第49話 声帯の軋み
石炭の煙と冷たい秋雨が混ざり合う夜、帝都の街並みは底知れぬ熱病に浮かされていた。
皇太后エリザベート・フォン・シュタインが下した前代未聞の勅命――帝国建国百周年祭の最終夜、帝立大歌劇場における「聖楽院」と「ルージュ座」の競演。その直接対決の刻限まで、残すところ一ヶ月を切っていた。
街頭の空気は張り詰めた弦のように軋み、昼間の中央大通りでは、教会の白百合の記章を掲げた信徒たちと、真紅のリボンを胸元に佩いた下町の若者たちが、視線を交わすたびに火花を散らしている。
だが、日中の狂騒が嘘のように引き潮となった深夜二時、独立劇場〈ルージュ座〉のメインステージは、外界の喧騒を完全に遮断した深い闇の底に沈んでいた。
客席の照明はすべて落とされ、八百の空席がすり鉢状の暗がりとなってステージを取り囲んでいる。
舞台中央にだけ、真鍮の裸電球が吊り下げられ、煤けた無垢板の上に青白い孤高の円環を刻んでいた。
ドォォォォン……ッ!
ズズッ、チャッ、ズン、チャッ――!!
ステージの奥、調律された黒塗りのコンサートグランドピアノに向かうノア・カレヴィの腕が、猛烈な速度で鍵盤を叩き続けていた。
跳ねるような裏拍、腹の底を抉り取るような濁った不協和音。
大聖堂での勝利を経て、決戦のために二人が練り上げてきた新曲のスケッチ。大歌劇場の広大な空間を呑み干すための、痛切なブルースから爆発的なゴスペル・ファンクへと雪崩れ込む組曲。
ノアの額から噴き出す汗が白鍵の上へと滴り落ち、口元の煙草が細く紫の煙を立ち上らせる。
「――頭から四小節、スウィングの溜めを伸ばすぞ! レア、そこから一気に地声で突き抜けろ!」
ノアの鋭い怒声が、静まり返った客席へと木霊した。
その合図とともに、裸電球の光の真ん中に立つレア・ヴァーミリオンが、薄い胸郭を大きく開いた。
――すぅっ。
冷たい夜気を肺胞の隅々まで注ぎ込む。
下腹部に力を込め、横隔膜を押し上げ、声帯のエッジを激しく擦り合わせる。
いつも通りの動作。煙突街の地下酒場の酒樽の上から、何千回、何万回と繰り返してきた、己の魂を音へと変換するための肉体の儀式。
「――HEAR THE CRY, THROUGH THE FROZEN WALL――ッッ……!」
刹那。
――ガリッ。
空間を切り裂くはずだったハイトーンの咆哮が、最高音へと到達する直前、無残な音を立てて千切れた。
裏返るのではない。ピッチが外れるのでもない。
まるで、ピンと張り詰めていた鋼鉄の弦が、真ん中で乾いたやすりに削り取られたかのような――濁り、擦れ、掠れ果てた、痛々しい空気の摩擦音。
ジャァァン……。
ピアノの鍵盤が、半端な和音のまま不快な余韻を残して止まった。
完全な静寂が、ルージュ座を満たした。
裸電球が微風に揺れ、ステージの床に落ちる影が小さく震える。
ピアノの前で、ノアは鍵盤に手を置いたまま、動かなかった。
耳に挟んだ煙草の灰が、ポロリと黒い鍵盤の上へ落ちる。
彼はゆっくりと首を巡らせ、ボサボサの黒髪の隙間から、ステージ中央の少女をじっと見据えた。
「……レア」
「……もう一度よ」
レアは振り返りもせず、前を見据えたまま、硬い声で言い放った。
呼吸がわずかに荒い。胸元に手を当て、喉仏を強く押し込むように指先を当てている。
「今のは、息のスピードが足りなかっただけ。……ノア、四小節前からもう一度やり直しなさい」
