12◇ドラゴンスラッシャー
12◇ドラゴンスラッシャー
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組合長室に戻った俺たちはテーブルを挟んで座る。
組合長は何かブツブツ言いながら考え込んでいる。
俺はヒマなので自分のステータスを小さく表示して改良を加える。
今までは簡単に表示を切り替えていたが、今後は真のステータスにロックをかけ、決められた手順を経ないと表示されない様に改造する。
うっかり声を掛けられたり、催眠術なんかで素直に表示しない様にする為の安全機構だ。
ちょっと長めの、しかし絶対に忘れない暗証番号を10桁用意してそれで施錠する。
まぁ魔力を無制限にかけると安全機構自体が破壊される様にもしているんで、万一忘れても無問題だ。
もっともそんな魔力は俺以外出せる者は居ないので安心だが。
「決めた!お前、ドラゴンスラッシャーに入れ。」
「え、何ですって?」
「だーかーらー、お前がドラゴンスラッシャーの魔法使いの後釜だってーの。」
「え、俺ってなりたてのDランクで超初心者ですよ。」
「もうそんなことを言う段階はとうに過ぎている。なぁルーカス、本心でしゃべろうや。」
うーん、たった一回チラ見されただけでえらいことになったなー。
まぁここら辺が潮時か。
「はい、分かりました。しかしドラゴンスラッシャーの人たちにはどうやって納得させるんで?」
「俺の後ろ盾で押し込む。文句は言わせん。どうせ今魔法使いが居なくってロクに依頼も受けられんのだ。奴らは俺のことは信用しとるんで、お試しとか修行とか対外的には適当に言って公式にお前をドラゴンスラッシャーの一員として認めさせる。」
「何か勝手に話が進んでますが、俺の希望は聞いてはくれないんですか?」
「何だ、ドラゴンスラッシャーの一員になることが不満か?」
「不満だらけですよ。今まで黙ってましたが、さっきこっそり観察しましたがリーダーらしき一番高い人で200くらいしか無いじゃないですか。俺のステータスを見たんなら分かるでしょ。俺があそこに入ったらチームが崩壊しますよ。」
「そこを何とか頼む。今ランクAが機能不全だとこのバラウズ領の冒険者組合支部の存続に関わるんだ。」
「ではそのインチキをドラゴンスラッシャーの全員に納得させて下さい。俺がどうすれば一番いいかを考えて貰って。」
「仕方ない。今ここにドラゴンスラッシャーの連中を呼ぶがいいな。」
「いいですよ。もし変なことをしたら逃げますからね。」
俺は存在隠蔽魔法を自分に掛け、5秒後に解除する。
組合長は目をパチパチ瞬いていたが俺を見つけてぎょっとする。
「今何をした?」
「「存在隠蔽魔法」ですよ。東の森で使ったって言ったじゃないですか。これを使うと魔獣の背中に乗っても気付かれませんし。」
「分かった。俺の負けだ。だが、ドラゴンスラッシャーを助けてくれ。少しの間だけでいいから。」
まぁアルバイトみたいなもんならいいかな。
俺はまだ本気を出していない、を本気でやってみよう。
「その前にちょっと表示用のステータスをいじらせてください。突拍子もないものではなく、ドラスラの納得する様なレベルに調整しますんで。」
俺はステータスを開き、「ステータス’」を表示させる。
ステータス表示
「名前:ルーカス」、「年齢:15歳」、「性別:男」
「レベル:86」、「体力:124」、「魔力:121」、「精神力:98」「攻撃力:76」、「防御力:79」、
「素早さ:92」、「器用さ:86」、「賢さ:99」、「運の良さ:134」
「スキル:収納魔法LV6、隠蔽魔法LV5、暗視魔法LV6、剣技LV5」
「ステータス’」をコピーし、「ステータス’’」を作る。
