「エピソード20 中世編:丹念な誕生『ナーレが選別される時』」
ナーレにしてみれば──
そうだ。
それは、あまりにも盛大な誕生日だった。
けれど彼女は、どこかで思っている。
「自分自身はまだ、スタート・グリッドにすら立っていないはずだ」と。
だから、きっと。
そう──なのだろう。
【だったら……
君が望まぬかたちで、
しかも君自身が招いた形でだ。
盛大に祝ってやろうじゃないか】
【祝福は、やがて“セレモニー”へと変わる。
誰一人逃れ得ぬ、定められた“儀式”──
その循環の中で……
この世に蔓延る無数のスタート・グリッドへ、
君という存在を繋ぎ留めてやろう】
≪ナーレは、今日で十三歳になる──。≫
【誰が決めた?
君の両親か。それとも──】
≪君自身が望んで、
人の子として生まれたかったのか?≫
新たな“セレモニー”が、静かに産声を上げ、
彼女の目の前に立ちはだかる。
それは、まだはっきりとは見えない。
けれど確かにそこにある、
未来の影を映していた。
≪それは太古より、悠久の鬨を挙げて──。
苔を生し、あまりに見慣れ果て、
ずっと前から、そこにあるもの。
逸れて、逸れて、逸れて──。
それでもなお、
絶対に揺るがぬ場所に在る。≫
墓石に刻んだ方が良い。
オガム文字として、フルサクでも構わないが。
※多くの言語、死語に感謝を。
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ᛁᛅᚱᚦ ᛏᚢ ᛁᛅᚱᚦ
ᛅᛋᚼ ᛏᚢ ᛅᛋᚼ ᛏᚢᛋᛏ ᛏᚢ ᛏᚢᛋᛏ
ᛒᛁᚾᛁᛅᚦ ᚦᚢ ᛋᚢᚾ
ᛅᚾᛏ ᚦᚢ ᛘᚢᚾ
ᛁᛏ ᛒᚱᛁᚾᚴᛋ ᛘᛁ ᛋᚢᚠᚠᛁᚱᛁᚾᚴ
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ᛁ ᚼᛅᚠ ᛚᛁᛅᚱᚾᛏ ᛒᛅᛁᚾ
ᛅᚾᛏ ᛚᛁᛅᚱᚾᛏ ᛘᚢᚱᚾᛁᚾᚴ
ᛖᚨᚱᚦ ᛏᛟ ᛖᚨᚱᚦ
ᚨᛋᚺ ᛏᛟ ᚨᛋᚺ ᛞᚢᛋᛏ ᛏᛟ ᛞᚢᛋᛏ
ᛒᛖᚾᛖᚨᚦ ᚦᛖ ᛋᚢᚾ
ᚨᚾᛞ ᚦᛖ ᛗᛟᛟᚾ
ᛁᛏ ᛒᚱᛁᚾᚷᛋ ᛗᛖ ᛋᚢᚠᚠᛖᚱᛁᚾᚷ
ᛁ ᚺᚨᚠᛖ ᛚᛖᚨᚱᚾᛖᛞ ᛈᚨᛁᚾ
ᚨᚾᛞ ᛚᛖᚨᚱᚾᛖᛞ ᛗᛟᚢᚱᚾᛁᚾᚷ
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᚛ᚔᚏᚈᚈᚑᚔᚏᚈᚈ
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同じことを何度も口にした。
きっと……三度目もある筈──。
それは、ずっとあることで──……。
逃れることが出来ないから。
作者として、ナーレを冒険へと送り出そうと考えたとき、まず悩んだのは彼女の年齢だった。
彼女を冒険させるということは、
結局のところ――
彼女を、独り立ちさせるということに他ならない。
彼女の生まれ年については、
こちユルの世界ではあえて銘記していない。
そこで──
季節だけを、アイルランドのユールの日の近くに置くことにした。
そのため、第二章は初秋から始まることになる。
(作者の生まれ月が九月であることもあり、
その季節に、最も親近感を覚えたからに他ならない。)
【それにしても、困ったな。
改めて、味付けを替えないと。】
作者はここで、ひとつまみとして、
彼女の家や、両親について。
深く掘り下げなければならなくなった。
そして――
やっとのことで、
ナーレの両親について、言及し始めた。
彼女を祝うべき参加者について、
改めてキャスティングを設えた。
母であるシャイマーについては、
すでにナーレの自己紹介の中で
その身分に触れているため、
ここでは名前のみとすることに。
(彼女は金髪で、長い髪を持ち、
今は少しふくよかになっている。
だが、その点については
あえて言及しなくていいだろう。)
父であるアレフ――本名はゴールドウェイ・コナート・アレフ。
赤茶けた短髪に、顎髭をたくわえた男である。
もっとも、この時点ではまだ「ゴールドウェイ・コナート」という姓は存在していない。
彼について明らかになっているのは、
曾祖父にあたる人物が王族の分家に連なる血筋であった、という一点のみだった。
(その曾祖父が身分を投げ捨て、自由奔放な生活を夢見て土地の権利書を持ち逃げしたこと。
そして、それに端を発するどうしようもない“後日譚”が用意されていることは、
読者たちには伏せられたまま、物語は進んでいく。)
(また、彼がかつて修道士であったことも事実である。
だが、その要素は酒造り――すなわち「呑み」の話題として触れられるのみで、
修道士という設定はほとんど回収されていない。
