13◇光学偽装魔法
13◇光学偽装魔法
=============================
さて、昨日はえらい目に遭ったが、結局いいところに落ち着いた。
俺にとっては有利なことばかりで、組合長には感謝しかない。
強引なところは改めて欲しいが。
俺は朝食を食べた後に自室で変装と偽名を考えた。
今の俺は茶目茶髪の頼りなげな15歳の平均身長の男だ。
わずかにヒョロっと見えるらしい。
これを青目黒髪の17歳くらいのちょっと太目の男にする。
顔つきも目尻を上げ、頬骨を少し張らせて不遜そうな見た目にする。
身長はこのままでいいか。
変えると視線の向きが不自然になるしな。
俺は「光学偽装魔法」を新たに展開し、パラメータをいじる。
最初は加減が分からなくて思いっきりいじって不細工な変顔になったりハンサムになったりと色々試してみた。
10分ほどいじっているとだいたい把握したので目標に向かって調整する。
目の色と髪の色はそれぞれのスライダー?をずらしていい具合にし、体形は何種類かの候補からほんの僅かに太り気味を選ぶ。
目尻と頬骨も変化させ、自室に置いてある小さな鏡で確認する。
このパラメータってのも前世の日本の記憶らしい。
見ながら調整出来るので分かりやすくて便利だな。
顔に被るマスクなら何回も調整しないとならないのか一瞬で終わる。
声はこの魔法では変えられないのでそのままだ。
次は名前だな。
元々ルーカスって名前も平凡なんだが、今や冒険者協会では有名人だ。
受付嬢との掛け合いと組合長との絡みで一部の冒険者達には知れ渡りつつある。
うん、名前はロバートにしよう。
どこにでも居そうなもっと平凡な名前だ。
一旦光学偽装を解き、1階の親父に冒険者協会に行くと言って出かける。
冒険者協会の少し手前の路地裏に入り、光学偽装をかける。
路地裏から出て街中の服屋でちょっと派手目の服を買う。
その場で着替えて脱いだ服は収納魔法に放り込む。
店を出てそのまま冒険者協会に入る。
カウンターのリアーナ姐さんの前に立って、ウィンクする。
暫く俺を見ていたが、はっと気が付いた様でカウンターの中に入れと手招きされる。
俺は横を回ってカウンターの中に入り、姐さんの正面に立つ。
姐さんは俺の顔をガシっと掴むと目尻と頬骨辺りを撫でまわす。
「あんた、ホントにルーカス?」
小さい声で聞いて来る。
「声は変わってないでしょ?どうすか俺の変装は?」
「すごいわね。まるで不自然さが無い。触ると僅かに違和感があって分かるけど、普通は触らせないもんね。」
「これで誤魔化せますかねぇ。」
「ええ、十分よ。長いこと受付嬢やってるけど、ここまで騙されたのは初めてよ。あのわざとらしい態度が無かったら完全に分からなかったわね。」
さすがベテラン、言うことが違う。
リアーナはジュリアに声を掛けて俺を伴って組合長室に行く。
入ると組合長は最初誰が入って来たのかという顔をしたが、すぐに気が付いてリアーナの顔を見る。
リアーナは無言で頷き、3人で応接セットに座る。
「初めまして。わたくし、魔法協会から派遣されて来ましたC級魔術師のロバートと申します。ドラゴンスラッシャー様の欠員に臨時参加させて頂けると聞きまして、是非にと希望してこちらに参りました。」
「ううむ、お前本当にルーカスか?声はルーカスそっくりだが、見た目がそこまで違うと別人としか思えないな。」
そこで俺は光学偽装魔法を解き、元々の姿となる。
この魔法は発動や解除の時に光の粒子エフェクトが出ないので変化途中は不気味だ。
顔がぐんにゃり曲がって変化し、髪色も上から五月雨の様に色が落ちて変わっていく。
組合長もリアーナもぎょっとした様な目で俺を見る。
面白いな。
もっと劇的に変化する様に設定して違う種族にもなれるかもしれない。
