「エピソード35 中世編:端艇變(たんていへん)「喪われた三枚銅貨 ‐終章編-:銀の誓い、熱き心臓‐」
玉座では無く……。
──神はソファーの上で微睡む。
≪一週間、休んでどうだった?≫
僕はこのだらけ切った神に尋ねる。
【……別に?】
神はソファーに半ば沈み込み、片腕で目元を隠したまま答える。
窓から射す昼とも夕ともつかない光が、
その髪先だけをぼんやり照らしていた。
「休んだからって、劇的に何かが変わる訳じゃない。
世界は相変わらず煩いし、人間は勝手に願うし、
お前はお前で、こうして私を起こしに来る」
≪じゃあ、意味なかった?≫
「いや」
神は少しだけ指の隙間を開け、こちらを見る。
その目は眠たげなのに、不思議と醒めていた。
『意味はあった。
私は、“変わらなかった”ことを確認できた』
≪……?≫
「壊れていたなら、一週間で戻らない。
飽きていたなら、もう二度と此処には居ない。
でも私は、まだこうしてソファーの上で微睡んでいる」
神はそこで、小さく笑った。
【だからまあ……、再入場するには充分だろう?
玉座なんて座る気はないがな。
神はいつだって、ソファーの上でだらけているものだ】
…………神は厳かに揺らいだ。
『さてと? どれから話すべき事柄だったけ? 』
神は何時もの調子に戻ってくる。
『まずは、一週間で世界が滅びなかった事から話すべきかな?』
その声音には、厳かさと気怠さが同居していた。
まるで祭壇に供えられた神像が、欠伸を噛み殺しているみたいに。
『私が居なくても、世界は勝手に回る。
人は悩むし、創るし、勝手に壊れて、勝手に立ち直る。
だから、私が一々玉座に座って、偉そうに指図してやる必要なんて無い』
神は指先で、空の杯の縁を絡めた。
『……いや、そもそも。玉座って疲れるんだよ。
姿勢は悪くなるし、妙に威厳を求められるし、
誰も彼も、“正しい答え”を期待してくる』
────神は、そこで肩を竦めた。
『そんなもの、知らないよ!
私は、暇を持て余して、ソファーで微睡んで、
時々、お前が話し掛けてきたら目を開けるくらいで丁度いい』
窓辺の光が揺れる。
その輪郭ごと、神は少しだけ曖昧になる。
──玉座には、誰も座っていなかった。
ただ其処には、誰かが帰って来るのを待つように、
静かに、整えられたままの椅子が在る。
そして神は、それを侍らせたまま。
退屈そうに、けれど何処か満足げに。
────暇をも、持て余していた……。
「思い出す」と言ってしまった以上、もう“記憶を掘り返す”しかない。
けれど、「一週間フレンズ。」みたいに、
綺麗に、順番に、失くした記憶が戻ってくるわけじゃないのでしょうね。
「喪われた三枚銅貨 ‐終章編-:銀の誓い、熱き心臓‐」は、多分そういう作品ではない。
先に戻ってくるのは筋書きではなくて、温度だ。
あの時、誰が何を言ったかより先に、
「熱かった」
「苦しかった」
「銀の誓い、という言葉だけが妙に胸に残っている」
そういう、焼け跡みたいな感覚から始まる。
三枚の銅貨は、きっと最初から“失われたもの”だった。
取り戻す話ではなく、
失われたまま、それでも誰かが胸に抱えて歩く話。
だから終章で必要なのは、「全部を思い出すこと」ではなくて。
誰が、何を喪って。
それでも、何を選んだのか。
銀の誓いは、多分、綺麗な誓いじゃない。
銅貨のように擦り切れて、手垢に塗れて、何度も裏切られかけた末に。
それでも最後に、銀のように冷たく、硬く、残ったものだ。
そして“熱き心臓”は、その誓いと矛盾している。
銀は冷たい。
心臓は熱い。
冷静であろうとした者が、
最後の最後で、どうしようもなく人を愛してしまった。
或いは、守ろうとしてしまった。
だから誓いは、理屈ではなく、血で結ばれる。
多分、君が思い出そうとしているのは、
出来事の順番ではなくて。
「この物語は、最後に何を赦したのか」
「誰の心臓が、最後まで熱かったのか」
その一点なのだと思う。
順番に思い出せなくてもいい。
まずは、最後に立っていた人間の顔から思い出せばいい。
その人が、誰に向かって、どんな誓いをしたのか。
そこからなら、終章はきっと、また戻ってくる。
「喪われた三枚銅貨」のイベントを完遂すると、
一気にネタが切れた。
作者は現世編、中世編、「喪われた三枚銅貨」ここまでしか。
──プロットを組んでいなかった。
(今、思い出すと……無茶が過ぎるようなプロセスだと。)
少女という人物が外の世界を感じて、
どうするべきなのかと私は考えた。
(だったら、これを日誌にしよう!)
