伊藤課長確信する
紙切れの犯人が分からないまま数日。色々考え過ぎて毎日夜更かししてしまっている。眠い目を擦りながらいつも通りの満員電車。毎朝乗る電車は日本一混雑する。俺は頭ひとつ高いからまだ良いが、皆押し潰されそうになりながら毎日大変そうだ。普段なら音楽を聞いたり携帯をいじりながら乗るのだが、今日はそんな事も忘れる程ぼんやりと出勤していた。だからだろうか。電車が揺れた際にバランスを崩し、丁度正面に立っている若いサラリーマンの足を踏んでしまった。
「すみません」
俺が軽く会釈し謝ると、その若いサラリーマンは
「いえ。あっ。こちらこそすみません」
と小さく謝った。
はて?。何の事だろうか。いえいえと微笑みながら軽く顔を見る。
そう言われてみれば。毎朝同じ車両に乗る子だ。名前も知らなくても、話した事は無くても毎日同じ車両に乗っていれば顔も覚えるものだ。毎日お互い大変だねぇ、と妙な親近感も湧いてくる。特にこの子は俺の近くに立っている事が多く(多分少し前の駅で乗るのでドア付近に居るのだろう)、よく周りに押し潰されて俺に体重を掛けたり俺の足を踏んでたりする。そう言えば一度あまりに可哀想で立ち位置を代わってやった事も有ったな。ただこの子、どっかで知っている気もするが。
ジッと見つめていたからか、その子は少し顔を赤らめて俯いた。その瞬間。
この子だ―――――――。
その時に直感した。理由は無い。解らないけれど、そう感じた。
どうする?。どうする!?。急に喉がカラカラになった様に感じる。本人に聞いてみようか。何と声を掛ける?。いや、こんな満員電車の中で?。そもそも本当にこの子なのか。頭の中が混沌となった。
目の前の若いサラリーマンは携帯をいじりながらも、時折こちらをチラチラと視界に入れる。
ええぃ。為すがままよ。声を掛けようと遂に決心した時、俺が降りる駅のホームに電車が滑り込んだ。
人の波に流されながら階段を降りる時彼の方を見ると、彼もこちらを見ていた。俺は思わず立ち止まり、電車が発進するまで見つめ合った。彼は驚いた顔をしていた。
俺は確信した。あの子が紙切れの・・・・・。




