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第17話

翌日。


教室の空気は、異様だった。


ざわざわとしたざわめき。


視線が、一方向に集中している。


その中心。


阿久津昂冴は、席に座っていた。


だが――


誰も近づかない。


(……なんだよ、これ)


昨日のことは、もう広まっていた。


録音。


暴力。


脅迫。


全部。


教師にも、部活にも。


「阿久津」


担任の声。


教室が静まる。


「ちょっと来い」


短い言葉。


だが、それで十分だった。


阿久津は立ち上がる。


周囲の視線が、刺さる。


昨日までのそれとは違う。


尊敬でも、羨望でもない。


――軽蔑。


(……なんだよ)


教室を出る。


扉が閉まる。


その瞬間。


空気が、少しだけ軽くなる。


「……マジかよ」


「終わったな」


ひそひそ声が広がる。


その中で。


飛鳥恵は、静かに席に座っていた。


(……終わりか)


実感は、あまりない。


ただ一つ分かるのは。


何かが、完全に変わったということ。


視線を感じる。


横。


神城香が、こちらを見ていた。


「大丈夫?」


小さく問う。


「ああ」


短く答える。


それだけで、十分だった。


そのやり取りを。


少し離れた場所から、沢渡結衣が見ていた。


(……終わった)


阿久津は、もう戻れない。


それは分かる。


でも。


(私も)


胸が、少しだけ痛む。


選んだ。


自分で。


だから――


後悔はしない。


そのはずなのに。


「……ねえ」


声がかかる。


振り向く。


神城だった。


「昨日のこと」


静かに言う。


「ありがとう」


一瞬、言葉が出ない。


「……別に」


目を逸らす。


「当たり前のことしただけ」


強がり。


でも。


それでも。


香は、少しだけ微笑んだ。


「それでもだよ」


その一言が。


妙に、重かった。


(……なんで)


分からない。


でも。


少しだけ――


救われた気がした。


そして。


教室の外。


廊下の先。


阿久津昂冴は、一人立っていた。


教師の話は、もう終わっている。


処分も決まった。


停学。


部活停止。


特待も――見直し。


(……ふざけんな)


拳を握る。


震える。


だが。


誰もいない。


誰も、来ない。


(なんでだよ)


昨日までなら、仲間がいた。


笑い合っていた。


なのに。


今は――


「……」


足音が響く。


通り過ぎる生徒たち。


誰も、目を合わせない。


(……はは)


乾いた笑いが漏れる。


「……終わりかよ」


呟きは、誰にも届かない。


その瞬間。


阿久津の中で、何かが完全に崩れた。


プライドも。


立場も。


そして――


居場所も。


もう、どこにもなかった。

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