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爆弾魔入門(坑道封鎖地域の爆破)

 ヒッチクリフの北部の鉱山の入口まで私は戻ってくることができた。

 豆樽に置いて(忘れて)きたジーンが、山道で私を押してくれたからだ。

 あの爆発で私が落ちた場所を特定したジーンはさすがである。


「小娘女王?お前いきなり太ったなぁ」

「大樽小娘女王でいいか?大きいのか小さいのかわからないが」


 口の悪い二人が支柱を4本ずつ持って私を見た。


「ふしゅ、お二人ともお手伝い、ふしゅーう……。ありがとうございます」


 ありがたいけど、口をきくのも辛い。

 体力的にはギリギリかもしれない。


「お、おう。鉱山の入口は凄いことになってるからな」

「しばらく休んでてもいいぞ?片付けと支柱置きに時間がかかる」


 私の疲労困憊ぶりに、ケリマがやさしくなった。

 見ていて痛々しいのだろう。

 呼吸が整うまで、休ませてもらおう。



「お嬢様すさまじい魔法でございましたな……」


 髪の毛が少し縮れたモーリスが入口付近でしゃがみ込んでいた。

 部下の二人は岩の残骸を片付けている。


 先ほどまで封鎖された鉱山への入口があったはずだった。

 今は別の洞窟が口を開けているように見える。

 入口を塞いでいた岩だけじゃなく、付近の山肌や坑道まで吹き飛んだようだ。


「崩落は招かなかったようですね。次は抑えてくださらないと」


 ジーンが穏やかな声で言った。


 確かに崩落してもおかしくなかったかもしれない。

 想像以上の威力だった。

 なにより、モーリスが吹き飛ばされなくてよかった……。



「山を飛んでいったそうだな?見逃してしまったぞ」

「言ったろ?あの緑の樽は小娘女王に違いないって」

「樽になってまで空を飛ぶとは思わんからな。背中から火を噴いて飛べるのに」


 削り取られた坑道に支柱を置き終わった二人が私をからかう。


 私も飛びたかったわけではない。

 だが、耐久テストには充分だっただろう。

 このブヨブヨの服、いやブヨブヨ甲冑は最高クラスの守備力を持っている。


「モーリス。除去すべき封鎖場所に案内してください」

「かしこまりました。ただし、先ほどの魔法の威力を指定させてください」



 威力を指定ですか……。

 バンドルマイトの筒の数は減らさないと崩落させてしまうかもしれません。

 皆を生き埋めにするわけにはいきませんから、努力するしかありませんね。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



