第92話 クローゼットの秘密
私達はルージュちゃんの発案で始まったクローゼット調査をしていた。
とりあえずクローゼットを出して、入ろうとしてみたけど、普通に入れなかった。
本当にただのクローゼットなのか、それとも入るにはなにか条件があるのか。
「ルージュ、何かクローゼットに入れそうなアイテムが売られていたりはしないかしら……」
「クローゼットに入れそうなアイテム? 聞いたことないけど」
ルージュちゃんは小首を傾げる。普通はクローゼットに入ろうなんて思わないからね。
「うーん、何か特定の条件を満たさないとだめとか? たまにあるじゃん。このレベル以上じゃないとだめ、みたいなの」
「アナちゃんのそれもあるかもね、とにかく何か役に立つアイテムがあるかは、探してみるよ」
「お願い、ルージュ」
「それか入り方が悪いのかもしれませんよ。私達は普通に入ろうとしましたよね?」
茶々さんの言う通り、私達は普通に入ろうとした。クローゼットの扉の向こうに。けれど入れないのだ。
ちなみにだが、このゲームのクローゼットは質量保存の法則を無視している。クローゼットを開くと、スマホのアイテムボックスのアイテムを決められた数だけクローゼットに移すことが出来る。
しまえる量はクローゼットによって変わるけど。
「逆立ちして入ってみる?」
ルージュちゃんのその言葉は冗談かと思ったが、顔は本気だった。でも運動音痴な私は逆立ち出来ないんだよね。
マット運動はずっと前転と後転しか出来なかった人間なもので。
ルージュちゃんは逆立ちしたり、変なポーズを決めたり、転がったりと色々していたが、無理そうだった。
「うーん、入り方じゃなさそうですね」
「大人しくアイテムを探してみるよ」
ルージュちゃんは、アイテム探しを始めた。さっき話をしていたクローゼットに入るアイテムを探すらしい。
「やっぱりただのクローゼットなのかしら?」
マロンちゃんは悲しげにクローゼットの方を見つめていた。何かあるような気がするんだけどなあ。
うーん。私はクローゼットをじっと見つめる。見た目はやっぱり普通の白いクローゼットなんだよね。
うーん、表じゃなくて、裏とか下から入れるとか?
そう思って私は色々な方向からアプローチしてみるも、無駄足に終わった。
その間にルージュちゃんが、使えそうなアイテムを探していたが、クローゼットに入れるアイテムなんてなかった。
アイテムかあ。城で手に入れたので、何か使えるのはないだろうか。私は一応、城で手に入れたアイテムを見ることにした。
クローゼットに入れるアイテムはなくても、何かヒントになるものはあるかもしれない。
3人がクローゼットの前で、あーでもないこーでもないと言い合う中、私はアイテムボックスや私のクローゼット、翡翠のクローゼットにセットしたアイテムをガサゴソといじる。
そして探していると、少しヒントになりそうなものを見つけた。
これはクローゼットに入るアイテムというか、物を調査するアイテムだけど。これは多分海賊船で手に入れたアイテムかな? 「小人の虫眼鏡」というアイテムで、アイテムの詳しい情報を調べることが出来る。
アイテムボックスや鑑定眼で知れる情報以上のことを調べられる。大体のアイテムはこれで調べても、アイテムボックスや鑑定眼から知れるのと同じことしか知れないんだけど。たまに、小人の虫眼鏡で見ないと分からない隠れた効果のあるアイテムもあるのだ。
使ってみると、ビンゴだった。このクローゼットの詳しい使い方が分かった。やっぱりこのクローゼットには異界に繋がっているらしく……。そこには異界への行き方が印してあった。
異界へ行くには、異界のものが必要らしい。異界のものを手で持っていないと、向こうの世界にいけないのだとか。逆にこっちの世界には、こっちの世界のものさえあれば帰ってこれる。
「行き方は書いてあったよ」
「本当!?」
マロンちゃんは顔を輝かせる。他の皆も期待を込めた目で私を見つめる。
「ただ、行くには異界のものが必要らしいんだよね」
