3話 運命か宿命か
森に囲まれた道を進む。曲がりくねっているので拠点は見えないけど、上空の高橋さんが。
「うん、もうすぐだよ」
雪を踏みしめるたびに、キュッキュと雪独特の感触が靴底から伝わってくる。
「そこまで積もってないけど、やっぱ専用の靴を用意してもらってよかった」
「アタシも飛びたくなってくるわ」
「でも遠距離攻撃がないだけで、けっこう楽だねぇ」
巻島さんがうんうんと頷きながら。
「あれ普通に威力高いから、ちゃんとしたスキルで防がんと突破されんのよ」
発射台を壊しても、再出現までの時間に変化はないらしい。それに壊さない方が、出現位置なども予測しやすいか。魔法陣の上で出待ちもできるしさ。
「そうだサトちゃん、現世に飛ばされちゃった時用のスキル、セットしとかんで良いの?」
「うん。悩んだんだけど、余裕がなくてさぁ」
己家さんが少し悩んでから。
「現世じゃなくて、映世の何処かに転移させられる恐れもあるってさ」
ヒノキ山周辺に京都本来の敵が出現しないのは、雫さんのスキルで封印しているから。そのため彼女を救出したら、空間が不安定になる。
「そのための発信機っすよ」
映世でも機械を動作させる方法を見つけてくれて、本当に助かっている。トランシーバーでのやり取りだけでなく、現在地を小型端末で把握もできる。
タワー寺に本部が設置されており、三好さんも今日はそこに詰めるそうだ。彼らはこの転移事故に備えているので、救出するまではあんまやることがなかったり。
「そういえば浦部さんも、雷の渦はちゃんと外しましたか?」
「えっ いや、まあ……」
ジト目を向けられ。
「外しましたね」
「はい」
怒りの炎と合わせて使っていたんだけど、最初のうちは問題なかった。
「カルミナブラーナか」
「たまたま俺が和訳をしってたから、あの曲が頭に浮かんだってのもあるんだけどな」
ドイツ人作曲家のオルフって人がつくった曲なんだけど、歌詞のもとになっているのはそれよりも800年くらい前に生きた人々だ。
修道院だかにあった歌詞集。
「……おお運命の女神よ、でしたっけ?」
「俺も詳しくはないんですけどね」
あの怒りは阿修羅から来るもんじゃない。間違いなく俺の内から湧き上がってきたものだった。
「そんな運命を呪うほどに、追いつめられた家庭環境でもないし、もちろんそんな経験も身に覚えないんすけどね」
「ならそれこそ前世から来てるんじゃないですか。絶対に使っちゃだめですよ」
苦笑いをうかべながら。
「へい」
「なんか信用できないんですよね、その返事」
はい。と言い換えておく。
・・
・・
しばらくして姉から着信があったのか、歩く速度を落とし。
「はい、己家です」
こういった離れた位置でのやり取りも、今となっちゃ当たり前だけど、俺がかつて存在した異世界だと難しかったんだよな。信号を送る道具みたいなのはあったんだけど、モールス信号みたいなのはできなかった。
1度だけなら可能。2度連続で反応があったら無理みたいな感じ。
「戦闘中でも俺たちに向けて撃とうとする行為はあったらしいので、オサムさん気を抜かないでくださいよ」
「私がいつ気を抜いたのか答えてください。言われなくても警戒してますが、うん心外」
相変わらずの高橋さんは、〖飛行〗で彼を見降ろしていた。
「はいはい、よろしくお願いしますよ」
特に気にした風もなく、適当にあしらう様子からして、普段からこんな感じなんだろうな。
今回の作戦に参加してくれた2人が俺に話しかけてきた。
「あんま心配しなくて大丈夫だよ」
「好きな子に意地悪したい的なアレだから」
「構って欲しいのに、逆に嫌われちゃうアレですか」
これらのやり取りも聞こえていたようで。
「はい、私なりの愛情表現です。だから何言っても許されると思ってます……己家死ね」
なんとなく関係性は把握しました。
「俺の悪口言ってる暇があったら、ちゃんと警戒しててください」
