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第3話 泥の匂いのする鍵

大聖堂の門をくぐり抜けた瞬間、冷たい氷雨が容赦なく降り注いできた。


学院の正門脇にある衛兵詰所で、レアは身ぐるみ剥がれるような屈辱的な手続きを受けさせられた。帝立聖楽院の紋章が銀糸で刺繍された上着は、衛兵の荒っぽい手つきで襟元から引きちぎられるように回収された。特待生に支給されていた革靴も、真鍮のバックルがついたベルトも、すべて「帝室の財産」として没収された。

代わりに突き返されたのは、三年前、彼女が煙突街から持参したきりトランクの底に眠っていた、薄汚れた私服だった。


丈の足りなくなった継ぎ接ぎだらけの毛織りのスカート。

肩口がほつれ、雨を通せばひとたまりもなく冷え切る古びた綿の上着。

爪先が擦り切れて浸水する、薄い革底の短靴。


門番の衛兵は、泥水が跳ねる敷石の上へレアの私物を詰めた粗末な麻袋を放り投げ、鉄格子の重い門扉を閂(かんぬき)ごと乱暴に閉ざした。

「二度と敷居を跨ぐなよ、ドブネズミめ。学院の空気が腐る」


吐き捨てられた言葉に、レアは振り返りすらしなかった。

泥水に濡れた麻袋を無言で拾い上げ、肩に担ぐ。

冷たい雨粒が容赦なく前髪を濡らし、首筋を伝って胸元へと滑り落ちていく。凍えるような寒さのはずだったが、皮膚の内側で脈打つ血液だけは、大聖堂で叫んだあの瞬間から一向に冷める気配がなかった。むしろ、冷水のような雨を浴びるほど、喉の奥に宿った火種がチリチリと鋭く熱を帯びていく。


レアは歩き始めた。

帝都オルレアンは、幾重もの段丘によって階層が厳格に分かたれた都市だ。

頂点に君臨するのは、白亜の宮殿と聖楽院が鎮座する第一区「光輪地区」。

緩やかな坂を下れば、整然とした並木道と豪奢な屋敷が連なる貴族街。

さらに下ると、石造りの街並みは次第に煤煙で薄汚れ、職人や商人が雑踏を作る中層の居住区へと移り変わる。


そして、都市の排水と煙のすべてが流れ落ちるすり鉢の最底辺――そこに、レアの生まれ故郷である「煙突街」が口を開けていた。


坂を下るにつれて、鼻腔を突く匂いが変わっていく。

白檀の香油や雨に濡れた薔薇の気品ある香りから、濡れた石炭の粉塵、下水溝から逆流するヘドロ、安酒の饐えた匂い、そして生きて蠢く人間たちの脂と汗の混じり合った濃密な臭気へ。

長屋が隙間なくひしめき合い、張り巡らされた洗濯紐が頭上を覆い尽くす。煙突から吐き出される重たい灰色の煙が、雨霧と混じり合って路地全体を薄暗い夕暮れのように染め上げていた。


靴底の穴から、冷たい泥水がじわりと足の指に染み込んでくる。

三年ぶりの感触だった。

不快ではあった。だが同時に、胃の腑の奥がどっしりと据わるような、奇妙な居心地の良さを感じていた。


(帰ってきたんじゃない。……ここを足場にして、あの高台の鳥籠をまるごと叩き潰すために降りてきたのよ)


レアは濡れた外套の襟をかき合わせ、迷路のように入り組んだ路地を足早に進んだ。

すれ違う男たちの視線は荒んでいる。濡れ鼠のような娘を一瞥し、金目のものを持たないと知ると舌打ちをして去っていく。女たちは軒下で身を寄せ合い、冷たい指先を息で温めながら、虚ろな目で泥の轍(わだち)を見つめている。

