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「エピソード16 中世編:大枠という余韻!! 『 濡れ鴉達は低空に拠って』」

とうとう、作者とナーレとフィーネは裏門の突破に成功した。

だが、それはまだ序の口にすぎなかった。


(うわぁぁぁぁぁぁぁ‼ 真っ白……。)


目の前の行先掲示板が、

まさかの無地。何も書いてない。ゼロ。白紙。


だんだん、目の前の行先掲示板が少しづつ加筆される。


この先には、医療棟の前に広がる薬草畑、そして南北の出入り口前にある、

見通しのいい噴水広場を抜けなければならない。


あの無機質な眸――意思なき視線が、彼女たちを捉えることはないのか。

この作戦、果たして成し遂げられるのだろうか。


ナーレとフィーネは身を寄せ合いながら、

ひっそりと作戦会議を続けていた。


(さてっと──この二匹。

 濡れ鴉たちは低空で様子見中だけど、どう転ぶやら……)


作者は視線を外に向けた。

三階建ての校舎がずらりと並ぶ姿は──


ああ、まるで迷路みたいだ。


(それにしても、デカい敷地だなぁ。

 東京ドーム三つくらいは余裕で入りそうだし。

 ここ、本当に宗教学校なのか? いや、間違いなく専門大学の方が近いだろ……)


(俺、今どこにいるんだ……?

 ついていけば分かる……かな?)


作者は取りあえず待つことにした。

小さな生垣に隠れる鴉たちを見守りながら。


(はっくしょん! それにしてもアイルランド寒すぎ……。

 早く校舎に入りたいよ~)


だが、彼女たちは一向に動かない。

どうやら、どっちが先に行くかで揉めているらしい。


(はぁぁぁ。もう!

 フィーネから行けってば。

 君の方がしっかりしてんだから……)


作者はそう促した。

「フィーネ、あなた目も耳もいいんだから、先導してくれない?」


私は、先ほどから自分の腰にしがみついているフィーネに声をかけた。

フィーネは小柄な私の後ろにすっぽり隠れようとして、身をすくめている。


「運命共同体のつもりだけど、真っ先に見つかるのはゴメンだよ?」

そう言って、フィーネはさらに小さく縮こまった。


【ここまで来て? そんなことを気にしてる場合か。

 まだクラスの席にチェックインもしてないのに……】

私は心の中でツッコミを入れる。


「わかってるわよ、大丈夫! 私の知恵とフィーネの感覚があれば、きっとなんとかなるわ」

そう言いながら、私はフィーネの手をぐっと引き、腰からそっと外して前へ押し出す。

まるで帆に風を託すように、彼女を先導役に据えた。


「そういうときって、だいたいうまくいかないんだけどね……」

フィーネはぼそりとつぶやいた。


その言葉にかぶせるように、裏門から見える医療棟前の薬草畑を通り過ぎる。


医療棟の窓という窓には、薄い紗がかかっていて、その姿はぼんやりとしている。

窓の向こうの誰も、フィーネたちに興味を持つ様子もなく、微動だにしない。


薬草畑にはタイムやセージが整然と植えられ、

端の方の畑では土が掘り返され、農具があちこちに放置されていた。


薬草畑にはタイムやセージが整然と植えられ、

端の畑では土が掘り返され、農具があちこちに放置されていた。


【ほ~ん、秋のハーブを植えてるのか。

 この寒空で、ちゃんと育つんかね……】

心の中でつぶやきながら、私は畑を見渡す。


「そろそろラベンダーでも植えるのかな?」

フィーネは掘り返された土の深さや、タイムとセージの状態を注意深く観察しながらつぶやく。


「そうね、ラベンダーの根を考えると、それくらいの深さが必要ね」

私は頷きつつ答える。


【僕にはちょっと穴の深さが分からんけど。

 君たちが言うんだから、そうなんだろうな】


そして――。

二人は、見通しのいい噴水広場に足を踏み入れる。


「さあ、やっと難関の場所に出たわけね」


学院の南北、両方の出入り口の前には、広々とした噴水広場があり、

そこをどうしても横切らなければならない。

しかも、そこは人目が集まりやすい場所だった


【ふぅ~ん、そうなんだ……。

 なんで噴水広場があるんだ?

 四方に学び舎が建ってるってことか?

