表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/30

第6話

放課後。


教室の空気は、どこか歪んでいた。


原因は、分かりきっている。


俺の席――その周りにだけ、人の流れが不自然に避けられているのが、嫌でも目に入った。


(……露骨すぎるだろ)


中間テストの結果。

神城との距離。


その両方が重なった結果、俺は完全に「関わると面倒な奴」という位置に押し込まれている。


……まあいい。


もともと、望んでいたはずの立ち位置だ。


――そう思うことにしている。


「飛鳥くん」


声がかかる。


振り返らなくても分かる。


「……なんだよ、神城さん」


「この問題、少しいい?」


差し出されるノート。


まただ。


中身は数学。


しかも、わざわざ俺に聞く必要があるとは思えない内容。


(……わざとか?)


そう思ってしまう程度には、頻度が増えていた。


「……自分でできるだろ」


「できるよ」


即答だった。


間を置かない。


「でも、恵くんの説明の方が分かりやすいから」


一瞬、言葉に詰まる。


(……なんだよ、それ)


周囲の視線が、さらに鋭くなる。


だが香は、それを気にしていない。


いや――


気にしていない“ふり”をしているようにも見えた。


「……ここ」


仕方なくノートを受け取り、最低限の説明だけを口にする。


それ以上は踏み込まない。


距離を作る。


作らなければいけない。


香はじっと聞いてから、小さく頷いた。


「……うん」


そして――


「やっぱり、恵くんだね」


満足そうに、微笑む。


その一言で。


教室の空気が、明確に変わった。


(……やめろって)


どういう意味になるのか、分かっているはずだ。


なのに、やめない。


やめる気もない。


その様子を、少し離れた席から見つめる視線があった。


沢渡結衣。


ペンを握ったまま、手が止まっている。


(……なんなの、あれ)


頭では理解している。


ただの勉強。

ただの会話。


それだけのはずなのに。


胸の奥が、妙にざわつく。


(なんで、あいつなのよ)


もっと他にいるはずだ。


頭のいいやつなんて、いくらでも。


それなのに。


なぜ、わざわざ“あいつ”なのか。


(……気にする必要ない)


そう言い聞かせる。


あいつはもう関係ない。


自分が切り捨てた存在。


それで終わりのはずだ。


――なのに。


(……なんで、あんな顔してるのよ)


神城の表情。


あんな顔、見たことがない。


柔らかくて。


どこか安心しているようで。


(……気持ち悪い)


胸の奥が、わずかに痛む。


理由は分からない。


分かりたくもない。



帰ろうとしたところで、声をかけられた。


「ちょっといい?」


振り返る。


沢渡結衣だった。


一瞬だけ、昔の記憶がよぎる。


すぐに消す。


関係ない。


「……何の用だよ」


「場所、変えたいんだけど」


それだけ言って歩き出す。


断る理由もなく、仕方なく後を追う。


連れて来られたのは、人気のない校舎裏。


風の音だけが、やけに大きく響いていた。


「……で?」


結衣は振り返る。


表情は、いつも通り。


少し強気で、少し冷たい。


「調子に乗らないで」


開口一番、それだった。


(……は?)


「神城さんに近づかないで」


「……意味わかんねえよ」


「分かるでしょ」


一歩、距離を詰めてくる。


「あなたみたいなのが隣にいるだけで、彼女の価値が下がるの」


その言葉。


昨日と同じはずなのに。


どこか、違って聞こえた。


(……焦ってる?)


ほんのわずかだが、そう感じる揺れがあった。


「……お前に関係ないだろ」


「あるわよ」


即答。


強い口調。


だが、その奥に不安が混ざっている。


「……それと」


結衣は視線を逸らした。


「私たちのこと、誰にも言わないで」


「……は?」


「幼馴染だったってこと」


声が少し小さくなる。


「知られたくないの」


(……まだそれか)


呆れる。


ここまで来ても、それを気にするのか。


「……好きにしろよ」


興味はない。


本当に。


「……何それ」


結衣の声が、わずかに揺れる。


「もっと何か言いなさいよ」


「何を」


「……っ」


言葉に詰まる。


その顔を見て、確信する。


(……変だな)


前なら、もっと強く言ってきたはずだ。


なのに今は――どこか迷っている。


「……もういい」


結衣は顔を背ける。


「とにかく、関わらないで」


それだけ言って、去っていった。


残されたのは、言葉にできない違和感だけだった。


(……なんなんだよ)


分からない。


でも確実に、何かが変わっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