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「エピソード38 中世編:道化編「 魔術師は賽を手では振らない-調査編Ⅰ-」

このサブ際は、読者のために用意されたものだった。

物語の流れを補助し、視界を整えるための足場――そのはずだ。


作者は、ときに妙に冷静になる。


「だって、プロットを今決めたんだよ。

 プロセスを整理したんだ」


書きながら考え、書きながら枠を定める。

走行中に設計図を引き直すような、無茶なやり方だ。


「大丈夫、入り口には立った。これなら書ける」


それは咄嗟の判断。

常に宙返りを続けているような執筆。


────F-10は、今日も背面飛行を披露する。

作者は、ようやくのことで――

読者が“読める形”のチラシを作り上げた。


議題は、こうだ。


≪2026年――宇宙の色――

 幻想小説における少女の冒険譚。

 そこに付随する怪奇と幻想、

 そして、それらが導く冒険騎行について≫


(あのぉ? 少女アニメ……では、なかったかな?)


【これは今、赦しを乞う瀬戸際にある。

 御大が納得するかどうか――その一点に懸かっている】


【だからこそ、プロットは組み直した。

 少なくとも、筋は通してきたつもりだ】


作者は、御大をひどく恐れている。

故に――このまま、話を進めるしかない。


<プロットの構成>


作者は、面長で青白きその御身に傅いた。


「まず、初手のプロットといたしまして――

 この村に伝わる伝承系の怪奇に、寄り添う構成としました」


「すなわち、口伝と風習に根差した怪奇へと、回帰したのです」


「御身のプロットを拝借し、

 井戸から唄が聞こえる、という題材を選定いたしました。


 また、原作においては宇宙的恐怖の描写が前面には出ておらず、

 その点を踏まえ――


 今回はアレンジとして、それを“魔獣”という範疇へと落とし込み、

 存在の格を意図的に引き下げる形で再構成しております」


「このままでは、御大の恐怖から乖離すると判断いたしました。


 村の者たちは“魔獣”を、単なる獣ではなく、

 異形の存在――深淵より這い出るものとして畏れております。


 すなわち、存在の格を落としながらも、

 認識の上では宇宙的恐怖へと接続する――

 そのように、逆説的な構造へと組み替えたのです」


「しかし、このままでは冒険活劇としては、

 あまりに風景が立ち上がりませぬ。


 そこで、伝承に一つ手を加えました。

 魔獣は村を蝕む瘴気の源――

 されど、その姿は見る者によって異なる、と。


 不定の像として定義することで、

 怪奇と冒険の双方を成立させる狙いです。


 ……御大も、この“定まらぬもの”はお好みでしょう?」


「瘴気と悲しみが渦巻く中、魔獣は形を変え、

 あるときは姿を現し、またあるときは姿を消します。


 ――これこそが、不定でありながら神性を帯びた存在。

 そのように定義いたしました」


≪……つまり、井戸の底に封じられた魔獣の影響が、

 この《破滅の歌》として響き渡っている、と?≫


「はい……呪いは深く、いまだ村の魂を縛り続けております。

 ――それを暴き、再封印する。


 その筋立てにて、構成したのです」


<魔獣とは?>


「作品中において魔獣は、

 『村の過去に深く根差した“因果”そのもの』と定義しております。


 それは、過去に幾度も墓所を暴かれ、

 そのたびに再封印を繰り返してきたもの――


 いわば、『クトゥルフ神話』的怪異を

 狭義へと収斂させた形にございます」


「ストーリー序盤においては、語り手として

 ヴィネリという老婆を配置しております。


 彼女は術師的な存在であり、

 簡潔に申し上げれば――

 シンボルと祝詞を用いる系統の使い手にございます」


「……やや狂気の淵にある人物ではありますが、

 彼女の住居へ案内される導線を設けております。


 そして村においては、その家系こそが――

 ”封印を司る“番人”であった、という設定にいたしました。


