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御免こうむります。  作者: はいじ


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49/57

一足先に、なにをかみきる

※明るく下品なので注意







-----------


発情期というものがある。



発情期が何かくらい、猫の俺だって知っている。

いや、猫の俺だからこそ知っている、と言った方が良いのかもしれない。


発情期とはメスがオスと交尾をして子を作る気持ちが高まる時期だ。

交尾をすると子が出来る。

子が出来るから交尾をするのか、交尾をするから子ができるのか俺には良く分からない。


俺は大変な猫になってから、そこれこそたくさんの時間を生きてきたが、今まで一度だってメスと交尾をしたいという気持ちに駆られた事がないのだ。

普通のオス猫は、メスの発情に合せたように発情期を迎える。

発情したメスのするいろんな行動がオスを交尾へと駆り立てるのだ。


けれど、どんなに周りのメスが発情期を迎えても、俺は一度だってメスと交尾したいと思った事はない。

まぁ。俺は変な猫だから仕方が無いのだろう。


ただ、発情期にメス猫の上に乗っかって腰を振るオス猫を見ると、なんだか「ふふっ」と人間みたいに笑いたくなってくる。

だって、交尾が終わると動きの遅いオス猫はいつもメス猫に叩かれるからだ。

俺はその昔、交尾している猫を観察して「あの猫は多分叩かれるぞ」と予想するという遊びをしていた。


俺の予想が当たって叩かれるのを見ると、叩かれたオスには悪いが「ふふっ」となってしまう。

メスの攻撃を受けるオスは基本的に交尾が初めてのオス猫に多い。

メスはオスから突きたてられていた性器を引きぬかれる瞬間、これでもかという程の怒号を鳴らす。

どうやら、アレを引きぬく時、メスはとても痛いようなのだ。

だから、初めて交尾をするオス猫はその声に驚いて、見事、メスからの攻撃を受けてしまう。


そういえば、アカもそうだった。

どうやら初めてらしいアカとメス猫の交尾を偶然見かけた時、俺は一瞬で「コイツは殴られるな」と思った。

そうしたら、見事アカは交尾の後メスの攻撃を顔面から受けていた。

我が息子の事ながら、俺はやはり「ふふっ」と笑ってしまった。


その頃、ここら一帯のオス猫の誰よりも強かったアカは、こうしてまともに相手からの攻撃を顔面に受けたのは久々だったようだ。

あの時のアカの驚いた顔ときたら。

その後、顔に見事なひっかき傷を作って帰って来たアカに、俺はわざとらしく「その傷はどうしたんだい」なんて聞いて見た。

アカは俺にすり寄りながら「近所の犬にやられた」なんて見え見えのウソを言った。


俺は「そうか」と言いながら、内心笑いを堪えるのが大変だった。

まさか、交尾相手のメスにやられたなんて言えっこないってわかっていたけど。

まさか、犬にやられたなんて大きなウソをついてくるなんて思わなかった。


まぁ、そんなアカも交尾を重ねるうちに、そんなヘマはおかさないようになっていったようだが。

なにしろ、アカが顔に傷を作って帰って来たのは後にも先にもあの一度きりだった。

まぁ、顔でなく腕やら体にはその後も何度か傷を作ってきたが。


アカは強い猫だ。

だから交尾をする回数もおのずと他の猫より多い。

故に、アカはこの地区で一番メスに殴られたオス猫だったとも言える。


しかし、痛いのが分かっていて自分から交尾を誘い、挙句交尾したオスを殴るのだから、メスと言うのは本当に身勝手な生き物だ。

オスも攻撃されるのにメスの背中に乗っかってしまうのだからバカな生き物だ。


ともあれ、発情期の無い俺にはとても不思議で面白い光景に他ならない。


猫には発情期がある。

交尾をする。


じゃあ人間は?


