「エピソード19 中世編:予測してない隙間『 アヴェーラのお願い』」
あなたは、
きっとこう思っているはずです。
「何も起きない、普通の日常ファンタジーだ」と。
――その認識は、正しい。
今のところは。
これは、
作者にとって。
そしてこの作品にとって。
最初のイベント回です。
派手な事件は起きません。
大きな謎も、まだ提示されない。
静かで、冗長で、余韻だけが残る導入。
だからあなたは、
途中でこう感じるでしょう。
「あっ、ミステリーをやるんだね?」
ええ、
そう思ってくれて構いません。
それもまた――
想定通りです。
ですが、ひとつだけ覚えておいてください。
ここであなたが見ているものは、物語ではありません。
選別です。
この作品が単なるファンタジーで、
神話の再話で、哲学小説でもあると、気づかせないため。
目に見える場所には、
徹底して「日常」しか置いていません。
安心できる風景。
馴染みのある空気。
それが、
深淵に続くだんだら坂だとも知らずに。
今、あなたはまだ地上にいます。
足元は安定しているように見えるでしょう。
けれど――
もう、下り始めています。
気づいた時には、
引き返せない場所にいる。
この物語は、そういう作りです。
どうか、
そのまま歩いてください。
それが、ここまで辿り着いた
あなたへの――
最初の招待です。
『どうか、末期まで此処に居てくださいませ。
荼毘に臥せる時まで、看取ってあげます。
貴方が最高の冒険譚を奔った冒険者であることに』
賛歌を────
ここに捧げましょう。
これは祝福ではありません。
慰めでも、救済でもない。
あなたが歩き、
選び、踏み外し、
それでも進んだという事実だけを
最後まで見届けるための言葉です。
物語は、あなたを導きません。
優しくも、親切でもない。
ただ、記録するだけです。
ここに居続けたこと。
最後まで読んだこと。
目を逸らさなかったこと。
それだけで、
あなたはもう――
冒険者でした。
さあ。
賛歌は歌われました。
あとは、
物語が終わるその瞬間まで、
静かに、共に歩きましょう。
エンディングの準備は、
すでに整えられている。
唯――
そこに辿り着くまでの旅路は、
長く、果てしない。
長い。
長い。
長い。
長い……巡礼の道。
これは人の歩む道ではなく、
神々が紡ぎし原罪の軌跡。
歩む者は、誰も逃れられぬ。
そして、歩みを止めた者の名は、
風に消え、星に溶けるのみ。
だがあなた――
歩き続ける者よ。
その足跡は、
やがて神話に刻まれる。
冒険者として、英雄として、
最後の賛歌の中で語られるために。
さあ。
巡礼の果てに待つものは、
救済でも祝福でもない。
ただ、荼毘に臥す時まで、
あなたの旅路を見守る――
神々の静かな眼差しのみ。
その覚悟があるなら、
歩みを止めるな。
あなたは今、
物語の読者ではない。
神話の巡礼者なのかもしれません。
一旦、メーテール学園の設定を説明しよう。
この学園は、私の母校である『専門学校』をイメージして作られている。
場所は八王子にあるキャンパスで、作品の舞台背景としても頻繁に登場する。
実際の食堂棟(三階建て)から学生棟は約十五分ぐらいの距離だ。
とても辺鄙というか、駅から十分前後、坂を登る位置にキャンパスがある。
私はそこのIT......おっと。
このままだと母校に迷惑が掛かるな。
取りあえず、私はそこのOB。
取りあえず、作品説明に戻ろう?
