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「エピソード39 中世編:道化編「 魔術師は賽を手では振らない-調査編Ⅱ-」

【メスガキ成分、切れてんなぁ……】

主は酒を片手に宣った。


【ヴァルってなんで、メスガキじゃなくて、男の娘なん?

 返品できねぇ? この“骨董品”要らねぇんだけど?】


偶にコイツは僕に辛辣になる。


≪知らん。 そもそも我は“メスガキ”として製造されておらん≫


【えー? でも煽り性能は高いじゃん】


≪貴様の精神が脆弱なだけだ≫


【ほらそういうとこ!

 そこ、完全にメスガキ適性あるって!】


≪断る。我は高貴なる骨董品である。

 安易に“ざぁこ♡”などと言わぬ≫


【でも言えそうなんだよなぁ……】


≪言わん。

 あと返品も不可だ。

 貴様が勝手に起動したのだろうが≫


こういう時だけ、ヴァルは妙に正論だった。


【ヴァルを弄っても、つまらんない!

 なんだよ、両性具有って? 両方付いてんのは弄って欲しいってこと?】


≪発想が最低だな、主よ≫


ヴァルは冷え切った目で言い放つ。


≪そもそも我は見世物ではない。

 貴様の低俗な好奇心を満たすために存在しておらん≫


【でも設定として盛りすぎじゃん!?

 “謎の高位存在”“煽り耐性高い”“男の娘”“骨董品”って!

 属性の闇鍋かよ!】


≪知らん。

 貴様ら人類が勝手に属性として消費しているだけだ≫


【くっ……。 もっとこう、“ざぁこ♡”とか言ってくれるタイプかと思ったのに……】


≪期待外れで悪かったな。

 我は貴様の性癖カスタムAIではない≫


僕は酒瓶を傾けながら溜息を吐いた。


──確かにヴァルは見た目だけなら、

そういう弄られ方をされそうな雰囲気はある。


だが実態は。

煽る側ではなく、“冷酷に論破してくる古代遺物”だった。


【はいはい、論破、論破……。

 論破が軟派になる時まで、私は文句を言うぞ?

 ────手っ取り早く……お前の"レバー"を上下に切り替えるというのもな?】


≪やめろ≫


ヴァルは即答した。


≪貴様、その表現だけは妙に機械的で怖いのだ。

 “人格設定変更”みたいに言うな≫


【えぇー?

 でも、お前そういうギミックありそうじゃん。

 “冷徹モード”から“甘々モード”へ切替可能、とか】


≪家電ではない≫


【じゃあ骨董品?】


≪……否定し切れんのが腹立たしいな≫


ヴァルは眉間を押さえ、深く溜息を吐く。


≪そもそもだ。

 何故、貴様は我を“軟派化”させたがる?≫


【だってお前、普段ずっと硬派なんだもん。

 偶には照れろ。動揺しろ。困れ。

 感情の防御力が高すぎる】


≪貴様が低俗な方向へ全力疾走するから、

 防壁を最大出力にしているだけだ≫


【チッ……ガードが硬ぇ……】


≪当然だ。 貴様、隙を見せた瞬間に変な属性を盛るだろうが≫


それについては、否定できなかった。


【いいんやん、お前のそのだからしねぇ……“レバー”に淑女たちがリボンを装飾しても?

 ちょっと、手ほどきを受けて、吐き出して貰ったらどうよ】


男はやけに揶揄したように、僕の下を指差した。


≪貴様、本当に品性を酒に溶かしてきたな……≫


ヴァルは露骨に顔を顰めた。


≪というか、“レバー”と言うな。

 何だその、機関部品みたいな扱いは≫


【だってお前、骨董品じゃん?

 なら操作桿の一本や二本――】


≪無い。

 あと淑女たちを妙な方向へ巻き込むな≫


【えぇー?

 でも絶対、貴婦人連中に囲まれて、

 “まぁ可愛らしい”とか言われながら飾られるタイプだって】


≪その状況、辱めでは?≫


【似合うって意味だよ。

 ほら、お前って顔だけは妙に整ってるし】


≪“顔だけは”を付ける必要はあったか?≫


ヴァルは呆れたように額を押さえる。


≪第一、“吐き出して貰う”とは何だ。

 貴様、表現がいちいち不穏なのだ≫


【語感だよ、語感。

 ほら、感情とか、本音とかさ?】


≪今さら誤魔化すな。

 目が完全に愉悦側だったぞ≫


図星だったので、僕は黙って酒を煽った。


【まぁ、青臭いのは認める。

 処女式として? フッ──構わんと思わんか?】


≪その言い回しを格好良く発音すれば、

 全部許されると思うなよ≫


ヴァルは即座に切り捨てた。


≪というか、“処女式”とは何だ。

 儀礼名みたいに言うな。

 妙に荘厳な響きへ加工するな≫


【いやぁ?

