膨らむ計画と坑道のモンスター
―――ザザァー、ズズズッズズ、ザザー
「お嬢様!お体は大丈夫ですか?」
「はい。ロマッリのおかげで楽チンです」
ジーンはもう何時間も私の体を心配していた。
早朝に再び坑道に足を踏み入れ、封鎖地域を爆破し続けている。
モーリスが関わっていない雑な封鎖地域ばかりで作業速度は増した。
ただ、それだけに私の体力が底をついてしまった。
坑道を歩いているときに意識を失ってしまったのだ……。
「私にもやらせろ!面白くないぞ!」
「ほら、好きにしろ」
ロマッリがケリマに鎖を渡した。
―――ザザァーーーーーーーー!ズザーーーーーーー!
「ケリマさん。走るのはやめてください!お嬢様がー!」
―――ズザー!ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
「うっぷっ」
「ぷっ!アハハハハ」
私を引きずって遊び始めたケリマが、転がる私を見て大笑いしている。
私はブヨブヨ甲冑の上に鎖を巻きつけられてるのでされるがままだ。
たとえ地面を滑らされようと、下り坂で転がされようと、なにも言えない。
体調もよくないので、おとなしく目を閉じているだけだ。
「いい加減やめてやれ。こいつが虚弱なのを忘れたのか?」
「そうだったな……。すまん」
ロマッリが呆れて再び鎖を握った。
昼すぎには破壊すべき残りの封鎖地域は、6つになっていた。
上手くいけば、あと2日とかからずに封鎖地域を爆破できるだろう。
最後にひとつ残しておくか、それとも軽く塞いでおくか迷うところだ。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
「あと残り4つまできたか。最初から樽娘女王を引きずってくればよかったな」
「老いぼれ男爵も支柱に巻きつけて引きずれば、早足で行けるんじゃないか?」
夕食後の焚き火を囲んで、ロマッリとケリマがモーリスに視線を合わせた。
「そりゃ楽ができてよいかもしれんなぁ!だが、ここから先は下り坂や上り坂が増えるから大変なのはお前らだ」
ケリマは軽く舌打ちをした。
不機嫌そうな顔をするケリマだが、私を引きずって遊ぶぐらい余裕があった。
付近には崩落させた坑道があって、その周辺から支柱を抜くことができた。
わざわざ入口まで戻る必要がないのでケリマの移動量は減っている。
「明日中に封鎖地域を4つ破壊できたら坑道を出るのか?」
「そうですねぇ……。ケリマ。コフィのダンジョンと坑道がつながったら、”ダンジョンホード”が来る時期を特定できそうですか?」
ロマッリの質問にはまだ答えられない。
私の作戦は”ダンジョンホード”が発生する時期に依存することになる。
発生まで時間があるほど選択肢が増えるし、逆ならなくなってしまう。
「すまんな小娘女王。私にも準備は必要だ。ナイフ2本じゃ探索には行けない」
「そんな、なにも説明しなかった私が悪いのです」
ケリマのとんでもない戦闘力を見てマヒしてしまっていた。
ナイフ2本でダンジョンを探索させようとしていた私はどうかしてる。
私はケリマの命をなんだと思っているのだろう。
ケリマは初めて私を友達だと呼んでくれた人なのに……。
「おいおい、泣くことはないだろ!?お前はダンジョンに入ったことがないんだから、どれほど危険か知らなくて当然だろう」
「そうだぞ。活発なダンジョンで”ダンジョンホード”が近いから難しいだけだ。そうじゃなかったら楽勝だぞ?」
ロマッリとケリマはこんな私でも励ましてくれます。
お爺様やお母様ならこんな私を叱ってくださったでしょう。
「お嬢様。なにかお考えがあるのでしたら、ご相談されてみては?」
「そうですね。まだ考えが整理できたわけではありませんが、お二人は聞いてくださいますか?」
ジーンの意見は貴重だ。
私はできるだけ周りの意見に耳を傾けなければならない。
そうでなければ、きっと兄のような独善的な人間になるだろう。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
私は今日の日付に思いを巡らした。
ゲルルクから届いた4月9日付けの手紙を読んだのは10日深夜。
エドガー救出そしてモーリス脱獄からヴィオラ宅に戻ったのが15日の朝。
17日に鉱山へ向かい21日に到着、昨日と今日は爆破、今は22日の夜だ。
「”ダンジョンホード”が始まる前に、コフィのダンジョンとヒッチクリフの北部の鉱山の入口を1つつなぐのが最低限の目標です」
「よほどの邪魔が入らなければ、それは可能だろうな」
「はい。ですが、鉱山が特定されてしまった場合、カサンドラやテオバルドの軍に塞がれてしまう可能性もありますよね?」
「鉱山の入口から坑道まで押し返せれば、兵士ごと坑道を崩落させるのが一番だろうな」
ロマッリが冷たい視線を向けてきた。
カサンドラなら躊躇なくそれができるはずだ。
内心はどうかわからないが、ロマッリだってそれができる人間なのだろう。
全体の被害で考えれば、そのほうが心優しい選択とも言える。
「ですので時間が許すなら他の鉱山の入口と、そこにつながる封鎖地域も開放してしまいたいのです」