「音が、掠れてるぞ」
ノアの声は低く、平坦だった。感情の起伏を殺した、冷徹な音楽家の耳が下した観察。
「掠れてなんかいないわ」
「ピッチが半音ぶら下がった。それだけじゃねえ、倍音の芯が抜けて、ただの息漏れの音になってた」
ノアは鍵盤から手を離し、立ち上がった。
靴音を響かせながら、ゆっくりとレアの背中へと近づいていく。
「昨日もそうだった。一昨日もだ。……お前、先週あたりから高音に入る直前、不自然に顎を引いて喉を締め付けてるだろ。息を吸い込む音も以前より濁ってる。……喉を、見せてみろ」
「触らないで!」
レアは身を翻し、ノアの手を激しく払い落とした。
その切れ長の黒い瞳には、剥き出しの敵意と、そして――隠しようもない、獣のような怯えが渦巻いていた。
「私は大丈夫よ! どこも悪くない! 連日の湿気で、少し気管が狭くなっているだけ……声は出ているわ! 聴こえなかったの!? 私の声は、あの大聖堂の十字架を割ったのよ! こんなところで止まるわけがないでしょう!」
叫ぶレアの喉から漏れ出たその怒声すらも、かつての澄んだベルのような響きを失い、かすれたざらつきを帯びていた。
ノアは息を呑み、息を止めた。
その掠れ方は、ただの疲労や風邪の類ではない。
かつて大聖堂の少年聖歌隊で、過酷な訓練によって喉を潰され、二度と高音を出せなくなって去っていった無数の少年たちが、破滅の直前に鳴らしていたものと、全く同じ「死の音色」だった。
「レア、お前――」
「歌えるわ! ピアノを弾きなさい、ノア! 弾くのよッ!!」
レアは取り憑かれたように叫び、無理やり胸郭を押し広げ、肺の中の空気を絞り出そうとした。
「――I AM THE FIRE, I AM――っ、ごほっ……! げほっ、げほっ……!!」
歌声は、音の形すら保てなかった。
激しい咳き込みが彼女の肺を突き上げ、気管が痙攣を起こす。
レアはその場に崩れ落ちるように両膝をつき、松板の床を両手で強く爪立てた。
息が吸えない。冷たい夜気が気管を通るたび、焼けた針で内側を掻き回されるような激痛が喉の奥を走る。
彼女は胸元から白い麻のハンカチを引っ張り出し、口元を覆った。
吐き出された呼気。
恐る恐るハンカチを離した彼女の視線の先――純白の布地の上に、昨日よりも濃く、生々しい赤色の染みが、点々と散っていた。
「…………っ!」
レアの全身の血の気が、一瞬で引いた。
指先が凍りつき、心臓が早鐘のように激しく打つ。
隠せなかった。
その鮮血の染みは、ノアの眼前で、逃れようもなく白日の下に晒されていた。
「……血……だと……?」
ノアの顔が蒼白になった。
男は膝を折り、震える手でレアの肩を掴んだ。
「おい、レア! いつからだ!? いつから血を吐いてやがったんだッ!!」
レアは答えられなかった。
ただ、荒い息を吐きながら、血染めのハンカチを握りしめ、唇を血が滲むほどに強く噛み締めることしかできなかった。
煙突街の地下酒場〈黒猫座〉の酒樽の上から始まり、歓楽街の〈アリーナ・ノワール〉、常設劇場〈ルージュ座〉、街頭の荷馬車、そして大聖堂の査問委員会。
マイクも拡声具もない生身の身体ひとつで、何百人、何千人もの熱狂をねじ伏せるため、彼女は連日連夜、極限の音圧でシャウトを叩きつけ続けてきたのだ。
どれほど強靭な肉体であっても、彼女は神でも魔導具でもない、ただの一人の人間の少女に過ぎない。
