第四幕【気紛れな死神】
『気紛れな死神』
いつからだろう、そんなアダ名がついたのは。
僕はただ、自分が生きる分の為として裏社会に手を染めたというのに。
まぁそんな事はどうでもいい。
今重要なのは、
現在が愉しいかどうかだ。
「いやぁーいい天気だ。コレはお昼寝にもってこいだねぇ〜♪」
男は大きな独り言を呟いていた。
他人から注がれる視線を全く気にせずに。
「ン〜♪さて、僕はそろそろ『お嬢』に逢いに行こうかな♪」
…金髪の髪、全知全能の眼をした彼女にね……。
男は不気味な笑みを浮かべ、何処かへ掻き消えた。
「…ふふっ、くすぐったいわ、破善笯。」
「…………動くなよ、亜美羅の為にやってあげてるんだから。」
「はい、ありがとうございます。」
亜美羅がニコリと微笑むと破善笯は嬉しそうに顔を赤く染めた。
亜美羅は今、破善笯に包帯を巻いてもらっているところだった。意外にも、破善笯は手先が器用で、包帯もきっちり巻いてくれている。
春緋は破善笯の逆で、今頃春緋が包帯を巻いてくれていたら恐らく亜美羅は窒息死していた事だろう。それぐらい不器用なのだ。
「……破善笯、春緋とは仲良くしている?喧嘩しちゃ駄目よ?世界にたった一人の妹なんだから。」
「…あぁ、分かってるよ。でも、俺は亜美羅の為なら死んでも構わないと思ってい「だーめ。生命は大切よ。人生は一度きりなんだから。今度そんな事言ったら、……。」……分かってるよ。気をつける。」
亜美羅は嬉しそうに笑う。
破善笯が間を空けて、こんな事を口にする。
「………なぁ。」
「なぁに、今更改まっちゃって。」
「………亜美羅はさ、どう思う?」
「…主語は?」
ストレートに聞く亜美羅。
「…ッ、だから、さ、……すき、な、人とか……い、っ、いっ、いるのか?」
「…へ?」
キョトンとする亜美羅。すかさず破善笯が言葉を紡ぐ。
「……好きな人、亜美羅にはいるのか?」
「えぇ、私はあなた達が大好きよ?死んでも離さないわ。」
即答する亜美羅。
「……………。」
その場に立ち尽くす破善笯。
「破善笯?」
………。そうか。そうだったのか。
亜美羅は俺に何かを隠している。
途轍もなく、大好きで、愛して止まない、それはまさしく狂気。
俺の中に嫉妬という名の狂気が疼いている。
ーーーーーーーーーーー誰だよ。
亜美羅に近づくゴミ共は、俺が粛清する。
…………誰にも、亜美羅は渡さない。
亜美羅は俺の『者』だから。
その時、破善笯の心の中には一つの感情が芽生えた。
……………………………狂深愛。
「…破………笯……………善……。破善……………善……………破善笯、
破善笯?」
「……!」
ハッと我に帰る破善笯。どうかしていたみたいだ。亜美羅が俺を呼んでいたというのに、全然気が付かなかった自分を殺したい。
「……、外に出てくる。少しは寝ろよ、体力戻すために。」
「……分かってるわ、ありがとう。春緋にあったら宜しくね。」
(チッ)「分かった、可愛い可愛い妹に会ったら伝えておくよ。」
手をヒラヒラさせて外に出る破善笯。
其れを笑顔で見送る亜美羅。
そこに、一人の黒い影を纏った男が突如、現れた。
「………貴方は………。」
「…やぁ、お嬢♪元気そうで何よりだねぇ〜♪」
亜美羅は怪我をしているのにもかかわらず、素早い身のこなしで男の背後に回り込み、ナイフを突き付ける。
「……『気紛れな死神』…。」
「やだなぁ、僕はただの人間さ、君が怪我したって聞いて、飛んで来たのさ♪」
不気味な笑みを浮かべる男。その笑みは悪意さえ感じられる程だ。
「結構な死神ですね……。確かに気紛れだ……。」
亜美羅はナイフを握る手に更に力を込める。
「……怖い女になったねぇ、お嬢。昔はあんなに可愛いかったのに。」
亜美羅の眉間にシワが寄る。
「……過去は捨てました。用件はなんでしょう。無いのなら……今すぐ立ち去ってください。」
「……だーからさ?さっきから言ってるじゃない。お嬢が心配で見に来たってさ♪」
男の紅い眼がさらに紅く染まる。
「……でも、別の目的とすれば…。」
「……。」
「この病院ごと、君を葬り去る事かな?♪」
そう言うと、亜美羅が握り締めていたナイフを片手で掴む。
男の手からは鮮血が流れ、滴り落ちる。
「……⁉︎」
「僕の身体の異常……知ってるよね?………亜美羅ちゃん。」
マズイ。
そう思った時には遅かった。
男の背後からは黒い影が伸びていて、その黒い影が、私の視界を奪った。
「…ぅあぁぁぁぁあぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「……ん〜♪この黄色い声、サイコーだねぇ♪聞いててゾクゾクするなぁ〜♪」
「ぅあぁ……ッ‼︎」
痛みが酷くなっていく。眼をやられたのだろうか。刺激が強すぎる。
「いずれその傷は治るよ、大丈夫、影だし♪……と言うよりも、僕は帰るよ。……飽きちゃった♪」
そう言うと男は踵を返す。
「あ、そうそう。坊ちゃん…破善笯…だっけ?坊ちゃんはちゃんとみといてあげなよ?」
「破善笯を……?」
「坊ちゃん…、狂鬼みたいだから♪」
「狂鬼……?それって……?」
黒影の匂いがキツくなる。
「つまり」
「つ……ま、り……?」
意識が消えていく………。狂鬼とは
一体何なんだ…………。
「狂鬼…。狂った鬼さ?」
私は意識を失った。
ただ耳に聞こえてきたのは男の笑い声だけだった。