 つまり、ここがロータリーも兼ねてるってことかい?】


実際に建ち並ぶ建物群と、その無表情なガラス窓が、

まるで意思を持っているかのように、彼女たちをじっと見つめている。


あのどれかの窓から、突然何かが飛び出してくる──そんな可能性さえ、脳裏をかすめた。


いや、もしかすると今この瞬間も、

誰かが窓越しにこちらを覗き見ているのではないかという気配さえあった。


彼女達は生垣の陰に身を屈め、中腰で学院の入口へと慎重に歩を進める。

噴水の水音、鳥のさえずり、吹き抜ける風――

それらだけが、静かな朝の色彩に似た雰囲気を漂わせている。


【流石にさぁ、誰も見てないんじゃないの?

 びくびくしてないで、もう突っ切っちゃえばいいんじゃねぇ?】


彼女たちは未だに風の様子を窺っていた。

やっと──誰にも見つかっていないと確信した瞬間、二人は小さな安堵を胸に感じる。


「よし、早く教室に行かなきゃ!」


誰が言ったわけでもないのに、二人は勢いよく走り出す。

ちょうど学院の建物に朝の光が差し込み始め、土の地面には長く細い影が伸びていった。

風を読みながらの緊張が、一気に弾けるような瞬間だった。


噴水広場を疾走する彼女達。

校舎出入り口を抜け、クラスへと続く廊下に出る。

入り組んだ通路を進み、十字路を渡って階段を駆け上がった。


36歳──。

運動不足、不節制極まりない、

わがままボディな私は、十字路を渡り、階段へと突進する……。


しかし、駆け上がろうとした瞬間、息が足りない。

足は重く、膝はガクガク。

体がいうことを聞かない……駆け上がれないッ!!


【ちょ……ちょっと待ってくれ!

 はぁ……もう! 駄目だって! 体力が持たないってば!】


それでも私は、何とか一段ずつ、必死に階段を踏みしめる。

足音と心臓の音が、階段に響き渡り、思わず自分で笑いそうになる。

……この年齢で、階段がこんなに高いなんて、誰が予想しただろう。


階段の一段一段が、まるで私を阻むかのように高く見える。

手すりにしがみつきながら、必死に呼吸を整えると背後に視視線を送る。

するとそこに影がちらついた


【やべぇ、ネル──ネフィル先生が来た!!】

彼女たちの担任、ネル先生が全力でこちらに向かってくる。

このままだと、直ぐにも俺の目と鼻先まで迫りそうな勢いだ。


【おいおい! このままだと彼女たちに追いつかれちまう!!

 ディフェンスラインを構築しろ、俺……ッ!】


頭の中で指令を出しつつ、必死に手すりを握り、呼吸を整え、足を動かす。

階段の高さ、朝の光、影、息切れ……すべてがコミカルに、しかし確実に私を追い詰める。


「あらやだ、靴が……」

まさかのことに、ネル先生の片方の靴がすっぽり脱げた。


靴が空中で放物線を描く。


【痛ッ!!】

その放物線が、まさかの方向──俺の顔面に直撃した。


(ってぇ~~! 鼻蓋が曲がっちまったじゃないか!? くっそ……!!)


眼鏡のフレームまで歪む。。

階段上の追走劇は一瞬にして、壮絶な痛みと笑いのカオス状態に変わった。


作者は鼻蓋をぐいっと修理する。


(なんてことをしやがる……!

 婦人相手でも許さんぞ!)


靴なしの先生は片足でバランスを取りつつ追いかけてくる。

前の二人、俺、後ろの先生……階段上の追走劇は壮絶な痛みと笑いのカオス状態だ。


(おいおい! 駄目だぜ?

 修道女としての気品が足らんわ!

 一昨日どころか、辺獄に来やがれ。

 靴を履くまで行かせんからな!?)


階段の上には、子供二人しか登れないだろうスペースがある。

そこに、半ば太った中年おぢ──

つまり俺──が立ちはだかり、靴を失ったネル先生の進行を足止めする形になった。


俺の視線の先では、先生が片足でバランスを取り、靴を押さえつつ前進を試みる。

そして俺は、曲がった鼻蓋と息切れ、靴直撃の痛みを耐えながらも、必死に立ち塞がる。


階段上は、笑いと緊張と痛みが入り混じった、戦場ならぬ 滑稽な追走戦場 と化していた。


「しかたないですね」

そう言うと、彼女は両脚の靴をすっと脱いだ。


【いや、その選択は私には不利なんですけど!?】

階段上のスペースは元々狭い。


改めてネル先生の身長を確認する。

どうやら、明らかに彼女の方が背が高い。


【これ……このままだと振り切られるな】

全力で走りつつ、息は絶え絶え。

体も全体的に丸まり、まるで自分の重さに潰されそうだ。


彼女は少し、後ろに下がった。

加速するためのマージンを稼ぐ体勢だ。

そのために、修道女服を軽くたくし上げる。


【ちょっと!! またこのパターンかよ!】

目の前に、ネル先生のお脚がちらりと見える。


(君たちというか、そのさ……恥じらいってものは!?