それをいじって以下に変更した。
ステータス表示
「名前:ルーカス」、「年齢:15歳」、「性別:男」
「レベル:286」、「体力:224」、「魔力:221」、「精神力:298」「攻撃力:276」、「防御力:279」、
「素早さ:292」、「器用さ:286」、「賢さ:299」、「運の良さ:234」
「スキル:収納魔法LV8、隠蔽魔法LV7、暗視魔法LV8、剣技LV8、探索魔法LV6、筋力補助魔法LV6、清浄魔法LV6、治癒魔法LV8」
「上記の様に変更しました。実際の能力もこれに準じて制限がかかる様にしていますので、うっかり近いレベルの人を無双してしまうこともないかと思います。」
うん。
英雄や賢者なら200~400くらいって言われているんで、何とか人類の範疇かな。
組合長には突然変異の英雄候補にでもしといて貰おう。
組合長は俺の改変したステータスを暫く眺めていたが、無言で頷いた。
諦めたんだろう。
組合長が部屋の呼び鈴の様な物を押すと、受付嬢のサマンサが眠そうね目をしながら来た。
「お呼びでしょうか。」
「サマンサ、まだドラゴンスラッシャーの連中は居るよな。なら奴ら全員をこの部屋に案内してくれ。ついでにリアーナも呼んでくれ。」
「はい、分かりました。」
サマンサが出ていくと、組合長と俺は応接セットを立って部屋の隅にある予備の椅子に座る。
暫くすると、リアーナがドラゴンスラッシャーの連中を連れて来た。
全員で4人だが、魔法使いが一人抜けたとのことで5人だったんだな。
「まぁ座れ。リアーナもそこに座れ。」
ドラスラの4人は応接セットのソファに、リアーナは予備の椅子に座った。
「さて、ドラゴンスラッシャーの君たちは魔法使いが抜けて困ってるんだったな。」
「そうだ。奴がうっかり魔獣の攻撃に当たってしまった。気が付いたら右手と右足を食いちぎられていたんでな。急いで血止めと痛み止めの処置をし、昏睡薬で眠らせて担いで帰って来た。ストライクボア一匹と引き換えにえらい損失だ。」
「まぁストライクボアに5人で当たったんだ。少し不用心だったな。」
「そうだ。今回は俺の慢心が招いた事故だ。本来なら魔法使いを守るフォーメーションのはずが、それが崩れて虚を突かれた。」
「そう自分を責めるな。俺も不用心だった。もうちょっと気を張っていたらストライクボアの急襲に備えられていたはずだ。」
「さて、引退したばかりの魔法使いのエリックには申し訳ない話だが、君たちにはいい話がある。ここに居るルーカスを魔法使いとして加えて貰えないか。」
ドラスラの皆が俺を注視する。
そりゃそうだ。
魔法使いが引退したばかりなのにこんな若造のひよっこを後釜にしろだなんて何の冗談だ。
皆無言だがそう言っている様にしか見えない。
「皆不審に思うのは無理もない。だが、まずこのステータスを見てくれ。」
組合長が俺に状態表示魔法をかける。
いきなりかけられたが、今回は俺も準備万端である。
ステータス表示
「名前:ルーカス」、「年齢:15歳」、「性別:男」
「レベル:286」、「体力:224」、「魔力:221」、「精神力:298」「攻撃力:276」、「防御力:279」、
「素早さ:292」、「器用さ:286」、「賢さ:299」、「運の良さ:234」
「スキル:収納魔法LV8、隠蔽魔法LV7、暗視魔法LV8、剣技LV8、探索魔法LV6、筋力補助魔法LV6、清浄魔法LV6、治癒魔法LV8」
最初はお前は何を言っているのだ?とばかりの視線を向けて来たドラスラの面々だったが、俺のステータスを見て固まった。
明らかにドラスラ全員のステータスよりかなり高い。
リーダーのダンカンがゆっくり俺の顔を見て、質問する。
「お前、これは本当か。何か誤魔化してこの値を作ってるんじゃぁないんか?」