休むことなく酷使され、傷つき、擦り切れた声帯が、ついに限界を超えて悲鳴を上げていた。
◇
一刻後。ルージュ座の最上階、支配人室の奥にある私室。
革張りの長椅子の上に、レアは身を起こしたまま座らされていた。
肩には分厚いウールの毛布が掛けられ、傍らには湯気を立てる白湯の入った銀のカップ。
部屋の空気は、冬の霊廟のように重く冷え切っていた。
暖炉の前には、煙管の火を消したマルゴ・デルーが、仁王立ちになって腕を組んでいた。その太い指先が、落ち着かなげに自らの二の腕を強く抓っている。
部屋の隅では、ジュディット・モレルが裁縫鋏を握りしめたまま、青ざめた顔で壁に背中を預けていた。
ノアは窓辺に立ち、火の点いていない煙草を口元に咥えたまま、夜の闇を睨みつけている。
そして――レアの正面。
真鍮の小さな反射鏡を額に巻き、細長いピンセットと喉頭鏡を手にした一人の老紳士が、机の上に道具をカチャリと置いた。
白髪を整え、仕立ての良い濃紺のフロックコートを着た老医師――アルベール・デュラン。
表向きは第一区の門閥貴族や帝立歌劇場のプリマドンナたちを専属で診る帝都随一の咽喉科の権威であり、裏ではマルゴの古いツテによって、煙突街の深刻な傷病者を極秘裏に診察してきた名医だった。
デュラン医師は手袋を外し、重々しい溜息とともに眼鏡を外した。
その顔に刻まれていたのは、名医特有の、冷酷なまでに正確な「絶望」の表情だった。
「……マルゴ。率直に言っていいのだな」
「勿体ぶるんじゃないよ、先生」
マルゴの声は、濁り、震えていた。
「アタシらは修羅場なら慣れっこだ。何が起きてるのか、はっきり言っておくれ」
デュラン医師は手帳を開き、万年筆で素描された喉の断面図を指し示した。
「……軽度の声帯結節。それも、左右の声帯の接合部の中央に、硬化した胼胝のような肉芽が二箇所、完全に形成されている」
「声帯結節……」
ジュディットが掠れた声を漏らした。
「声帯というものはな、極めて繊細な粘膜の襞だ」
医師はレアの青ざめた顔を見つめ、容赦のない現実を突きつけた。
「本来ならば、摩擦を最小限に抑えて高速で振動させるものだ。だが、この娘は地声の限界を超えた音圧で、摩擦の熱を直接ぶつけるような無茶な発声を何ヶ月も繰り返してきた。……声帯の縁が擦り切れ、出血し、それが治りきる前に再び歌い、組織が異常に硬化してしまったのだ。結果として、声帯が完全に閉じなくなっている。息が漏れ、高音が出なくなり、音程のコントロールが効かなくなるのは当然の帰結だ」
「治るのね?」
レアが身を乗り出した。
その声は、自分でも信じられないほど掠れ、乾いた摩擦音となって部屋に落ちた。
「薬をちょうだい。どんな苦い薬でも、どんな痛い注射でもいいわ。……喉に塗る軟膏でも何でも持ってきなさい。一週間で治るものを用意して」
「薬などで治る段階は、とうの昔に過ぎている」
デュラン医師は冷淡に首を横に振った。
「結節の硬化はすでに始まっている。……いいか、レア・ヴァーミリオン。お前の肉体が下した要求は、たった一つだ。『沈黙』だよ」
「……沈黙?」
「今すぐ、一切の発声を禁じる」
医師の宣告は、絶対の死刑判決のように響いた。
「歌うことはもちろん、日常の会話、囁き声、咳払いに至るまで、すべての発声を完全に停止する。そうして喉の摩擦をゼロにし、組織の自然治癒を待つ。……期間は、最低でも半年間だ」