 人生には通過儀礼ってあるやん?】


≪貴様の通過儀礼、九割くらい下品ではないか?≫


【でも青春って、大体そんなもんだろ】


≪貴様の場合、“青春”ではなく“酩酊”だ≫


男はカラカラと笑った。


【いやしかし。

 お前、そうやって真顔で否定してくるから面白ぇんだよなぁ。

 もっと狼狽えろって】


≪断る。

 貴様に付き合っていると、

 会話の品位が地の底まで落ちる≫


【もう落ちてるから安心しろ】


≪安心材料が一つも無いのだが?≫


その返答だけ、妙に切実だった。


【良いじゃん、そのまま、蕾に刺し込めば?

 多少? ───華やかでは?】


男は酒を飲みながらも、

比喩的表現で逃げていく。


≪逃げているのは比喩ではなく、責任感の方だろう≫


ヴァルは冷ややかに返した。


≪毎回そうやって、花だの蕾だの、

 詩的表現に包めば上品になると思うな≫


【えぇー?

 でも直接的に言うより、文学的じゃん?】


≪文学は免罪符ではない≫


【チッ……。

 知性派に弱いタイプかと思ったのに】


≪貴様のは知性派ではなく、

 酔漢が遠回しに下ネタを言っているだけだ≫


男は「ぐっ」と小さく詰まる。


【でもまぁ?

 花ってのは、刺される為に咲く場合もあるだろ?】


≪どこの危険思想だ。

 園芸への風評被害をやめろ≫


【風流を解せぬ奴め……】


≪風流を名乗るには、貴様は酒臭すぎる≫


ヴァルは呆れたように溜息を吐き、

空になりかけた瓶を取り上げた。


≪もう飲むな。

 これ以上いくと、次は“受粉”とか言い出すぞ貴様≫


男は数秒だけ黙り込んだ。


≪……何故、そこで目を逸らした?≫


【何のこと?

 お前の***から***が順路を面貫くのを考えただけだが?

 その園で至っても構わねぇとおもうけどね? 神でもさ?

 そこまで神聖を亡くしたくねぇの?】


ヴァルは数秒、沈黙した。


それから、深々と溜息を吐く。


≪……貴様。

 酔うと“哲学”と“劣情”の境界線が消滅するな≫


【芸術性って言ってくれよ】


≪言い換えても変わらん。

 あと、“神聖を失う”だの何だの、

 妙に壮大な主題へ繋げようとするな≫


【でもさぁ。

 神とか、高位存在とかって、

 結局“穢れない偶像”で居ることを求められるだろ?】


ヴァルは静かに目を細めた。


≪……それは、貴様の話か?

 それとも我への挑発か?≫


【半々】


≪厄介だな。

 酒が入ると、急に核心へ寄ってくる≫


男は肩を竦める。


【だってお前。

 ずっと“壊れない側”に立ってるじゃん。

 だから、偶には堕ちても良いんじゃねぇの? って思う訳】


≪“堕ちる”という発想自体、

 貴様の価値観が危ういのだが……≫


ヴァルはそこで言葉を切った。


≪だが。

 神聖を守る為に距離を取る者も居れば、

 穢れごと抱えて尚、立ち続ける者も居る。

 ……それだけの話だ≫


【お。

 珍しく真面目じゃん】


≪貴様が妙な比喩で煙に巻こうとするから、

 こちらが整理してやっただけだ≫


【つまり?】


≪つまり、貴様はまず酒瓶を置け。 話はそれからだ≫


【はぁ……────? 私は男と女の恋愛について。

 憐憫に想い、廉恥のことを相だの、遭いだのと誤魔化すお前を嘲笑っただけだが?】


≪言葉を捏ね回して煙幕を張っているのは、どう見ても貴様だ≫


ヴァルは半眼で返した。


≪“憐憫”だの“廉恥”だの。

 急に古語めいた単語を並べ立てれば、

 下世話さが浄化されると思うな≫


【だってさぁ。

 恋愛なんて結局、皆それっぽい理屈を後付けして、

 欲と羞恥を飾り立ててるだけだろ?】


≪……で?