そのことに作者自身が業を煮やし、慌てて“後日譚”を差し挟んだのは、
おそらく読者にも察せられているところだろう。)
そんなこんなで、読者もナーレも、
一週間フレンズよろしく――
作者に、きっちり待たされることになった。
≪アヴェーラとの“お願い”から、一週間が経った≫
というのも、予定が全く以て合わなかったのだ。
特にアヴェーラとナーレは、それぞれ家業の手伝いに駆り出されることが多く、
食堂棟での会議は決まっても、なかなか日程の折り合いがつかない。
私にしてみれば、あの“お願い”には巻き込まれたような形だったが、
無理な話だと思いつつも、どこか心惹かれていたのも確かだった。
そんな日々の延長線上で──
私自身、すっかり忘れていた“ある日”がやってくる。
そう、今日は誕生日なのだ。
【なんで、忘れていたのだろうか?】
【……そう。こういうイベントって、いつの間にかただの“セレモニー”になるのよね?
誰にだって逃れられない。決まった流れの只中にある“儀式”──】
「選別の儀」──誰もが受ける。
逃げられない通過儀礼。
選ぶことすらできない“選別”が、
今から始まろうとしている……。
【選べることもあるわよ──「やる」か、「本気でやる」か、それとも「やらない」か、くらいは……?】
誰にでも訪れる、避けられない“その日”。
私達にとって、それが今日だった──。
父は私の誕生日を「これ幸い」とばかりに、
自家製ビールをたっぷり飲み、最後は母・シャイマーにおんぶされて寝室へ運ばれていく。
その様な感嘆な日を私はもう、
十二回も見てきた……。
だからと言って、父が催すイベントを母と私は、
半ば“日常”として受け入れていたし、
それがある意味では“幸せ”と認知していた。
お父さんに欠点はほとんど見当たらない。
人当たりもよくて仲間思いで、信頼も厚い。
家に帰ってくると、一転して“甘々”な、お父さんに変わり果てた。
仕事人間な分、家ではもう完全に独りの父となる。
四六時中、私と母にベタベタしてきたり、やたらと世話を焼いてきたり。
此のイベント毎に、時は全力で盛り上がって──、
数時間も経たないうちに「できあがって」しまうの。
特別豪華な食事が出るわけじゃない。
いつものパンに、ちょっと彩りを足したスープが付くくらい。
あたりは静まり返っていた。
夜もすっかり更けて──。
うちの周りは民家も少ない、
遠くにポツポツと民家の明かりが灯っているだけ。
「……お父さん、帰ってこないかな?」
私は玄関の前に立って、夜深し情景を見つめた。
けれど、聞こえてくるのは、
海辺の音と風車が回る音だけ。
静かな夜の空気が辺りをすっかり包んでいた……。
と、やがて「びちゃ、びちゃ」と地面を踏みしめる足音と、
「きゅる、きゅる」と山車の軋む音が遠くから混ざり合って。
──であるからにして、
その明かりの下で待ち続けた。
「おーい! 今、帰ったぞー!」
お父さんの声が闇の中から届いた。
月夜に照らされた父、
その手を振る影がぼんやり見えた。
「待ちくたびれたよ!」
灯りの下に現れたお父さんの山車の上には、
雄鶏が三羽積まれていた。
「……え、なんで鶏があるの?」
【君を祝う為だ。そうだろ?】
「仲間たちからのプレゼントだってさ。今日はごちそうだぞ♪」
「えぇ!? 三羽も? もらって大丈夫なの?」
【ヘーキヘーキ。盛大に祝おう】
「へーきへーき。全部雄だし、しかも年寄りだってよ」
近づいて見てみると、
たしかにどの鶏もやせ細っていて、
ちょっとくたびれた感じがした。
【────生きた証だ。たぁんと、お食べ。】
「……とりあえず、シャイマーに見てもらって、
料理してもらおうか」
「うん、お母さんにお願いしよう」
そうして家に入った、
その瞬間──雷が落ちた。
「ちょっとあなたたち! それ、なに持ち込んでるの!」
【これかい? あぁ──凄く神聖な精霊を食べようとしているところさ】
シャイマーは、汚れきった靴先と、山車の上の荷を、鋭く見やった。
「えっと……雄鶏だよ、お母さん」
アレフは、 まるで“そこにあるべきもの”を告げるように、
当然のことを口にした
「見たら分かるわよ! 床が汚れちゃったじゃない!」
シャイマーは、この時代としてはあり得ないほど、
奇麗好きな女性だった。
「あとで掃除するって、シャイマー。俺が汚したんだから」
アレフは、それ以上この件に触れるつもりはないらしい。
農家というのは、
案外、奇麗好きなものなのだろう。
「また夢の住人にならないといいけど……心配だわ」
シャイマーは過去の経験則」から愚痴をこぼした。
「じゃあ、今のうちに掃除すればいいよね?」
【そうかな?
