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第18話 第三章・4 鑑定士、《五星の武者》と相見える

突如敵として立ちはだかったSランク冒険者・キクノ。

彼女のレリック「五星刀・輪廻」の猛攻に、リュークはどう立ち向かう?


次回の更新は5月19日の18:00を予定しています。

「来い、荒ぶる黒鉄くろがね――タイラント!」

「五星転換――!」

 俺とキクノの叫びが、遺跡の通路に同時にこだました。

 キクノの操る刀、《五星刀・輪廻》が床を刻み、そこから躍り出た無数の石柱が、俺目がけて突っ込んでくる。俺はとっさに左腕に装備した籠手ガントレット・タイラントで、そのすべてをガードし、砕き割る。

 もうもうと砂煙が舞う中、砕かれた無数の柱が通路に山積みになり、さながらバリケードのように、俺とキクノを遮断する。

 だがもちろん、これで終わるはずがない。

「ロミィ、通路の向こうに魔法壁を頼む。()()()()()が来ないようにな」

「了解っ」

 ロミィが答え、瞬時にして背面の通路が塞がる。これで人払いは完成した。今ここにいるのは、俺とオルタとロミィ。ついでに気絶したドーリスと、正気を失ったキクノ――。

 ――よし、これなら存分に力を奮える。

 俺はニヤリと笑い、身に着けていた《英雄の紋章》を(むし)り取る。

「オルタ、こいつを預かっといてくれ。それと、その転がってる兄ちゃんが目を覚ましたら、殴ってもう一度気絶させとくように」

「分かりました! ……って頷いていいのでしょうか。とにかく、分かりました!」

「物分かりがよくて助かる。さて――」

 仕上げの魔法壁がオルタ達三人を囲ったのを確かめ、俺はタイラントを装着した左腕を構える。刹那、向こうから石柱の破片が一つ、高速で飛んできた。

「五星転換――ごん!」

 キクノの叫びが響いた。これにより、彼女が刀で打ち射出した石は、瞬く間に鋭い鉄片と化して、俺を襲う。

 こいつを体に食らえば、弾丸に貫かれるも同然――。だがあいにく俺のタイラントは、()()()()のものであれば、どうということはない。

「なるほど、()()()()ってわけか」

 飛んできた鉄片を左腕で弾きながら、俺は呟いた。

 キクノの状況が――彼女がどの程度正気を失い、これまでの人格と記憶を留めているのかは分からない。だが少なくともあいつにとって、俺がタイラントを振るう姿は完全に初見。したがって、攻めるためには、俺の力を見極める必要がある。

 そこで、火、石、鉄と、順に試してきた。いずれも相手に、直接的にダメージを与えることが可能な物質だ。

 さて、そのどれをも防がれたとなると――次にあいつが仕掛ける方法は、おそらくただ一つ。ただしそこに至る過程は二パターン。

 搦め手の「もく」を間に挟むか、それとも――。

「五星転換――すい!」

「ほお、一気に来たか」

 大方予想はついていた。俺が身構えると同時に、バリケードとなっていた石柱すべてが水と化し、床に飛散する。

 だがもちろん、これ自体は何の攻撃でもない。

 肝心なのは――これにより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という事実だ。

 ここから彼女がどう動くか。そんなこと、決まっている。

「――いざ!」

 叫び、キクノは駆けた。

 五星刀・輪廻の鋭いやいばを、俺に向けて。

 ……そう、()()()()だ。

 濡れた床に飛沫(しぶき)を跳ね上げ、女武士の体が疾風の如く迫る。もし障害物を除去する前に「木」を使用していれば、まず俺の足を封じ、それから刀で斬りかかるという手も取れただろうが――やつはあくまで、真っ向勝負を選んだ。

 正気を失っても、正々堂々か。正直、嫌いじゃない。

 俺はほくそ笑み――しかし身を翻し、まずは刀の一撃を大きく躱す。

 狙いの逸れた刃が(くう)を斬る。さすがに、空気を変質させることまではできないようだ。

 ――五星転換の対象は無機物のみ、か。

 以前手に入れた情報を頭の中で反芻(はんすう)しつつ、キクノとすれ違うようにして、彼女の背後を取る。だがもちろん、ここで簡単に一撃を入れさせてくれるほど、甘い相手じゃないことは分かっている。

