4話 山までの戦い
いつもは拠点内だと敵は出現しないんだけど、姉から知らされていた通り、今日は普通に戦闘が起っていた。
神崎さんは意気揚々と。
「来たきたっ 私が一発かますよぉ」
進行方向に敵の出現を確認し、〖重力場〗の力溜めに移る。
「ちっとお待ちを」
〖赤の鎖〗を撃ち込んでおく。
すると空を飛んでいた美玖ちゃんが。
「屋根上にも兵士が出てます!」
氷矢や氷塊を放ってくるが、皆それぞれの防御スキルで対応していく。
「サトちゃんは矢に備えて、浦部お願い!」
「へいっ」
彼女は壁系統のスキルはつけてないので、とりあえず〖光の壁〗を出現させたのだけど。
「あっ くそ」
地面から【氷の腕】が出現。なんとか間に〖光十字〗を挟もうとするも。
「姿勢崩されたぁ!」
間に合わず【拳】が命中したことにより、重力場の準備がリセットされたようだ。
「《スーパーアーマー》は姫鬼のビー玉か」
でも〖土の大剣〗には《溜めてるあいだHP耐久強化》がついてたから、ダメージの軽減はされてるはず。
「光壁も光十字も鈍ってるな、得意だったんだけど」
巻島さんがこちらを向き。
「そうなん?」
「あっ いや」
俺じゃないわ。
どうやら光の騎士さん、壁系統のスキルが得意だったらしい。
「浦部は光壁と光十字でみんなのサポート。宮内も同じく、でも岩の壁じゃなくて障壁の方を使って」
〖青い仕込み短剣〗を《合体・回転させると発生する障壁》だね。
〖守護盾〗と〖仕込み短剣〗。この選択スキルをバランス強化して、少し失敗だったみたい。
《合体数ごとに強化》ってのが上手く機能してない。《回転時間で徐々に強化》って方なら問題ないから、今後はそっちのビー玉に交代したいんだと。
「上手くできるか分からんが、やってみる」
宮内はタンクだから、一番前で攻撃を受け止めるって役割が多いんだけど、今回は後方支援になる。
「あと適当に鎖お願い」
「へい」
巻島さんが次々に指示をだしていく。
「トリ兵衛さんと己家さん、屋根上の兵士をお願いします」
彼は了承すると〖天使〗を召喚して、そいつが空へと翼をはためかせる。
「20秒ください、上空で待機させますんで!」
「んじゃ準備できたら、急降下突撃使ってください」
一定の高度で待機させると、性能が強化されるんだったか。己家さん自身は飛行をつけてないため、このまま地上で戦うようだ。
空高く昇っていく天使を見上げながら。
「もしかすると、ミケ君より強いんじゃないですか。うん本体」
「でしょうね」
巻島さんは〔ナイフ〕を〖青人〗に転移させながら。
「青大将は足止めっ!」
通路先からこちらに迫ってきた兵士との間に、〖氷人〗が〖氷の壁〗を出現させる。
「サトちゃんは第一段階で良いから、そのまま地上のに使って。壁ごと壊しちゃって良いから」
「はぁーい」
神崎さんが大きく飛び上り、地面に向けて〖重力場〗を発動させる。青大将はタイミングを見て〖壁〗を水に戻したようで、〔鉄塊の大剣〕は妨げなく地面に激突した。
「高橋さんは持ち場を美玖ちゃんと交代して。発射台の警戒をしながら〖槍翼〗で援護を」
「うん了解」
彰吾先輩が叫ぶ。
「背後からも敵兵出現っ!」
「囲ってきたっすね」
「クロちゃんとテンさんをそっちに付けますので、先輩お願いします。ベルっち任せた!」
任せろと胸を叩いてから、〖妖精〗は〔ナイフ〕を〖クロちゃん〗に転移させる。
屋根の上から巻島さんを狙って【氷の矢】が放たれたので、〖光壁〗で防ぐ。
「あんがと、後ろの敵は浦部お願い。己家さんはサトちゃんと前方の敵をお願いします」
「はい」
〔黒刃のサーベル〕を構え、一歩前にでる。ガチャ要素でスキル枠(赤)がついたとのことで、彼の剣には〖燃える斬撃〗もセットされているらしい。本当に運が良いよな。