「は……半年……!?」
ジュディットが悲鳴を上げた。
「先生、正気かい!? 決戦は一ヶ月後なんだよ! 帝立大歌劇場で、あの聖楽院と直接対決するんだ! 半年も黙っていたら、建国祭が終わっちまうじゃないか!」
「なら、今すぐ諦めることだな」
デュラン医師は感情を交えず、淡々と言い放った。
「もし、この状態で練習を続け、あるいは舞台に立って一度でも全力のシャウトを放てば――硬化した結節が完全に裂け、声帯粘膜の広範な不可逆的断裂を引き起こす。……そうなれば、現代の医学では二度と縫合できない。歌うことどころか、一生涯、嗄声――掠れた息のような音しか出せない、ただの唖者として生きることになるぞ」
唖者。
二度と、声が出なくなる。
喋ることも、歌うことも叶わず、ただ掠れた呼気をもらすだけの肉体の塊。
「……決断しろ、娘」
医師は鞄の留め金をパチンと閉めた。
「今すぐ歌をやめて半年沈黙を守り、将来のために喉を残すか。それとも、一ヶ月後の舞台にしがみついて、その場で永遠に喉を焼き尽くすか。……医者として言えるのはそこまでだ」
静寂が、部屋を支配した。
暖炉の薪が爆ぜる音すら、息の詰まるような圧迫感となって肌にまとわりつく。
半年間の沈黙。
それは、実質的な完全なる「敗北」を意味していた。
競演を辞退すれば、ルージュ座は契約不履行によって帝都の興行権を永久に剥奪される。
皇太后との賭けは自動的に敗北となり、負けたレアには「声帯を薬で焼いての修道院への終身幽閉」が待っているのだ。
進むことも、退くこともできない。
彼女が自らの喉一つで切り拓いてきた栄光の道の果てに、いま、絶対の行き止まりが口を開けていた。
「……っ……」
レアの指先が、ガタガタと激しく震え始めた。
彼女は自らの唇に爪を立て、皮膚が破れて血が滲むほどに強く、親指の爪を噛んだ。
痛覚が走る。だが、その痛みなど、胸の奥底から噴き上がってくる底知れぬ「恐怖」と「焦燥」の濁流に比べれば、何の意味も持たなかった。
(声が出なくなる……? 私が……?)
全身の毛穴から、冷たい汗が噴き出す。
煙突街のドブ川のほとりで、煤にまみれて死んだ母の顔が脳裏をよぎる。
大聖堂の冷たいステンドグラスの下で、「下品な悪魔の節回し」と罵られ、制服を剥ぎ取られて泥水の中へ放り出された、あの雨の日の屈辱。
誰の庇護も求めず、誰の愛人にもならず、ただ自分の喉一つ、自分の声帯の震え一つだけを唯一の武器にして、この帝都の頂点まで這い上がってきたのだ。
その喉が、死ぬ。
その声が、消える。
(嫌よ……。そんなの、絶対に嫌……!)
恐怖で視界が白く明滅する。
ここで歌うのをやめれば、自分は何者でもなくなる。
あの高台の白亜の大聖堂の老人たちに指を差され、「所詮は泥の血を引くドブネズミの末路だ」と嘲笑われ、路頭に迷うだけの無力な孤児へと逆戻りするのだ。
クラリスが差し出してくれた信頼も、ジュディットが縫い上げてくれた真紅のドレスも、ギルバートとユーグが命を賭けて守ってくれた法の盾も、すべてが水泡に帰す。
(黙ってたまるものですか……! 半年沈黙するくらいなら……喉が裂けて死んだほうが、よっぽどマシよ!)
レアは長椅子から立ち上がろうとした。
喉頭を掻きむしり、掠れた息を吐きながら叫ぼうとする。
「せん、せい……! 薬を……今すぐ、声を出す薬を――」
「黙りな、レア!」
――バァァァンッッ!!
