっちの方が辛い……。



「もたもたするな!ジーンを見習わんか!」


 モーリスがモタモタした動作で作業する部下を怒鳴った。

 私の爆破で吹き飛ばなかった土嚢や岩の欠片を嫌々片付けているようだ。

 モンスターが通りやすいような通路を作らさられるのは苦痛かもしれない。


「私もお手伝いしますね!」

「それは助かります。ケリマさんにお嬢様の働きをお伝えしなければ」


 ジーンがケリマの名前を出した途端にモーリスの部下の動きがよくなった。


「バイオレット様はお休みください!」

「魔法をお使いでお疲れでしょう?ここは私たちにお任せを」



 私の手伝いも不要なようだ。

 熱心に力仕事に励む文官も悪くない。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「モーリス様。あの辺り燃えていませんか?」

「ん?燃えておるな!こりゃいかんぞ」


 モーリスの部下が、坑道の脇道にある採掘所跡のような広間を指差した。


「お嬢様。ここはひとまず先ほど解除した封鎖地域まで戻って、別のルートからまた爆破をしていきましょう」

「なぜ戻るのですか?」

「封鎖地域がすぐ先にあります。お嬢様の爆破の魔法を使ってしまうと、採掘所跡にいるモンスターが寄って来てしまうからです」


 採掘所跡は、おそらく魔力の結晶を掘り出した場所だろう。

 そこにモンスターが発生するのだろうか?


「どんなモンスターですか?」

「音を立てないようにしてください」


 忍び足で採掘所跡にできた広間を覗いた。

 スライムというヤツか?だが燃えている。


「フレイムスライムです。あの小さな横穴が見えますか?」

「はい。私ぐらいの身長ならば、かがんで歩けるかもしれませんね」


 大人の男性なら這っていかねばならないほどの小さな穴だ。

 フレイムスライムとやらは、私ほどの身長で体は球体。

 とてもあの穴を通れるとは思えない。


「フレイムスライムは、あれより細い穴でも体を潰して侵入できるのです。虫型の弱いモンスターが穴を掘って巣を作り、それを追ってきて食い尽くして、そのまま巣を作ることがよくあります」

「ダンジョンと坑道をつなげいていると、そういったことが頻繁に起こりそうですね……」

「魔力の結晶を狙ってダンジョンへ掘り進むと、様々なリスクが発生いたします」


 広間にいるのは、たったの二匹だ。

 問題は穴の中だろう。

 そこに巣を作っていたら大量に沸いて出るかもしれない。


「ああいったモンスターは、守衛が処理したのですか?」

「フレイムスライムは強敵です。鉱夫と協力する必要があったはずです。浸水した坑道から水を汲んで、鉱夫が水を浴びせつつ守衛が攻撃する、そういった方法が必要になったでしょう」

「なるほど……」


 魔法がないと大変だ。

 エドガーがいれば100匹いても楽勝だろう。


「ちなみにアレはどういった攻撃を?」

「体内の炎を線状にして放出してきます」

「モーリスしゃがみなさい!」



 モーリスの説明が終わる頃に、跳びこんで来たフレイムスライムが縮んだ。

 体内の炎を押しつぶしているのだろう。

 すぐに放出してくるはずだ。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



< ドラゴンフレイムスロワー >


 私は最も慣れ親しんだ魔法を使った。

 なにも考えずに火炎放射兵になれる。

 ただ今回は考えて魔法を使うべきだったかもしれない。



 ―――プシュッ!


 フレイムスライムが縮んだ状態から体を膨らませて炎を押し飛ばす。


 私はしゃがんだモーリスの前に立って右手を突き出した。


「ジュッ!」と音を立てて炎は右手の手袋の中で消えていった。


「そ、それが……漆黒の悪魔!」

「はいはい。もういいですから、お下がりなさい!」


 モーリスまで漆黒の悪魔と言いたいようですね。

 火炎放射兵という名前を定着させるアイデアが必要かもしれません。



 ―――ガシャコン


 ―――ブオォォォオオォォー!


 私は反撃に火炎放射器から炎放つ。


 果たしてフレイムスライムに炎は通じるだろうか?

 お爺様曰く『ドラゴンにも劣らない炎だ!最低1800℃だ!』とのこと。

 私には1800℃がどれぐらいのものかわからない……。


「お嬢様いけません!炎を与えると巨大化するのです!」


 モーリスはなぜかモンスターに詳しい。

 もしかしたら『モンスター全集』を部屋に隠し持っているのかもしれない。


 私の炎を浴び続けるスライムは確かに巨大化している。

 体の色もより真っ赤になって熱そうだ。


「お嬢様!今すぐおやめください!」


 今度はジーンまで遠くから私を止めたがった。

 悪いが止める気はない。


「ドラゴンにでもなったら止めますとも!」


 体のサイズはドラゴン並みになってきたかもしれない。

 だが、フレイムスライムはなにもしてこないのだ。

 たぶん、なにもできないのだろう。



 ―――パァァアン!


 フレイムスライムがはじけ飛んで広間中に線状の炎が降り注いだ。

 モーリスたちは広間の入口から慌てて姿を隠した。



 ―――ボヨン! ガッ!


 もう一匹目は私に肉弾戦を挑みたかったようだ。

 跳び込んできたフレイムスライムを銃部で殴りつつ横にステップした。

 私の先生はケリマだ。こんなブクブク太った生き物に遅れは取らない。



 ―――ブゥオオオォォオオォォォー!



 私は二匹目の膨らましに取りかかった。

 ロマッリやケリマがいたら褒めてくれただろうか?


 モンスターを倒すうれしさより、二人がいない寂しさのほうを強く感じた。

この大陸のバジリスクなどトカゲ同然なようです。

ロマッリは戦闘力を発揮し始めたバイオレットを認め始めました。


次話 坑道から出たバイオレットは、いよいよ村で……。


※評価ありがとうございます

謎のポイントが伸びている

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