ここには「神の調和」など欠片もない。ただ、飢えと寒さに耐え、泥をすすりながら今日を生き延びることだけに必死な、生身の命の残骸が転がっているだけだ。


路地の突き当たり、半ば崩れかけた石造りの雑居ビルの角を曲がると、地下へと続く狭く急な階段が現れた。

階段の入り口には、雨に打たれて錆びついた真鍮の看板が、頼りなげに軋んでいた。

そこに刻まれているのは、酒杯の上で背を丸める黒猫のレリーフ。


――地下酒場〈黒猫座〉。


レアは階段を一段ずつ踏み締めて降りた。

壁のあちこちから水滴が滴り、油の染みた古布のような匂いが濃くなっていく。突き当たりの重い樫の木の扉の前で立ち止まり、息を整えることもせず、真鍮のノッカーを力任せに三度打ち鳴らした。


重苦しい金属音が地下道に反響する。

やがて、内側から閂が外される鈍い音が響き、扉が軋みながらわずかに開いた。

隙間から漏れ出してきたのは、強いアルコールの揮発臭と、安煙草の青臭い煙。そして、隙間の奥から覗いたのは、猛禽のように鋭い灰色の瞳だった。


「……何の用だい。昼間から酒を飲ませるような呑気な店じゃないよ」


低く、煙で焼けたしゃがれ声。

扉の隙間から現れたのは、五十がらみの女だった。

灰色がかった赤毛を後ろで無造作に束ね、袖をまくり上げた太い腕には、古い刃傷の痕が白く残っている。エプロンの下に着込んだ革のチョッキ、腰に吊るされた短めの棍棒。

元・煙突街の裏社会を取り仕切っていた顔役であり、いまはこの吹き溜まりの地下酒場を束ねる女主人――マルゴ・デルー。


「私よ、マルゴ」


レアが濡れそぼった前髪をかき上げると、マルゴの細い目がわずかに見開かれた。

だが、驚きの色は一瞬で消え去り、すぐに冷ややかな現実主義者の目に戻る。彼女は扉を全開にし、腕を組んでレアの全身を品定めするように見下ろした。


「……レアかい。そのナリはどうした。光輪地区のお偉い学校で、綺麗な合唱団の歌姫様をやってたんじゃなかったのかね」


「追い出されたのよ。たった今」


「だろうね」

マルゴは鼻を鳴らし、咥えていた煙管から細い煙を吐き出した。

「あんたのその目を見りゃわかるよ。昔っから、お前の母親そっくりに気に食わない目をしてやがる。反吐が出るほど高慢で、誰の指図も受けつけない飢えた野良犬の目だ。……聖楽院のお上品な先生様たちが、そんな生臭い娘を飼い慣らせるはずがない」


マルゴは踵を返し、店の奥へと歩き出した。扉は開けたままだ。

「入りな。雨水で床を汚されるのは癪だが、入り口で立ち往生されるのも目障りだ」


レアは濡れた靴を引きずりながら、店の中へと足を踏み入れた。

〈黒猫座〉の店内は、昼間だというのに深夜のように暗かった。

天井は低く、剥き出しの梁からは煤が垂れ下がっている。不揃いな木製のテーブルと丸椅子が無造作に並び、壁際には密造酒を詰めたオーク樽が山積みにされていた。換気の悪い地下特有の淀んだ熱気と、何十年ものあいだに染み付いたアルコールと吐瀉物、そして血の匂い。

