第14章 崩壊の足音
王都では、穢れの量が加速度的に増え続けていた。
その原因の一端を、シャルネは独自に調べていた。
土地の穢れは、人の負の感情から生まれる。
嫉妬、怒り、憎しみ、絶望。
そしてそれは、王都の中枢から広がることが多いという記録が、神殿の古い文書にあった。
調べてみると、レナードの政策によって生まれた民の怒りと不満が、穢れの主要な発生源のひとつになっていることが分かった。
重くなり続ける税。
民を顧みない決定。
断罪の日に民が見せた熱狂は、むしろその不満のはけ口だったとも言えた。
シャルネはレナードの執務室を訪ねた。
「殿下、お時間をいただけますか」
「何だ」
「穢れの原因についてです。土地の穢れは、人の負の感情から生じます。特に、民の怒りや絶望が集中する場所で急増します。今の王都では——」
「それが聖女の仕事だろう。浄化しろ」
「浄化するだけでは、根本が解決しません。穢れを生み出す原因を断たなければ、いくら浄化を施しても——」
「マリベルの時はそんなことなかった」
レナードは書類から目を上げた。
「あれは三年間、何の効果も出さなかったが、少なくとも余計なことを言わなかった。お前はどうだ。悪化させて、言い訳ばかりするのか」
「言い訳ではございません。このままでは——」
「どうにかしろ。それが聖女の仕事だ」
シャルネは唇を結んで、執務室を出た。
廊下に出ると、外から民の声が聞こえた。
「シャルネ様が聖女になってから、よりひどいことになっている」
「マリベル様の頃の方が、まだよかった」
「あの方は本当に悪魔だったのか。だとすれば、なぜ今の方がひどいのだ」
民の不満は、広場にまで広がっていた。
シャルネは部屋に戻り、一人で文書に向かった。
現状の記録。
穢れの量。
農地の腐敗の進行具合。
数字が、静かに破滅を告げていた。
このままでは、あと一ヶ月も持たない。
その結論に、シャルネは一人で辿り着いた。
神隠しの魔法の転移先は、術者にも分からない。死んでいるかもしれない。
でも——生きているかもしれない。
あの祈りの力を持った大聖女が、生きているとすれば。
シャルネは筆を取った。
レナードには通さなかった。
通しても、話を聞かないことは分かっていた。
文書には、現在の王都の惨状を包み隠さず記した。
そして最後に一行加えた。
「聖女マリベルの所在を知る者は、速やかに王都まで報告されたし」
その文書を、広報のための印刷所に持ち込んだ。
翌朝には王都中に——そして時間をかけて各地に——広まるように手配した。
◆
報告を受けたレナードは、怒鳴り込んできた。
「何をした」
「現状を伝えました」
「民の前でマリベルを悪魔と断じた。その舌の根も乾かないうちに、マリベルを探せとはどういうことだ。民への示しがつかん」
「示しより、この国が大切です」
「なんだと!」
「殿下、申し上げます。マリベル様がいなければ、この国はあと一ヶ月と持ちません」
シャルネは真正面から言った。
「神隠しの魔法の転移先は分かりません。死んでいるかもしれない。でも、生きている可能性もある。その一縷の望みにかけなければ、この王都は崩壊します。土地が死ねば、民が死にます。殿下の治める国が、なくなります」
レナードは黙っていた。
「悪魔と断じた相手を探す。矛盾は分かっています。でも、それ以外に手がない。私には、マリベル様の代わりができません。あれほどの力を持つ聖女を、一人で抱え込ませて、見えないからと切り捨てた。その結果がこれです」
民の声が、王宮の外まで届くようになった。
「シャルネ様が来てから、よりひどくなった」
「マリベル様の頃は、ここまで酷くはなかったのに」
レナードは窓を閉めさせた。
民の声を、聞きたくなかった。
穢れの原因については、シャルネの調査が正しかった。
民の怒りと絶望が穢れの主要な源だった。そしてその怒りの向かう先は——レナード自身の政策にあった。
重税、断罪の演出、その後の対応の遅さ。全てが積もり積もって穢れとなり、土地を蝕んでいた。
しかしレナードはそれを認めなかった。
「神隠しの魔法は転移先が分からない。死んでいるかもしれない。でも——生きていれば、繋がります。見つかれば、この国を救えるかもしれない」
レナードは黙っていた。
窓の外に、黒く変色した農地が見えた。
かつて豊かに実っていた場所が、今は枯れ果てていた。
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