エルフ、ドワーフ、ドラゴニュート、獣人、鳥人、ゴブリン、コボルト、オーガなど。
再度ロバートの顔と体形に変えてにやりと笑う。
「これでどうっすかねぇ。ちょいちょいと魔法をいじってみたら出来ちゃったんで、色々試すと楽しいですね。」
「それ、他人にもかけることは出来るのか?」
「いえ、これは自分専用ですね。常に魔力を供給しないと維持出来ないですし、何より私の頭蓋骨と背骨を基準座標として魔法を展開していますんで、他人に掛けることは一瞬は出来てもすぐにずれてバレちゃいますねぇ。」
「そうか、それなら安心だ。他人の見た目を勝手に変えられると最悪殺し合いになるしな。」
へ、へえぇ、そうなんだ。
相手が分からなくなると無差別攻撃しだす輩が一定数居るらしい。
付かず離れず牽制するのが唯一の対処方法らしいんで面倒極まりないな。
「それで、ドラゴンスラッシャーの人はどこに?」
「今呼んでいるわ。さっきカウンターの所でジュリアに言って呼んできてもらってるの。」
「さすがはリアーナだな。ドラスラの連中は冒険者組合の別棟の簡易宿舎に入っている。すぐにお前を迎え入れたいみたいだしな。」
うへー、期待感マシマシになってるじゃないですか。
まぁ昨日あんだけやらかしたから致し方ないんだが。
暫く待っていると、ドカドカという足音と共にドラスラの連中が入って来た。
「お前誰だ!」
入ってくるなりドラスラリーダーのダンカンが吠える。
「初めまして。わたくし、魔法協会から派遣されて来ましたC級魔術師のロバートと申します。ドラゴンスラッシャー様の欠員に臨時参加させて頂けると聞きまして、是非にと希望してこちらに参りました。」
俺は組合長に言ったセリフを再度繰り返す。
ダンカンはキョロキョロと辺りを見渡し、再度吠える。
「ルーカスはどこだ!参加してくれるって言ったのは嘘か!」
「まぁ落ち着け。そいつの声に聞き覚えはないか?」
「はい、わたくしC級魔術師のロバートです。今後よろしくお願いしますね。」
と言ってにっこり笑ってやる。
ダンカンはやっと気が付いて俺の顔をガシっと掴む。
姐さんと同じように目尻と頬骨辺りを撫でまわす。
やめろオッサン気持ち悪い。
俺が力づくで振りほどくとやっと落ち着いた。
「なるほど。声は一緒なんだな。大幅に変わった訳でもなさそうだが、ここまで印象が違って見えると全くの別人だな。」
「はい、光学偽装魔法っていいます。見た目だけを変える魔法ですんで、撫でまわすとバレちゃいます。あと、これは俺自身にしか掛けられない魔法なんで、全員偽装なんてことは出来ません。」
「うむ。俺たちは常に名前と顔を出して活動しているからそれで問題ない。お前もその顔を出すことになるから、その変装がしっかりしているのは良いことだな。」
「さて、ロバートとの顔合わせ?も済んだことだし、依頼を受けてくれるよな。」
「了解だ、組合長。ロバートの初仕事は何になる?」
「まぁ急かすな。今回は東の森の調査だ。10日ほど前から近くの農民や東の森に入っている冒険者から森の奥に不穏な動きがあるとの報告が上がっている。夜になると不気味な叫び声が聞こえるだの、低ランクの魔物が農地に溢れているだの、森の縁をストライクボアやダークウルフがうろついているだのの報告件数が結構あってだな。そんな所にランクB以下の冒険者を派遣する訳にいかん。そこでランクAのお前たちに期待がかかっている訳だ。」
「分かった。依頼を受けよう。ロバートもそれで良いな?」
「はい、問題ありません。」
「まぁお前のあのステータスなら楽勝かもしれんな。よろしく頼む。」
おや、ちょっとこちらのことを許容してくれた様だな。
昨日ちょっとやり過ぎて自尊心を傷つけちゃったかなと心配してたんだけど。