お、鋭い。
誤魔化しているのは確かなんですよ。
低い方向に。
決して盛っている訳ではないんですねー。
「何なら試してみます?例えば相手の手の平を殴るなんてどうです?」
これなら簡単で分かりやすく、周囲にも被害は出ない。
「ではまず俺が殴らせてもらおう。なに、最初は手加減してだんだん強くしていくさ。」
俺は頷き、立ち上がって右手の平をダンカンの方に向けた。
ダンカンも立ち上がり、部屋の空いた場所に移動して俺と向かい合う。
身長が頭一つ分違うんで見上げる様になる。
俺が手の平をひらひらと振るとダンカンは素早くジャブを打ち込んで来る。
パシーンといい音がして手の平が裏返る。
勿論、俺は力を抜いている。
ダンカンは俺が痛そうにもしていないのを見てだんだん打つスピードを上げていく。
10回目には目にも止まらぬスピードで俺の手の平は打ち抜かれ、大きく俺はのけぞる。
「もっと強く打っていいですよ。まだまだ余裕はありますから。」
俺がそう言うと、ダンカンは少し顔を紅潮させてステップを踏み始めた。
拳闘士がよくやる拳に勢いを乗せるって奴だな。
更に5回ほど全力で打ち込み、俺が全ていなすとダンカンは打つのを止めた。
ちょっと息が上がっているな。
「今度は俺が打っていいですか?」
俺が言うと納得のいかない顔をしているが、順番だ。
素直に右手の平を俺に向けてきた。
俺もダンカンの真似をして徐々に打つスピードを上げる。
10回目でダンカンの全力と同じくらいにしてみた。
ダンカンが顔をしかめているので一旦休む。
「どうしましょう?まだやりますか?」
「ああ、俺もまだまだ余裕だ。打って来い。」
明らかに強がりを言っているのが分かる。
まだ体験したことの無い打撃を手の平に感じているのだろう。
心ではヤバいと思っても感情がそれを許さない。
特にランクAのリーダーという立場がそうさせるのだと思う。
「では、先ほどのより1打毎に1割づつ打つ力を増やします。我慢出来なくなる前に止めてくださいね。」
俺はダンカンの構えた手の平に再び拳を打ち込んでいく。
5打目でついにダンカンが降参した。
これ以上打つと手の平が壊れると判断したのだろう。
手が使えなくなると依頼もこなせなくなる。
賢明な判断だ。
「さて、次はどの様な試しをする?ウォルト、お前のナイフさばきを止めるなんてどうだ。」
組合長は頭にバンダナを巻いた男に声をかける。
ウォルトと呼ばれたのはシーフらしい。
軽い装備に腰にはナイフを4本携えていた。
組合長は部屋の隅にあった棚から木で出来たナイフを2本持ってくる。
1本づつ渡され、俺とウォルトは向かい合った。
「では、お互いの急所に寸止めとする。決して打ち込むなよ。始め!」
俺とウォルトは暫く相手の様子を見る様に腰を低くして木のナイフを構える。
先にウォルトが動き、俺の喉を狙って来る。
俺は上半身を逸らせ、ウォルトの木ナイフは空を切る。
おいおい、寸止めじゃぁなかったのかよ。
そのつもりなら俺も遠慮はしないことにした。
常時ウォルトの1.2倍くらいの速度で動く様に調整し、余裕で彼の攻撃をいなす。
10回くらい避けたところで一旦距離を開ける。
ウォルトは自分の攻撃が全く通用しないことに苛立っている様に見える。
まぁここらが潮時か。
俺は不用心にウォルトに近づき、蛇がうねる様な動きで一気に奴の喉元に木ナイフを軽く当てた。
ウォルトは一瞬目を見開き、崩れ落ちて負けを認めた。
「化け物だな、こいつは。俺のナイフ術が全く通用しない。逆に俺の見たこともない動きでやられた。」
「もういいだろ。ステータスが本当だということは分かっただろ。後は魔法だな。ルーカス、ちょっと実演してみてはくれないか。」
