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第21話


帰り道。


夕焼けが、街を赤く染めていた。


並んで歩く。


神城香と、俺。


いつもと同じ距離。


いや――


(……近すぎる)


腕を絡められている。


さっきから、一度も離れていない。


「ねぇ、恵くん」


「……なんだよ」


「さっきの話、どう思った?」


軽い声。


まるで、何でもないことのように。


(……何でもあるだろ)


沢渡とのやり取り。


あれを“軽い話”で済ませるのは無理がある。


「……別に」


短く返す。


それ以上は言わない。


言えない。


だが。


神城は納得しなかった。


「別に、って何?」


少しだけ、声が低くなる。


「気になるな」


逃げ場がない。


「……あいつのことか?」


「うん」


即答。


迷いがない。


「諦めないって言ってたよね」


淡々とした口調。


でも。


その目は、わずかに細い。


(……見てたな)


あのタイミング。


やっぱり、偶然じゃない。


「……言ってたな」


「どうするの?」


さらに踏み込んでくる。


距離だけじゃない。


会話の距離も。


「どうもしねえよ」


正直に答える。


それが一番楽だ。


「そう?」


神城は、少しだけ首を傾げた。


「ほんとに?」


「……何が言いたいんだよ」


苛立ちが、少しだけ滲む。


すると。


神城は、ふっと笑った。


「別に?」


軽い調子。


でも。


次の瞬間。


絡めていた腕の力が、わずかに強くなる。


「ただ、確認したかっただけ」


その言い方。


妙に引っかかる。


「……確認って何を」


「恵くんが、どこ見てるのか」


さらりと言う。


でも。


その内容は、軽くない。


(……なんだよ、それ)


意味が分かるようで、分からない。


いや――


分かりたくないだけかもしれない。


しばらく沈黙が続く。


足音だけが響く。


やがて、家が見えてきた。


「……ただいま」


「おかえり」


いつも通りのやり取り。


リビングに入る。


日常のはずの空間。


でも。


(……やっぱ変だな)


違和感が消えない。


夕食。


向かい合って座る。


神城は、当たり前のように料理を取り分けてくる。


「はい、これ」


「……自分でやるって」


「いいの」


軽く流される。


箸が止まる。


(……世話焼きすぎだろ)


ありがたい、はずなのに。


なぜか、落ち着かない。


「ねぇ」


また声がかかる。


「今日、誰と話した?」


「……またそれかよ」


思わずため息が出る。


「気になるから」


即答。


「普通にクラスのやつだよ」


「名前」


間髪入れずに来る。


(……なんだよこれ)


尋問みたいだ。


適当に名前を答える。


神城は、少しだけ考えて。


「……ふーん」


小さく笑う。


だが。


その後、何も言わない。


それが逆に、不気味だった。


夜。


自室。


ベッドに横になる。


(……なんなんだよ)


今日一日の出来事を思い返す。


沢渡。


神城。


教室の空気。


全部が、どこか噛み合っていない。


(……守られてる、はずなんだよな)


阿久津の件。


あれがなければ、もっと面倒なことになっていた。


それは間違いない。


なのに。


(……なんでこんなに、息苦しいんだ)


理由が分からない。


助けられている。


でも。


逃げ場がないような感覚。


「……はぁ」


ため息が漏れる。


考えても、答えは出ない。


そのまま、目を閉じる。


意識が、ゆっくりと沈んでいく。


――静寂。


部屋の中。


ドアが、静かに開く。


足音。


ゆっくりと、ベッドに近づく。


神城香だった。


眠っている恵を見下ろす。


穏やかな寝顔。


何も知らない顔。


そっと、手を伸ばす。


頬に触れる。


「……ねぇ」


小さく、囁く。


「ちゃんと見てるよね?」


返事はない。


当然だ。


それでも。


神城は、微笑む。


「大丈夫」


優しい声。


でも。


その奥にあるものは、違う。


「全部、私が守るから」


ゆっくりと、ベッドに腰を下ろす。


そして。


恵の手を、強く握る。


「だから」


顔を近づける。


耳元で。


「他、見なくていいよ」


その言葉は。


お願いじゃない。


許可でもない。


――制限だった。


静かな部屋に。


その声だけが、残った。

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