誕生日をやってからでよくない?
どうせ、君の父君は“戦力外”になるかもしれないし】
父は、鶏を母に押しつけた。
その視線は一瞬だけ泳ぎ、
逡巡したようにも見えた。
「たしかにな。……よし、
シャイマー、なんか料理できそうなの見繕ってくれ」
「はいはい、何か作るわよ」
お母さんはしぶしぶと鶏を受け取り、台所へ向かっていった。
「さて、掃除でもするか。
なあ、ナーレも手伝ってくれるだろ?」
「えっ、私も?」
「そりゃそうさ。
二人で汚したんだから」
【正確には、父君が雄鶏を処理せずに持ち帰ったのが、
そもそもの原因さ。ナーレ】
「……わかったよ、手伝う」
「それでこそ俺の娘だ!」
そう言ってお父さんは私をひょいっと抱き上げて、顔を擦り寄せてくる。
「痛いってば! 顎ひげがチクチクする!」
「おっと、すまんすまん」
ようやく解放されて、私は頬をさすった。
「ねえお父さん、それっていつまで続けるつもり?」
【君が本当に独り立ちできるまでさ】
「お前が立派なレディーになったらな」
「私、今日からレディーだよ?」
【“レディー”と呼べるだけの覚悟と経験が伴った時、ということかい?
それとも――
その覚悟は、日ごとに揺らぐものなのか?】
「そんな青くさいこと言ってるうちは、まだまだだな」
「ふーんだ!」
私はぷくっとほっぺをふくらませて、反抗してみせた。
【──その膨らんだ両頬を指で突っついた。
さて、君はどれくらいまで我慢ができるのか?】
「やっぱり、まだまだレディーには遠いなあ」
ムキになって、私は更にふくれっ面になる。
(だって、もう十三歳なんだから。
立派なレディーって言ってもいいと思う)
「いつか絶対、
ぎゃふんって言わせてやるんだから!」
【では、覚悟を見届けよう】
「ぎゃふん!」
お父さんはニカッと笑って、そう言うと掃除用具を取りに収納部屋へ向かった。
「もーう、お父さん!」
私は文句を言いながらも、あわてて後を追いかけていった。
【さて、どうやって調理しようか?
君をどうやって──】
【君をどうやって──
神に対面させてあげようかっな?】
皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
『第二十話「ナーレが選別される時」』につきまして、
そのプロットや物語進行の意図を、少しでも感じ取っていただけていれば幸いです。
【投稿が遅くなり、申し訳ございません。】
一つの区切りとして、
どのように描けばよいのか悩んだのが実情でした。
ナーレと“神”をマリアージュさせるために、
その前段として、誕生日を少し盛大に祝ってもらう流れにしています。
【だって、この後に闖入者:ヴァルが出てきますし、
この後の生活も、だいぶ珍道中みたいな感じになりますしね】
次回から、物語の空気が少し変わります。
よろしければ、引き続きお付き合いください。
【それは、私なりに劇的な出会いであり、
私なりの運命であって、私なりの神様だった】
≪雷兆と共に来りて──
悪魔と神が祝詞を詠み、双璧を為す≫
【──万物を白に焼き尽くすかのような稲光が、
雲間を裂き、天を撃ち貫いた。
それは先刻の宣告にして──
世界は、白く塗り潰されたカンヴァスとなる】
第二十一話『雷兆と共に来りて』
──腰が重い神、まさかのA-10でご来場。




