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第16話 第三章・2 鑑定士、《魔眼の騎士王》と対面する

横暴なSランク騎士・エルマンに目をつけられたオルタ。

リュークがエルマンに仕掛ける、ちょっとした反撃とは?


次回の更新は5月15日の18:00を予定しています。

 エルマンは恭しく――しかし内面はあくまで尊大なまま、オルタに深く一礼をした。

「お目にかかれて光栄です、オルタ様。……いや、《大賢者のオルタ》様とお呼びした方がよろしいですかな?」

「その呼び方はしないでくださいっ」

 服装は変わってもいつもと同じ調子で、オルタが返す。エルマンは彼女の反応に怪訝な素振りを見せながらも――まさか、あの二つ名を呼んで喜ばれると思ったのか――特に調子を崩すことなく言葉を続けた。

「私はエルマン・レインガルト。すでにモーナ殿から紹介が行っているとは思いますが、私もオルタ様と同じ、冒険者です。ランクはS。職業クラスは騎士。レベルは、かれこれ400を超え――」

 そこからは、自慢に満ちた自己紹介と社交辞令がしばらく続く。大して面白い内容でもないので省くが――。そうだな、簡単に言えば、このエルマンという男は、常に自分の大きさをアピールしたがっているってことだ。鬱陶(うっとう)しいほどにな。

 ランク。クラス。レベル。どれも口にする時、感情に力が籠っていた。

 ちなみに「騎士」ってのは、剣士の上位職だ。剣士がランクアップした際に選択できる、より専門的な分野に特化した上位職――。その一つが、オールマイティかつ優れた戦闘力を持った「騎士」というわけだ。

 他にも、特定のタイプの敵との戦いに特化した「竜殺しドラゴンキラー」や、守りと(から)め手を捨てて攻撃に特化した「狂戦士バーサーカー」なんかが、剣士の上位職に当たる。

 ……話を元に戻す。要するにエルマンは今の会話の中で、自分がオルタよりも格上なのだということを、散々アピールした――。そういうことだ。

「いけ好かないなぁ」

 俺の頭の上で、ロミィがぼそりと囁いた。俺は苦笑し、覗き見を続ける。

 さて、その()()()()()()()騎士様が、いったいオルタに何の用か――。

「素晴らしいご活躍ですね。そのような素晴らしい冒険者に、我が国にお越しいただけるとは。父に代わってお礼を申し上げます」

 ……これはオルタの社交辞令だ。エルマンは、満更でもないようだがな。

「いやいや、オルタ様こそ、冒険者になられたばかりだというのに、ずいぶんとご活躍である、とのこと」

「お恥ずかしい限りです」

「謙遜なさる必要はございません。私は――オルタ様、あなたのお噂を耳にして、あなたに興味が湧いたのです」

 ニヤリ、とエルマンがほくそ笑んだ。

 ……なるほど。()()()()()()()()

 俺は馬鹿馬鹿しく思い、小さく嘆息した。……いや、ある意味予想どおり、か。

「――オルタ様、私と組んでいただきたい」

 そんな、何の面白みもない言葉を――エルマンは一切の臆面もなく、ただひたすら慇懃(いんぎん)無礼に、オルタにぶつけたのだった。


「あなたは素晴らしい。王家を継ぐに相応しい高潔さと、女性としての美しさを兼ね備え、しかも冒険者としての成長も著しい。あなたをぜひ、我がパートナーに――」

「お断りいたします」

 あっさりと、オルタは即答した。まあ、そうだろうな。

「……は? オルタ様?」

 エルマンが、軽く戸惑いの表情を見せる。まさか断られるとは思ってもいなかった、といったところか。

 しかし、その点オルタは固かった。何しろ、オルタだからな。

「お断りする、と申し上げました。私にはすでに、冒険者としてのパートナーがいます。そういうお誘いでしたら、お受けするわけには行きません」

「……なるほど。確かにあなたには、仲間が一人いるようですな」

 いささか声をささくれ立たせ、エルマンが切り返す。

 これまでのへりくだった態度に亀裂が走る。その亀裂からじわじわと、内面が滲み出る――。

 こういった手合いは、自分の思いどおりに事が進まなかった場合、二つのパターンを見せる。一つは、口が止まり何も言えなくなってしまうパターン。もう一つは、やたらと攻撃的になり我を通そうとするパターンだ。