< バンドルマイト 4本 >


< バンドルマイト 4本でお願いします! >


< バンドルマイト 4本でじゃないと困ります! >



「お嬢様。本数は間違っておりませんが……」


 モーリスが私の作ったバンドルマイトを見て小声になった。


 爆発する筒を11本から8本、そして4本までに減らせた。

 だが、バンドルマイトのシルエットは変わらない。

 1本減らすごとに、残りの爆発物が太くなるのだ……。


「とりあえず爆発させてはどうだ?やってみて考えればいい」

「だめだ!ここを封鎖したのは私だ。確実に崩落する」


 ケリマは飽きてきたのか、モーリスに適当な提案をした。


「じゃあ崩落しないところで爆発させてはどうだ?余ったらもったいないだろ?」

「それをやってなんの意味があるんだ!?お前ら爆発を見たいだけだろ!」

「チッ!ケチなじじいだな」


 ロマッリもケリマも近くで爆発を見たいだけだったのか……。

 バントルマイトで爆発物を作ると魔力を一気に持っていかれる気がする。

 ただ、しばらく爆発物が消えないという点では優れている魔法だ。



「お嬢様。本数にこだわっても同じ大きさになるのならば、大きさを変えてみてはいかがでしょうか?」

「なるほど。そのようなことは思いもしませんでした!」


 ジーンの提案を受け入れてみよう。

 確かに本数を意識していたが、全体のイメージをしていなかった。


< バンドルマイト 半分ぐらい! >


「これでどうでしょう!」

「威力が半分ぐらいになるのなら、それで構いません。お嬢様を残して、みんな下がるぞ!」


 できあがったら皆が去っていく……。

 不思議と寂しさに襲われます。

 そして、爆発に巻き込まれるのは私だけ。



「早くやれ!もたもたするな!」

「もったいぶんな!派手にやれ!」


 避難が済んだ瞬間、問題児の二人がヤジを飛ばしてくる。


 あの二人に向かって投げるにはまだ筋力が足りない。我慢しよう。

 とりあえず爆発物の導線を点火するには、私が触れないといけない。

 焚き火の中に近づけてみたが、なにも起こらなかったのだ。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



 ―――ヒシュゥワジジジ


 私は導線に触れた後、モーリスに指定された穴に爆発物をはめ込んだ。

 1つ目の封鎖地は土が詰められた麻袋が大量に積んである。

 土嚢の奥には岩が積まれているらしい。


「逃げろ逃げろ!わはは」

「死ぬなよ、大樽女王!走れ走れ!」


 二人ともすごく楽しそうだが、走ろうと歩こうと速度に差がない。

 私は爆発に曝される運命なのがわかっているから歩いているのだ。

 断じて怠慢などではない!



 ―――ズゥウウゥウウウーン!!!


「わっ」


 背中からの爆風のおかげで体が浮いて吹き飛ばされた。

 だが、先ほどと違って空を飛んでいる感覚はない。

 長時間ジャンプをしている感覚。超人になった気持ちだ。


 ―――ザザァー!ゴロゴロゴロゴロ


「うぉっぷっ」


 頭から地面に叩きつけられたかと思ったら転がった。

 痛みはない。

 ただ目が回るのと、不思議な屈辱感を味わっただけだ。



「お嬢様!お体は大丈夫でございますか!?」


 私を心配して寄って来てくれるのはジーンだけだ……。

 他の面々は慣れてしまったのか、次の行動に移ってる。


「おい!じじい!まだ塞がっているではないか!」

「そうだ!爆発をケチってるからだ。あいつの爆発はこんなもんじゃない!」


 確かにまだ土嚢や岩が残っているのが見える。

 爆発物のサイズを半分にしたのは失敗だったのだろうか?


「ほぼ計算どおりだよ。この調子なら、あと2回の爆発でここは除去できる」

「まどろこしいクソじじいだなぁ」

「ダラダラしてると寿命が尽きるぞ!」


 ロマッリとケリマは代わる代わるモーリスをなじりながら作業をしている。



 ロマッリは大工の腕も相当いいようだ。

 丸太から支柱をすぐに作り出すし、それを組み上げるのも一瞬だ。

 その上、爆破を計算して補強をしたり土をかぶせたり、職人のようだ。


 ケリマは誰に指示をされたわけでもないのに、木材を運んできてくれる。

 その辺のツタを編み上げて作ったロープで、丸太を結んで引きずってくる。

 運搬を終える度に誰かをなじっているが、足を止めることはなかった。


 モーリスは地面にたくさんの数式を書いては部下たちと議論をしている。

 爆発の影響と効率的な障害物の除去がテーマのようだ。

 正直、難しすぎてサッパリわからない。


「いい人材が揃ったようですね」


 ジーンがやさしく微笑んだ。


 お茶でもあれば、ジーンはせわしなく皆に配っていただろう。

 今は私の汚れたブヨブヨの服をきれいにしようと必死だ。



 私も足を引っ張らないように頑張らなければならない!



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



 ―――ズワアウゥウーン!!!


「うわっと」


 ―――ドォゥスゥゥンン!!!


「ぐふっ」


 ―――ズズウウゥウーン!!!


