第17話 第三章・3 鑑定士、姫騎士様を罠にけしかけてみる
突如行方不明になった調査隊。
捜索のため遺跡に入ったリューク達を待っていた「異変」とは――?
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モーナの話によれば、調査隊が消えたのは、彼らが第十五階層へ入って少しした後。持たせておいたリンクジュエルの通信が突如途切れ、以降どんなに呼びかけても応答がないという。
……で、例によってその捜索を、俺に頼みたいというわけだ。
仕方ない。さすがに人命がかかっているかもしれないとなれば、引き受けないわけにはいかないな。
「分かった。まずは第十五階層へ向かって、五人の痕跡を辿ればいいんだな?」
「いえ、六人です」
「誰かおまけがいるのか?」
「はい。この街の冒険者が一人同行していたそうです。確か、ドーリスさんという――」
……あーあ、またやらかしやがったのか。あのパンの兄ちゃん。
俺はやれやれと首を振りながら、さらにモーナに訊ねた。
「で、なぜドーリスが調査隊に?」
「さあ。私は調査隊のバックアップを直接担当しているわけじゃないんで、よく知らないんですけど……。ドーリスさんの方から売り込んだみたいですよ?」
なるほど。Sランクの精鋭パーティーに参加したという実績が欲しかった、ってところか。下らない見栄だ。
「しかし、魔術師なら間に合っているだろ?」
「はい。ですから、鑑定士として」
「ぶっ」
モーナの言った台詞に、思わずロミィが吹いた。
オルタも吹いた。俺も少し吹いた。やれやれだな。
「あいつ、鑑定スキルなんか持ってたのか?」
「《鑑定眼》のアニムを持つ杖とかいうのがショップのワゴンにあったのを、買っていったみたいですね。つまり即席鑑定士です」
なるほど。冒険者が専門外のスキルを覚える方法としては、よくあるパターンだ。
「でも、変な話ですよね。調査隊の皆さんも鑑定士が必要なら、リュークさんに声をかければよかったのに」
「いや、あいつらには、あいつらの理由があるんだろう」
……おそらく、「対抗意識」ってやつだ。俺はそう確信した。
先日の一件で、調査隊と俺達……というかオルタとの間には、間違いなく絆のようなものが生まれた。しかし、もともとは別チーム。純粋な仲間意識に至るよりも、むしろライバルと見なすようになった――。大方そんなところだろうな。
だから調査隊は、あれから俺達とは別行動を取ってきたし、鑑定役にも俺ではなくドーリスを採用した、と。ああ、すべて辻褄が合う。
ちなみに――彼らが突然鑑定士を必要としだしたのは、やはり先日のオールドワームの一件があったからに違いない。メンバーの一人であるグロウが敵の正体を見誤り、深手を負ったのは、やはり痛恨のミスだったってわけだ。
「まあいい。要するに、全部で六人を捜せばいいんだな? で、あいつらの集めた地図情報は?」
「第十四階層までは提出されていたんですけど、十五階層で音信不通になってしまったんで、そこからはまったく……」
「なら、十四階層までの情報をもらっておこう。ロミィ、マッピングボードに地図情報を追加してもらってくれ」
「オッケー……てか、この地図コピーできるの? じゃあ、後続のあたし達がマッピングする必要なくない?」
「そう言うなって。自分で描いたものが一番信頼できるだろ?」
俺は前向きな物言いでロミィを宥めると、ここからの方針を固めた。
――向かう先は、第十五階層。
――捜す人物は、以下のとおり。《狂月の狼》グロウ。《五星の武者》キクノ。《孤高の軍勢》レイラ。《魔導の大要塞》ビヨンド。
そして――《仮面の聖女》ハル。
そう、あれからハルのことを調べてみたら、彼女がそんな二つ名で呼ばれていることが分かった。
名前の由来は簡単だ、ハルの持つ杖のアニムが、《仮面》なのだ。
まあ、俺が直接この目で視ているのだから、そこは間違いない。ただし――問題は、その能力だ。
「仮面」というキーワード。そこから何を連想するべきか。……正直、いろいろな可能性がありすぎて、正解が見えなかったってのが本音だ。
しかも、その「正解」はいまだに見つかっていない。ハルの能力については、彼女の仲間を始めとするごく一部の者だけが知っているようで、巷には一切広まっていなかった。
ちなみに、モーナに訊いても分からなかった。ずいぶんと念入りに伏せられたものだ。
ともあれ、そのハルを入れて五人。……あとついでに《パンを駆る兄ちゃん》だったか。それで六人。
「仕方ない。早く普段の探索に戻るためにも、さっさと済ませちまうか」
俺はそう言って、右の手に手袋を嵌める。出陣の合図だ。