 キクノは瞬時に振り返り、同時に刀で、俺の立つ位置を薙いだ。

 キーン! と鋼同士が共鳴する。

 やつの繰り出した刃は、俺のタイラントによって、きっちりと受け止められている。

 だが――。

「おっと」

 小さく声に出し、俺は急いで後退した。

 キクノの刀が持つ能力――。それを踏まえれば、今のガードは決して最善ではなかった。

 確かに頑強なタイラントの表面は、一切ダメージを受けていない。しかしそれは、俺がすかさず後ろに下がり、密着していたやつの刃からタイラントを離したからだ。

「ちっ」

 キクノが小さく舌打ちする。

 彼女が狙ったのは、おそらく、五星転換――「」、あるいは「すい」。このどちらかが行使されれば、俺のタイラントは、刃の触れた部分から火、あるいは水へと変質し、事実上破壊される。

 ――強制的な装備破壊。キクノと切り結んだが最後、それは丸腰にされるに等しい。

 かと言って、生身で刀の一撃を食らえば、当然命取りになる。

 さて、こんなチートな女武士を、俺はどう攻略するか。

「と、その前に、視るところは視させてもらおうか」

 ――「サーチ」。

 俺は視線を巡らせ、瞬時にしてキクノの全身を「鑑定」する。

 いったい何が、彼女の心を蝕んでいるのか。……答えは、すぐに出た。

「なるほど。――()()()()か」

 キクノが左手の人差し指に嵌めている、黄金の小さな指輪。前回会った時にはなかったアクセサリーだ。

 この遺跡から出土したレリックなのは、間違いない。ただ、そのアニムは――。

「……あんた、ずいぶんと()()()()()を手に入れたな」

 俺は顔にやや緊張を浮かべ、キクノに言った。

 答えは返ってくるはずもなく、彼女はただ無言で、次の一太刀を振るう。

 避ける。刃が空を薙ぐ。続いて次の攻撃が迫る。

 しかし――もう充分だ。原因も分かったことだし、そろそろ防戦は終わりにしよう。

 俺は後退する素振りをしつつ、頭の中で素早く作戦をまとめる。


 ……やり方はいくつかある。一番簡単なのは、刀のアニムである《錬金術》を100パーセント近くまで引き出し、刀としての原形を崩壊させてしまうという方法だが――問題は、この抽象的なアニムが剥き出しになった時、どのように作用するかだ。

 錬金術は、物質を他の物質に転換させる術。最悪、今いる通路が錬金術の効果で変異し、炎や水と化して俺達を呑み込む……という可能性もゼロじゃない。いや、割とあるパターンだと思う。したがって、この作戦は無しだ。

 ではもっと単純に、遠距離攻撃を仕掛けるというのはどうか。

 キクノは接近戦でこそ猛威を振るうが、遠距離攻撃に対抗する手段をあまり持たない。せいぜい石の床を刻み、そこから何かを生み出して防ぐのみ。だから俺が大きく距離を取って、そこから何らかの遠距離攻撃を仕掛ければ、攻守の形成を逆転させることはできる。

 ……しかし結論から言えば、そいつはただの「無駄」だ。

 形勢を逆転させるという行為は、そこからさらに次の段階――「とどめ」へ移行するための準備に過ぎない。ならば、そんなステップを挟む必要はない。

 準備はいらない、今すぐ彼女を制圧する方法は、()()

 ――キクノの刀の強みは二つ。純粋に武器としての殺傷力。そしてガードされた場合は対象物を破壊してしまうという、錬金術効果。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()、キクノは手も足も出なくなる。

 俺は――ニヤリと笑い、()()()を採用した。


「散れっ!」

 キクノが叫び、刀を振るった。

 これに対する俺の動きは、至極単純だ。

 左腕を斜めに構える。刃が甲に当たり、鋼の小気味よい共鳴が響く。

 ……そう、俺が取った行動とは、()()()だ。

 もちろんこの手段は、相手にタイラントを破壊させるチャンスを与えてしまう。だが――すでに俺の方針は固まっている。

 ああ、この瞬間、迷いなく行使させてもらうさ。

 鑑定魔術を、な。


「五星転換――」

オープン!」

 キクノの叫びよりも俺の「オープン」が、わずかばかり早かった。

 この時点で――勝負はついた。

リュークが狙うキクノ攻略の秘策とは?

しかし、事件はまだ序章に過ぎない――。


お読みいただきありがとうございました。

次回の更新は5月19日の18:00を予定しています。

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