2話 作戦開始
作戦の内容は簡単なものだった。
遠距離攻撃が厄介だと判断したのなら、そちらを先に抑える。
もし刻亀討伐だったなら、麓の拠点には兵士やら火炎団やらが詰めていて、その中にある発射台を抑え続けるとなれば大きな戦力を用意しなきゃいけない。
でも今は救出作戦で、敵は出現するけどランダムエンカウント。
凝縮された〖冷気放射〗を掻い潜りながら、先発隊は予定通り拠点に進入して、浴場には寄らずに発射台を目指していた。
〖飛行〗で浮かんでいた南波奈美が上空から叫ぶ。
「来ますっ!」
「みんな後ろに隠れてちょうだい」
詩は〖生命のスコップ〗に光十字を合成させていた。防御姿勢を取ると前方に〖十字〗が出現し、それと〖障壁〗でなんとか凌ぎ切る。
飛行していた南波にも攻撃は向けられていたが、彼女は自力で防いでいた。
詩の背後に隠れていた東條が剣を構え。
「拠点内でも撃ってきたっすね」
「戦闘に備えて。たぶん敵も出現するでしょ?」
〔ランタン〕を掲げて〖闇明〗を灯すと同時だった。通路の雪が盛り上がり、複数体の人型が出現した。
上空の南波が〔オーブ〕を赤く輝かせながら。
「屋根の上も警戒してください、弓持ちだと思う!」
「東條さん、地上の敵をうちの子たちとお願い。私らにスキル使っちゃって」
「じゃあ失礼するっすね」
2体のスケルトンだけでなく、味方に向けて〖回転斬り〗を放つ。
《剣のエフェクトが通過した敵の数ごとに身体強化(中)》
味方を敵と認識して〖回転斬り〗を使ったけれど、やはり心のどこかでズルをしていると理解しているので、得られる効果は薄くなっている。
《剣での一回転に成功させることで、身体強化(極大)》
こちらの宝玉は問題なく機能しているようだ。
「〖戦槌化っと〗」
剣身をグローブで握り、鍔と柄尻を戦槌の打ちつける部位にする。
そんな馬鹿なと思うかも知れないが、現実の世界でも使われていた戦方だった。
鎧の技術が向上したことで、剣の扱いもこんな風に進化したそうだ。
正面から東條が敵の集団に突っ込めば、2体のスケルトンが〖応援〗を受けて続く。
先発隊に選ばれたのは詩・東條・南波。そしてもう一名。
「白猿を援護に回してちょうだい」
「了解」
ショップで〖見えな猿〗を購入すると、確率でこちらの〖白猿〗になる。こいつは攻撃や防御はできないけど、近場の味方を回復してくれる。
召喚なので〖闇明〗で強化されているし、それに加え。
「《おサルさんも頑張って》」
先日入手した〖応援〗の宝玉で、《前世スキル以外の召喚にも反映》が付いている。
「〖超回復〗だよりっす!」
東條はダメージを受ける前提の動きなのに対し、氷の人型は物理属性強度だ。
「【雪】で敵も回復はしてますな」
前世武具が鍬の男性が空を見上げ。
「南波くん、行けますか!」
「ちょっとまって」
屋根にいる敵に〖炎の球〗を放つ。
《地面に命中させることで範囲攻撃(中)になる・範囲攻撃による炎上にも身体能力低下が付く》
どうやら屋根は地面とは判定されないようで、範囲攻撃はできない模様。
弓持ちは狙いを地上に絞って矢を放つが、詩たちは〖壁〗系のスキルで防ぐ。
しかし前に出ているスケルトンと東條には命中していた。
「気が散るっすね」
矢の衝撃というのもそれなりに大きく、HPがあっても姿勢は崩す。ただ乱戦状態なので、地上にいる人型にも当たってたりする。
〖炎球〗を放ち終えた南波はベルトの収納から小さな袋を取り出し、中身を通路にばら撒く。
「ほいっ どぞ」
前世が農民だと思われる男性が地面を耕せば、雪に落ちた種が発芽して〖黄色い花〗を咲かす。
《色ごとの属性ダメ強化(極大)・色ごとの耐性強化(大)》
《色ごとのバフ強化(大)・地面が土でなくても花を咲かせることが可能となるが、修理費が発生する》
「狙いを分散させます」
