「エピソード27 中世編:ValeurとNáire『ナーレとヴァルの日』」
≪それで、完全回復ってわけか? ちなみに、これからやる意味は何だ?≫
俺は、相手の意図が読めずに問い返した。
【ああ……特に深い理由はない。寝起きで、朝食前なだけさ。
眠気が残っている以外は、五体満足だよ】
────どうにも、しっくりこない答えが返ってきた。
【君の意味を、読者たちが忘れてしまったんじゃないかと思ってね。
あの時は『観念と理念』で説明したけれど、覚えているかな?】
≪確かに、そのシステムについては議論したはずだ。
何が不満なのか、さっぱり分からん≫
【あの時の君は、ずいぶんやんちゃだった。今じゃすっかり父性に目覚めちまって。
あの尖っていたヴァルはどこに行ったんだろうな? 『貴様』だっけ?
……まったく、少女相手に『貴様』とは、なかなか強烈な語録だと思うよ】
≪結局……何がしたいんだよ≫
【たまには、君とコミュニケーションを取る必要があると思ったんだよ♪】
【君とナーレはアフターストーリーでは五日経ったと言っていたな?
正確には、十三年と五日間だろう。……そこ、どう思う?】
≪お前が設定厨なのは分かるが、それ以外は分かるわけないだろ≫
【まぁ……そこはいいか。『悪魔憑き』の設定は、これからの話だし、一旦スルーしようか?】
≪いや、爆弾みたいな前振りをするのはやめてくれないか?≫
【さすがにね? なろう系読者なら、『悪魔憑き』がどういう状態なのか察したんじゃないかな。
君が守護霊と言っているけれど、傍から見ればイマジナリーフレンドにしか見えないわけだし。
……これで、メインストーリーの謎は一応解明、かな】
≪いやいや、ネタばらしするな! そこでQ.E.Dに持っていくんじゃない!≫
【なんだよ、君はナーレといちゃつきたいってことか?
まあ……いいけどさ。
でも、変だろ? アヴェーラとフィーネも、その話には触れていないんだよね。
……君は気づいていた?】
≪あのですね、深淵をちらちら覗かせるのはやめてもらえませんか?≫
【で、話を変えるんだけど。ティダルト宗教は『五神体』で、五大元素と絡めている。
これについては理解しているかな?】
≪まあ、これは簡易的な枠組みでいいとしてだ。
だが、上位・中位・下位とランク分けした理由は何なんだ?≫
【それはね、ヴァル。最初の設計としては、
バトル方面に進んだ場合に、各個人の優劣を分かりやすく示すためだったんだ。
もっとも、ティダルト宗教そのものに、五大元素の上位・中位・下位という明確な階層は存在しない。
あるのは、あくまで各個人が主観的に「上位」「中位」「下位」と判断する枠組みだけなんだよ】
≪なんだそれ?≫
【ティダルト宗教では、力の発現や効力そのものを可視化していないんだ。
彼らは普通に力を発動させるけれど、それを「神の力によるもの」と認識している。
実際のところは、「マナ」と「オド」の関係性に基づいている。
力や効力と呼ばれるものは、人体が「オド」で構成されているからこそ成立しているんだ】
≪でも、魔法はないんだろ?≫
【魔法らしい魔法は、あまり出てこないね……。
実際は、魔法というより技術で代替してごまかしている感じだけど】
≪─────≫
【最新話で、エレベーターを動かしているんだ。
あれは、木の歯車が回っただけと説明するには少し難しい。
玉を装填したらエレベーターが降りてくるという仕組みは、普通に考えると少し不思議だろ?】
【だからね、今のナーレの世界は、どこか歪なんだ。
あの玉は、「魔法石」に相当するものなんじゃないかと考えている。
それについて、少し説明させてもらうね】
≪また、難しいんだろ?≫
【いや、実はすごく単純なんだ。
昔、私が幼い頃、オネショタに影響されて作っていたストーリーがあってね。
『サッカバス&ヴァルキリヤ』という話なんだけど。
その世界では、正確には過去の時代になるが、「魔法石」を用いた魔法工学が発展していたんだ。
だから、ナーレの世界にも応用できるかなと思ったわけさ】
【……というのが、私なりの考察だ。
ほとんど無意識に、少しやんちゃをしてしまったのかもしれないね。
昔作っていた物語、サッカバス&ヴァルキリヤ の世界観から、自然と影響が出たのだと思う】
≪主よ? それはまだ未発表の作品です。
貴方の頭の中にしか存在しません≫
【無論、あの世界とは違う。
あの素晴しい愛をもう一度 のような世界観ではないけれど、
あれもタイムワープや時間旅行を題材にしているから、方向性としては近いのかもしれないね】
【十三年という月日を、現実として積み重ねてきたこの物語は、おそらく一生語られないかもしれない。
これはあくまで私の考察であり、あとは読者の想像に委ねたいと思う。
過去に何があったのか――その描写は、アフターストーリーで描く予定だ。
改めて、私自身も、その世界をもう一度考察してみたいと思っている】
≪いや、いったい何を考察するんだよ?≫
【君の生態、というか中性的な設定についてかな。
正確に言うなら、「両性具有に近い在り方」とでも言うべきかもしれないね】
≪俺が「両性具有」───!?≫
【ああ、うん。性別は男にも女にも変化する。
見た目の話だけどね。……一応、両性具有に近い在り方、ということさ】
≪……俺のアイデンティティとは何なんだ?≫
【君は、神聖性を帯びた存在であって、
神学的な意味での神というよりは、最初は天使に近いイメージだったんだ。
だからこそ、「両性具有」に近い性質を与えている】
≪いや! 寿命と信奉者の意味はどうなっているんだ!?≫
【ああ、それはね。日本の神道的なアニミズム思想から少し影響を受けているんだ。
信奉されなくなると力が弱まる、という考え方だね。
神という存在はそういう性質を持ちやすいと思っている。
君の力を完全に発揮するには信奉者が必要だし、
もし上位の領域に行きたいなら、なおさら信奉者の存在が意味を持つんだ】
≪いや……それ、どういう意味なんだ?≫
【ヴァル君は、設定の矛盾が生む心理的圧迫というものを、あまり意識していないね。
君は今、物語上の岐路の中心に立っているんだよ】
【だから、徐々に君を表舞台に出しているんだ。
「エスコート」は頼んだよ?】
≪いや、俺に神聖性はいらない。このままでいい!≫
【いやあ、それは困るな。ちょっと受け入れられない。
二代目と三代目の存在設計に影響が出てしまうからね】
【それに、舞踏会や模擬戦もやりたいと言っていただろう?
ナーレだけでは流石に負担が大きいからね。
代わりに、君が「エスコート」をしてくれないか?】
この後、二人は、どうしようもないほどに言葉を交わし合い、
軽く舌禍めいたやり取りを続けたのだった。
皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
『第二十七話「ナーレとヴァルの日」』において、プロットや物語の進行意図を、わずかでも感じ取っていただければ幸いです。
さて、ヴァルとは、もう少し「おはなし」が必要かもしれません。
場合によっては、地に伏してもらい、接吻を捧げてもらうくらいの覚悟があってもいいでしょう。
私が、神として崇め奉られる存在であると、彼に認識して貰うまでは――。