こうやって言い返せる間柄であれば、まあ問題ないんだろうね。
宮内が空を見上げながら。
「そうそう撃てないと思うけどな」
「索敵魔法と連動してるってんじゃ、ある程度の手間はかかるだろうし、その前に姉ちゃん達が邪魔するかな」
美玖ちゃんは会話に参加せず、なにか考え事をしている様子。
「警戒もしないでくっちゃべってる俺が言うのもあれですが、咄嗟の判断が鈍るかもなんで、悩みはほどほどにした方が良いっすよ」
「もう、誰のせいで悩んでると思ってるんですか」
俺と雫さんの関係か。でもそれについては、彼女なりに気持ちの整理はついてた気がするんだけど。
「雫さんじゃなくて、アクアって娘のことか?」
「兄ちゃん普段鈍いくせに、なんでそういうとこは鋭いの」
宮内くん、鈍感系の主人公だったのか。
「俺にも色々と思い当たる節があるんだ。鈍感でわるかったな」
数度の戦闘はあったけど、俺たちはしばらくして拠点に到着した。
・・
・・
【雪〗が止むまでは京都中心部の敵は出現しない。だけどその封印を無視して姿を現していた存在。
「今日はいないか」
宮内のつぶやきにうなずきながらも、皆は昇降式の橋を渡っていく。
救出作戦当日は何時もと違う。
実際に拠点内でも敵は出現するし、発射台から攻撃もしてくると姉たちから知らされていた。
だからもしかしたら帰りだけでなく、行きでも虚無僧との戦いが発生するのではって意見もあった。
「できりゃバフ欲しかったんだけどな」
「……だな」
何時も虚無僧が腰を下ろしていた場所の前で、宮内は足を止めてしまう。
その様子に己家さんが気づき。
「ほら、行くよ宮内くん」
「兄ちゃんも悩みごと?」
「どうも既視感があってな」
虚無僧なんてのはテレビやら時代劇やらで、まあ大半の人は見た記憶はあるんだけど。
「前世関係か」
「分からん」
下調べで2人とも此処には何度か訪れてるから、彼の虚無僧に対する反応の話は聞かされていた。でもやっぱ焦点を置かれるのは美玖ちゃんの方だった。
巻島さんが俺と宮内を交互に見て。
「浦部を殺したってのと関係あんのかな?」
宮内の前世。
原初の精霊に乗ったられた勇者。
光の騎士さんを殺したシャレにならない化け物。
「校庭にいた騎士かもよ?」
「日本の僧侶と西洋の騎士って、なんか変な組み合わせ違う」
「虚無僧の前世って可能性もあるっすよ」
などと話していると。
「一応作戦中だから、皆さん集中してくださいね」
己家さんに怒られてしまったので、皆と一緒に謝っておく。
「じゃあ此処からは美玖さんに空の警戒をお願いしますんで」
「はい」
飛行をしながら時々建物の屋根に着地して制限時間の調節をする。
「高橋さんみたいに光壁の足場があった方がなにかと便利かも知れんな」
「浦部君だけじゃなくて、オサムさんも光の騎士団だった可能性が高いんだっけ?」
「でも高橋さんはニートマンの方が印象深いよねぇ」
「あの主題歌にはどう反応していいか困ったわ」
前世でもニートで、今世でもニートだったんだよな高橋さん。
「なにはともあれ、皆さん沢山の前世があるようで羨ましいよ」
「「……」」
返答に困ってしまった。
「あぁごめんごめん。大丈夫、そこまで気にしてないから」
「映世のシステムは不平等でも、なるべく平等になるよう練られてる」
「時間もしくはお金を詰めば、私らでも十分戦ってけるからね」
スキル枠の不足は姿見ショップで買える武具で補える。
「だいたいミケくんには運がありますのでね。うんウ〇コ踏めば良いのに」
「そりゃ思う所はありますけど、運営に不満はありませんよ。実際にこうして上級にも挑めてますんで」
協力者。富村さんと中峰さんがフォローに入ってくれた。
「逆に感謝してるくらいです」
己家さんにとって、映世の存在は苦しい状況を巻き返せるだけの救いだった。
なら運命は、彼に味方をしたんだろうか。