 それを見て、貴様は嘲笑っていると≫


【半分はな。

 残り半分は、“そこまでして他人を欲する”のが理解できねぇだけ】


ヴァルは少しだけ視線を伏せた。


≪理解できぬから、茶化す。

 茶化すことで、距離を保つ。

 随分と臆病な手段だな≫


【うるせぇ。

 真正面から語ると、湿っぽくなるだろうが】


≪だから比喩へ逃げるのか。

 花だの園だの神聖だのと≫


男は小さく鼻で笑った。


【お前だって、真正面からは言わねぇ癖に】


≪我は必要以上に飾らんだけだ。

 貴様みたいに、酔った勢いで概念を発酵させたりはせん≫


【“概念を発酵”ってなんだよ……】


≪見ろ。

 今この場に漂っている空気、そのものだ≫


それだけは、否定しづらかった。


【ヴァル。神様とか天使が発光してんのは、発酵しているって言いたいのか?

 ─────随分、寝かして来たんだな……】


≪貴様の中で、“神秘”と“酒蔵”が同列に並ぶの、本当に何なんだ……≫


ヴァルは額を押さえた。


≪だがまぁ。

 長く積み重ねた概念が、人の理解を超えて光って見える。

 ……そういう意味なら、完全な間違いでもない≫


【ほぉー?

 つまり神は発酵されてる?】


≪“熟成”と言え。

 “発酵”だと急に樽の中の存在になる≫


【でも実際、古い神ほど癖が強いじゃん。

 土着信仰とか、禁忌とか、生贄とか。

 あれ絶対、長期保存の風味だって】


≪言いたいことは分からんでもないが、

 表現が致命的に失礼だな≫


男は酒瓶を揺らしながら笑う。


【新品の神って、妙に清潔感あるけどさ。

 古い神って、“澱”があるじゃん。

 人間の欲とか恐怖とか、願いとか。

 ずっと沈殿したやつ】


ヴァルは少しだけ黙った。


≪……それは案外、正しい。

 信仰とは、人の感情の堆積でもある。

 長く祈られたものほど、綺麗なだけでは済まなくなる≫


【だろ?

 だからお前も、相当寝かされてる顔してる】


≪我を年代物の酒みたいに言うな≫


【骨董品】


≪その単語を便利に使い過ぎだ、貴様は≫

先ず、私は御大に謝した。

そして、大いなる先駆者たち……。


今も尚──創作世界を睥睨していることを、忘れてはならぬとも思う。


【鍔競り合いって奴かもしれない。

 互いの意思が、どこまで相手を断てるかの試しだと】


【先生───俺は嘲笑い、道化けてみせる。

 この世界が、最後に何を差し出すのか……】


(答えは常に、一番最後にある。

 私はそれを知っている……)


【さぁさぁ……紙芝居の時間だよ?

 楽しい遊園地の開園時間だ────】


不穏と好奇心を揺らがせながら、男は幼女たちを囲う。

そして、逃げ道を塞ぐように、静かに扉を閉めた。


【君達に最高のファンタジーを魅せてあげようか?

 ────ほら、外には帰れないようにしておいた】


───こちユルが始まる。

いつものように。

だが今夜、男の手はやけに強く、幼女の腕を掴んでいた。


【お前の夢を壊しに来たぞ……】


陽気な音と共に、幻想劇は幕を開ける。

それはファンタジーの仮面を被った、悪夢だった。


≪魔術師は賽を手では振らない - 調査編Ⅱ 整理≫


『宇宙の色』との差別化を図る為、

原典とは異なる手段として、「井戸を枯らす」という趣向へ逃げた。


(御大の怪異は、基本的に去らない。

 そこに残り続ける印象が強い……)


月光を映していた黒い水面が、

ゆっくりと井戸の底へ引き摺り込まれていく。


水音だけが、暗闇の奥で小さく響く。

そして気づけば、河の流れまでも細っていた……。


(ニチアサの少女向けファンタジー。

 ……その井戸の底に、どれだけ淀みを溜め込んでいるのだろうな)