だが、中央の奥には、酒樽を解体して組み上げただけの、幅二間ほどの粗末な板張りのステージが設えられていた。


マルゴはカウンターの奥に入り、棚から欠けた陶器のグラスを取り出すと、琥珀色の安ジンを波々と注いでレアの前に叩きつけた。


「飲みな。身体を温めるくらいにはなる」


「……ありがとう」

レアはグラスを両手で包み込み、一気に煽った。

喉が焼けるような強烈な刺激が走り、胃の腑に火が灯る。思わず喉を鳴らして咳き込みそうになったが、気合いで呑み下した。その喉の動きを、マルゴはじっと見つめていた。


「それで? 着の身着のままで逃げ帰ってきて、このアタシに何を求めに来たんだい。母親の義理で、寝床とパンの耳くらい恵んでやるとでも思ったか?」


マルゴの声には、一切の甘えを許さない冷酷な響きがあった。

裏社会の修羅場を生き抜いてきた女だ。情けや感傷で生きられるほど、この煙突街が甘い場所ではないことを骨の髄まで知っている。


「食い扶持が欲しいなら、奥で皿洗いでもやらすよ。一日中冷水に手を突っ込んで、酔っ払いのゲロを拭き取る仕事だ。一日あたり銅貨三枚。飢え死にはしないが、あんたのその細い指は二月でひび割れてアカギレだらけになる」


マルゴは煙管の灰を吸い殻入れに叩き落とし、鋭い視線をレアの顔面に突きつけた。


「だがね――もし、その喉を使ってここで歌うって言うんなら、話は別だ。この店の客は、聖楽院の温室育ちのお坊ちゃんやお嬢ちゃんじゃない。人殺し、密輸商人、港湾の荒くれ者、明日の飯にも困る連中だ。退屈な歌を歌えばビール瓶が飛んでくるし、気に入らなきゃステージから引きずり下ろされて嬲り殺しにされる。……歌うなら、命を賭けな」


突き放すような言葉。

普通の娘であれば、震え上がって逃げ出すか、泣きついて皿洗いを懇願していただろう。

しかし、レアは空になったグラスをカウンターの上にコトンと静かに置いた。

そして、わずかに唇の端を吊り上げ、真っ直ぐにマルゴの灰色の瞳を睨み返した。


「皿洗いなんて、柄じゃないわ」


「ほう?」


「あんたの言う通りよ、マルゴ。私は飢えた野良犬だし、誰の指図も受ける気はない。……でもね、勘違いしないで。私は施しを請いに来たんじゃない。あんたに、極上の取引を持ちかけに来たのよ」


「取引だと?」


「ええ」

レアは顎を引き、薄い胸を張った。

その全身から立ち上る気迫は、雨に濡れたボロ布を纏っていながら、まるで女王の威厳を帯びていた。


「私の喉は、あんたの店を帝都一にする。……荒くれ者どもが瓶を投げる暇すらなく、涙を流して小銭を全部吐き出すような歌を歌ってあげるわ。だから、ステージを私に寄越しなさい」


静寂が、地下酒場を包み込んだ。

マルゴは煙管を咥えたまま、数秒の間、微動だにせずレアを見つめていた。

やがて、その太い肩が微かに揺れ――ククッ、と喉の奥から乾いた笑い声が漏れた。


「帝都一、ねえ……。吹き溜まりの地下酒場を? あの聖楽院を追い出された小娘がかい」


マルゴの笑みは次第に広がり、最後には豪快な哄笑となって地下の天井を揺らした。


「ハハッ! いい度胸だ、気に入ったよ! 口先だけなら皇帝にだってなれるさ。だがね、お嬢ちゃん。歌ってのは一人じゃ成立しないんだよ。この店で音を鳴らすなら、あいつの機嫌を取ってもらわなきゃ困るね」


マルゴは親指で、店の最奥――酒樽の陰に置かれた、埃まみれのアップライトピアノの方向を指し示した。


そこには、粗末な丸椅子に突っ伏して、死んだように眠りこけている男の姿があった。


「起きな、ノア! 客が来る前にピアノに酒をこぼすんじゃないよ!」

マルゴがカウンターから身を乗り出し、空の空き瓶を正確に男の足元へ投げつけた。ガシャン、と派手な破片が飛び散る。


「……ッ痛えな、クソババア……。静かに寝かせろ……」


呻き声を上げながら、男がのっそりと顔を上げた。

伸び放題のボサボサとした黒髪の間から覗いたのは、酷い無精髭と、隈の浮いた酷薄そうな顔立ちだった。年齢は二十代半ばといったところか。着ているシャツは酒と煙草のヤニで黄ばみ、第一ボタンまでだらしなく開け放たれている。