詩が〖闇明〗から数体の〖ゾンビ〗を召喚して、通路の敵に憎悪を与える。
続けて空を見上げると、南波の周囲には幾つかの黄色い光が浮かんでいた。
「《増えろ増えろ雷の球、1つ2つどんどん増えろ》」
バチバチと音が鳴る。
詠唱の内容は適当で良いらしい。
☆《詠唱することで雷の球を複数用意可能(1から4)・発動準備を短縮せずに使うと属性ダメを強化できる(大)》
☆《雷の球を任意の対象に放つことができる・同じ対象に連続で命中させると、数ごとに電撃ダメ強化(小から極大》
☆《別の魔法と同時に発動準備を開始できる》
今回は同じ個体ではなく、屋根上の数体に向けて使うようだ。
「じゃあ自分は南波さんの手伝いに回るで良いかい?」
「お願いします」
前世が農民だった者は鍬をその場に置くと、〔無断の鈍器〕を片手で持ち、〖飛行〗で中に浮かび上がる。
「東條さん、いったん下がって。できたら油玉をお願い」
「わかったっす」
三好製の火属性を強化する道具だ。スケルトンの斬撃には《炎上ダメ》がつけてある。
「頃合いね」
〖花〗が散れば、赤い実(プチトマト?)をつけた。
「いただきます」
それを1つ口に含むと、詩はスコップを手に走り出す。
・・
・・
ヒノキ山を目指す俺たち後発隊は、遠距離攻撃の届かないギリギリの位置で待機していた。
トランシーバーでやり取りをしていた己家さん。あとは彰吾先輩と高橋さん、ケンちゃん以外の魂鎮め隊と他2名。
「拠点の中でも敵がでるようです。もうすぐ発射台に到着するそうなんで、俺らも出発しましょう」
「偉そうに。なんでミケ君が、うん不満」
己家もミケとは読めるけど、たぶん名前の幹介からくるあだ名なんだろうな。
「いや、己家さんが妥当だと思うっすけど。だいたい高橋さん、リーダーみたいなの嫌がってたじゃないですか」
「でも戦闘時は浦部くんか槙島さんに任せますんで」
「うぅ、ちょっと不安だわ」
己家さんは苦笑いを浮かべ。
「普段は詩さんに任せっきりで、指揮できる人が他にいなくて。すみません」
「まったく困った話ですよ。良い大人が情けない」
「それは僕もだよ。あと高橋さんもだからね」
己家さんに嫌味を言いたいだけなんだろうな。
「報酬を余分にいただけるなら、私も頑張りますよ。どうなるかの責任は持ちませんが、うん指揮」
宮内は進む先の道を見つめながら。
「帰りは何時もの経路を避けるんだったな」
「あの虚無僧が敵として出たら、間違いなく強敵だろ」
接触の可能性は減らしたいわな。
「ちょっと戦いたい気持ちはあるけど、今回はそうも言ってられないもんねぇ」
神崎さん戦闘狂だけど、そこら辺は理解してくれるから助かりますよ。
美玖ちゃんは少し緊張した面持ちで。
「私、空から警戒しましょうか?」
〖飛行〗をセットしてたりする。《なんらかの方法で〖雷雲〗に飛び込むと》とかあったりするんで。
「慣れてる高橋さんに頼みたいところだけど、練習したいとかあります?」
「なんどか使ってるんで、問題はないかと思いますけど」
落ち着かない様子だ。なにかしてたいんだろうな。
「じゃあオサムさんと交互でお願いします。皆さん、スキルや宝玉の最終確認は大丈夫ですか」
続けて彰吾先輩が。
「現世に飛ばされたとき用のは、出来れば常にセットしといた方が良いよ」
天使さんと一緒の計らいで、俺たちは〖分鏡の絆〗にソケットを付けてもらっている。そこに《現世でもHPが機能する》とかを嵌めてます。
それを持ってない人も〖天使の恵み〗ってパッシブスキルが支給されており、俺の〖分鏡〗は雫さんに渡す予定だから、そっちも頂いていたりする。
すでにみんな何度も確認しているため、少しして出発することになった。
拠点内でも敵が出現するってことは、雫さんの前世。アクアさんとやらは今日が本番だって把握してるんだよな。