「絶対に、皆さんを助けましょう!」
オルタが力強く頷き、その場をきれいにまとめ、作戦会議はひとまずお開きとなった。
……しかし、その後遺跡に足を踏み入れると同時に、俺達はすぐに気づかされることになった。
何か良からぬ出来事――一言で言い表すなら「異変」が、この瞬間俺達を捕らえ、腹の中に呑み込んだことに。
「……妙だな」
第十二階層の一角。あらかじめ《踏破の印》によって設けておいた中断地点からリスタートした瞬間、俺達は訝しんだ。
「あれ、ここにありましたよね?」
「ああ。だからこの地点に印をつけておいたんだしな」
オルタに頷き、俺は周囲を見渡す。
……廃都。それ自体は変わり映えのない景色に思える。だが――。
「ちょっと違ってるね。街並みが」
ロミィが地図を手に、用心深く告げた。
――確かに。昨日来た時に比べて、建て物の並び方がずれている気がする。それも、区画単位で。
何より、明らかにおかしい点がある。
ないのだ。第十三階層へと続くゲートが。
わざわざその真正面に印をつけておいたというのに、だ。
「誰かが印に悪戯したのでしょうか」
「地面にペンで書いた印を丸ごと移せるならあり得るだろうが、まあ、ないな。……ロミィ、街並みのずれから逆算して、ゲートの位置が割り出せないか?」
「ええと、ちょっと待ってね。ここがボロボロの櫓で、ここから東に三区画だから――ああ、あっちかも」
地図と周囲を交互に睨みながら、ロミィが歩き出す。俺とオルタが後に続く。
……道を何度か折れた先に、果たしてゲートはあった。昨日と何ら変わらない外見のままで。
さて、これが何を意味するのか――。
「オルタ。トラップブレイカーは?」
「はい、準備しています!」
「じゃあそいつを一度閉まってから、あの建て物の扉を開けてみてくれ」
「分かりました!」
特に理由も聞かず、オルタは颯爽と突っ込んでいく。直後――。
ドシャーン!
「うぅ……痛いです」
もはや何度目かも分からない金盥攻撃に悶絶するオルタ。まあ、このお約束はともかく。
「ロミィ。どうだ?」
「……前と変わってるね。トラップの中身が」
ロミィが地図を確かめつつ答えた。……なるほど。そういうことか。
「オルタ。次は、そこから右に二つ行った先の扉を」
「ここですか?」
ドシャーン!
「次は、その真向いの扉を」
ドシャーン!
「よし、次は――」
「あ、あの、リューク? さっきから私、金盥に天誅をいただいてばかりなのですが、これにどんな意味が?」
オルタが頭を手で押さえながら、涙目で訊ねてきた。まあ、当然の反応か。
「じゃああと一回だけ。そっちの建て物の扉だ」
「分かりました。ここですね?」
そう言ってオルタが扉を開けようとする。
その瞬間――俺の「目」は、発動しつつあるトラップの種類を、即座に見抜いた。
「――除!」
叫ぶ。同時に、オルタを狙っていた稲妻が砕け、四方に散り、消え去った。
「……リューク、今のは?」
「雷撃のトラップだ。――心配するな。ヤバそうな罠に引っかかったら、始めからこうするつもりだったさ」
「そ、そうでしたか。さすがリュークです。……あれ? では、金盥をスルーしたのはなぜです?」
「面白かったから、だな」
俺がそう言ってニヤリと笑うと、オルタは顔を真っ赤にして、軽くむくれてみせた。
「うぅ、リュークっ」
「冗談だ。昨日言ってただろ? スキルレベルを上げるって」
「え? ……ああ、それで!」
そう、《罠回避》のスキル発動率を上げるためには、何度もトラップに踏み込んで、経験を積んでいくしかない。その点、金盥は最適というわけだ。
……とは言え、今オルタに特訓をさせたのは、あくまでついで。本題はここからだ。
「さて――ここまでの流れで分かったことがある」
「と、言いますと?」
「今俺があんたに突撃してもらったトラップは、ロミィが持っている地図上では、すべて『武器破壊』となっている。ところが実際には、金盥が三回と雷撃が一回――。こいつはどれも、本来隣の建て物に仕掛けられていたものだ」
「つまり……トラップがずれている?」
「ゲートもね」
ロミィが横から補足した。いや、さらに言えば、建て物の並びだってずれている。
どうやら、単にセーブポイントの位置がおかしいだけでは済まないようだな、これは。
「遺跡が――動いた?」
「その可能性は大いに高いな」
「じゃあ調査隊が行方不明なのは、全員迷子になったってこと?」
「さあ。そいつは断言できないが――」
そもそも、なぜ遺跡の内部構造が変わったのか。ロストミュージアが出現して十三年。これまで、そんな事例は一つとして聞いたことがない。
だとすれば、原因は――?