作者はアヴェーラ、ナーレ、フィーネの三人を軸に、人情劇を描くことを目指した。
序盤は、比較的素直に三人の関係性を描けていたように思う。
しかし、最新話にかけては、彼女たちの人間関係に微妙な歪みや複雑さを少しずつ加え始めた。
通称「食堂棟」と呼ばれるその建物は五階建てで、
実際に食堂として利用されているのは一階から三階までである。
残る四階と五階には、学院で行われる入学式や卒業式の備品が保管されており、
必要に応じて学院側が使用する空間となっている。
つまり、この建物は学院の就職活動の一環としても機能しており、
修道院による斡旋や就労情報の提供などが行われる場所でもあるのだ。
この描写は、実際に私が経験した専門学校での体験に基づいている。
母校では、食堂棟の上部で就活セミナーや企業面談が行われていたのだ。
そのため、ナーレの学校も専門学校として設定しつつ、修道院的な役割を持たせた。
つまるところ、これは『滅私奉公』を成立させるためのシステムである。
たとえば──報酬を受け取る場合、その一割は喜捨しなければならない。
また、男性と一緒に働いてはならない──
これらの制限は宗教観に基づくものである。
キリスト教の喜捨の概念を反映し、また男女間で淫らな行為が起こらないように配慮したに過ぎない。
『滅私奉公』というシステムの下では、学生の就職は修道院の斡旋が中心となる。
提供される就労情報も、修道院の規模や方針に沿った内容に限定される。
つまり、このシステムはきちんと選別された学生を企業へ送り込むための、就職用のエスカレーターとして機能しているのである。
システム面についての説明は一旦ここまでにして、本文を進めることにしよう。
ここまでの解説は、あくまで前書きに過ぎない。
ナーレ一行は学院の三階にある食堂でようやく席についた。
食堂棟からは灰色がかった空の下に、茶色と茜色に染まる森や野原が広がっている。
遠くまで続くその景色は、まるで秋模様。
時おり雲の切れ間から太陽が差し込み、噴水の飛沫に反射して、一瞬だけ虹がかかる。
その虹を見たナーレは、思わず顔をしかめた。
頭の中をよぎるのは──
忌まわしき“ジャムパン生活”の記憶。
(……また虹。前もこんな感じだった……)
ナーレは三週間、三食ジャムパンという地獄から未だに解放されていない。
両親は「味が違って楽しいね」などと喜んでいたが、ナーレは一日でギブアップだった。
ナーレが「ぐぬぬ……」と苦悶する。
その様子を見て、作者の頭には虹のイメージが浮かぶ。
しかし同時に、虹を見たときの記憶は反比例のように蘇る──
「今度こそ救われるかもしれない」と思うと、
また落とされるだろう、というサンドイッチのような気分が心を締めつけた。
(いくら味が違っても、パンはパンなのよ……)
(お願い、せめて今回はパン以外を……!)
ナーレは胸の中で切実に祈った。
作者もまた、同じメニューは三日で飽きてしまう。
せめてピザトーストなら良いのに、と心の中で思う。
(中世ではカマンベールチーズもナチュラルチーズもないから、
せめて私はナーレに食べさせてあげたいのだけれど……)
「それで~、お願いごとなのですが♪」
アヴェーラは長い髪を指先でくるくるいじりながら、ナーレを見た。
「ナーレに、お手伝いをお願いしたいんですの」
声の調子からして“どうしても”というほどではないが、
「できればぜひ」と言いたげな雰囲気だった。
【うわっ……出た。】
作者はナーレよりも、彼女のちょっとした癖をよく知っていた。
作者は女性が非常に苦手である。
可能であれば、その値踏みするような雰囲気を察知しないようにアンテナをへし折った方が、
最も早くゴールインできたかもしれない、と内心で思った。
「お手伝いって……どんなことなの?」
ナーレは慎重にアヴェーラに尋ねる。
どうせまた、厄介な話に違いない──そんな予感がしていた。
「実は、中央街に我が家が経営しているパン屋があるんですの」
アヴェーラはまた髪をいじり始めた。
(そのクセ、出た……)
ナーレもが彼女がソレをやるときは、大抵。
面倒ごとが舞い込むサインだった。
「そのパン屋の奥様から、ちょっと変な話を聞きまして……」
此処で作者はすかざす、
安全圏でぶらぶらしているであろうフィーネを引きずろうとした。
【おい! 保護者の一員?
ぶらぶらしてないで、矢面に出てこい!】
「できればナーレと、それからフィーネも一緒に来てほしいのですわ」
「ちょ、ちょっと待った! なんで私まで!?」
安全圏にいると思っていたフィーネが、予想外の指名に動揺する。
「だって、フィーネがいないと収拾がつかなくなるんですもの」
アヴェーラはちらりとナーレを見て言った。
「確かにナーレって、すぐ制御不能になるし……。
この子、ルールの穴を見つけると全力で突っ込んでくるから。
ルールそのものを守ろうって気が、そもそも毛ほどもないんじゃない?」
フィーネもアヴェーラに呼応するようにちらりとナーレを見て言った。
【あぁ……うん。ごめんね、二人とも。
ナーレは自然体というか、ね……】
作者はナーレを、まるで女性版の自分自身のような存在だと思っていた。
だが、現実は予想以上だった──
ナーレは微妙な仕草ひとつで空気を掌握し、誰もその心の内を読めない。
「操作可能だ」と思った瞬間に、すでに流れは彼女の自由の中にある。
(うわっ……こ、これは……予想を超えた!)