「宮内君、そっちの守りは任せるからね」
「おう」
残る戦力の配分について確認しとかないとな。
「富村さんと中峰さんもこっちで良いっすか?」
「じゃあやっぱテンさん、アタシの方で使わせてもらうわ」
巻島さんの〖天使〗は屋根上の【兵士】に当てることにしたらしい。
「美玖ちゃん、〖蓄電鞘〗が完成したら己家さんの援護に」
「わかりました」
良し。こちらが受け持つ人材は彰吾先輩とクロちゃん、あとは富村さんと中峰さん。妖精も忘れちゃいかんな。
俺は自分の周囲に複数の〖滑車〗を出現させ。
「さて、どうすっかな」
敵味方に〖各色の鎖〗を放ち、バフとデバフを付与していく。
「彰吾先輩、通路が狭いんで〖木〗は使わない方針で頼みます」
「了解」
敵の攻撃を〖誰がための盾〗で防げば、〔回転刃丸盾〕で兵士を鎧ごと削る。
戦場が建物に挟まれた通路ってのもあり、こっちは大人数で上手く動けない。あと高校生組は雫さんとの戦いまでは、スタミナを温存する予定だったりもします。
背後で声が聞こえる。
「ひゃっはぁー!!」
まあ神崎さんは戦闘狂なんで無理ですが。
「先輩とクロちゃんは前にでてください。お二方は〖挟撃〗や〖牢獄(鎧の鎖)〗を主体に」
〔武者の面頬〕を被ってから。
「彰吾君と豹を囮にってこんだな」
まあそうですけどね、言い方ってもんが。
「彰吾先輩も可能なら、2人の〖鎖〗に合わせてください!」
「わかった!」
〖挟撃〗はセットした2名が2方面から仕掛けることで、対象に動作阻害を与えるスキル。
それと同じく〖鎧の鎖〗から発生する〖牢獄〗も、複数名が他方面から同時に放つことで、動きを阻害するスキルだったりする。
「巻島さん、無断の十手を」
「ほいよっ」
これは彼女がセットしている武具なので、俺は使えないんだけど。
「クロちゃん」
〖闇豹〗に向けて投げれば、2尾の一方でそれを受けとり、〖無断〗で【兵士の氷鎧】を粉砕する。
いつの間にか俺の肩に乗っていた妖精に。
「十手も転移できりゃ楽なんだけどな」
多くを求めすぎだと、頬を叩かれる。
いや、これは合図だな。
「……あと少しでクロちゃん消えますんで、3人とも気をつけてください!」
自分の傍らに〖黒の滑車〗を出現させ、それを破壊することで〖ボルガ〗を召喚する。
「突進準備、敵集団の背後から蹴散らせ」
靴底で雪の地面を削る動作を始める。
「黒の原罪で援護しますんで!」
「わかった」
中峰さんと富村さんが下がろうとしたが。
「富村さん、【氷の腕】に警戒してください!」
俺がいた世界の氷魔法は、自分の近場専用だったはず。でもこれは〖岩の腕〗を再現してるスキルだからか、普通に中距離として使ってくるんだよな。
ただ【腕】を出現させてから【拳】を振り下ろすのに、ちょっとした有余があるので、今回は〖光壁と光十字〗を割り込ませるのに成功した。
クロちゃんが戦っていた兵士。それと繋がっていた〖滑車を破壊〗してみたが。
「やっぱダメか」
敵の兵士は属性物理耐性なので、HPダメは発生しない。
「ボルガ行きますっ」
兵士たちは咄嗟に【氷の壁】を発動させるけど。
「中峰さん!」
「やってみる!」
彼女がメインで使っているのはショップ販売の鈍器で、これのスキル枠には〖剛撃〗をセットしている。ちなみに無属性のスキルはどの色でも使えるって利点がある。
前世武具は〔猪牙の短剣〕であり、実用品ってよりも儀式用の見た目だな。
中峰さんは後方にさがると、それを使って〖大猪〗を召喚する。
背後から出現した〖ボルガ〗に【壁】を使った所為で、【兵士】たちは〖猪〗への対応が間に合わず。
「〖子沢山〗」
大猪の両隣にウリボウのエフェクトが出現。
