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第11話

放課後。


教室には、結衣一人だけが残っていた。


机に座り、ノートを開いている。


だが。


ペンは止まったままだった。


一文字も、頭に入ってこない。


(なんで……)


手が止まる。


視線が落ちる。


(なんで、あんなことしたんだろ)


思い出す。


自分の言葉。


「キモい」


「価値が下がる」


あの時、何も考えずに吐いた言葉。


(最低……)


指先が震える。


窓の外に目を向ける。


グラウンド。


昨日の光景が、頭の中で再生される。


倒れる恵。


笑う周囲。


動けなかった自分。


「……私」


声が漏れる。


小さく、震えながら。


「助けられなかった」


その瞬間。


ぽたり、と涙が落ちた。


(あの時、助けたのは……)


神城香。


(私じゃない)


胸が締め付けられる。


苦しい。


息が詰まる。


(……違う)


必死に否定する。


(私は、あいつが嫌い)


(陰キャで、オタクで――)


言葉が続かない。


否定が、途中で止まる。


その代わりに浮かんできたのは。


「……好き」


ぽつりと、零れる。


自分で言って。


固まる。


理解してしまう。


(私……好きなんだ)


崩れる。


全部。


その時。


教室の扉が、静かに開いた。


「……まだいたの?」


振り向く。


神城香。


視線がぶつかる。


逃げられない。


結衣は立ち上がる。


足が震えている。


それでも、止まらない。


「ねぇ」


声が震える。


でも、逸らさない。


「恵くんのこと……好きなんでしょ?」


一瞬。


香はわずかに目を見開いた。


だが、すぐに――


笑った。


「……うん」


即答。


迷いも、隠しもない。


その強さに。


結衣は一歩、引いた。


「……私も」


絞り出す。


「好き」


沈黙。


教室の空気が、張り詰める。


そして、香は。


ゆっくりと首を傾げた。


「……今さら?」


その一言は。


あまりにも軽くて。


あまりにも残酷だった。


結衣の中で、何かが音を立てて崩れる。


「あなたが捨てたものを、私が拾っただけだよ?」


追い打ち。


逃げ場がない。


「だから――」


一歩、近づく。


距離が詰まる。


「もう、遅いよ」


静かに、言い切る。


その瞬間。


結衣の心は、完全に砕けた。


もう戻れない。


あの頃にも。


あの関係にも。


そして――


あの場所にも。

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