作者の頭の中は軽くパニック状態だ。
どうすれば思い通りに動かせるのか、計算も戦略も一瞬で吹き飛ぶ。
それでも、無意識にナーレの行動を追ってしまう。
理屈ではなく、ただただ引き寄せられるように──
操作不能の自由さに、翻弄されながらも心がつい動いてしまうのだった。
「失礼ね。ちゃんと守ってるわよ? 時と場合によって、だけど」
ナーレはムッとした表情で反論する。
(ルールに穴があるのが悪いのよ。無ければ試したくなんてならないもの)
「まぁまぁ、おふたりは仲良しですわね♪」
アヴェーラは相変わらず穏やかに微笑んでいた。
「それで──パン屋の奥様のお話なんですが、よく分からないんですの。
でも、早急に解決したいようでして……」
彼女達は席に座り直し、アヴェーラが話を続けた。
「奥様がおっしゃるには、一日に三回──朝・昼・夕の売上を清算するらしいのですけど、
昼の清算のときだけ、必ず銅貨が一枚足りないんですって」
「ただの数え間違いじゃないの?」
ナーレは眉をひそめる。
「でも奥様いわく、朝と夕はきちんと三枚合ってるのに、
昼の時だけ必ず一枚足りないそうですの。
売上は一日で銅貨三枚が平均、つまり一回の清算で一枚ずつのはずなのに」
アヴェーラはナーレの質問に返した。
「つまり、昼の分だけ消えてるってことね……」
フィーネも疑わしそうに首をかしげる。
【ふ~ん? 中世でも変なことが起きるんだなぁ】
「ご主人の言うには──“銅貨一枚なんて、どっか行って帰ってきただけだろう”って」
アヴェーラは困ったような顔で言った。
「何それ……意味わかんないんだけど」
ナーレもフィーネも絶句した。
「とにかく奥様から、どうかこの謎を解いてほしいとお願いされたのです」
アヴェーラは、じっとナーレに視線を送ってくる。
(うわぁ……これはまた厄介な……!)
ナーレは面倒事に関わりたくない様子だ。
【──嘘だな。
奥様は何か知っているに違いない】
作者は、女性という存在を完全には信じ切っていなかった。
彼女たちは、信じたいものを信じる傾向がある──
だから、表面の言葉だけを信じてはいけない、と直感的に理解していたのだ。
「でも、そろそろ選別の儀もあるじゃない? その後でもいいんじゃない?」
フィーネがここぞとばかりにナーレに助け舟を出す。
「そうよ! まずは選別の儀を乗り越えないと!」
ナーレはすぐにその案に飛びついた。
「……仕方ないですわね。選別の儀のあとで、お互いに日程が合えば、調査することにしましょうか」
アヴェーラは渋々といった様子で、折れてくれた。
「それにしても……選別の儀って、何をするんでしょうね?」
アヴェーラがふと思い出したように口にする。
「全然分からない」
ナーレとフィーネは、そろって肩をすくめたのだった。
【──いや。
それはどうだろう?
選別の儀という条件はもう明かされている。
ナーレも知ったはずなのに、どうして?】
作者の目に、一条の星が流れた。
【そうか──まだその条件は未達なんだね?
