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開通、そして出没する樽人間

 私は採掘所跡にできた広間で、二匹目のフレイムスライムを破裂させた。

 火属性のモンスターなのだろうが、火炎放射の敵ではないようだ。

 耐火性能も圧倒的にこちらが上だろう。


「お嬢様。お見事でございました」

「モーリス。あの横穴を支柱で塞いでも無駄ですか?」

「さすがに木材ですからすぐに燃やされてしまうのではないかと」


 岩で塞いでいる時間はない。

 モーリスの部下やジーンの疲労度を考えても現実的ではない。

 だが放置して食事中などに背後から襲われるのはゴメンだ。


「巣があるようなら私が駆除してきます」

「そんな!?危険です。おやめください!」


 ジーンが私に駆け寄ってきた。


 ジーンたちには無謀に映るのかもしれない。

 火炎放射が閉所でこそ、その威力を発揮することを知らないのだ。

 広間は無理だったが、普通の巣穴なら火炎以外の効果が現れるはずだ。


「ジーン。こんな狭い穴にドラゴンやデーモンはいないでしょ?」

「そ、それはそうですが……」

「もし私が助けを呼んだら、そのナイフで救い出してくださいね」

「命に代えましても!」


 命に代えられるのは困るが、ジーンはきっと助けにくる。

 それだけで充分だ。



 私は横穴に足を踏み入れた。

 火炎放射兵の服装は、魔力燃料ボンベと小さな酸素ボンベが背中に現れる。

 ほふく前進をすると胸が潰れるし、かがんで歩くとアキレス腱が切れそうだ。

 左膝を地面について右膝を立てて移動するしかなかった。


 穴は外から見えるイメージと違って、行き止まりまで結構な長さがあった。

 途中、左右に一つずつ小さな穴が開いていて光が漏れている。

 フレイムスライムの炎による光だ。彼らの巣穴だろう。



 光の揺らめきから判断するとフレイムスライムの数は少なくなさそうだ。

 一気に片付けて、2つ目の鉱山入口の開通といきたい。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



 ―――プシ!プシュッ!プシュゥ!


「お嬢様。お気をつけください!」


 巣穴から次々と線状の炎が発射された。

 私の体に次々と飛んでくる炎を見て、横穴の入口から覗くジーンが叫んだ。


 巣穴の入口は、ボンベを背負った私にはくぐれないほどの狭さだ。

 だが穴の中には、私より大きなフレイムスライムが何匹もいるようだ。


 まずは、左の巣穴にいるフレイムスライムから処理することにしよう。


「ごめんなさい」



 ―――ブオォォォオオォォー!


 火炎放射を浴びたフレイムスライムが膨れ上がり他のスライムを押し潰す。

 だが潰されたフレイムスライムは、その程度では死なないはずだ。

 ただ反撃の炎攻撃が膨れた味方の体に当たって私まで届かない。


 ―――パアアン!


 火炎放射の直撃を受けていたフレイムスライムが飛び散った。

 私の狙いはそれではないので、炎を穴の中に放射し続ける。


 ―――パアアン!


 二体目が弾けたところで私は火炎放射を止めた。

 もう必要ないからだ。



 穴の中にいる十数匹のフレイムスライムは黒っぽく変色していた。

 プスプスと黒煙を上げながら一匹たりとも動かない。

 熱で黒く変わったわけではない。


 私と違って酸素ボンベを着けていないからだ。


 彼らが巣食っていた狭い空間の酸素はもうない。

 私の火炎放射が一気に奪ったのだ。彼ら自身の炎も影響しただろう。



 ―――ブオォォォオオォォー!