雷鳴のような怒声とともに、マルゴ・デルーの太い平手が、卓上の木製テーブルを力任せに叩きつけた。
銀のカップが跳ね、水飛沫が絨毯へと飛び散る。
マルゴは鬼のような形相でデュラン医師の前に立ちはだかると、その襟首を鷲掴みにして、部屋の扉へと力任せに引きずり倒した。
「おい、マルゴ!?」
医師が狼狽して叫ぶ。
「引っ込んでな、ヤブ医者が!」
マルゴの灰色の瞳に、裏社会の修羅場を幾度もくぐり抜けてきた女傑特有の、血走った獰猛な光が宿っていた。
「半年黙ってろだと!? アタシらの娘に、死刑台へ上がって首を差し出せって言ってるのと同じだよ! 教科書通りの理屈しか言えないなら、とっとと第一区の温室へ帰りな!」
「ま、マルゴ、冷静になれ! 医学的にだな――」
「出て行きなッ!!」
ドカァンッ!と、マルゴは医師を部屋の外の廊下へと押し出し、重厚な樫の木の扉を力任せに叩き閉めた。
ガチャンと、内側から重い真鍮の閂が下ろされる。
静寂が、再び私室に戻った。
ハァッ、ハァッ、とマルゴの荒い息遣いだけが響く。
ジュディットは口を手で覆ったまま涙を流し、ノアは窓辺で拳を固く握りしめ、爪が手の平に食い込んで血を滲ませていた。
マルゴは荒い息を整えると、振り返り、長椅子の上で震えるレアの元へと歩み寄った。
その顔から、先ほどの怒りの表情は消え去っていた。
代わりに浮かんでいたのは、深い、深淵のような影。
マルゴは部屋の隅、黒檀の壁飾りの背後にある隠し棚へと手を伸ばした。
小さな真鍮の鍵が差し込まれ、カチリと音が鳴る。
棚の最奥から引き出されたのは――埃を被った、手の平サイズの小瓶だった。
重厚な黒硝子の瓶。
光を透かさないその液体の底には、毒々しい赤黒い沈殿物が澱み、コルクの栓には、古い裏社会の隠語で『紅の劇薬』と記された擦り切れた紙片が貼られていた。
「……マルゴ、それ……」
ノアが掠れた声を上げた。
「煙突街の地下闘技場で、昔、喉を潰された拳闘士や歌い手たちが使っていた、秘伝の民間薬さ」
マルゴは小瓶を握りしめ、レアの前へと歩み寄った。
その声は、重く、濁っていた。
「声帯の血管を瞬間的に極限まで収縮させ、腫れと結節を無理やり引き絞る劇薬のハーブ酒だよ。……これを飲めば、三時間だけは、結節の引っ掛かりが消えて、昔通りの声が出る」
「…………!」
レアの瞳に、縋り付くような光が宿った。
「ちょうだい、マルゴ……! それをちょうだい!」
レアは手を伸ばそうとした。だが――。
マルゴはその手を、冷たく引っ込めた。
「タダじゃないよ、レア」
マルゴの灰色の瞳が、冷酷な現実を突き刺した。
「薬が切れた瞬間、反動で声帯の細胞は急速に壊死を始める。一度飲めば、次は二倍の量を飲まなきゃ声が出なくなる。……そして三度目を飲んだ時、お前の声帯は完全に焼き爛れて、二度と人間の言葉を発することすらできなくなる」
魂を前借りする、悪魔の劇薬。
ほんの数時間の奇跡と引き換えに、自らの表現者としての命を完全に消滅させる、片道切符の毒。
「……選びな、レア」
マルゴは黒硝子の小瓶を、テーブルの真ん中へと静かに置いた。
カツン、と乾いた音が落ちる。
「アタシはアンタを止やしない。だが、これを飲めば……お前の喉は、建国祭のステージのその夜に、灰になって燃え尽きるよ」
テーブルの上に置かれた、黒い小瓶。
その影が、ランプの炎に揺らめき、まるで死神の指先のようにレアの胸元を指し示していた。
決戦まで、あと一ヶ月。
迫り来る破滅の足音を前に、禁忌のディーヴァの運命は、極限の暗闇の淵へと追い詰められていた。