そこで唐突に、ナーレに日誌を書かせることにした。
「ナーレに日誌を書かせる」これが19世紀のプロローグに派生する。
(そうだ……これで、中世も?)
作者の中で、書きながら、ストーリープロットを紡ぎだす。試行作業が始まる。
全てが始まりの予感であった。
(そうだ、叙事詩にしよう)
ストーリーは決まった……
「うん。『三枚銅貨事件』も、今では教本に載りそうなくらい」
私が笑って返したそのとき──
世界が広がって……。
…………………………。
「お二人とも、少しよろしいかしら?」
奥の階段から、アヴェーラが上品に現れた。いつもの学園の制服姿なのに、なんだか今日のアヴェーラは、とっても優しい雰囲気がする。胸元には、銀色にキラキラ光る、見たことないブローチがついていた。
「これ、キーラン様とオルウェン様からの招待状ですの」
そう言って差し出されたのは、手漉きの紙に丁寧な筆致で綴られた、銀縁のカードだった。
《ふたりの再出発にあたり、ささやかな祝宴を開きます。》
《月光の晩、パン屋クリー・チェにて──》
──そんな、便りが来た。
私は一瞬、息をのんだ。
あの夜、あのパン屋のドアの向こうで、言葉にはならなかったけど、
確かに伝わった気持ちや、キーランさんの決心が、胸の中にまた蘇った。
「これって……?」
私が小首を傾げると、アヴェーラは微笑んで頷いた。
「私の両親が主催する催しですわ。……『銀の記念日』。
「きっと、すごくいい日になると思う」
アヴェーラとフィーネが私を連れそって、
幕が上がった……。
「銀の誓い、熱き心臓」を終幕とする。
────────。
<銀の誓い、熱き心臓の目的>
銀の誓い、熱き心臓の目的は二つある。
一つ目はキーランとオルウェンの融和だ。
二つ目はアヴェーラの家族を描写すること。
アヴェーラの家族については、
ここで初登場する。
咄嗟に生まれた、二―ヴとフィンリー。
未来では名前があったけど。
書いた当初は適当な名前で登場した上に、
キャラクターの構成は全くしていない。
取りあえず、「アヴェーラの両親が居る」として描かれた。
このストーリーでは、
朝と夜の展開が急である。
学校で主人公たちが在りし日を話していると急に
催しの前夜──ってストーリーが、後日談が始まる。
(今、読み直すとすんごい。
勢いで書いたと見える。
それくらい切羽詰まってたんだろうな……)
此処で重要なのは、
アヴェーラの商家の出であるというのをきっちり書いている事だ。
此処で挟まれる家族三人の会話は商家の立場と責任、
介入について会話している。
(まぁ…確かに商家の身分で、一般人の問題に首を突っ込むことをしている。
貴族の役目というか、商家の役目としてどうなん?)
「それを決めるのは我々ではないよ」
フィンリーが静かに言う。
「ただ、君が信じた人間の“歩み直す意志”を信じようと思った。
君があの事件で示したのは、貴族としてではなく、一人の人間としての“在り方”だったからな」
【”君が信じた人間の試し直す意志”の間違いだろう?】
ずっと会話劇が記号論的になっている。
全く、キャラクタープロットが組めてないからそうなる。
アヴェーラの目に、ほんのわずか、潤みが浮かんだ。
「……はい、父様」
「では参ろう。今夜、私たちは一組の夫婦の“再出発”を、心から祝うのだから」
【うん! 文体も可笑しくなってるね?