 この方が、より陰鬱な気配を醸すかと存じます」


───────。


「村人たちは、彼女が徐々に狂気へと傾いていく様を目の当たりにし、

 ついに“狂した”ものと見なしました。


 そして――封印を司る“番人”がもはや機能しないと判断し、

 彼女を住居へと幽閉しようとしたのです」


「村人たちは、錠をかけ――彼女を家ごと閉ざし、放置したのです。

 事実上の幽閉にございました。


 しかし、ヴィネリはそれを嘲るように、


『儂は閉じ込められたのではない。

 ここで、自ら時を過ごしていただけじゃ……好きでな』


 と、吐き捨てております」


「素晴らしい! 逆説的解釈です。 

 これを読んで笑ってしまう!! 」


作者は、御大に分かりやすいよう本文を分解し、読み上げた。


「だが、今やあの者たちも皆、同じじゃ……」


「虚ろな目で、口を開けて徘徊し、何も語らず、何も知らず――

 まるで、人の皮を被った抜け殻よ」


ヴィネリは、くつくつと喉を鳴らす。

やがてそれは、咽び泣くような――歪んだ高笑いへと変わっていった。


「見たか……因果の果てを。

 哀れじゃのう、儂を幽閉した村人ども……!」


その笑いは、空気そのものを捻じ曲げるかのように広がっていく。

私は言葉を失い、ただ――ヴィネリの顔を見つめることしかできなかった。


「結局のところ、皆……儂と同じ場所へ堕ちたのじゃよ。

 ならば儂は、“先に辿り着いた者”として――敬われるべきであろうなぁ?」


〈ヴィネリの宅にて……〉


「さて、御大。

 わざわざヴィネリの住まいを訪れたのには、理由がございます。


 彼女は呪術師――

 であれば、アーティファクトの一つや二つ、備えているはず。


 それらを用い、この陰鬱なる暗がりに、

 尤もらしい重厚さを与えたく存じます。


 ――蝋燭ひとつ、その灯りのみで」


「しかし、たとえブードゥーの一例に過ぎぬとしても、

 魔導書は忌避すべき存在にございます。


 故に――安易に触れてはならぬものとして、

 読者の眼前に吊しておく所存です」


「ここであえて、主人公に“触れそうで触れられない”状況を設けます。

 ――敢えて、でございます。


 その上で、ヴィネリの台詞にて打ち込みます。


『魔導書というものはのう……術者の“知”そのものが刻まれておる。

 ただの記述ではない。――生きておるんじゃ』


 さらに――


『多くの魔導士や魔術師は、己の死後、その知が悪しき手に渡らぬよう、

 書に呪を施す。触れた者の精神を蝕み、時に肉体すら喰らう……

 それが“知識の封”と呼ばれる禁じ手じゃ』


 二の太刀で、読者ごと薙ぎ払う構えです」


「そして――最後に、一言だけ差し込みます。


『冗談で言ったのではないのだ。

 本当に、“死ぬ”のだよ』


 これにより、先の設定が単なる脅しではなく、

 現実の危機として機能いたします」


「私は……おそらく、過ちを犯しました。

 設定を、あまりに重くし過ぎたのです。


 沈鬱なる暗がりの中において――

 この『ナコト写本』は、あまりにも重すぎた」


そう言って、作者は一節を読み上げる。


「これは“言霊”の極地にあるものじゃ。

 書いた者の意志が、言葉を離れてなお息づいておる。

 ゆえに――知識を風見鶏のように軽んずる者には、容赦なく牙を剥く」


私は、震える指で机の端を強く握りしめた。


「呪いを封ずる装具や印、護符なくしては……

 術者とて安全とは言えぬ。

 ましてや、おぬしのような無防備な者が手を出せば――

 それこそ、命をもって償うことになる」


……だが。


これを、そのまま吐き出してしまったのは――

あまりにも、拙かった。


現状は――

過剰な設定に、さらに過剰な台詞を重ねてしまった


「だからナーレ。今はまだ、見るな。聞くな。そして――触れるな」


――なんとも、粗暴で露骨な祝詞だ。


〈封印について、そして口伝伝承について〉


「御大――改めて、整理したものをお示しいたします」


作者は一度言葉を切り、伝承の全体像を差し出した。