組合長が俺にそう言うと、さっきのアレをやってみろと言う。
俺は自分に「存在隠蔽魔法」をかけ、10秒経ってから解いた。
「今のが存在を隠蔽する魔法ですね。俺自身にかけました。他の人や物にもかけることが出来ますんで便利ですね。」
全員コイツは何を言っているんだという様な目で俺を見てくる。
しまった、存在隠蔽魔法は存在しないことを不自然に思わせない魔法だった。
5秒くらいなら何とか存在を覚えているが、10秒もかけると完全に忘れる。
なので、今の説明では理解してくれないだろう。
俺は存在隠蔽魔法の効目を半減させ、もう一回自分にかける。
再び10秒後に解くと、今度は全員分かってくれた。
「どう見えました?」
「お前の存在がすぅっと薄れていくのが分かった。ちょっと目を離すとお前の存在を忘れるんだが、視線がお前に向くとフッと思い出す。なるほど、これを完全にかけると最初の様になるんだな。」
組合長が皆に同意を求めると全員頷いた。
「さて、次は収納魔法ですが、一応現在出来ることを言います。大きさはストライクボアが一頭入る程度。重量軽減と時間遅延は両方とも1000分の1です。先ほど組合長と解体部の人の前で先日仕留めたストライクボアを出して見せましたので。」
「これは俺と解体部のフランクがしっかりこの目で見た。これに関しては疑うな。本物だ。」
「後は治癒魔法くらいですかね。これは自然治癒の速度を上げる魔法で、時間をかけても治らない症状は治せません。」
俺はポケットからナイフを取り出し、左手の平を上に向けて中央に刺した。
貫通する寸前で止め、素早く引き抜く。
太い血管は避けたので血はじんわりと手の平に溜まっていく。
俺は右手を左手のうえに翳し、治癒魔法と唱えると左手が光の粒に囲まれて暫くすると消えた。
俺は左手の上に溜まった血をハンカチでぬぐい取ると、手の平に薄い筋状の傷跡が残った。
「こんな感じですね。もちろん痛いですよ。今回神経と血管を避けて刺しましたから治癒も簡単でしたが。」
まぁこれくらいの魔法は高ランクなら見慣れているか。
「骨折なんかはどうだ?あと切断された場合なんかも聞きたい。」
「ですから、骨折も切断も適切な処置をして時間をかければ治りますよね。それを極端に短い時間に縮めるだけです。」
「欠損はどうなんだ?手足が食いちぎられた場合なんだが。」
「それは自然治癒では治りませんよね。自然に治らないものは無理です。」
俺がそう言うとドラゴンスラッシャーの面々は少し落ち込んだ様に肩を落とした。
魔法使いの引退についてよほど責任を感じているんだろうな。
「もういいだろ。ここまでで十分わかったんじゃないかな。ルーカスはこの領の商会の息子だが、15歳の時に突然覚醒したそうだ。家の商売を支えるためにと言って、いきなり東の森に行ってストライクボアを倒し、大きな魔石を持帰った。それに慢心せずに家の商売に使える様に色々工夫している。こんな真っ直ぐな奴だからドラゴンスラッシャーに一時的に加えてもいいと思うんだが。」
「一時的か。今のを見たらずっと欲しいとおもうんだが、ずっとは無理なのか?」
「ええ、俺も色々やってみたいことがあるんで、チームにずっと固定されるのは勘弁してほしいんですよ。ただ、期間を区切ってお手伝いするのなら問題ないです。」
「なら決まりだな。そうだな、ルーカスをそのまま加えるのは今後の活動に支障が出るだろうから、偽名と変装をするか。今すぐにではなくていいから、明日までに決めておいてくれないか。」
組合長は好き勝手言ってるなー。
まぁ偽名と変装は俺もやろうと思っていたので渡りに船だ。
さて、今日はもう帰るかな。
あ、魔石のことを相談しようと思ってたが、もうそんな雰囲気ではないな。




