第18話 第三章・4 鑑定士、《五星の武者》と相見える
突如敵として立ちはだかったSランク冒険者・キクノ。
彼女のレリック「五星刀・輪廻」の猛攻に、リュークはどう立ち向かう?
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「来い、荒ぶる黒鉄――タイラント!」
「五星転換――土!」
俺とキクノの叫びが、遺跡の通路に同時にこだました。
キクノの操る刀、《五星刀・輪廻》が床を刻み、そこから躍り出た無数の石柱が、俺目がけて突っ込んでくる。俺はとっさに左腕に装備した籠手・タイラントで、そのすべてをガードし、砕き割る。
もうもうと砂煙が舞う中、砕かれた無数の柱が通路に山積みになり、さながらバリケードのように、俺とキクノを遮断する。
だがもちろん、これで終わるはずがない。
「ロミィ、通路の向こうに魔法壁を頼む。余計なやつが来ないようにな」
「了解っ」
ロミィが答え、瞬時にして背面の通路が塞がる。これで人払いは完成した。今ここにいるのは、俺とオルタとロミィ。ついでに気絶したドーリスと、正気を失ったキクノ――。
――よし、これなら存分に力を奮える。
俺はニヤリと笑い、身に着けていた《英雄の紋章》を毟り取る。
「オルタ、こいつを預かっといてくれ。それと、その転がってる兄ちゃんが目を覚ましたら、殴ってもう一度気絶させとくように」
「分かりました! ……って頷いていいのでしょうか。とにかく、分かりました!」
「物分かりがよくて助かる。さて――」
仕上げの魔法壁がオルタ達三人を囲ったのを確かめ、俺はタイラントを装着した左腕を構える。刹那、向こうから石柱の破片が一つ、高速で飛んできた。
「五星転換――金!」
キクノの叫びが響いた。これにより、彼女が刀で打ち射出した石は、瞬く間に鋭い鉄片と化して、俺を襲う。
こいつを体に食らえば、弾丸に貫かれるも同然――。だがあいにく俺のタイラントは、その程度のものであれば、どうということはない。
「なるほど、試してるってわけか」
飛んできた鉄片を左腕で弾きながら、俺は呟いた。
キクノの状況が――彼女がどの程度正気を失い、これまでの人格と記憶を留めているのかは分からない。だが少なくともあいつにとって、俺がタイラントを振るう姿は完全に初見。したがって、攻めるためには、俺の力を見極める必要がある。
そこで、火、石、鉄と、順に試してきた。いずれも相手に、直接的にダメージを与えることが可能な物質だ。
さて、そのどれをも防がれたとなると――次にあいつが仕掛ける方法は、おそらくただ一つ。ただしそこに至る過程は二パターン。
搦め手の「木」を間に挟むか、それとも――。
「五星転換――水!」
「ほお、一気に来たか」
大方予想はついていた。俺が身構えると同時に、バリケードとなっていた石柱すべてが水と化し、床に飛散する。
だがもちろん、これ自体は何の攻撃でもない。
肝心なのは――これにより、俺とキクノを遮断していた障害物が消滅した、という事実だ。
ここから彼女がどう動くか。そんなこと、決まっている。
「――いざ!」
叫び、キクノは駆けた。
五星刀・輪廻の鋭い刃を、俺に向けて。
……そう、直接攻撃だ。
濡れた床に飛沫を跳ね上げ、女武士の体が疾風の如く迫る。もし障害物を除去する前に「木」を使用していれば、まず俺の足を封じ、それから刀で斬りかかるという手も取れただろうが――やつはあくまで、真っ向勝負を選んだ。
正気を失っても、正々堂々か。正直、嫌いじゃない。
俺はほくそ笑み――しかし身を翻し、まずは刀の一撃を大きく躱す。
狙いの逸れた刃が空を斬る。さすがに、空気を変質させることまではできないようだ。
――五星転換の対象は無機物のみ、か。
以前手に入れた情報を頭の中で反芻しつつ、キクノとすれ違うようにして、彼女の背後を取る。だがもちろん、ここで簡単に一撃を入れさせてくれるほど、甘い相手じゃないことは分かっている。
キクノは瞬時に振り返り、同時に刀で、俺の立つ位置を薙いだ。
キーン! と鋼同士が共鳴する。