 ここ、女性しかいないんだけどさ!!)


彼女は勢いよく突貫してくる。

【おいおい! ちょっと!】

俺は、ネル先生が激突するであろうコースからしゃがみ込む。


(見えてはいけないものが、私の目前を飛び越えていく……)


階段上は完全なる混戦状態。

前の二人、俺、そして靴なし先生──

さらにこの羞恥ハプニングが重なり、まさに カオスな追走劇 だった。


しかし、彼女は何事もなかったかのように階段を駆け上がっていく。

間を置いて、階上から軽い足音が響いた。

どうやら、上り切った後に靴を履き直したらしい。


俺は息を整えつつ、混乱と羞恥と笑いの余韻を胸に抱いたまま、

階段の中腹で立ち尽くす。


(最初からジャンプすれば良かったんだ。

 走る必要なかったのに……)


思い切って、その場でジャンプ。

すると、あっという間にナーレたちのクラス前に到着していた。


【……くっそ、俺の体力と羞恥の浪費、全部無駄じゃねぇか!】

思わず心の中で叫びつつも、到着した事実に少し安堵する俺。


フィーネを先頭に、ナーレもクラス前の廊下に飛び込んできた。

幸運にも、角という角でクラス担任と鉢合わせする惨事には見舞われなかったようだ。


そして――。

ようやく、彼女たちは教室に飛び込んだ。


「間に合った……」


二人はそうつぶやくと、そのまま自席前に着く。

体から心臓が飛び出しそうなほどドキドキしていて、

今にも世界がぐらぐらと揺れそうな状態で、フラフラと立っている。


そのまま二人は机にぐったりと突っ伏した。


パタパタという音が廊下に響いてくる。

(やっと来たか……ネル先生、遅いな)

私は廊下に視線を送る。


ネル先生の顔は、まるで涼風のように落ち着いている。

二階の階段を上がってきたはずだが、靴を履き替えた以外、全く息を乱さずに走り続けているとは……。


【……まさに人間無敵かよ】

心の中で思わずツッコミを入れる俺。


そのまま、ネル先生は教卓のある扉を開け、クラスに入場する。

「みなさん、おはようございます」


不意に響いた明るい声に、クラス全員の視線が一斉にネル先生へと向く。

彼女たちも、ようやく顔を上げた。

どうやら、クラス担任であるネル修道女が、無事にクラスに到着したことを認知したらしい。


「授業を始めますよ? フィーネ、ナーレ、ちゃんとしてくださいね?」


【そのまま、授業なさるのですか?

 ネル先生タフすぎん?

 取りあえず、私後ろから授業参観しますかな。】


【おじゃましま~す。】

私は二人のクラスに入り込む。


もちろん──クラスも寒かった。


(コークス暖房機もないのか……此処)

教室を見渡すと、皆、修道女服や作りの荒いマフラーなどで重ね着しているだけだった。


「はーい、ネル先生……」

ナーレとフィーネは声をそろえて返事をし、再び小さな安堵を胸に抱いている。


【ちょっち、さみぃって……

 此処のクラス、何度なんだよ?】


手元の温度計を確認すると、10度を指していた。


(いや……さみぃって、マジで)


作者にとって地獄の授業参観が始まった。

皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


『第十六話「濡れ鴉達は低空に拠って」』のプロットや物語進行の過程について、

ご理解いただけたでしょうか。


タイトルは、ナーレたちが集まって会議している様子を俯瞰的に描いた情景を表しています。

なお、この時点ではネル先生という名前は、生徒からの愛称であることは伏せられた状態で物語が始まります。


正確には、この時点では「ネル」が本名なのですが、56話にて正式な本名を明かすことで、

実は愛称だったのだと読者に判明する、という構成にしています。


というか──

そうしました。


読者の皆様にも、ネル先生を好きになってもらいたいという意図です。

それ以外に特別な理由はありません。


まだ公開していませんが、

ネル先生のアフターストーリー(オマケストーリー)も現在考察中です。


まぁね。

作者もネル先生のことはあまり詳しく知らないんです。

名前くらいしかないんですよね。


あんなにちょくちょく登場していましたが、

その他の設定はまだ構成されていません。

アウレリウス司教との関係なども、全く明かされていませんしね。


ネル先生に直接、年齢とか趣味とか、家族構成を聴けばいいでない?

作者はそう思っている。


でもなぁ……。

ネル先生はちょっと気が強そうな雰囲気あるんだよな。


それについては

52話で彼女が言葉として発しているので確認して欲しい。

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