だが、その両手――膝の上に無造作に置かれた指先だけは、異常なほど長く、節くれ立っていながらもしなやかな骨格を保っていた。


ノア・カレヴィ。

かつて大聖堂のパイプオルガン奏者として将来を嘱望されながら、典礼曲の厳格な規則を無視し、独自の不協和音と気怠いスウィングを追究した結果、異端として教会を破門された男。


「何だよ、マルゴ。まだ開店時間には間があるだろ……」

ノアは気怠そうに目を擦り、カウンターの前に立つレアに視線を向けた。

その視線が、レアのみすぼらしい格好と、隠しきれない育ちの良さの残滓を捉えた瞬間、嘲るような薄笑いが口元に浮かぶ。


「……おいおい、何だその珍妙な生き物は。上等な学校の匂いがプンプンするじゃねえか。泥遊びに飽きたお嬢ちゃんが、世間知らずの度胸試しにでも来たのか?」


「聖楽院の特待生だった娘さ」

マルゴがニヤニヤしながら告げる。

「たった今、悪魔の節回しを歌ったとかで首を切られてね。この店を帝都一にしてやるから、ステージを寄越せとぬかしやがった」


「ハッ、傑作だな」

ノアはあくびを噛み殺しながら、ピアノの鍵盤蓋に肘をついた。

「聖楽院ねえ。あのクソ忌々しい無菌室の墓場か。あそこで教えてるのは、譜面通りに呼吸を止めて、神様のケツを舐めるための算数の授業だけだ。……そんな場所で三年間も行儀よくお勉強してきたお嬢ちゃんに、一体何が歌えるってんだ? 子守唄なら他所で歌いな。ここは、人生をドブに捨てた奴らが安酒で胃袋を焼く場所だ」


吐き捨てるような、剥き出しの軽蔑。

だが、レアの心は一ミリたりとも揺らがなかった。

むしろ、ノアの言葉の端々に滲む「教会への猛烈な憎悪」と「音楽への乾き」を、彼女の鋭い直感が正確に嗅ぎ取っていた。


(この男、ただの酔っ払いじゃない。……私と同じ、音の飢えで狂いかけている同類だわ)


レアは反論の言葉を口にしなかった。

口先で何を言おうと、この男には届かない。音楽を奪われ、路地裏へ堕ちた人間の心を動かせるのは、言葉ではなく――音だけだ。


スタスタと、濡れた足音を響かせてレアは歩み寄った。

ピアノのすぐ脇、ノアの鼻先まで距離を詰める。

ノアが不快そうに眉をひそめた瞬間、レアは深く息を吸い込んだ。


「――おい、何す――」


ノアが口を開きかけたその唇を、レアの喉から放たれた音が完全に塞いだ。


「――Hummmmm……」


言葉ではない。

大聖堂で解き放ったあの音――短三度と長三度の境界を気怠く擦り抜ける、泥の匂いのするハミング。

低く、ざらつき、しかし心臓の奥深くまで直接振動を送り込むような、圧倒的な周波数。

レアはピアノの木製の側板に片手を置き、その響きを直接楽器の胴鳴りへと流し込んだ。


ノアの瞳が、見開かれた。

気怠げだった泥酔の霧が一瞬で吹き飛び、黒い瞳の奥に鋭利な刃物のような光が宿る。


(……この音は、何だ?)