やつの繰り出した刃は、俺のタイラントによって、きっちりと受け止められている。
だが――。
「おっと」
小さく声に出し、俺は急いで後退した。
キクノの刀が持つ能力――。それを踏まえれば、今のガードは決して最善ではなかった。
確かに頑強なタイラントの表面は、一切ダメージを受けていない。しかしそれは、俺がすかさず後ろに下がり、密着していたやつの刃からタイラントを離したからだ。
「ちっ」
キクノが小さく舌打ちする。
彼女が狙ったのは、おそらく、五星転換――「火」、あるいは「水」。このどちらかが行使されれば、俺のタイラントは、刃の触れた部分から火、あるいは水へと変質し、事実上破壊される。
――強制的な装備破壊。キクノと切り結んだが最後、それは丸腰にされるに等しい。
かと言って、生身で刀の一撃を食らえば、当然命取りになる。
さて、こんなチートな女武士を、俺はどう攻略するか。
「と、その前に、視るところは視させてもらおうか」
――「視」。
俺は視線を巡らせ、瞬時にしてキクノの全身を「鑑定」する。
いったい何が、彼女の心を蝕んでいるのか。……答えは、すぐに出た。
「なるほど。――その指輪か」
キクノが左手の人差し指に嵌めている、黄金の小さな指輪。前回会った時にはなかったアクセサリーだ。
この遺跡から出土したレリックなのは、間違いない。ただ、そのアニムは――。
「……あんた、ずいぶんと厄介なものを手に入れたな」
俺は顔にやや緊張を浮かべ、キクノに言った。
答えは返ってくるはずもなく、彼女はただ無言で、次の一太刀を振るう。
避ける。刃が空を薙ぐ。続いて次の攻撃が迫る。
しかし――もう充分だ。原因も分かったことだし、そろそろ防戦は終わりにしよう。
俺は後退する素振りをしつつ、頭の中で素早く作戦をまとめる。
……やり方はいくつかある。一番簡単なのは、刀のアニムである《錬金術》を100パーセント近くまで引き出し、刀としての原形を崩壊させてしまうという方法だが――問題は、この抽象的なアニムが剥き出しになった時、どのように作用するかだ。
錬金術は、物質を他の物質に転換させる術。最悪、今いる通路が錬金術の効果で変異し、炎や水と化して俺達を呑み込む……という可能性もゼロじゃない。いや、割とあるパターンだと思う。したがって、この作戦は無しだ。
ではもっと単純に、遠距離攻撃を仕掛けるというのはどうか。
キクノは接近戦でこそ猛威を振るうが、遠距離攻撃に対抗する手段をあまり持たない。せいぜい石の床を刻み、そこから何かを生み出して防ぐのみ。だから俺が大きく距離を取って、そこから何らかの遠距離攻撃を仕掛ければ、攻守の形成を逆転させることはできる。
……しかし結論から言えば、そいつはただの「無駄」だ。
形勢を逆転させるという行為は、そこからさらに次の段階――「とどめ」へ移行するための準備に過ぎない。ならば、そんなステップを挟む必要はない。
準備はいらない、今すぐ彼女を制圧する方法は、ある。
――キクノの刀の強みは二つ。純粋に武器としての殺傷力。そしてガードされた場合は対象物を破壊してしまうという、錬金術効果。
つまり、この二つを同時に防いでやれば、キクノは手も足も出なくなる。
俺は――ニヤリと笑い、その案を採用した。
「散れっ!」
キクノが叫び、刀を振るった。
これに対する俺の動きは、至極単純だ。
左腕を斜めに構える。刃が甲に当たり、鋼の小気味よい共鳴が響く。
……そう、俺が取った行動とは、ガードだ。
もちろんこの手段は、相手にタイラントを破壊させるチャンスを与えてしまう。だが――すでに俺の方針は固まっている。
ああ、この瞬間、迷いなく行使させてもらうさ。
鑑定魔術を、な。
「五星転換――」
「開!」
キクノの叫びよりも俺の「開」が、わずかばかり早かった。
この時点で――勝負はついた。
リュークが狙うキクノ攻略の秘策とは?
しかし、事件はまだ序章に過ぎない――。
お読みいただきありがとうございました。
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