 エルマンがそのどちらに当たるかは――もはや言うまでもないだろう。

「失礼ながら、オルタ様」

 口調が一転する。やつは、厚かましくも攻勢に入った。

「あなたがリーダーをお勤めになっている《リムルフの栄光》のメンバーについて、調べさせていただきました。確か――リューク、という男でしたな」

「はい。リュークです。私のパートナーです」

「ふむ。フルネームが不詳のパートナー、ですか」

「…………」

 オルタが表情を微かに曇らせた。確かに――俺のフルネームは、どこで調べても()()()()()()()()()だろう。オルタにもまだ、きちんと名乗ってはいない。

 エルマンはほくそ笑み、言葉を繋げる。

「ランクはE。レベルは1。クラスは、鑑定士――。ふん、正直この男がパートナーだと言われても、ピンと来ませんな」

「実際に会ったことのない相手を悪く言うのは、感心できませんね」

「これはごもっとも。……と言いたいところですが、オルタ様。あなたは――()()()()()()が何で決まるか、ご存知ですかな?」

 その問いに、オルタが迷うはずがない。自ら冒険者となったことで、答えはすでに見つけているからだ。

「心の強さである――と理解しています」

 そう。オルタの場合、こう答える。

 ……だがエルマンの考えは、それとはまったく違っていた。

「――()()()()ですよ」

 彼は断言した。容赦なく。

「どれほど強力なレリックを所持しているか――。冒険者の価値は、そこで決まる。いや、冒険者のみならず、この世界に生きる者すべての価値は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っても過言ではない。――さて、そのリュークという男が所持しているレリックについて。これも、調べさせていただきました」

「……そんなことが、分かるのですか」

「これでもマスターの上層部には顔が効きますのでな」

 エルマンは豪語した。ハッタリではなく、事実だろう。そうでもなければ、一冒険者が「マスターの局員を仲介してアポなしで王族に会う」という行動を取れるはずがない。

 実際、マスターのアーカイブには、レリックの現在の所持者が細かく登録されている。もっともこの情報は、冒険者も含めて、一般の者には完全に非公開のはず――。

 そう、つまりエルマンの持つ「権力」は、本物ってわけだ。

「リュークという男の所持しているレリック――。収納庫になる手袋グローブに、目の代わりになるダガー。それと、頑丈な籠手ガントレット、でしたな。他にも、ゴミ同然の代物がいくらかあるようですが――ふん、良くてアーティファクト止まりの二級品ばかりではないですか」

 ははっ、とわざとらしく、エルマンは笑い飛ばした。それを聞くオルタの表情が、すでに怒りを帯びてきていることも、承知の上でだろう。

「そのようなガラクタしか持たない男とパートナーを組んだところで、将来性は皆無。ところで――オルタ様」

「……何ですか?」

「あなたは、ご覧になったことは、ありますかな?」

「……何をです?」

レジェンド(Sランク)クラスのレリックを、ですよ」

 そんな言葉とともに、自己愛と尊大さが混ざった歪んだ笑みを、ニンマリと浮かべ――。

 エルマンが、一歩前に踏み出した時だった。

 扉が――俺達の覗いていた扉が、謁見の間に向かって、バン! と盛大に開かれたのは。


 ……いや、断っておくが、俺が開いたわけじゃない。そもそもこういう時暴走するやつは、一人しかいないしな。

「エルマン様! ちょっとさっきから聞いていたら何ですかあなた! リュークさんのことを! リュークさんのことをっ! リュークさんのことをっっ! よくもまあケチョンケチョンのスットコドッコイにっ!」