俺は人間が交尾をしているのを見た事が無い。

こうして人間の中に交わりながら生きて長い時間を過ごしてきたが、俺は人間が交尾をしているのを見た事が無いのだ。

けれど、人間も子を産む。

子を産む為に、猫は交尾をしなければならない。


では、人間は交尾をしなくても子を作れるのだろうか。

うん、きっとそうなのだろう。

人間は俺には想像がつかない事をする生き物だ。

人間には発情期もなければ、交尾もない。


俺は周りの猫が発情期を迎える度に、そんな風に思っていた。



けれど。

それは間違っていたようだ。


夜目の利く俺の目がきらりと光る。

らんらんと光る。

らんらん、らんらん。


ピンと立った耳が音を拾う。

ピクリ、ピクリと揺れる。

ぴくぴく、ぴくぴく。


俺はジッとある一点を見つめた。

そして、声を拾った。




------

--------

-----------


「あっ、ん。っふ、ん。ねぇ、やすたけぇ、今、何時ぃ」


「っはぁ、んなもん。知るかっ……おい、もっと腰上げろよ」


そう言って、高く広い寝床の上でまぐわう人間のオスとメスの姿がある。


オスの方は多分アカだ。

何故、多分なのとかと言うと、いつものように短くピンピンと立っている髪が、今は雨に濡れたようにしっとりと落ち着いているから一瞬誰だかわからないのだ。

けど、声や匂いは全部アカのものだ。


俺はヒクヒク鼻を動かしながら、知らないうちにそーっと獲物を狙うみたいな動作で、二人の居る寝床に近寄った。


本能的に俺は察したのだ。

これが人間の交尾だ、と。


なぜなら、今のアカと人間のメスの形が猫の交尾の時の形にそっくりだったからだ。


「おい、清美ぃ。やる気あんのか。ちゃんと締めろ。ゆりぃよ」


「んっーんん。だってぇ、もう私お腹すいたあぁ。空き過ぎて、ぜんっぜん感じないもん」


メスは少しばかり気だるそうに腰を上げると、アカはメスに背後からまたがるように体を密着させた。


「おい、締めろっつーに」


「むーりぃ」


アカがどこか不機嫌そうな声で背後からメスを抱き寄せる。

そして緩やかにその腰を揺らす。

更にアカは乗っかったメスの首筋に歯を立てている。


それはまるで、本当に猫の交尾のようだった。


俺は久々に感じる人間に対する腹の毛がぶわぶわするような興味にフンと静かにヒゲを震わせた。


長い間、人間は交尾しないのかと思っていた俺の考えが間違いだとわかった。

これは興奮せずにはおれない。

しかも、見ていると人間の交尾も猫の交尾と余り変わらないようだ。

大発見だ。


「きーよーみぃ」


「だぁってぇ」


アカの低い声が寝床の上から聞こえる。


“きよみ”

どうやら、乗っかられている毛の色の明るいふわふわの毛のメスが“きよみ”というらしい。

アカときよみは交尾をしている。


きよみはアカのつがいなのだろう。

これが人間の交尾かぁ、なんて俺が毛をぶわぶわさせ続けている時だった。


「ったく、じゃあ舐めろ。コレおさまんねぇとツレぇんだよ」


「えぇぇ。やだぁ。どうせ咥えるならチュロスがいい」


「あ゛ぁ?オメェ食い意地貼りすぎだろ!?」


「安武は絶倫過ぎ!いい加減にしてよ!お腹空いたって言ってんじゃん!」


んんんんん?


これは人間の交尾の筈だ。

しかし、この交尾はなんか違う気がする。

俺は初めて見る筈の人間の交尾にヒゲをピンピン動かした。

大興奮に、ちょっとの違和感が混じる。

そして、その違和感は少しずつ大きくなる。


次の瞬間、俺は交尾をしている猫を見ていた時によく感じていたあの感覚を思い出していた。


(アカ、多分メスから叩かれる)


そう思った次の瞬間、寝床の上の二人の言い合いは激しくなっていた。


「腹減った腹減ったて!テメェはバクバク食い過ぎてっから、乳も腹もデブなんだよ!この豚女!ぶーた!ぶーた!」


「はぁ!?安武こそチンコデカいだけでテクなしだから私が感じられてないってわかってる!?このテクなし男!」


そう、きよみが顔を真っ赤にして叫んだ瞬間、アカの下でうつ伏せになっていた態勢を勢いよく仰向けに変えると、そのまま乗っかっていたアカを下から蹴りあげた。

アカもきよみのその行動は予想外だったのだろう。

繋がっていた部分は勢いよく離れ、挙句アカはそのままベッドから落ちてきた。


しかも、俺の目の前に。


俺の予想は見事外れた。

アカはメスに叩かれるのではなく、メスから蹴り落とされてしまった。

ぴょーんて飛んできた。

交尾してたのに、アカはぴょーんと飛んだ。

おもしろい、これはおもしろい。


俺は突然落ちてきた服も何も着ていない、毛のぺたんこのアカを前に思わず笑ってしまった。

人間的に言えば「ふふっ」じゃなくて「あはは!」って感じ。

だけど、俺は今猫だから。


「にゃああ、にゃあああ」


「っっっっ!??あ?え!?」


昔、初めて交尾をしてメスに顔を引っ掻かれたアカを思い出して俺が大笑いをしていると、そんな俺に気付いたアカが言葉にならない言葉で何やら叫んでいる。


「え?あ、兄貴!?兄貴がどうしてここに!?え!?マジで!?いつから!?」


『あははは!あははは!アカは交尾へただなぁ!いつもメスに叩かれてる!今も昔も!』


「っっっ!?うおえういお!?下手!?俺が!?え!?つか、え!?兄貴!?昔って!?」


俺は目の前で裸のまま赤くなったり青くなったりするアカの顔が面白くて、また笑った。

すると、寝床の上でもぞもぞ動いていたきよみも俺の存在に気付いて「猫だ!」と目を丸くしている。

そう言えば、先程きよみはアカの性器を見て「ちんこ」と言っていた。


そして俺はピンときた。

「ちんこ」はオスの性器のこと。

大発見だ。

そして、俺はここに来る前にますたーにお願いされていた筈だ。


『ついでにアイツのチンコ噛み切れ』って。


ますたーはおいしいご飯をくれる。

部屋の入り口を開けてくれる。

ますたーは良い人だ。


俺は素っ裸のアカ足の間に一歩近づくと、笑いながら言ってやった。



『ふふっ、アカのチンコ噛み切ろう!』



その瞬間、アカの表情がピシリと固まった。

その顔が面白くて、俺はまた笑った。



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