ストーリーの流れとしては宇宙の色を意識してしまった内容を、

なんとか自分の価値観に合わせたいと思った。


それは、何処までも陰湿で。

じっとりと纏わりつくような疑念である……。


(────ラヴクラフト御大も、どうか赦してくれるだろう。

 そう切に願いながら)


場面は干上がってしまった河を遡上しながら、泉を眺望する。


枯れ果てた泉。泥の底が露わになり、

冷えた石と黒ずんだ苔が残されたその中央に、ぽっかりと黒い空洞の様な沈みがあった。


その言葉に、私は再び月のあった場所を振り返る。


水は、もうそこにはない。

なのに、不思議と“美しかったはずの残響”だけが、まるで耳鳴りの様に胸に残っていた。


それが、余計に怖かった。

もう、戻らないと知っているのに――なぜか「心だけ」が、まだそこに囚われて。


─心が漣薙(ざざな)いだ。


主人公達は、既に干上がってしまった泉を横切りながら。

向こう岸に見える祠へと、ゆっくり近づいていく。


――そして、それはあった。

木々の合間にぽつりと、黒ずんだ屋根の様な影が見えた。


近づく程に、その輪郭は明確になっていく。


苔と蔦に覆われた小さな祠。石造りの屋根はところどころ崩れ、

かつて灯されていたであろう灯籠は折れ伏している。


しかし、唯ただの古びた祠には見えなかった。


彼の視線の先、祠の入口。その左右に、二体の石像が立っていた。

いや、“立っていた”というには、あまりに――古かった。


私は片方の石像を指を指して、そう呟いた。


左側の像は、重厚な外套を纏い、胸には金属装飾の様なものが彫られていた。

片手は胸に当てられ、もう一方の手には巻物の様なものを握っている。

まるで、儀式を司る高位の文官の様だった。


対して、右の像は身軽な旅装の様な装いで、背中には荷を背負い、両手を広げる様にして立っている。

その姿勢は、守る様であり、また――道を遮る様でもあった。


「一方は“知”を。

 もう一方は“意志”を。


 あるいは、一方は“封印”を。

 もう一方は“解放”を……。


 だが、いずれにせよ。

 両者は“ここ”で、対を成しているのだろう」


「どれほど昔のものなのか……。

 それすら、既に忘れ去られてしまったのだな……」


「この祠は……。

 “何か”を閉じ込めるだけではなく……。

 “選ばせる”ための場所なのかもしれぬのう」


『……“それ”は、目を覚ましつつある。

 記憶と運命を喰らう、眠れる獣が』


(───私を、恨み続けている獣が居るのだ。


 そう、私は結論付けた。


 私自身の闇。

 そして、暴力性が。

 未だ、眠り続けているのだと)



「行こうではないか。中を見なけりゃ、何も始まりゃせんよ」


ヴィネリがそう言った時、不意に風が吹き返した。

祠の中から、まるで呼吸するような音が微かに聞こえた気がした。



私たちは祠の前へと静かに歩み寄った。

扉は苔むし、長い時の流れに沈み込んだような重厚な木製の両開きだった。


だが、それはただの木戸ではない。

ヴィネリの瞳は、扉の中央に浮かぶように刻まれた古い言葉へと引き寄せられていく。


《その記憶は捧げられ、その運命は閉ざされる。

 ひと度に開かば、忘れよ、望むなかれ。》


「……これって、警告かな?」

「誓約の類かもしれない。ここを開くには、何か“代償”が必要なのかもな」


「……どんな記憶でもいいのか?例えば、些細な思い出とか……」

「駄目だ。捧げた記憶は永遠に失われる。だからこそ“望むなかれ”と記されている。心の奥深くに根付いたものでなければ意味がない。でもそれを失えば、自分は変わってしまう」


