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御免こうむります。  作者: はいじ


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一足先に、まごの誕生

※今回も、明るく下品





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結局、俺はアカのちんこは噛み切らなかった。

いや、噛み切れなかった。


「あぁ、もう。かわいい、可愛すぎて死にそう」


俺は今、ますたー達の居る部屋できよみに無理やり抱きかかえられている。

きよみは自分の頬を俺の顔にすりすりとこすりつけてくると、首の下や耳の後ろをごしごしと撫でる。

きよみの撫で方は乱暴なので、あまり気持ちよくない。

本当は抱きかかえられるのも乱暴に撫でられるのも嫌なのだが、きよみはアカのつがいなので俺は必死に我慢しているのだ。


『(アカのちんこ噛み切れなかった)』


そう、アカときよみの交尾を目撃したあとから、俺はずっときよみの腕の中に居るのだ。

俺がごろんと転がったアカの足元で『ちんこ!噛み切れってマスターが!』とアカに迫っていると、それまで黙っていたきよみが突然俺に向かって突進してきたのだ。

「なに!この猫!なんか可愛いんですけど!」と叫んだきよみは、服も着ないまま裸で俺をごろごろしたのだ。

その時のきよみの声は交尾中の時の声より甘えた声で、俺は「あぁ、これがねこなでごえか」と納得したのだった。


だから、俺はアカのちんこは噛み切れなかった。

ますたーにはとても申し訳ないことをしたと思っている。

せっかく頼まれたのに、できなかった。

ますたーごめんなさい。


「おい!きよみテメェ!兄貴があからさまに嫌そうな顔してるだろうが!離せ!ブタ!」


「はぁ?黙れカス死ね」


俺の頭の上ではアカときよみが何やら言い争っている。

先程からきよみが俺をごしごしするたびにアカが怒る。

そしたら、きよみも俺に向かって出す「ねこなでごえ」とは全然違った、とても低い声でアカに言い返す。


この二人は交尾の時も喧嘩をしていたし、今も喧嘩をしているし、本当につがいなのだろうか。

俺がそんな事を思いながら二人の言い争いを聞いていると、それまで黙っていたますたーが溜息をつきながら、きよみの前に良い匂いのするものを置いた。


「お前らいい加減にしろ。やっとベッドから出てきたと思えば……はぁ」


「きゃー!マスター!ありがとー!安武が突っ込んだまま出ていかないからもうお腹ぺこぺこー!」


きよみは俺を膝の上に置いたまま、ますたーの出してきた良い匂いのごはんに向かって目をキラキラさせた。

これは知っている。人間の時にますたーに出してもらった。

これは「びーふしちゅー」だ。


俺は突然目の前に現れたごちそうに尻尾がピーンと立つのを感じると鼻をひくひくさせた。


『ますたー。俺、アカのちんこ噛み切れなかったけど、俺にもごはんください』


きよみだけずるい。

俺もビーフシチューが食べたい。

そんな気持ちを込めてますたーを見ていると隣に座るアカが「ぶはっ!」と飲んでいた飲み物を吹き出した。

相変わらず、アカはきたない。


「ちょっ!マスター!兄貴に何言ってんだよ!?危うく俺の息子が兄貴に食いちぎられるとこだったわ!?」


「あ?食いちぎられる?何の事だ?」


アカの言葉にますたーが首を傾げる。

どうやらますたーは自分の言った事を忘れているようだ。

それと同時に俺はまた一つ聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。


アカのむすこ。

そう、先程アカはますたーに言った。

むすことは自分の子供の事だ。

だとすれば、アカにはもう子供が居るということだろうか。


「知らばっくれんなよ!マスターが兄貴に変な事吹き込んだんだろ!?じゃなきゃあんな恐ろしい事、兄貴が俺にするわけがねぇ!」


「あ?……あぁ!なんだ?お前本当に兄貴からちんこ噛み切られそうになったのか?」


「そうだよ!?ビビったわ!死ぬかと思ったわ!」


ますたーとアカの言い争いの中、先程までうるさかったきよみは黙って「びーふしちゅー」を食べている。とても羨ましい。

俺が鼻をひくひくさせながらきよみの食べる姿を見ていると、ますたーが突然楽しそうに笑い始めた。そして、次の瞬間、きよみの膝の上に居る俺の頭を、机越しにごしごしと撫でてきた。

