1話 開会式
年が明けてからも俺たちは京都で何度か活動しました。
今まで上級での活動は週に1度、多くても2度だったから、毎日やれるってのはそれだけで大きい。
天使さんと一緒の戦闘員も京都で活動してるらしいけど、俺らは一度もお目にかかっていない。
ていうか小林さんとやらにもまだ会ってない。受け持ちが〔おいでませ天使さん像〕らしいから、もうそっちにスタンバってんのか。
「さて、行きますかね」
洗面所。鏡に映る自分の姿を再確認する。
「できる限りのことはやってきたんだ。駄目でも次があるし」
自分に言い聞かせて、少しでも緊張を良い状態へと持っていく。
雪道専用の靴に冬用の運動着。
まだ一年経ってないけど、大分使い込まれた感が出てきた革ベルト。
「忘れ物はないな」
〔全色のジャケット〕スキル枠1・ソケット1。
これはセットしてるスキル玉で変色する仕様みたいだ。虹色でもそれはそれで味があるとは思うんだけど。
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ホテルの部屋からでて、エレベーターに向かう道中。
ガチャリと扉が開く。
「あっ ギン兄」
「おはようさん」
ケンちゃんと会いました。
「おじさんとおばさんはって、違う部屋だったか」
「そうそう」
少し照れ臭そうに。
「まあ電話で起こしてもらったばかりだけど」
「実に羨ましい話だわ。うちの親は知っての通りだからさ」
学校もなんどか遅刻してます。
「幼馴染っていっても、ギン兄は起こしてもらわなくても大丈夫だったっぽいね」
「もしかっすっと、ケンちゃんは毎日お姉さんに起こしてもらってたんちゃう?」
かもねと苦笑いを浮かべ。
「けっきょく間に合わなかったよ」
「しゃあない。もし部活と両立だったら、たぶん俺も厳しかったわ」
美玖ちゃんと彼は同時期に活動を始めたけど、やはりペースは人によって違う。俺だってガチ勢と比べりゃ遅いほうだもん。
そんなこんなでエレベーターに乗り込み、ロビーへと向かう。
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・・
すでに鏡の祭壇周辺にはけっこうな人数が集まっていた。雪谷家と宮内家が挨拶しているようだったので、ケンちゃんとそちらに向かう。
「健司と言います。美玖先輩と輝樹先輩に許可を出してくれて、本当にありがとうございます」
「どういたしまして。うちの子たちが力になれると良いんだが」
「私たちにできることはあまりないのだけどね」
とんでもないと雪谷のおじさんが返事をして。
「どのような結果になったとしても、無事にもどってくるのが最優先なので」
続けて宮内兄妹を向き。
「俺らの娘は、その次で良いからな」
「はい」
「了解しました」
おばさんは俺に
「吟次もね」
「へい」
無理はしない。
「もしなんかあった場合、次に続けるのが難しくなりますんで」
「そっか。確かにそっちの方が困りますもんね」
「だから父さんと母さんも、そこら辺は心配しないでくれ」
まあそれでも、不安は拭えないんだけどさ。
他の面々にも挨拶をと周囲を見渡せば、泣きっ面の神崎さんと、携帯ゲーム機を持っている高橋さん、そして呆れ顔の巻島さんを確認する。
「そういや取り上げられたんでしたっけ?」
「とりあえず、作戦終わるまではな」
本当に四六時中やってたんだな、神崎さん。
慰めにそちらへ向かうと。
「浦部くん、最新機って高いんだねぇ」
あ、そっちの理由で泣きっ面だったんか。
「お年玉と誕生日からも出すことにしました」
足りないのは親御さんにお願いする感じかな。
「PCという提案もありますよ、うんゲーミング」
「高橋さん、あんまサトちゃんにその手の情報を与えないで」
ゲームによってはMODとか使えたりするんだっけ。開発元が許可だしてりゃ。
ただスペックを求めるとな、値段が。
「活動費……ダメダメ、そこはダメ」
神崎さんの葛藤は良くわかる。
「まあ、アタシも思わんことはないけど、金銭感覚が狂いそうでちょっと怖いかな」
気まずそうに美玖ちゃんが。
「すでにちょっと狂ってますよね。スキル玉や装備とか買ってますし」
「お陰で今のところ、活動の範囲内で使い切れてはいるがな」
「シーズン経過しても手元に残る以上は、いつか使わなくなりますけど。まあ運営の頑張り次第っすね」
姉と彰吾先輩も挨拶まわりを終えたようで、こちらへとやってくる。
「活動資金と生活費の両立か」
「そうね。私より、彰吾の方が苦労してるんじゃない?」
「最低限の学費は出してもらってるし、僕は恵まれた方だと思うよ」
「それが悩みで迷い人になったのもいますね。うん奨学金」
なるほどな。返済しながら働いてても、限界がくる人はいる。
「己家さんでしたっけ?」
「うんミケきゅん。ガチの苦労人」
彼は映世での活動にかける思いが強く、めっちゃ頑張っているようで、今回の作戦に参加できるほどに強化も進んでいる。
姿は見えないから、映世の方にいるみたいだな。
「彼はクジ運が良い。ズルい」
「己家さん、天使の所有者だから、高橋さん目の仇にしてるんだよね」
目の仇にしてるんか。
「いいもん、私にも召喚スキルありますから。うん槍翼」