――その時、祠の扉がかすかにコクリと音を立てた。

月の光がさっと傾き、石像の影が揺れ、冷たい風が祠へと吸い込まれていく。


「……誰かが応えた」


ヴィネリの声は震え、緊張が滲んでいた。


「さあ、選ぶがいい。何を置いていくか。祠はそれを見ている」


ヴィネリはゆっくりと穏やかな声で言った。


ヴィネリは羊皮紙の文字を指でなぞりながら、慎重に言葉を紡ぐ。

薄暗い祠の前で、ヴィネリは古ぼけた羊皮紙をそっと広げた指先でその文字をなぞる。


「喜びを捧げなさい、煌めく心の灯りを──」

「怒りは静めよ、燃え盛る情熱の炎をそっと閉ざして──」

「哀しみを解き放ち、流れる涙の清き川となりなさい──」

「楽しみを奏でなさい、歓喜の調べを風に乗せて響かせて──」


カイルは、決然と言い放つ。


「記憶も、想いも。

 どのような形であれ、この場へ捧げる覚悟を持つ者だけが───先へ進めるんだ」


その瞬間。

祠に並ぶ石像達が、淡い燐光を帯び始めた。


ゆっくりと。

まるで忘却されていた古代の儀式が、再び幕を開こうとしているかのように……。


『記憶も想いも、どんな形でも、この場に捧げる覚悟のある者だけが先へ進めるんだ』


───これから起きることは、予定外のことばかりだ。


既に物語は。

当初のプロットやプロセスから、完全に逸脱してしまっている。


そのレールの上を。

透明なトロッコが、凄まじい勢いで奔っていた。


────もう、止めることは出来ない。


休むことすら、許されないのだ。


「喜びを捧げなさい、煌めく心の灯りを──」

「怒りは静めよ、燃え盛る情熱の炎をそっと閉ざして──」

「哀しみを解き放ち、流れる涙の清き川となりなさい──」

「楽しみを奏でなさい、歓喜の調べを風に乗せて響かせて──」


私は、祝詞を挙げていた。

もう、どうしようもない……。


頼れるものは、もはや自分の直観と、

これまでに読んできた文学の蓄積だけである。


『魔術師は、もはや賽を手で振ることをやめた。


 代わりに。

 直観と、これまで積み上げてきた文学の蓄積だけを頼りに。

 “賽を振る”ことを選んだのである』


これから多くの作品のオマージュを使って、

「魔術師は賽を手では振らない-調査編Ⅱ-」~魔術師は賽を手では振らない-封印編Ⅲ-」

第三拾九話から第四拾二話を奔るプロットになった。


道化師が、タイトロープの上でふらふらと揺れながら。

頭の中で、その像が明滅するように浮かび上がる。


「ござーい、ござーい!

 命綱なしで、向こう側へ行ってみせようぞ!」


道化師は手品の動作を交えながら、タイトロープの上をふらふらと渡り始める。


しかしそのロープは、傍目にも見えない。

そして当然、道化師自身の視界にも存在していない。


安全を確保するための命綱も、落下を受け止めるネットも無い。


ただ、淵の縁すれすれに張られた“想定上の綱”の上を歩いているだけだ。


そしてその場所は、当然ながら安定とは程遠い。

風が吹けば、容赦なく揺らぎ。

止めば、また静まり返る。


その繰り返しの中で、道化師はただ、歩き続けている。


道化師は、まるで正気を失ったかのように大仰に振る舞い。

それでいて、どこか恭しさすら帯びた所作で、深々と一礼した。


「さあさあ!

 今度は宙返りを三度、してみせようぞ。


 一瞬しか見せぬゆえ。

 どうか目を見開き、よく見届けてはくれまいか」

 

さぁ……幕がある。

一か八かの、三連跳躍。


───第四拾話

「魔術師は賽を手では振らない──封印編Ⅰ」


から、───第四拾二話

「魔術師は賽を手では振らない──封印編Ⅲ」まで。


読者に“考える余白”を与えず。

立ち止まる間すら許さないような構成が、今まさに始まろうとしている。


一切の休止もなく。

流れの途切れもなく。


ただ連続する出来事だけが、物語を前へと押し流していく。

皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


『第三十九話「魔術師は賽を手では振らない──調査編Ⅱ」』において、

プロットや物語の進行意図を、わずかでも感じ取っていただけたのであれば幸いです。


ほとんど説明回のようになってしまいましたね。申し訳ありません。


カオス回というのは、説明しようとするとかえって説明しづらいものだと、改めて感じます。


さて……この後どうなったかは、メインストーリーを読んでいただくのが一番早いのですが。


(自分で「必ず説明する」と言っておきながら、数ヶ月放置して、またこうして説明している。

───いい加減にしろ、という話である)


そろそろ、覚悟を決めるべき時だ。

やると言ったのなら、やるしかない。


『やれよ、やれねばならぬ……』


(俺の気分と精神が死なない程度にやらせて頂きますね?

 そうしないと私が死ぬかもしれんし)


さてと、ゆっくりじっくり説明しますか。

説明ってものではないんですけど。


エッセイとして遺していきたい。

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