 私は二つ目の巣穴にも炎注ぎ込んだ。

 中のフレイムスライムは、すぐに窒息死してしまうだろう。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



< ドラゴンフレイムスロワー・解除 >

 スライムの虐殺を終えた私は、横穴を支柱で塞がせる。

 横穴の奥に真下へ伸びる小さな空洞があったので、念のため塞ぎたかった。


「次の封鎖地域へ急ぎましょう!」


 駆除に時間を要したが、来た道を戻るよりは遥かにいいはずだ。

 それに、変更したルートの先にもモンスターがいないとは限らない。

 細い穴が坑道にいくつも開いていた場合、小型のモンスターなら通過できる。



「爆破準備、行きますよー!」

「どうぞー!」


 私はバンドルマイトで作った爆発物を鉱山の入口の裏に設置する。

 これが破壊できれば、2つ目の入口が開くことになる。



 ―――ズズウウゥウーン!!!


 爆発にもかなり慣れてきたおかげで私は飛ばなくなった。

 近くに小さな穴を掘って、そこに腹ばいになるだけだ。

 今いるメンバーは、転がらない私を残念がることもない。


「ようやく2つ目の入口が開きましたね!」

「皆さんのおかげです!」


 ジーンは感慨深い様子で外の光を浴びていた。

 坑道にいる時間が長いせいか、日の光を見るのが久しぶりな気になった。

 そして、前に見たときより美しく見える。



 今日は4月25日の昼前で合っているはずだ。

 あと5日あれば3つ目の入口の封鎖を解くのは簡単に思える。

 しかし、モーリスとその部下の消耗が著しい。


 モーリスの部下は、ここ二日ほとんど口を開く余裕もないようだった。

 慣れない力仕事が続いたせいで疲労が抜けないのだろう。

 牢獄にいた時でさえ書類仕事を手伝っていた彼らには、今の方が過酷だろう。


「モーリス。今日は休養日にして体を休めたほうがいいのかしら?」

「はい、お嬢様。実は私たちはもう歩くのも辛い状態でございます……」

「外の空気も吸えますしね。明日からまた頑張りましょう!」


 ジーンが明るくモーリスを励ました。


 本当は一刻も早く坑道へ向かいたい。

 だが、効率を考えれば、休養を取った方が今後の作業を楽にするはずだ。


「お嬢様も自分で思っている以上に、お疲れになっているずですよ」


 ロマッリたちが去って気が張ってるせいか疲労を感じなかった。

 ジーンが言うように私は疲労を溜めているのかもしれない。



 今日は一日おとなしくしていよう。

 もうソラマメしかないけど、食事のことも忘れよう……。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



 坑道をさらに東に向かって3つ目の鉱山の入口を目指した。

 最初の坑道が真ん中辺りの位置だとすると、3つ目が一番東の鉱山だ。

 その鉱山の封鎖を解く理由をモーリスは言わなかった。


 おそらく他の鉱山よりも町に近いからなのだろう。



 休養日を設けたものの、私たちの足取りは重いままだった。

 ジーン以外は口を開くものはなく、黙々と作業をしては下を向いて歩いた。

 モーリスは息も絶え絶えだったが、彼の背中を押すほどの余裕はない。


 開放すべき封鎖地域は、たったの3つだった。

 だが、移動に一日を要し、封鎖を一つ開放するだけで半日近くかかった。

 モンスターと遭遇したわけでもないのに、鉱山入口に到着したのは30日だ。



「とりあえず、これが最後の鉱山での爆破になります!」

「お願いします!」


 モーリスの部下が人一倍大きな声を上げた。


 きっと辛く厳しい坑道生活だったのだろう。

 涙を浮かべるほどこの瞬間がうれしいようだ。



 ―――ドスウウゥウーン!!!