《子供が成長して一回り巨大化・子供の数が2から3体増加》
「油玉を投げてください!」
《事前準備なしで物理突進が可能となる・最高速到達時間短縮》
彰吾先輩も油玉を投げてくれたみたいだ。富村さんは【腕】の妨害もあって間に合わず。
「ごめんって」
俺は3球投げたけど、2つ外れて妖精に呆れられてしまう。
HPはなくても、召喚された存在には属性強度がある。
《突進命中時に範囲爆発が起こり、火属性ダメ(大)・爆発に衝撃波が発生する》
子供個体を含めて、命中した対象は完全に消滅し、その近場にいた兵士も大ダメージを与えることに成功。
「トリ兵衛さん行って!」
巻島さんが【赤鳥】を再召喚してくれたようだ。
炎上が続いている【兵士】に〖赤いエフェクト〗が通り抜ければ、一層に燃え上がってその個体は沈黙した。
「やっぱ専用の宝玉ってのは凄いっすわ」
「猪突進も元々は牛突進と似たスキルなんだけどね」
宮内は〖触手〗を操作しながら。
「俺の前世は、もともとこれも使えてたのかも知れんな」
「たしか《触手で掴んだ武具は性能強化》とかあったか」
ていうか〖夕焼けに染まる〗で現れた存在、普通に〖触手〗や〖肩腕〗使い熟してたもん。
「それもなんだけどさ。己家さんの〖天使〗、テンさんより強いんよ」
美玖ちゃんは〖蓄電鞘〗を操作しながら。
「動きが違いますよね。っていうか、なんか電気まとってて見た目から強そうです」
「性能強化か」
《一定の高度で待機していると、徐々に電気を帯びて性能と属性ダメ強化》
「量産機と専用機くらいの違いっすか」
「うるさい、テンさんを馬鹿にすんな」
逆鱗に触れてしまったようだ。
「すんません」
高橋さんは〖槍翼〗を放ち終えると、電気の放出が止んだ〖天使〗の傍らに〖足場〗を展開させる。
「……」
そこに着地すると、指を咥えて物欲しそうに見つめていた。
己家さんは油玉を投げずに、手に持ったまま兵士に押し付けて破裂させ、続けざまに〖炎の斬撃〗を発動させながら。
「高橋さん、発射台の警戒してください!」
「うん決めた、これ私の」
貸出枠に出品されることもあるんだから、それを使えば良いのにね。
まあ変な拘りが強いからこそ、今の高橋さんがあるのかも知れん。
・・
・・
敵自体は強くない。
「今回も多かったっすね」
こちらの人数に合わせて、アクアさんとやらは【兵士】を召喚しているのだろうか。
高校生組は温存しているとは言え、やはり疲れる。
姉ちゃんが別行動とあって、心配なのか彰吾先輩の口数は少ない。
「どうします、発射台を通るルートで行きますか?」
「……いや、予定通りにしよう」
多少の遠回りになるんでね。
今回の作戦で俺らは浴場には寄らないことにしている。あそこにはセーフゾーンやら鏡の祭壇もあるんだけど、間違えて登録しちゃったりしたら困る。
己家さんは皆を見渡して。
「じゃあ予定通り、このまま山道に入りましょう」
敵は兵士から、冒険者風の姿に変わってくのだろうか。
彰吾先輩は行く先を見つめ。
「雪谷さんを取り戻すのが最優先だよ」
「長い京都旅行になっちまった。そろそろ地元に帰してやらんと」
異世界にも日本でいうところの富士山みたいな山があってさ、それを信仰していた火の民っていう部族が存在していた。
だけど突如出現した強力な魔物に、彼らは滅ぼされてちまったらしい。
団長と赤火長の故郷を取りもどす。
火炎団はそのために結成された4人組であって、本来だと大きな組織にする予定なんてなかった。
協力どころか、幹部が勇者一行と共闘して刻亀と戦えば、その名声は国どころか世界に轟くはずだ。
後戻りができないほどに。
だって彼らは故郷に帰ることなく、勇者と共に戦争へ参戦したのだから。