「うへえ?」



「何度目の爆発でしたか、ジーン……」

「お嬢様、本日8回目です」


 倒れこんだ私の手を握りながらジーンが答えた。


「早く立て!まだ3つ目だぞ!」

「あと9箇所か?奥に行くほど封鎖がきつくなってるんじゃないか?」


 ケリマの言葉に頭が痛くなってきた。

 封鎖がきつくなるほど、爆発させる回数が増えて行く。

 私の魔力がどんどん奪われていくのだ。


「今日はお休みになったほうがよろしいかと。お嬢様がお倒れになっては作業もなにもありませんから」

「そうですな。バイオレットお嬢様はお疲れでいらっしゃる」


 ジーンとモーリスが作業の終わりを薦めた。


「そうか。今戻れば、今日は外で寝られるだろうな」


 コフィに向かって坑道を進むほど、入口に戻るのに時間がかかる。

 明日以降は、坑道で寝起きすることになるかもしれない……。

 幸い食料は充分にある。ソラマメばかりだがないよりはマシだ。



「この先の封鎖も老いぼれ男爵がやったのか?」

「手分けをして行ったから、すべてを私が封鎖したわけではないよ」

「最初の2つはずいぶん丁寧に作ってあったが、さっきのはひどかったな」


 ロマッリの指摘どおり、封鎖している土嚢や岩の設置具合に違いがあった。

 3つ目の封鎖地はあっさり除去できたのだ。


「すぐに再開させるつもりだった連中が、適当に塞いだせいだろうな」


 モーリスが顔をしかめた。


 皮肉な話だが、手抜きで封鎖をしてくれたおかげで私たちが楽になる。

 すぐに除去できる上に、支柱まで残っている。

 ケリマやロマッリが大量の丸太を運んでくる必要さえないのだ。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「ロマッリとケリマは本当にただの傭兵だったのですか?」


< バンドルマイト >を解除した私は夕食を取っていた。


 あのブヨブヨの服装が解除できて心底ホッとした。

 バンドルマイトの解除が爆発物だけのモノだったら、あの服装のままだった。

 きっと餓死しただろう……。


「さあな?傭兵は野営地を張るし、荷物の運搬だって手伝うぞ」

「そうだな。私は狩りをして肉を取ってくるのも仕事のうちだった」


 ケリマのおかげで、豆だけじゃなく肉にもありつけている。

 ロマッリは町に行ったときに、塩やランタン、さらに油まで買っていた。

 二人がいなければ私の計画は何度も止まっていただろう。



「初めてお会いしたときは、暗殺者だと思っておりました」


 焼きあがった肉を皿に分けて回るジーンが呟いた。


「殺しが一番得意なのには違いないな!」

「依頼次第では暗殺者だしな。人殺しに大した差はないぞ」


 ジーンは真剣な顔をして二人の前に跪いた。


「お二人にはなんとお礼を申し上げてよいか。私の力が至らぬばかり―――」



 ―――バチン!


「うっ!えっ?」


 ケリマに平手打ちをされたジーンが目を瞬いた。


「話が長い!私の獲ってきた肉が冷えて固くなるだろ」

「いちいち気に病むな、めんどくさい。礼は小娘女王からもらうから、お前はイチイチ跪いたりするな」


 もちろん、ロマッリたちにはいずれお礼をしたい。


「ロマッリさんとケリマさんは私からなにを望むのでしょうか?」

「金だ!だが、本当に建国できるのなら所領だな。老いぼれ男爵の部下みたい連中を雇って、所領の経営は丸投げしてやる!」

「私は、森をくれ。獲物がたくさんいるほどいいぞ!」


 お二人らしい要求かもしれませんね。


「お約束いたします。所領が用意できなければ、違約金でもなんでも要求してくださいませ」

「とりあえず保証金はもらっているけどな」


 ロマッリは私の回答を聞くと、ペンダントを取り出した。


「これはお母様の?いえ、エドガーの?」

「ああ、姉貴を守ってほしいってな。大した金にはならんが、契約違反があったらすぐに売っぱらってやる」

「その金、酒場で使ってやる」


 ロマッリとケリマは楽しそうに笑った。



 お金に代えられない物ですね……。

 エドガーにはもう必要ない物かもしれません。

 ですが、あれは私にとっても大切な物です。


 二人に報いるためにも、お母様のためにも、私には与える領地が必要ですね。


崩落させないように爆破するのは簡単ではないようです。

ロマッリはちゃっかり前金をもらっていました。


次話は計画の告知とおそらく坑道の化け物が登場することになります


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