だから、ナーレは『見なかった』ことにしたんだ。】
(だったら──『君が望む』ように、着飾ってあげよう。)
皆さま、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
『第十九話「アヴェーラのお願い』につきまして、
そのプロットや物語進行の意図を、少しでも感じ取っていただけていれば幸いです。
一旦、自己紹介をブチ切りした事を謝罪します。
余りに本文だと長いので後書きにて追加投入したいと思います。
私が高校生の頃、中野坂上にある『私立H高等学校』の普通科に在籍していました。
そこは、女性陣の黄色い声援がちらほら届くような、少し華やかな学校だった。
著名人と同じ校舎で学業を共にし、日常の中で少しだけ共同生活も経験した──
そんな、ちょっと変わった遍歴を持つのが、私という人物だと思う。
そして、あの頃私は、女性という存在がどうしようもなく即物的であることを、
痛いほど理解してしまった──
それが、私の性格や行動が少し拗れる原因になったのかもしれない。
実際、私はオタクで、日常は図書委員として静かに過ごしていた。
それなのに、なぜか毎回徒競走には駆り出される。
言わば、文系なのに体育会系と張り合わされる──
そんな三年間を、私は送ったのだ。
(小学生の頃から、足だけはやたらと速く育っていた。
……あまり褒められた話ではないので、ここは忘れることにしよう。)
学業面は、正直あまり良くなかった。
『私立H高等学校』にはAO入試で滑り込んだ。
偏差値は48程度で、下手をすれば短期の高校しか進学できなかっただろう。
残された手段は、AO入試を利用することと、入学金を用意することだけだった。
高校生としてのデビューから、何かと問題が起こったのも事実である。
私が一年から二年に上がる頃、三百人いた学生の半分が姿を消した。
それだけ、無茶をする者が多かったのか、あるいは出席率や内申点が足りず落ちた者が多かったのか──
いずれにせよ、有象無象が消えた結果である。
(まぁ、普通科としては偏差値が低めの学校で、授業内容も中学生が学ぶ程度だった。
それなのに、なぜか生徒の半分が消えてしまったのである。)
どうでもよい自分語りだが、こちユル作品と深く関わる内容なので、
ここに留めておこう。
結局、私はクラスが異動になっても、テストの点数だけは安定していた。
三年間、九教科で常に750点を維持し、必ず九番目の席に座り続けた。
(9番の意味は余りに単純。
あの時はアーマード・コアに嵌ってた。
だから、自分の事をナイン・イレギュラーとか思ってたっけ。必要以上に勉強しても、必ずといって──9番目の座席から動けなかった)
(まるで、円卓の騎士、必ず訪れる9番目の座席。
クラスで一つしかなく、三年ずっとそこに座りつつける。安定剤を打ったと言わんばかりに。
勉強しても、しなくとも其処に私は座りつづけた。)
努力はほとんどせず、期末試験前の勉強も二週間で二教科を五時間ずつ程度。
短期記憶だけを頼りに、期末試験を乗り越えていたのである。
(殆どアンキモ:暗記問題か穴埋めだった。
数学と音楽が一番苦手科目。
そこだけは唯一、45点を赤点で乗り切る。
つまり…数学と音楽は吐き捨てる感じだった。)
つまるところ、私は最初から普通とはズレていたのである。
それ以外にやっていたことといえば、ゲームだけ。
記憶する限り、私は純粋培養のゲーマーであり、アニメオタクでもあった。
これで改めて、私自身について自己紹介をしきった気がする。
こちユルが少し変な理由についても、やっと理解してもらえたのではないだろうか。
(実際、専門学校を卒業した私だが、就活の時期にはリーマンショックが直撃するところを、ギリギリで逸れた。結果的に、変な形で救われたのだった。)
作品もそうだけど、
私についても解剖した方が良いと思って。
なんで、こうも独特なのか、
説明した方が良いと思ったんだ。
うーん……自分自身を自分が語るというのは、少し変な気分だ。
それに、何故私が図書委員だったのかという話も、ここで触れる必要がある。
この過去を紐解くことで、読者はナーレという人物像が、
実は作者自身の影が重なっていることに気付くのだ。
事の顛末は、実にシンプルだ。
友人が「ロータリークラブ」に所属していたことに端を発し、
彼が図書委員として作業をしているという話を聞いた私は――
その理由だけで、仕方なく手伝うことにしたのだ。
ところが、彼はある日突然、何も告げずに辞めてしまった。
晴天の霹靂である。
さらに困ったことに、
現存する先輩たちは生暖かい視線を私に送り、居心地の悪さだけが残った。
私は仕方なく──、図書委員の任務を全うすることにした。
三年生になるころには、後輩の二年生を図書委員長に据え、
私は副委員長としてその任務を続けることになった。
責務を負う意識は温すぎるほどで、私は決して率先して何かを成し遂げたわけではない。
だから、次世代に任せることにしたのだ。
この経験が、今振り返るとよく分かる。
ナーレという人物像は、まさにこの私の性格の縮図である。
仕方なく巻き込まれる純粋さ、責任感の温度の低さと高さが入り混じって、
予想外の出来事に翻弄されつつも、淡々と対応してしまう姿。
ナーレの自由奔放さや操作不能感は、私自身の“受動的の一部だと。
そして、その観察眼は鋭い”性格そのものが。
『ヴァル・レッティーナ』だということに。