「やりましたぁ!やりましたあ゛あ゛あ゛ーーーあ!ああーー!!」


 モーリスの部下が抱き合って号泣する。

 彼らの喜びっぷりに私とジーンは露骨にドン引きした。

 まるで長い奴隷生活から解放された瞬間のような光景を見たからだ……。


「ジーン、予定より1日オーバーしてしまいましたね」

「はい。すぐにでも馬車に向かわないと、あの二人が首を長くして待っているかもしれませんね」


 ジーンは遠くを見るように目を細くした。


 ほんの1週間ほどだったが、ロマッリとケリマがいないのは寂しかった。

 口の悪い二人だが、いつも明るく楽しんでいた。

 二人が抜けてからは、私たちはずっと暗い雰囲気に包まれたままだった。



「モーリス。すぐに戻れそうですか?」

「後日向かいます……。と言いたい所ですが、老骨にムチ打ちますかね」

「あとは最初の鉱山入口に戻るだけです。」


 モーリスたちには悪いが、ここに置いてはいけない。

 ”ダンジョンホード”は早ければ今月中に始まるのだ。

 5月1日や2日に始まるとは思えないが、できるだけ早く馬車まで戻りたい。


「坑道と街道だったらどちらが早く着けますかね?」


 私の質問にモーリスは大きくため息をついて坑道を指差した。



 また1日以上、坑道の中を歩いていかなければならないとは。

 でも二人に会えるなら安いモノです!



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



 最初の鉱山入口に戻れたのは、3日の朝になってからのことだ。

 近々モンスターが溢れるとは思えないほど、辺りは静けさに包まれていた。


「お嬢様……」


 ジーンは暗い表情をして首を横に振った。


 馬車の中に置き手紙もなかったようだ。

 周囲には焚き火をした跡もない。

 当然、ロマッリとケリマの姿もなかった……。


「ジーン、私一人でまた坑道に戻って――」

「いけません!横穴などあれば、行き違いにならないとも限りません」

「あの二人ならドラゴンでも出ない限り、死にはせんでしょうな」


 モーリスが呑気な顔をして言った。


「ではドラゴンが出たらどうなるのですか?”ダンジョンホード”でドラゴンは出てこないのですか?」

「それはありません。ご安心ください。もしそのようなことがあれば、周辺国で同盟が結ばれて、大軍でダンジョン内のモンスターを駆逐しております」


 ジーンが真剣な表情でドラゴンの出現を否定した。


「ドラゴンもしくはデーモンの大群が現れれば、1国で対処する事案ではなくなるのです。大昔から各国で取り決めを結んでおります。そのようなダンジョンは、いくら犠牲を払っても取り壊しますので」


 モーリスが私を見ながら力強く頷いた。


 ドラゴンは坑道で出会ったモンスターなどとは比較にならないようだ。

 何カ国もの同盟が組まれるほど危険な存在なら、厳戒態勢に入ることだろう。

 その可能性を排除しているから、各国で防衛線を張るに留まっているのか。



「お二人が探索中、もしくはここを発ったにせよ、お嬢様が留まることをお望みになるでしょうか?」

「もちろん、望みはしないでしょう。次の行動に移らねばなりません!」

「私は近くに簡単な地図や矢印を記して、あの二人に残しておきましょうぞ」



 ”ダンジョンホード”の日程は掴めていない。

 だからといって、ここで時間を無駄にしているわけにはいかない。

 ジーンとモーリスが協力してくれるのだ。足踏みしている場合じゃない。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「なんだ!?おいみんな!あれを見ろ!!!」