「……人為的なもの」
「リューク?」
俺の呟きに、オルタとロミィが怪訝な顔を見せる。
俺は軽く思案した後、二人に言った。
「先を急ごう。ただし、充分用心した上でな」
ゲートの先にあった第十三階層は、一転していつもどおりの石造りの通路が伸びる、平凡な構造のフロアだった。
その十三階層に足を踏み入れ、まず手始めに目を凝らした時だ。
「リューク、誰かいるよ!」
ロミィが小さく叫んだ。俺は頷き、紫の右目でそちらを睨む。
……人影だ。通路の向こうから、フラフラと歩いてくるのが分かる。
――「視」。
とっさに相手の感情を読む。
恐怖。それに、混乱。
どうやら、敵ではない。むしろ、助けを求めてさまよっているようだ。
「誰だ?」
俺が声をかけると、人影は一瞬ビクリと身を震わせ――それからすぐにこちらを認識したのだろう。フラフラ、フラフラと、それでも最初よりは足早に、懸命に俺達のもとへ近づいてくる。
やがて距離が縮まるにつれ、人影の正体が露わになった。
ローブをまとい、杖を手にした――魔術師。
「何だ、パンか」
ロミィが面倒臭そうに呟いた。確かに、俺達の前に現れたのは、調査隊にくっついて一緒に行方不明になっていた、ドーリスだ。
「ドーリス、無事でしたか!」
オルタが声をかける。しかし――果たしてこれを無事と言えるのか。
俺は眉をひそめた。ドーリスのローブはすでにボロボロで、顔には擦り傷がいくつもできている。足取りからして、疲労も相当溜まっているようだ。
まさに満身創痍、か。
俺は用心深くやつに歩み寄り、訊ねた。
「おいあんた、いったい何があった?」
「た、助け……て……」
ドーリスの言葉は、そこで途切れた。
ようやく出会えた助けを前にして、緊張の糸が切れたか。彼はその場に崩れ落ち、瞬く間に意識を失う。
だが――どうやら、介抱している余裕はなさそうだ。
「リューク、また誰か来る!」
「ああ、分かっている!」
ロミィの声に頷き、俺は即座に身構える。
通路の向こうを睨む。別の人影が一つ、さらにこちらへ近づいてくるのが見える。
足取りはしっかりしている。そして感情――。
邪悪。殺意。狂気。
……間違いない。やつこそが、ドーリスを襲った犯人だ。
「来るぞ!」
殺意の膨張を目視し、俺が叫ぶ。
同時に、やつが駆けた。
その手に、得物が握られているのが分かる。長く輝く、鋭い刃。
やつはそれを振るい――躊躇なく、斬りつけた。
石の床を。
「五星転換――火!」
聞き覚えのある凛とした声が、通路に響いた。刹那、斬りつけられた床から巨大な炎が生まれ、俺達目がけて襲いかかった。
吹き荒れる。その灼熱の風は――もちろんロミィの魔法壁が、完璧に防いでくれる。
だから、この攻撃そのものは問題じゃない。
……問題なのは、もちろん、やつの正体だ。
「――よお、久しぶりだな」
俺はニヤリと笑い、軽く挨拶してやった。
しかし、この挨拶が届いたかどうかは怪しい。やつの瞳はすでに狂気に陥り、本来の人格は失われてしまっているかのように思える。
「そんな! どうしてあなたが!」
オルタが悲鳴にも似た声で叫んだ。
やつは無視し、改めて俺達に向け、刀を構えた。
――《五星の武者》キクノ。
やれやれ、まさかこんな形で再会しちまうとは……な。
リューク達の前に立ちはだかったのは――まさかのキクノ!
《錬金術》の凶刃に、リュークはどう立ち向かう?
お読みいただきありがとうございました。
本作のメインとなる大事件が、ついにスタートです!
次回の更新は5月17日の18:00を予定しています。