ますたーの撫で方もあまり上手ではない。

きよみ程下手ではないけれど。


「ははっ!兄貴お前やるな!本当にコイツのちんこ噛み切ろうとしたのか!えらいぞ!」


『ますたー、ちんこ噛み切れなかったけど、何か俺にもおいしいのください』


「よしよし、お前にもごはんやらねぇとな!」


そう言ってますたーは俺から手を離すと、くるりと背をむけて、ますたーがいつもご飯を作るところへ行った。

どうやら俺もごはんを作ってくれるらしい。

そう思うと俺の尻尾もくねくね動いてしまう。お腹の気もぶわぶわだ。


「ほんと、兄貴って人間の言葉がわかってるみたいねぇ。おりこうねぇ」


ますたーの次はうさみさんが俺を褒めた。

“おりこう”とは人間の言葉で「あたまがいい」という意味だ。

俺は最近ひらがなも書けるようになったし、カタカナも少しずつできるようになってきたので、確かにおりこうになってきたのだろう。


れいてんのばーつから少しずつひゃくてんのまーるになっているという事だ。


『ふふふ、俺、おりこうになってきたんだな』


俺がそう言って胸の毛をフワフワさせていると、アカが怯えたような目で俺を見ていた。

それは俺が『ちんこ噛み切ろう!』と言った時の顔に似ていておもしろかった。


「兄貴……俺の息子を食いちぎるのだけは勘弁してください……マジで」


『むすこー?アカにはもうむすこが居るのか?きよみが生んだのか?』


また“むすこ”だ。

俺はアカのちんこ、性器は噛み切ろうとしたがアカの子供を噛み切ったりはしない。

そんな酷い事は、いくらますたーに頼まれてもしない。

もし、アカにむすこが居るなら、ぜひとも会ってみたい。


アカのむすこなら、俺にとってはまごだ。

まごは子供の子供の事だから、俺のまご。


「あぁ……、いや、えっと息子っていうのは、なんつーか、まぁ“ちんこ”の事で」


『ちんこはむすこなのか?』


「ちんこの別の言い方っつーか。息子のように大事というか、言う事を聞かない不肖の息子というか……」


そう、俺の疑問にアカが頭を悩ませながら答えていると、それまで黙って「びーふしちゅー」を食べていたきよみの手が、勢いよく振り上げられた。

そして、次の瞬間には「バチン!」と激しい音を鳴らしてアカの頬にぶつかっていた。

きよみの手の勢いが余りにも強かったのか、アカの顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。


あぁ、アカはやはり人間になってもメスに叩かれてしまうのか。


「っつぅ……いってぇな!?何すんだこのブタ!?」


「あんたこそ!?猫ちゃんに下品な事ばっか言わないで!?このカス野郎!野たれ死ね!?」


「うっせー!兄貴の疑問に答えるのは当然の事だろうが!?女は黙ってろ!?このメスブタが!」


アカは真っ赤になった方を手でさすりながらきよみを怒鳴る。

きよみも負けじとアカを怒鳴る。

いつの間にかきよみの食べていた「びーふしちゅー」の皿はからっぽになっていた。

きよみは食べるのが早い。


『むすこかー』


そして、先程アカの言っていた“むすこ”とはどうやらちんこの別の言い方らしい。

人間は一つの言葉にいくつもの名前をつけたりするので、むすこもそれの一つなのだろう。

人間とは本当にいちいち面白い。


ちんこは確かに子供をつくる時に必要なものなので大事だ。

息子のように大事だからちんこを息子という。うん、おもしろい。

言う事をきかない、というのは発情期のなかった俺にはよくわからない事だが、きっとそういうものなのだろう。


という事はアカのちんこは俺のまごになるのか。

そう考えるとなんだかアカのちんこは噛み切ってはいけないなと思えてきた。

不思議だ。


俺は言い争う二人の声を頭の上で聞きながら、きよみの膝から立ち上がった。

そして、そのままぴょんと隣に座っていたアカの膝の上に飛び乗ると、先程アカのむすこのあったところを見て、ごろんと寝転がった。


「あっ、兄貴!?」

「ちょっ、猫ちゃん?」


突然の行動にきよみもアカも喧嘩をやめて俺に向かって声を上げた。


『アカのちんこがアカの息子なら、俺にとってはまごだな。アカの息子は大事なまごだから噛み切らないで大事にするよ』


「っっっっ!?」


俺がそう言ってアカのむすこに俺の匂いをつけるようにごろごろすると、それまで叩かれて真っ赤だったアカが、顔中を真っ赤にして、机の上に頭を叩きつけた。

俺はアカが何をしているのかさっぱりわからなかったが、隣で悲鳴を上げるきよみの声や、俺やアカを見て大爆笑するうさみさん達に、とりあえず「にゃああ」と無意味に鳴いておいた。


それは、ますたーが俺のごはんを持ってくるまでのほんのちょっとの間の出来事。






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「おーら、兄貴の飯だぞー」


そう言ってますたーが持ってきたものは「びーふしちゅー」でも「ぱすた」でも「ふれんちとーすと」でもなかった。

「きゃっとふーど」という、ぜんぜんおいしくないかりかりした変な味の食べ物だった。

その日、俺がどんなに鳴いて頼んでもますたーは「きゃっとふーど」以外の食べ物はくれなかった。


「まねきねこ」の事もアカに聞き忘れてしまうくらい、俺はその日一日を尻尾をぺたんとして過ごした。


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