「まずい!近づいてくるぞ!?」


 私は鉱山のふもとの農村を訪れていた。

 途中で馬車を降り、こっそりと村の中央広場の近くにある民家の影に隠れた。

 そして< バンドルマイト >を使って、爆弾を持ったまま広場を歩いている。


「あれは、ター坊がいってた樽人間モンスターの緑熊じゃないか!?」

「ほんとけぇ?確かに樽で緑だ!」

「どうする!?槍取ってこい!かあちゃん、槍だ!」


 中央広場の村人たちは、既に私のことを知っているようだ。

 スタングレネードを食らって無様に逃げ出したターちゃんのおかげだろう。


「このやろう!あっちいけ!」


 わんぱく小僧が駆け寄って私の足を蹴り始めた。

 私はそれを無視してゆっくりと中央広場を歩いていく。

 槍でもなんでも持ってくるがいいのだ。



「貸せ!俺は”ダンジョンホード”で外壁を守ったことがある」


 ガタイのいいヒゲ親父が槍を奪って私に駆け寄る。

 槍が刺さるとまずいので、私はわんぱく小僧を突き飛ばした。


「貴様ぁ!許さんぞぉ!」


 この子のためなのに、めんどくさいなぁ……。


「くそぉ!刺さらんぞ!研いでないだろ!?」


 私に槍を突き立てたヒゲ親父が、後ろの農民を怒鳴った。


 私はヒゲ親父を無視してひたすら真っ直ぐ歩いていた。

 中央広場を真っ直ぐ歩いていくと、この村で一番立派な建物があるからだ。

 この村の村長宅。無駄に立派だった。


「だめだ!斧持って来い!誰か斧はないのか!?」


 ヒゲ親父は槍から棒に持ち替えて私のヘルメットを殴っていた。

 ちょっとフラついて困ったがなんともない。

 村人の薪割り用の斧でも、ブヨブヨ甲冑に傷はつかないのではないだろうか?



「ふしゅーーーー!ふしゅ!ふしゅしゅしゅ」


 ヘルメットの中の漆黒のフルフェスマスクがここでは役に立つ。

 私の声を聞いたら村人は舐めてかかってくるだろう。

 だが、異様な呼吸音と見たことのない爆弾が彼らの恐怖心を煽り立てる。


「ふしゅ!ふしゅしゅ?ふしゅしゅしゅしゅ!」



 私は「ふしゅふしゅ」音と指の動きだけで、村長宅が爆発する表現をやった。

 ヒゲ親父は口を開けて見ているだけだ。

 誰も家にいなければいいのだが……。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



< バンドルマイト 極小! >


 仕方がないのでデモンストレーションをやることにした。

 かなり小さな爆弾を出した。

 赤い筒の爆発物一本分もないだろうか?


「ふしゅぅぅぅぅぅううう!ふしゅしゅしゅ?ふしゅぅぅぅぅぅぅううう!」


 私はもちろん「どかーん!投げるでしょ?どかーーん!」と伝えた。

 絶対通じてるはずなのにポカンと口を開けている。

 ここの村人たちは意地悪だ。さすがに腹が立つ!


 私は村長宅の玄関に狙いを定める。



 ―――シュジジジ  バーーーン!


 玄関の扉が吹っ飛んで周辺に軽く穴が開いたが、たいしたことではない。

 揺れもほとんど感じなかった。

 もう一発いっとくべき?


「ふしゅ!ふしゅしゅー?ふしゅぅぅぅぅぅううう!」

「うわあああー!!早く逃げろ!みんな殺されるぞーーー!」


 今度は通じたようだ「これを。そっちにポイッ?ドカーン!」

 やはり、赤い筒を11本束ねた普通サイズの爆弾は迫力が違うようだ。

 もう一つ、いや二つ用意しよう。


< バンドルマイト 2つ >


 ちょっとクラっとめまいがしたけど大丈夫。

 これで赤い筒は33本になった。

 村長宅も更地にできるはずだ。



 私は玄関から入って1階の最奥の部屋の扉を開けた。

 家主の部屋だか書斎だかはわからない。

 少し離れてから爆弾に点火して投げつける。


 帰りは中央のリビングに2つの爆弾を点火して放った。

 ブヨブヨ甲冑のおかげでダッシュはできない。

 内心すごく焦ったが早歩きで玄関を出て、少し進んでから地面に飛び込んだ。



 ―――ドッゴォォォオーオオン!!!!

 ―――ドッガァァォォオーオオン!!ズズズズゥゥゥーーン!!!


 まさに轟音というべきだろうか?耳が痛い。

 私は両足首を掴れて誰かに持ち上げられたように、足から浮き上がった。

 逆立ち状態で爆発と飛び散っていく村長宅が見えた。


「うえぇぇ」


 吐きそうだ。

 逆さまに飛ばされた私は、連続でバク宙を繰り返すように空を舞った。



 どこまで飛ばされるかはわからない。

 このまま飛んでいけば、豪邸の跡地で膝から崩れる村長を見ずに済むだろう。



長い坑道での爆破生活が終わりました。

そして、樽人間デビュー。はたして村人たちは黙って逃げ出すのか?


次話 カサンドラが王都のゴシップ記者を雇ってバイオレットネガティブキャンペーンを開始します


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