16◇東の森
16◇東の森
=============================
東の森に到着し、馬車をどうするかというところでダンカンが俺に聞いてきた。
「なぁロバート、今までは魔法使いのパーカーが馬車に擬装魔法と防護魔法をかけてから森に入ったんだが、似たようなことは出来ないか?」
「はい、出来ますよ。以前お見せした存在隠蔽魔法は馬車と馬にも掛けられますので、丸っと見えなくなりますね。ただ、私以外には再度見える様にすることが出来ないのでちょっと工夫が要りますが。」
俺はまず持って行く荷物を全部出させ、地面に太い杭を打って馬車と馬を繋ぎ、時限解除魔法付きの飼い葉桶と水桶を並べる。
そしてこれらに丸っと存在隠蔽魔法をかける。
馬車と馬がすうっと消えて存在そのものが分からなくなる。
ドラスラのメンバーに動揺が走るので落ち着かせ、ポケットから小指大の魔石を4個取り出して今掛けた存在隠蔽魔法の解除キーをインストールする。
「私が居なくても解除出来る様にするための鍵がこれになります。馬車の1キロム以内の場所でこの魔石を握って「解除」と2回言ってください。そうすると、存在隠蔽魔法が解けて馬車と馬が現れます。」
異世界前世の車のキーレスエントリーみたいなもんだな。
魔石を全員に1つずつ渡し、練習してみてくれと言う。
交互に解除を試しては俺が掛け直すのを3回ほどやってやっと安心していた。
そりゃー車のドアにワイヤレスでロックを掛けるのとはだいぶ違うもんなー。
究極の盗難対策だ。
念のため、半球状の魔力の網で覆って物理的にも外部からの干渉を遮断する。
網なんで空気は通るから馬の呼吸に問題ないし。
この網もさっきの魔石で同時に解ける様にしておく。
そして、俺以外の人のための目印として、10mくらい離れた場所にあった大きな岩を赤く塗っておく。
これは実際に塗っているのではなく、光学偽装魔法の応用で岩に当たった光から緑と青の光を除去したものだ。RGBからGとBを除去するとRだけになって赤く見えるという寸法だな。
「凄いな。引退したパーカーの魔法では馬車と馬が岩の塊の様に見える様にし、魔力を込めた柵を周囲に打ち込むことで防護していたんだが、臭いまでは遮断できなくてごくたまに馬が食われるということがあったんだ。これならこの魔石が無かったら永遠に存在が分からないな。」
「あ、ご心配なく。この存在隠蔽魔法は10日で切れる様にしてますんで、たとえ身包み剥がされて私が消えても時限解除魔法付きの飼い葉桶と水桶で馬が飢えることもありませんし、待っていれば使える様になりますよ。」
至れり尽くせりである。
これ、異世界前世のエンジニア?の性分だったらしい。
「こんなこともあろうかと」が口癖だったとか。
メンバー全員が安心したところで東の森探索に出発である。
俺は魔法使い扱いで、全員のちょうど真ん中に配置されてサイコロの五の目の様な配置で進んでいく。
狭い場所は一列になるが、だいたいは五の目配置で進めた。
3時間ほど進んだところで日が落ちかけたので野営とする。
少し開けた場所で領域を設定し、半球状の魔力の網で覆う。
この網は実は地中にも展開しており、球体になっている。
そのため、地中を進む魔物も遮断出来るのだ。
強度は俺製なので破れるモノなぞこの世に存在しない。
同時に外に向かって存在隠蔽魔法も展開しているので中でどんちゃん騒ぎをやっても魔獣に気付かれることもない。
以上のことをドラスラの面々に言うと、歓喜の表情を浮かべて夕食の準備を始めた。
昼と同じ様にエリックがガンガン焼き、メンバーが流し込む。
俺が横からおこぼれを頂戴する。
うん、全部最高ランクだけあって、調理方法が同じでも飽きないな。
食事は朝は黒パンと干し肉とスープだけで、あの量は昼と夕方だけらしい。
それでも生肉を1日4kg消費するので持ってきた30kgで7日半分しかない。
なので調査は6日くらいを目処にしないと飢えてしまうな。
今までどうやっていたのか聞くと、森に入ったら調理は一切出来ないので干し肉と塩漬け野菜と硬い黒パンだったそうだ。
そりゃーはっちゃけるのも分かるな。
寝る時もいつもは魔物避けの魔道具を起動し、簡易防護柵を周囲に展開して交代で見張りをしていたらしい。
ただ、どうしても匂いは出る様でそれを辿って 魔獣の襲撃は結構あるらしい。
連日喰らうと寝不足でフラフラになり、それが理由で調査や依頼を断念することも多々あった様だ。
それが俺が居ることによりまるで管理されたキャンプ場みたいになるのだ。
交代での見張りこそすれど、襲撃される危険性が無いと分かっているので順番に安眠出来る。
この差はデカい。
次の日の朝は俺が一番先に起きる。
見張りをしていたオニールに挨拶をする。
皆には言っていないが、圧縮睡眠で10時間分は寝ているしな。
すぐに皆も起きて来る。
朝食の材料は各自分担して持っているそうで、スープも固形状の物を各自で湯で溶かしていた。
俺は出発する前日に母に作って貰っていたベーコンエッグとパンとスープを収納魔法から取り出して食べる。
10食分作って貰っていたので今回の調査には十分だ。
いずれも強力な時間遅延がかかっているので熱々である。
「あげませんよ。あれだけの肉野菜パンを預かっているんだから十分食は充実しているでしょう?」
「それはそうなんだが、目の前で見せられると、なぁ。」
「俺たちの食っている物を見てくれ。いや、何でもない。」
朝食は自前でと言っていたクセに情けないな。
俺は10日分ある内の2日分を4人に分け与えた。
皆うめぇうめぇと言ってあっという間に平らげた。
やはり乾き物とは違うんだろな。
明日からはやらんぞ。
食後に出発の準備をし、周囲に魔獣が居ないことを確認して存在隠蔽魔法と魔法の網を解除する。
俺は魔力探知でかなり遠くの魔獣の存在が分かるが、ダンカンとウォルトも周囲100mくらいは何となくわかるそうだ。
それによって今までかなり魔獣との遭遇を回避して来た様である。
ランクAと言っても戦闘狂ではないので、調査目的の時は出来るだけ戦闘は避けるのだ。
まぁ今回は俺という言わば反則技が付いているので避ける必要は無いのだが、出来るだけ余計なお節介はしない様にしよう。
まだ半信半疑で俺の事を疑っているというのも大きいと思うが。
1時間ほど歩くとストライクボアと2頭のダークウルフに挟まれた。
前方のストライクボアにだけ気を取られて後ろから忍び寄って来るダークウルフに気がつくのが遅れた様である。
さすがにランクAと言えども大型魔獣3体の同時処理は難しい。
ダンカンが忙しなく辺りを伺っていたが、魔法使いである俺にダークウルフの牽制を指示して来た。
いつもは魔法使いのパーカーが片方の魔物に欺瞞魔法を掛けてしばらく時間を稼ぐらしい。
その間に正面の魔物を倒して魔法で抑えていた方を対処するんだとか。
「後ろの2頭、倒していいっすか?」
「え?あ、いや出来るんなら頼む。」
ダンカンは一瞬不安そうにしたが、後ろは俺に任せると踏ん切りを付けたらしい。
さて、どう料理しよう?