「この村に伝わる封印の始まりは、遥か昔……

 地の底より現れた“記憶を喰らう影”を鎮めるためにございます」


「その獣は、人の魂に宿る悲しみや喜びを喰らい、

 やがて人を超えた“何か”へと変じていく」


「ゆえに封印の術は、人の心の残響を用いるもの。

 獣の残した傷を封じる器を作ること――

 それが、選ばれし家系に課せられた役目にございました」


「しかし時代が進むにつれ、村人はその意味を忘れ、

 封印を担う者たちは“魔”と恐れられ、やがて追われる身となったのです」


ヴィネリはそこで、わずかに声を落とした。


「封印の儀は――禁術。

 血や命ではない。魂より絶望と非望――

 叶わぬ願いと、失われた希望を削り取り、術式の核とする」


「喜びと安らぎを守るために、

 永遠の封を打つのじゃよ……」


彼女は、遠い過去をなぞるように続ける。


「初代の封術師は、独りでは耐えられなかった。

 ゆえに、共に禁術へ臨んだ者がおったのじゃ」


「その者は聡明にして、見慣れぬ術を操り、

 村の発展に寄与した――まるで“聖人”のような男であった」


「だが彼もまた、代償を負うた。

 魂の一部を失い、生気を削られながらも……

 村人は彼を守護者として敬い、語り継いでおる」


「初代とその男は、愛も絆も――すべてを捧げ、術式へと沈んだ。

 もはや戻ることは叶わぬ姿となりながらも、

 今なお、静かにこの村を見守り続けておるのじゃ」


作者は語り終え、静かに顔を上げる。


「――以上が、ヴィネリの語った内容にございます」


「……御大」


〈十三歳の少女である所以〉


「御大――私見にございますが、

 “十三歳の少女”とは、可能性の臨界点にある存在ではありませんか」


「子供でもなく、大人でもない。

 現実と夢想の狭間に足を掛け、

 未だ世界の理を確定させていない――」


「故えに、彼女らは容易く“外側”へと触れてしまう」


「たとえば、不思議の国のアリスにおける少女のように。

 内と外、現実と幻想の境界を越え得る器として機能いたします」


「常に進言いたします。

 どの物語においても、彼女を“外へ”送り出すべきかと」


〈第三十八話として〉


「御大。長く現世にお引き留めしてしまい、申し訳ございません。


 私は、貴方の作品を――

 一つの“碑”として受け継いだものと解釈しております」


「我が祖国では、今なお根強い人気がございます。


 しかし――看破せずとも明らかな通り、

 私は東の民にございます。


 この石棺の狭間に立つこともまた、

 その延長にあることかと……」


≪朕は普羅旺斯(プロヴァンス)也――――≫


「良い祝詞ではありませんか……。

 そこは温かい場所なのでしょう……御大」


作者は――ただ、御大に拝謁を願っている。


≪朕は、眠り続けて幾星霜。

 ――“夢見の地(ドリームランド)”に至り、

 さらにその先、カダスをも越えた遥かなる地平に≫


皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


『第三十八話「魔術師は賽を手では振らない-調査編Ⅰ-」』において、


プロットや物語の進行意図を、わずかでも感じ取っていただけたなら幸いです。


御大が亡くなられたのは

1937年3月15日だということです。


今でも生誕祭と命日を祝い、悲しむ信者がいると。


「シャーロキアン」とは違うんでしょうね。

なんて名付けた方が良いのでしょうか?


「そうですね……いえ、失敬。


 名ではなく――彼らは、種として名乗るのかもしれません。

 個ではなく、連なりとして」


「それは恐怖というよりも――

 安定を崩し、理解を歪ませる感覚。

 “アンセットリング”、そして“ディスタービング”と呼ぶべき性質にございます」


「その解釈で、誤りはないのでしょうか。

 御大にこそ、お伺いしたき所存にございます」

 


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