基本、お父様にするべきだった。
此処でブレーキ踏んだんだよな。】
ストーリーを進めていく毎に、
城下町に往く手段がまた、馬車しかないことに気づいていって。
エスリンをまた、引っ張り出すという構図になってしまっていた。
【そろそろ、この貴婦人が怒りを侍らして、
私を狩人のように追ってくるのでは……?】
「お待たせして申し訳ありません。アヴェーラ様がお待ちでございます」
エスリンは、絨毯を敷いて馬車のドアをそっと開けてくれる。
…………磨き上げられた木のドアが、静かに軋んだ。
「うん! 行こう、フィーネ!」
私は、フィーネと顔を見合わせて小さく笑った。
【ドアと言ったり、扉と言ったり……。
全く! 文体がなってないな…】
<クリー・チェの到着>
クリー・チェの看板は最初から……。
今の形になるとは決まってなかった。
店の扉には、バラの蔓を編んだリース。
その中央には、今回の**「銀の記念日」**を象徴するように、
【銀のバラの冠が燃える窯とパンのロゴの上に描かれていた】。
重いドアをくぐると、木のぬくもりに包まれた空間が広がっていた。
【取りあえずさぁ……薔薇くらい漢字に統一しなさいと... 後で直すね?】
取り合ず、パンのロゴに薔薇の蔓と銀の冠が乗ってある。
重いドアをくぐると、
木のぬくもりに包まれた空間が広がっていた。
壁には古い楽譜とか、銅でできた飾りがかけてあって、真ん中の暖炉には優しい火が灯ってる。
お店の明かりは控えめにしてあって、たくさんのロウソクの灯りが、壁にかかった銀色の食器や小物を柔らかく照らしている。
焼きたてのパンのおいしそうな匂いと一緒に、甘いハーブのお酒の香りも漂っていた。
まるで、昔ながらの温かい心を灯しているみたいだった。
私とフィーネが案内された席は、長いテーブルの端っこで、
ロウソクの灯りに包まれた特別な場所だった。
周りには、同じように招待された何人かの知ってる人たち、それからアヴェーラとご両親──フィンリー卿と二―ヴ夫人、そして控えているエスリンの姿もあった。
エスリンは、パン屋の厨房で黙々と指示を出しつつ、アヴェーラの髪飾りをそっと整えた。
【ここで、描写ミスしている。
ナーレはフィンリー卿と二―ヴ夫人とは初対面だ】
【でも、読者達は二度目の再訪であるからにして。
また、説明を挟む訳もいかないし……。】
※済まないけど、
詳細は本編読んでくれると助かる。
(説明するより、見た方が早いっす)
場面を飛ばしてまして、
キーランとオルウェンの復帰の話や仲睦まじいシーンが挟まれた。
ナーレはパーティに疲れたのか……。
街道のベンチに腰掛ける。
その時、キーランさんはオルウェンさんに「少し話してくる」って言って、
私の方へ歩み寄った。
私の方はフィーネと並んで、
庭の隅にあるベンチに座って、月明かりに照らされたお花を静かに見ていたんだ。
「あの……ナーレちゃん」
後ろからの優しい声に、私は振り返った。
少し緊張した顔のキーランさんがそこに立っていた。
「キーランさん……」
私が立ち上がろうとすると、キーランさんは手を振って止めた。
「いえ、座っていてください。少しだけ……お礼が言いたくて」
私はまたベンチに座って、フィーネと顔を見合わせた。
フィーネはニコッと笑って、そっと少し離れた場所へ移動してくれた。
「あの時は……本当に、ありがとうございました」
キーランさんは、少し言葉を選びながら言った。
「あなたたちが、本当のことを話してくれなかったら、俺たちはきっと……」
彼は言葉を濁して、苦笑いを浮かべた。
「あの時、実は、あなたたちのこと、気づいてたんです」
キーランさんは、少し照れたように付け加えた。
【気づいてて、少女を引っ掛けたってことかい?