「お嬢様!そこまでやるおつもりだったのですか……」
「当然だろ。中途半端なことをしたら、怒り狂った獲物に反撃されるぞ?」
狼狽するモーリスにケリマが強い調子で言葉を浴びせる。
「そしてさらに余裕があればなのですけど……」
私はロマッリとケリマを上目遣いで見てしまった。
この二人には怒られるかもしれない。
「周辺の村人たちを脅かして回りたいのです。村から逃げ出すぐらいに」
「おいおい、勘弁しろ……」
「やるなら徹底的にだろ……」
”ダンジョンホード”で溢れ出たモンスターたちが最初に襲うのは住民だ。
兵士は死んでよくて、住民が死ぬのが耐えられないなんて綺麗事だろう。
だが祖父やモーリスが大事にしてきた領民が無残に殺されるのは……。
「そうだな。突然住んでる家が吹っ飛んだら逃げ出すしかないだろうな」
「ぷっ。それは見モノかも知れないな。大道芸を見るより面白い」
「お二人とも真面目に聞いてください……」
ロマッリとケリマの様子を見て、ジーンが嗜めた。
「まあ、逃げてきた村人が町に集中すれば、混乱は起きやすくなるだろうな。衛兵の仕事も増えるし、領主は討伐隊などの編成をしなければ村人が騒ぎを起こす」
「”ダンジョンホード”まで領内を掻き回してやれば、連中は疲れ切って当日は思うような働きができんかもな。鉱山からモンスターが溢れてくることも想定してないし」
「なるほど……。ならば私からも提案があります」
勝手に盛り上がる二人にモーリスが続いた。
「ジェラード様にはお知らせせずに対処した事案があります。ヒッチクリフの外壁付近に許可なく大穴を開けた連中がおりまして……」
「手っ取り早く魔力の結晶を狙いに来たわけか」
「そうだ。ジェラード様に追放された悪質な鉱夫たちが中心となって、穴を掘ってコフィに向かう坑道に入り込んでいた」
「もしモンスターが侵入しても、自分たちは逃げるから知らんということか」
モーリスが祖父に知らせずに対処したのは、祖父が甘いせいだろう。
捕まえても事情を聞いてやって、減刑したに違いない。
「当然その大穴も塞ぎましたが、お嬢様の魔法を複数使えば穴が開くでしょうな」
「外壁付近の大穴もダンジョンがつながるのですね……」
ヒッチクリフの被害は、私の予想を超えるものになるかもしれない……。
カサンドラやテオバルトは外壁の門を守るために兵を割くはずだ。
ところが、外壁の内側からも鉱山からもモンスターが流れ出る。
「悩むな、というのは無理があるだろうな。だがまずは、1つ目の鉱山とダンジョンをつなげるのが先だろう?」
落ち込んでしまった私にロマッリが声をかけた。
まだなに一つ成功していないのだ。
悩んでいても仕方ない。
「お嬢様。お倒れになったのをお忘れですか?早くお休みください」
体力の回復も必要だ。
封鎖地域もあと4つ、頑張れば明日で終わるかもしれない。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
坑道で時間の感覚がなくなった私は、ケリマに「朝だぞ!」と起こされた。
食事を終えるとすぐに< バンドルマイト >を使わされて引きずられる。
砦のときもそうだったが、なぜか私は罪人のように縛られている。
「幽閉されていたときは、縛られてなどいませんでしたよ!」
怒りに任せて叫んでみたが、「ぷっ」とケリマに笑われただけだ。
右手に持ったサイズ半分の爆発物を点火してみせようかしら?
「やはり、じじいの封鎖はホントに厄介だな!」
「きっと性格が頑固なんだろ。もっと柔軟にならないと馬鹿にされるぞ?」
ケリマとロマッリが集めてきた支柱をはめ込んでいた。
モーリスが作った封鎖地域はやはり手強い。
3回も爆破が必要だったし、支柱を集めるのが大変だ。
「文句を言うな。私が指揮したのは次の封鎖地域までだ。それから先は、また名ばかりの封鎖地域だよ。適当に仕事をやる連中の作ったモノだ」
モーリスは顔を思い出したのか、いまいましそうに足を踏み鳴らした。
残りの封鎖地域はあと3つだ。
モーリスには悪いが、適当な仕事で作った封鎖領域に向かいたい。
爆破も後処理も少なくて済むのが一番だ。
「おい!クソじじい男爵!崩落してるいるではないか!」
「支柱を抜きすぎなんだ!神経質じじいめ」
モーリスは暴言を無視して、崩落した封鎖地域に近づいた。
「モンスターが無理に通ろうとしたようだな……」
「残りの封鎖を突破されたということでしょうか?」
「おそらくは……」
モーリスは地面に線を引いてルートの再検討を始めた。
「こちらのルートは封鎖地域が4つになりますが、私は関わっておりません」
「もしモンスターに突破されていても、崩落していない可能性が高いのだな?」
ロマッリの言葉にモーリスが静かに頷いた。
「こりゃすぐにつながるかもしれんぞ」
ケリマは恐ろしい笑顔を作って私に微笑みかけた……。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
「ロマッリ!今だ!」
「オラッ!公爵令嬢の一本釣りだ!」
鎖グルグル巻きの私が爆弾を設置すると、ロマッリが私を釣り上げる。
―――ズズウウゥウーン!!!