純正律ではない。平均律ですらない。

教会の書物に記されたどの旋律とも違う。

だが――彼がかつてパイプオルガンの鍵盤の前で、頭を抱えて求め続け、そして「悪魔の音」として断罪された、あの失われた半音の揺らぎ(ブルーノート)そのものだった。


「……ッ!」


ノアの体が、思考よりも先に動いていた。

酒の匂いを撒き散らしながら、長い指が埃まみれの鍵盤の上へと叩きつけられる。


ドォン――。


調律の狂ったアップライトピアノが、鈍く重い不協和音を上げた。

だが、それは不快なノイズではなかった。

レアのハミングの底を支える、地底を這うような重低音のベースライン。

一拍、跳ねる。

タ・ターン、タ・ターン――。

教会の厳格な行進曲を嘲笑うような、独特の粘り気を持ったスウィングのリズム。


レアの口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。


(そうよ。ついてきなさい、ピアノ弾き)


レアはハミングから、一気に喉を開いた。


「――Yeah, I got trouble in my mind, trouble all the time……」


英語にも似た、下町のスラングが混ざった擦れ声。

ピアノの跳ねるリズムに、彼女の靴底が刻むストンプが重なる。

ノアの右手が、鍵盤の上を狂ったように跳ね回った。レアの節回しが半音下がれば、ノアのコードが即座にそれを追尾し、さらに歪んだ倍音を重ねて彼女の声を高みへと押し上げる。

一度も合わせたことのない旋律。譜面などどこにもない。

あるのは、互いの骨から放たれるリズムの衝突と、それに即座に応答する魂の反射神経だけ。


二人の音が絡み合い、狭い地下酒場の空間を満たしていく。

壁を伝い、天井を揺らし、並べられた酒樽の液体を共鳴させる。

埃まみれのピアノが、まるで生き物のように唸りを上げ、レアの歌声と一体になって一つの巨大な生き物へと変貌していた。


「――And the river’s gonna wash it all away!」


レアの咆哮とともに、ノアの両手が鍵盤全体を叩き潰すような強烈な終止符を打ち込んだ。


ジャァァァン…………。


残響が、ゆっくりと引いていく。

ノアの指は鍵盤の上に置かれたまま、小刻みに震えていた。

荒い息を吐きながら、彼は信じられないものを見る目でレアを見上げていた。額には大粒の汗が滲み、その表情からは、先刻までの自堕落な酔っ払いの気配など微塵も消え失せていた。


「……化け物め」

ノアが、掠れた声で呟いた。

「どこで拾ってきた、その声……。聖楽院だと? 冗談だろ……こんなの、悪魔に魂を売り渡さなきゃ出せるはずがねえ……」


「悪魔になんて売ってないわ」

レアは息を整えながら、汗の浮いた額を手の甲で拭った。

「私の声は、私のものよ。誰にも売り渡さない」


パチ、パチ、パチ。


カウンターの奥から、乾いた拍手の音が響いた。

二人が振り返ると、マルゴが煙管を口から離し、灰を床に落としながら立っていた。

その顔には、先ほどまでの冷笑はなかった。

代わりに浮かんでいたのは、かつて裏社会を恐怖で支配していた頃の、猛獣のようなギラギラとした野心の光。


「……決まりだね」


マルゴはカウンターの下から、古びた真鍮の鍵を取り出し、テーブルの上へ放り投げた。

カラン、と高い音を立てて滑った鍵を、レアが素早く受け止める。

泥と鉄の匂いが染み付いた、地下の楽屋の鍵。


「今夜から、そのステージに立ちな。一番手の出番をくれてやる」

マルゴは獰猛に笑い、カウンターを掌で叩いた。

「せいぜい、ウチの常連どもを唸らせてみせな。もし途中で客に怯えて声を詰まらせたら、その首根っこを掴んでドブ川に放り込んでやるからね」


「心配いらないわ」

レアは真鍮の鍵を固く握りしめ、冷たく微笑み返した。

「客席の連中が、二度と立ち上がれなくなるくらいに打ちのめしてやるから」


外では、雨足がさらに強まっていた。

だが、冷たい雨水が染み込む地下酒場の底で、帝国を焼き尽くす最初の炎が、確かに着火していた。

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