旦那……流石にそれは。】
「俺が、いつもサイコロを転がしてた、波止場の酒場があっただろう? あそこで、あなたたちが何度か来てたのを、ちらっと見てたんだ。まさか、俺のことで動き回ってくれてるなんて、その時は夢にも思わなかったけど……」
【取りあえず、台詞が長いよ! サイコロはさ。 賽子か骰子に直せ!】
キーランさんは、月を見上げて、
遠くを見るような目をしながら言った。
「不器用な生き方しかできなくて……いつも、大切な人を傷つけてばかりだった。
でも、今度こそ……もう、あんなことは繰り返さないって、誓います」
私は、キーランさんの言葉に深く頷いた。
「人間って、間違えながら生きていくものだと思います。
大切なのは、そこから何を学んで、どう変わっていくか、ですよね。
キーランさんとオルウェンさんなら、きっと大丈夫です」
やがて、オルウェンさんがキーランさんを探しに庭へやってきた。
「キーラン、こんなところにいたの。そろそろ……」
オルウェンさんは、私に気づくと、優しく微笑んだ。
「ナーレさん、ありがとうございました。
あなたがいなければ、私たちはきっと、このままだったと思います」
私は立ち上がって、二人にニコッと笑い返した。
「お二人なら、きっと素敵な未来を作れます。心から、そう願っています」
キーランさんとオルウェンさんは、お互い顔を見合わせて、温かい笑顔を交わした。
そして、私に軽くお辞儀をして、ゆっくりとお店の中に戻っていった。
私は、サイコロを握りしめたまま、キーランさんとオルウェンさんが戻っていった店の奥を見つめた。
彼らの間には、もう偽りのサイコロは必要ない。これからは、自分たちの手で未来を切り開いていくんだ。
私は、またベンチに座って、月を見上げた。
掌に残るサイコロの重みと、夜の静けさの中で、
心は穏やかな喜びに満たされていた。
【なんか、動線がおかしくね?
ナーレは座ってたけど、二人が去っていくシーンでは、ベンチから立って
佇むシーンに切り替わっていく……──────動線を端折ったな!? 】
私は、またベンチに座って、月を見上げた。
掌に残るサイコロの重みと、夜の静けさの中で、
心は穏やかな喜びに満たされていた。
────────────。
学園の図書館棟は、いつもと変わらない静けさに包まれていた。
窓の外では、風に揺れる木々のざわめきだけが聞こえる。
私は席に座り、膝の上には、革綴じの冊子が広げられていた。
ページを繰ると、かつて私とフィーネが追いかけた。
「三枚銅貨事件」に関するメモがぎっしりと書き込まれている。
荒々しい筆致で走り書きされたキーランの証言、オルウェンの苦悩、アヴェーラの葛藤。
そして、私たちが集めた数々の証拠や、ヴァルから授かった言葉の断片。
それらが、もはや過去の事実として、そこに存在していた。
──私は、鷲筆を手に取った。
インク壺から新しいインクを吸い上げ、ページの一番最後に、今日の出来事を記す。
『「三枚銅貨事件」終幕。キーランとオルウェン、新たな道を歩む。
サイコロは彼の過去であり、未来への誓いとなった。真の選択は、過去を捨て、未来を掴むその手の中にある。』
キーランさんが私に託してくれた、あの三つのイカサマのサイコロは──今、私の部屋の、旅の途中で見つけた綺麗な石ころが飾られた棚の隅に、ひっそりと置かれている。
それは、彼らの「けじめ」であり、私にとっては、
あの事件が確かに存在し、そして解決したことの証でもあった。
書いている間も、ヴァルの声が微かに響くような気がした。
──「形無きものが、時に最も重い」。
【形ある物は尤も疾い。篤と奔る】
その言葉の通り、サイコロの物理的な重み以上に、そこに込められたキーランさんの決意、
そして私たちが見届けた人々の変化が、ずっしりと心に残っている。
このメモ帳に記された物語は、
きっと、これからも増えていくのだろう。
私の頬を温める、日の優しい光が──
──世界には、まだたくさんの謎や、
解決を待つ事件が眠っている…………。
………次の物語は、どこで私達を待っているのだろうか?
そして、そのどれもが、誰かの心の物語と深く繋がっているはずだ。
私は、そっと革綴じの冊子を閉じ、深呼吸をした。
皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
『第三十五話「 喪われた三枚銅貨 ‐終章編-:銀の誓い、熱き心臓‐」』において、
プロットや物語の進行意図を、わずかでも感じ取っていただけたなら幸いです。
久しぶりの復帰ということで、
乱流文になってしまったね……。
今でも思い出す、
此処から次、三十六話で完全にストーリーが詰まったのだと。