「……これはこれはモーナ殿。立ち聞きとは趣味が悪い」

 エルマンがドン引きした様子でこちらを振り返る。俺は、勝手に飛び出したモーナの陰で、密かに溜め息をついた。その溜め息をロミィが真似するところまで、ちょっとした様式美……ってことで勘弁してもらおうか。

「趣味が悪くて結構です! この私の前でリュークさんの悪口を言ったからには、千年後悔しても足りないほどのエルフの呪いでヒィヒィ言わせ――むぐっ?」

 放っておいても面倒が増すだけだ。俺はモーナの口を押さえ、そのまま彼女の身柄をロミィにパスすると、代わって一歩前に出た。

 もっとも、ここでエルマンと「睨み合う」つもりはない。視線は玉座に向け、オルタに軽く手を振ってやる。

「リューク!」

「……リューク? ほお、貴様がリュークか」

 エルマンが小馬鹿にした調子で俺を呼ぶ。俺は敢えてそちらは見ないまま、横顔に愛想笑いを浮かべてみせた。

 ――まずは、へりくだってみせる。ほどほどにな。

「いや失礼しました、エルマンさん。確かに立ち聞きしていたのは悪趣味ですが、乱入するつもりはなかったんです。それをこのモーナが、ついカッとなってしまったようで」

「……そのようだな。モーナ殿はずいぶん貴様にご執心と見えた」

「すみません。後でよく言って聞かせとくんで」

「ふん、貴様のような小者に、マスターの局員が熱を上げる理由がさっぱりだが――。まあ構わん。さっさと行け」

「はい。それでは、どうぞごゆっくり――」

 視線は逸らせたまま、俺は頭を下げる。

 ――へりくだるのは、これぐらいでいいだろう。せっかく乱入したんだ。()()()()()()は、やっておかないとな。

 俺は心の中でほくそ笑み――こう続けた。

「ところで、今『ごゆっくり』とは申し上げましたがね。オルタ様もお忙しい身。できれば、早く()()に入っていただきたいものです」

「……本題?」

 エルマンが訝しげに繰り返す。俺はやつに横顔を向けたまま、小さく頷く。

「ええ、本題です。エルマンさんはさっきから、そいつをなかなかお話しなさらない」

「……おかしな男だな。それならすでに話したではないか。オルタ様に、私と組んでいただきたい――。これが本題だ。もっともオルタ様は、お気に召さぬようだがな」

「いや、そこは本題じゃないはずでしょう? なぜなら、エルマンさんの目的は――」

 ……そう、こいつの本当の目的は、オルタと組むことなんかじゃない。

 立ち聞きしていて、すぐに分かった。答えは、「やつの価値観」そのものだ。

 エルマンが、この世で唯一、価値を見出しているもの。即ち――()()()()

「エルマンさんの目的は――オルタのペンダント。つまり《()()()()()》。ですよね?」

 俺がそう口にした刹那。

 エルマンの感情が、一気に変わった。

 ――驚愕。動揺。苛立ち。

「……貴様、何を根拠に」

「あれ、違ってましたか? でもエルマンさんって、とにかく()()()()()()()()()()んですよね? 冒険者の価値はレリックで決まるんでしょう? だったらオルタ様に近づいた理由も、それ以外にあり得ないな、と思って」

「……黙れ」

「大方マスターの上層部()からレアレリックの情報を集めていて、オルタ様のことを知ったんでしょうね。なら当然、ペンダントを《賢者の鍵》として扱えるのがオルタ様だけだってことも分かったはず。――だからオルタ様にパートナーの話を持ちかけた」

