↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
株クラTPG外伝 『小さな女王と、思い出の欠片』  作者: 未知(いまだ・とも)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/6

第2話「タイピングバトル!」

ねむぱんに手を引かれ、あなたは草原の中を走っていた。


少し先を走るねむぱんのしっぽは、ぴょこぴょこと楽しそうに揺れている。


「ねむぱんちゃん、そんなに急いだら危ないよ!」


後ろから、みっちゃんの声が聞こえた。


「大丈夫、大丈夫! ほら、もう見えてきたよ!」


ねむぱんが指さした先には、石造りの舞台があった。


円形に敷き詰められた白い石。

その周囲には、月明かりの中で色とりどりの花が咲き乱れていた。


舞台の中央には、向かい合うように二つの台が置かれている。


「ここで何をするの?」


「もちろん、タイピングバトルだよ!」


ねむぱんはあなたの手を離すと、舞台へ駆け上がった。

そして片方の台の前に立ち、元気よく手招きする。


「早く、早く!」


促されるまま、あなたも反対側の台へ向かった。


台の上には、見慣れた形のキーボードが置かれていた。


「異世界にもキーボードがあるんだ……」


思わず呟くと、隣に立ったみっちゃんが首を傾げた。


「いせかい?」


「いや、なんでもないよ」


あらためて周囲を見回す。


広々とした草原。

遠くに見える、街の明かり。


ここには、会社も、満員電車も、鳴り続ける電話もない。


でも目の前には、なぜかキーボードがある。


……やはり、これは夢なのだろうか。


けれど頬を撫でる風も、草花の匂いも、夢とは思えないほど鮮明だった。


「準備はいい?」


ねむぱんの声に、あなたは意識を目の前へ戻した。


「えーっと、何をすればいいの?」


「ルールは簡単だよ。空中にお題が出てくるから、それと同じ言葉を打つの!」


ねむぱんが頭上を指さした。


その瞬間、何もなかった空間に光が集まり、青く透き通った画面が浮かび上がった。


「制限時間内に、早く正確に打てたほうが勝ちだからね!」


「なるほど」


仕事で毎日のようにパソコンを使っているあなたは、タイピングにはそれなりの自信があった。


「それじゃあ、最初は私が相手だよ!」


ねむぱんが小さな両手をキーボードへ置く。


「いっくよー!」


ねむぱんがキーボードに触れると、最初の言葉が画面に表示された。


『STOCK』


「え? すとっく……?」


「知らないのか? 『株式』のことだ。投資用語の基礎の基礎だろう?」


にむしが、さも当然とばかりに言った。


「ここは『株クラ』の世界ですもの!」


女王も、この光景を当たり前のように眺めている。


「私たちは、こうやって小さい頃から投資用語を勉強するんだよ!」


みっちゃんはにっこりと微笑むと、優しく教えてくれた。


「そ、そうか……よし!」


あなたは反射的に指を動かした。


挿絵(By みてみん)


一問、二問、三問。


使い慣れたキーボードの配列は、手が自然に覚えていた。


しかし、ねむぱんも速い。


「よーし、どんどんいくよ!」


楽しそうな声とともに、向かい側から軽快な打鍵音が聞こえてきた。


この世界の住人たちは、こうやって日頃からタイピングの腕を競っているのだろうか。

少しでも気を抜けば、たちまち置いていかれそうな速さでキーを叩いている。


「くっ……負けられない!」


思えば、仕事以外でこれほど真剣にキーボードを叩いたことがあっただろうか。


出てくるお題に合わせて、必死にキーを打つ。

ただそれだけのことなのに、いつの間にかあなたは夢中になっていた。


やがて終了を告げるメッセージとともに、画面に結果が表示された。


勝者は——あなた。


「わあ、すごい!」


ねむぱんは負けたにもかかわらず、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「あなた、とっても速いね!」


「ねむぱんも速かったよ。危うく負けるところだった」


「えへへ。次は負けないよ!」


褒められたねむぱんは、得意そうに胸を張った。


そのとき——。


ねむぱんのアホ毛がキラリと輝いた。


「夜が……明けたね」


みっちゃんが、遠くの山々に目をやった。


山の稜線から顔を出した朝日が、大地を金色に染め始めていた。


「夜明けに気を取られるとは笑止千万……!

 次に控えしは、この我——魔王にむしであるぞ!」


にむしは朝日を背負い、舞台の上で大仰に腕を広げた。


「にむし、魔王だったの?」


「今さら気づいたか、境界を越えし者よ!」


「さっきまで普通に『にむし』って呼ばれてたよね?」


「あ……あれは世を忍ぶ仮の姿だ!」


トイプードルの着ぐるみをまとった魔王は、動揺を隠すように、威勢よく胸を張った。


 * * *


にむしは大仰な詠唱を繰り返しては入力を間違え、みっちゃんは驚くほど正確なタイピングであなたを苦しめた。


それでも、あなたは二人との勝負をどうにか勝ち抜いた。


そして、最後に残ったのは——。


「ようやく、私の出番ですわね!」


小さな女王が、待ちかねたように舞台へ上がった。


先ほどまでのどこか抜けた雰囲気は消えている。

女王は胸元に片手を添えると、あなたをまっすぐに見つめた。


「エレノア・ド・フィナンシア、まいりますわ!」


女王のタイピングは、四人の中で誰よりも速かった。


抜いて、抜かれて、また追いつく。

最後まで勝敗の分からない接戦の末、あなたはわずかな差で勝利した。


「ま、負けましたの……?」


ガックリと膝をついた女王の大きな瞳に、みるみる涙が浮かんでいく。


「悔しいですわ〜!」


「女王が負けた姿、初めて見たね……」


「あなた、本当にタイピング上手だね!」


みっちゃんとねむぱんも、顔を見合わせて驚いている。


こうしてあなたは、四人全員とのタイピングバトルに勝利した。


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!


このお話の続きは、

9/11(金)第3話・第4話 20:30公開

9/12(土)第5話・第6話(完結)20:00公開

を予定しております。


いよいよ明日は、少女たちがくれる「とってもいいもの」の正体が明らかに……?


どうぞお楽しみに、ですわ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。