「異界のもの……ですか?」
「そう。一応アイテムを探してみるけど……。異界のものがあるかどうか」
「私もトレーダーショップを漁ってみる!」
「異界のものがあれば、異界にいけるのね……」
マロンちゃんはただのクローゼットじゃないと分かって、嬉しそうにしていた。
「問題は異界のものだけどね。色々アイテム漁ってみよ。それっぽいの見つけたら、私がこの小人の虫眼鏡で調べるから」
「ほーい。私もトレーダーショップと、海賊船とか城でゲットしたアイテムを見てみるね!」
「私も探してみるわ」
「拙者もです!」
皆対抗するように、異界のものを探し始めた。私も探してみるか、異界のもの。異界のものって、どんなのがあるかは分からないけど。違う世界っぽいものよね。
異界のものはパッと見は分からないけど、これもこの小人の虫眼鏡で調べられる。小人の虫眼鏡ってこんなに便利なものだったんだ、と私は感心していた。
いくつかアイテムを漁っていると、異界のアイテムを何個か見つけた。それはミシェラの森で精霊に貰った宝石だ。この宝石はどこか、神秘的な光を放ってて、他の宝石とは違うと思っていたけど、異界のものだったんだね。
これを持っていたら、クローゼットの中に入れるってことなのかな。でもクローゼットの中ってどうなってるんだろう。少し不安になってきた。
「あったよ、異界のもの。人数分ちゃんと」
私の言葉に、3人は顔を輝かせる。
「さっそく行ってみる? 異界に興味あるわ」
「そうですね。説明を見る感じ、簡単に帰ってこれるのでしょう? 今からいくのもありかと」
「だね」
マロンちゃんと茶々さんが乗り気で、ルージュちゃんも2人に賛成とばかりに頷いたので、私も行くことにする。
「それなら、私も。皆にこの宝石渡すね」
私達は異界の宝石をそれぞれ持つと、クローゼットの前に立つ。私の心は不安と期待が入り交じっていた。クローゼットの向こう側はどうなっているんだろう。
私達はお互いに頷きあって、マロンちゃんがクローゼットのドアを開いた。すると、マロンちゃんはクローゼットの向こう側に吸い込まれていく。私達も後に続く。
クローゼットの奥に身を投げると、体がふわりと舞い上がる。そして強風が吹いたので、思わず目を瞑る。しばらくすると、体に軽い衝撃が伝わったので、目を開くと、私達は花畑にある大きな木の下にいた。
「ここが異界なのかしら?」
「そうだね。異界は花畑かあ。あ、あそこに城が見えるよ」
ルージュちゃんの指さす方向を見ると、大きなファンタジーなお城があった。
この異界を見回すと、一面に花畑が広がっていて、目立つものといったら、あの向こうの城と、私達の傍のおおきな木だけだ。
「多分この木から、向こうの世界に帰れるんでしょうね」
木には人1人が通れそうな穴があるから、そこを潜れば帰れるってことなのかな。
「とりあえずいってみる? あの城まで」
私の言葉に皆は頷く。そして、私達は城へと歩き始めたわけだけど……。
花畑には本当に何もない。人の気配も魔物の気配もない。
ただ美しい花々が咲いているだけの空間だった。ここは一体何なんだろう。
「本当にここは何なんでしょうね、クエストじゃないみたいですし」
「しかもここ、チャット使えないっぽい!」
スマホを眺めていたルージュちゃんが呟く。
「え? そうなの?」
「うん、私達がいた元の世界の人にチャット送れない。こっちの世界にいる私達同士はチャット出来るけど。かといって、トレーダーショップは使えるし。変なの」
こっちの異界と、プレイヤーのいる世界の間で連絡が取れないようだ。ここの神聖な雰囲気というか、なんというか、ただの場所じゃないのかも。
メニューの現在地を見ると、今いる場所の名前が分かるようになっていて、普通に街とか森にいると、何とかの街とか何とかの森というふうに表示されるが、現在地は???となっていた。
ますますこの場所への謎が深まる。
そうこうしているうちに、私達は城へと辿り着いた。