「……黙れと言っている!」

「もちろん、パートナーに誘った理由は他にもあります。そうですね、そいつを一言で表すなら――スケベ心、ですか?」

「黙れ黙れ黙れっ!」

 刹那――叫びと同時に、エルマンが動いた。

 やつが俺の前に回り込むのが分かった。

 もちろん――そこまで俺の予想どおりだ。だから、ここで俺がどう動くかは、すでに決めてあった。

「――おっと」

 そう言って、俺は右手を軽く揚げた。

 その右手で――サッと()()()

 やつの、顔の左側を飾る、()()を。

「……ぐっ?」

「ああすみません。とっさに手が出てしまって――。でも、ただ軽く押さえただけですからね。痛くも痒くもないでしょ?」

 俺は軽く笑い、エルマンを、今度こそ真正面から見つめてやった。

 エルマンの引き攣った顔が、俺を睨み返した。

 ……どうやら、俺の手を振り解くことも忘れるぐらい、ショックだったようだな。

 こいつを――この()()()()()()()を読まれ、防がれたことが。

「姫様の御前ですよ? こんな物騒なものは、外しておいてください」

 俺はそう言いながら、軽く指を動かす。すぐに眼帯が剥がれ、ポトリと床の上に虚しく落ちた。

 あとには、やつの間の抜けた顔だけが残されている。

 ……顔の左側に、「隠さなければならないもの」は、何一つない。この眼帯は、あくまで装備品として着けていただけのようだ。

 一見、ただの眼帯。しかし本質アニムは――《邪眼》。

 ひとたび目が合えば、相手に苦痛を与え、命さえ奪う力を発揮する、か。……やれやれ、こいつがあれば、どんな「敵」も倒したい放題。蹴落としたい放題。そりゃSランクの名だろうが「権力」だろうが、簡単に手に入るだろうさ。

「き、貴様――」

「リュークです」

「……リューク。貴様が初めてだ。私の邪眼を防いだのは……」

「とっさに手を出したら、たまたま防いでしまった――。それだけですよ。でもまあ、光栄です」

「……ふっ、しかし邪眼だと分かった上での行動だったのだろう? いささか知れ渡りすぎていたかな。私の力は」

「いや、エルマンさん。あなたの力は、ついさっきあなたを見て知ったばかりです」

「……私を見て、だと?」

「あれ、忘れたんですか? 俺が『何』なのか」

 そして――俺は口の端をニィッと吊り上げ、言ってやった。

「――鑑定士、ですよ」


 その後、エルマンは眼帯をポケットにしまい、そそくさと帰っていった。

 もっとも、「覚えていろ」という捨て台詞を小さく残して、だが。

 ……やれやれ、どうしてこう、いつもおかしな連中にばかり突っかかられるんだろうな、俺は。

「リューク、ありがとうございました!」

 オルタが笑顔で例を言う。まあ、何となく成り行きで助ける形になっただけなんだが……良しとするか。

 俺が肩を竦め、適当な相槌を打った時だった。

 エルマンを見送りに外へ出ていったはずのモーナが、大慌てで戻ってきた。

「た、た、た、大変です、リュークさん!」

「どうした? エルマンが実は女だったか?」

「……え、そうなんですか?」

「まさか。で、何があった?」

「ちょ、変なこと言わないでください! 本気にしかけたじゃないですか! いや、それより大変なんですリュークさん! 今マスターの支局から連絡があって――」


 その後、俺達三人は、すぐに遺跡へ向かわされる羽目になった。

 モーナが血相を変えて伝えてきたトラブル。そいつを解決するために。

「――先日の調査隊が、遺跡の中で行方不明なんです!」

 そう、どうやらこれが、今回俺に托された面倒事のようだ。


 ……とは言え、実はこの「面倒事」が、とんでもない戦いの幕開けだったってのは――さすがに想定外だったがな。

どうやら、またもピンチに陥ったらしき調査隊。

いったい遺跡で何が起きたのか――?


お読みいただきありがとうございました。

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