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悪魔聖女の神隠し  作者: おでこ


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12/20

第12章 届く報せ、変わる日々


十日が経った頃、辺境にも報せが届いた。


辺境の地では、情報はいつも遅れてやってくる。


王都の話が流れてくるのは、起きてから数日後、時には一週間後になることも珍しくなかった。


カイルが受け取ってきた定期の文書を、私は隣でのぞき込んだ。


そこには、こう書かれていた。



--------------------------


王都にて、聖女マリベルが悪魔であったことが判明。


公開断罪の後、聖女シャルネの光の魔法によって消滅した。


これにより、長年の王都の衰退は悪魔の仕業であったことが明らかになった。


新たな聖女シャルネが任命され、レナード王太子殿下との婚約も宣言された。国民は新時代の到来を祝った。


--------------------------



私は、文書を読み終えてから、手をそっと膝の上に置いた。


分かっていた。分かっていたことだ。あの広場で見た光景は、自分の目で見た。


それなのに。文字にされると、それが確かな事実として固まったような気がして、胸の奥に重いものが沈んでいった。


悪魔。


長年の衰退は悪魔の仕業。


三年間、夜明け前から祈り続けた。国の穢れを食い止めるために。


この国の人々のために。それが、この一文に収まっていた。


「……マリベル」


カイルが隣に座った。文書を見ていた。


「読んだか」


「はい」


「大丈夫か」


「……分かっていたことです。でも」


言葉が続かなかった。カイルは何も言わなかった。


ただ、隣に座ったまま、同じ方向を向いていた。


急かさなかった。


慰めの言葉も、かけなかった。ただ、そこにいた。それで、充分だった。



   ◆



翌日から、私は変わらず祈り続けた。


朝、礎石に手を当てて、目を閉じる。この土地に届ける。この人々を守るために。その気持ちは、王都でもここでも変わらない。


午後は村の手伝いをした。子供たちが私の周りに集まってきた。最初は珍しそうに見ていた子供たちが、今では「マリベル姉ちゃん」と呼ぶようになっていた。老人たちが、久しぶりに笑顔を見せてくれた。


「井戸の水が増えた」

「昨日より、土の色が違う」

「今年は、何かが違う気がする」


そういう声が、少しずつ聞こえてくるようになった。目に見える変化が、ここにはある。


これが嬉しかった。王都では見えなかった変化が、ここでは確かに届いている。


一ヶ月が経った頃のことだった。


夕食の後、カイルが珍しく、帳簿も地図も出さずに座っていた。


私が食器を片付けようとすると、「少し待ってくれ」と言われた。


「……話がある」


「はい」


「あなたは、王都に戻れる。戻る手筈を整えることはできる」


「……」


「あの文書には、マリベルが消滅したと書かれていた。だから今なら、誰も追ってこない。王都に戻って、名前を変えれば、どこでもやり直せる」


「カイル様は……私に、出ていってほしいんですか」


「そういう訳ではない……」


カイルは静かに言った。


「俺は——ここにいてほしい。この土地が変わっていく。村の人間の顔が変わっていく。マリベルが来てから、希望というものを、久しぶりに見た気がする。だから——俺個人としても、ここにいてほしいと思っている」


「個人として……」


「ああ」


私は、カイルの横顔を見た。決して饒舌ではない人だった。感情をぱっと表に出す人ではなかった。


それでも、「俺個人として」という言葉を選んで言った。その言葉の重さを、私は静かに受け取った。


「……少し、話してもいいですか」


「どうぞ」


「捨てられた、という感覚が、まだここにあります。王都に戻れると聞いても……正直、戻りたくないと思ってしまう。でも——それだけじゃないんです」


「続けてくれ」


「ここに来て、初めて祈りが届くのを、自分の目で見ました。村の方々が笑顔になるのを見ました。それが……嬉しくて。ここにいたいです。ここで祈り続けたいです。この土地のために、この村の方々のために」


「……そうか」


カイルの声が、わずかに柔らかくなった。


「ありがとう」


その返答に、私は思わず微笑んだ。



   ◆



その夜、また報せが届いた。


今度の文書は、先日のものより切迫した内容だった。



--------------------------


王都周辺にて、穢れの増大が著しく進行中。


農地の大規模な腐敗が複数の地域で確認される。


シャルネ聖女の浄化では対処しきれず、国土の崩壊が懸念される。


マリベルの所在を知る者は、速やかに王都まで報告されたし。


--------------------------



私はその文書を、しばらく見つめていた。


——マリベルの所在を知る者は、速やかに王都まで報告されたし


カイルが隣で読んでいた。


「……どうしますか」


私が聞くと、カイルは文書を静かに折りたたんだ。


「今日のところは、何もしなくていい。急ぐことはない。まず、あなたがどうしたいかを、ちゃんと考えてほしい」


私は頷いた。


胸の中で、何かが静かに揺れ始めていた。


その夜、私は窓の外を見た。暗い大地に、草が揺れていた。


ここには、私の祈りが届く。


それだけを信じて、変わらずに、また明日も祈ろうと思った。



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


続きが気になる!と少しでも思っていただけたなら、

評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やリアクションで応援いただけると、本当に飛び上がって喜びます!


また次回でも、お会いできることを楽しみにしております(*‘ω‘ *)/

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