「完璧だろ!樽娘!」
ロマッリは嬉しそうに大声を出した。
「転がる距離はあまり変わりませんでしたけどねぇ……」
「照れるな!熱さを感じなかっただろ」
ロマッリが上機嫌だから黙っていよう。
爆発を食らっても熱さなど感じていない……。
「結局残り2つか?進路を変更したのにモンスターなどいないではないか」
「いないに越したことはないだろ?何事もないことを祈ってくれ」
「それじゃ退屈だ!じゃあ、次は私に釣りをやらせてくれ!」
モーリスの返事に落胆したケリマが私の鎖を握った。
もう好きにすればいい。
私の存在でケリマやロマッリがストレスを感じないならそれでいいのだ。
「お嬢様!先に進んでは行けません!!!」
鎖をつけられたまま、トボトボと先へ進もうとする私にジーンが叫ぶ。
煙の奥に見慣れないシルエットが現れた。
「世話のかかるヤツだな!」
「うおっぷ」
私はケリマに一本釣りされて、再び後ろに飛ばされた。
「あ、あれは……」
「黒岩オオトカゲじゃないか!?私はナイフしかないからアイツは嫌だぞ」
「俺だって嫌だ。あいつの匂いは武器に残る」
驚愕して腰を抜かしたモーリスの部下たちを無視して二人が揉め始めた。
「あれはオオトカゲなどではありませんよ!」
「うるさい!モヤシ係りは黙ってジメジメしてろ!ナイフで戦ったらあいつの血でビショビショになるだろ?」
「お前は稀に見る投げ槍の達人だ。俺が保障する!スリングも天才だろ?」
「まあな!……って、ないだろ!どこに投げ槍があるんだよ!馬鹿か!」
二人がくだらないことで騒いでいるとオオトカゲが忍び寄ってきた。
「確かにオオトカゲのサイズではありませんよね?」
「あれはバジリスクですな」
モーリスが声を殺すように私に答えた。
全長だけで人の2倍以上いや、3倍近くあるだろうか?
横幅も人一人以上の大きさはありそうだ。
おかげで後ろにいる一匹が、前のヤツを追い越せずに不機嫌そうな声を上げる。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
「だから!お前が鎖をつけてギロチンを振り回せばいいだろ!」
「狭い坑道だと勢いよく振り回せないだろ?テンションが下がる」
「私がビショビショになるよりテンションが大事か?」
「援護ならしてやる。危なくなったらギロチンを投げてやるから」
「今投げろよ!禿げが!そしてその禿げの反射でトカゲの目を焼いてやれ!」
バジリスクがどんどん近づいてくるのに、ロマッリは余裕で肩をすくめる。
ケリマは涙目になって地団駄を踏む……。
「ケリマさん!トカゲの目を焼くのはお任せください!」
ブカブカ甲冑の私には< スタングレネード >が使える。
きっと農民以外にも使える魔法なのだ!
「目というか、返り血が嫌なんだが……」
テンションが落ちたケリマを元気づけてあげよう!
< スタングレネード 4つ! >
見事成功だ。
片手に2つずつスタングレネードが現れた。
「ほう。面白い形をしているな」
「薬でも入っているのか?でも、匂いはしないな?」
二人が喧嘩を止めた!
スタングレネードは喧嘩の仲裁に使える。
「また触って点火するのか?」
ロマッリが呟いた。
ん?
農民にはどう使ったのだろう?
投げてすぐに「バン!」だった。
『ミリタリー魔法全集』に書いてあったのは、確かだが『ピンを抜いて起動』
なるほど。
ピンなんてありませんよねぇ?
「ピンってなんでしょうね???」
―――パパパバンッ!
「うおっ!」
「なんだ!?」
二人が驚きの声を上げた。
あら、とてもまぶしいですねっ。
ロマッリさんの頭の輝きじゃなかったら、凄く困りますよ……。
今後の計画を相談した結果、より多くの被害を与える提案が出てきました。
バイオレットはロマッリとケリマの悪ふざけに毒されたのか軽いノリで魔法を使うように……。
次話 バイオレットの戦闘力を見てロマッリがある決断をします
※ブックマークありがとうございます
励みにします