巻島さんや姉ちゃんは召喚系の前世持ちだから、高橋さんに嫉妬されなきゃいいけど。まあそれを言ったら、神崎さんの闘仙鬼や俺の原罪も強力な召喚か。
「私が言うと火に油かもだけど、高橋さん強力な前世スキル持ちなんだから、あんま己家くんに嫌がらせしちゃダメよ」
召喚が好きなので、高橋さんの気持ちも理解はできますけどね。
「まあ、そこら辺は私も承知してます。でもなんか、彼にはああいう態度をとってしまうのです。うん素直」
神崎さんは閃いたといった表情を浮かべ。
「前世で繋がりあったりしてぇ」
「さすがの私も、本人の前でそれは言えませんよ。うんコンプレックス」
その返答に首を傾げていたが、自分の発言を思い返し。
「あ……そっか」
「もうサトちゃん、気を付けなよ。前世の格差って、けっこうデリケートだしさ」
〖持たざる者〗
・自分専用。
・パッシブ。
・総HPMPが自分に設定される。
・身体強化。
・HPMP秒間回復。
・総HPMP増加。
・自分枠にセットしたスキル玉にソケットが追加される(レベル比例)。
・追加されたソケットには、リスクや制限付きのビー玉を使える。
強力なスキルではあるけど、前世装備がない時点でかなり不利だ。
「でも人造天使専用の宝玉かあ、アタシちょっと興味あるかも」
等価交換が重要視されてるから、リスクや制限付きのビー玉ってのは、やっぱ強力なんだよな。
死にゲーで有名なあの職業よろしく、カスタマイズ性はかなり高いんだけれども。俺らは前世スキルにそって育成してくし。
・・
・・
そんなやり取りをしていると、鏡の祭壇手前で声が発せられる。
なんでも開会式みたいなのをやるんだと。
「えぇ本日はお日柄も良く、これだけの人数が集まってくれたことを、まずは感謝させてもらいます」
緊張した様子の三好さん。あんま慣れてないんだろう。
「失敗は成功のもととも言いますが、まさにその通りで、まだ分かってない事が多くあるのが現状です」
雫さんの前世。
場所が判明しているので、姉ちゃんたちは戦った経験もある。すぐに逃げたらしいけどね。
喋る敵。
撤退時に追ってはこないけど、隧道を抜けた先の空洞に強力な氷の人型が2体出現した。これが火炎団の幹部だったんじゃないか。
「救出が第一目標だとすれば、情報収集が第二目標ってことだね」
美玖ちゃんの話しだと、明火長は最前線の待機所に《魔法陣》を描いたあと、なんどか発射台に問題が発生して両方を行き来していたらしい。
「あと考えられる変化としたら、刻亀討伐作戦ってのと今日の救出作戦が、似た出来事として反映される可能性だね」
明火長が発射台に出現するかも知れんってことだ。
「雫さんの前世と関係が深かった人がいたお陰で、事前に知ることができた情報もあるんだけどさ、やっぱまだまだ不十分なんだ」
麓の拠点が整備された目的は魔獣王の討伐。
本物のヒノキ山は単独峰じゃなかった。そして元々その山道は交通の要所であり、再び使えるようになるだけで国は大きな利益を得られる。
「だからさ、無事に帰ってくるだけでも良いんだ。得た情報が次への武器になっから」
参加する全員がうなずきを返す。
「そんじゃ自分の話はこんな所で。今日のために多大な協力をしてくれた、天使さんと一緒の教祖さまがお話をしてくださるそうなんで」
えっ 教祖なんていたのか。
「小林さん?」
周囲を探してみるが、それらしき人物はおらず。
「はい。呼ばれて飛び出て、こんな所から失礼します」
鏡の祭壇裏に隠れていたのか、大きな半身を乗りだして、ひょっこりと見覚えのある顔を出す。
「三好社長からご紹介いただいた、天使さんといっしょの教祖だよ」
現れた全身はまさに筋肉の一言で片が付く。昔と変わらないタンクトップに短パン姿。
「僕のことを知ってる人もいるんじゃないかな」
隣に立っていた美玖ちゃんが。
「もしかして、体操のお兄さん?」
「おお、あの時のかわい子ちゃんだね! その後、困ったお兄さんやお姉さんは来なかったかい」
俺も以前録画を観させてもらったので、何となく気づいておりました。
「まあそんな不届き者は僕らが許さないけど、覚えてくれてて嬉しいよ!」
左右にステップを踏み始める体操のお兄さん。
「じゃあみんなっ! 雫さんを救うために準備運動を始めよう、参戦しない人もご一緒に! ミュージック・カモン!」
陽気なBGMが鳴り響くが、どうすれば良いんだと皆がざわめく。
「まずは両手を広げて、それぞれの間隔を空けてくれ!」
言われた通りに腕を伸ばし、左右前後の人に当たらないよう位置どる。
「そうだ忘れてた、僕はキタエル。この名前は尊敬するマッスル北〇先生から使わせてもらったんだ!」
知ってる。伝説の人だよな。
「じゃあ両手をグルグル回しながら、踵をお尻に付ける感じ。左から行くぞ!」
テンテン体操もとい、筋トレが始まった。
「そこのお兄ちゃん、恥ずかしがってちゃ駄目だ、そんなんじゃテンテンパワーが足と二の腕に蓄積しないよ!」
宮内が注意を受ける。
「左・右・左・右。救うんだ、救うんだ、こんなんじゃ救えない」
段々とヒートアップしていく。
「行くぞ、もっと行くんだ。救える、救えるぞ、救うんだぁぁっ!!」
123とカウントが始まり。
「テテンがぁぁ フォーっ!!」
「「フォー」」
キタエルさんは不満そうに。
「みんな言うまで終わらないぞ。でも妹さんと隣の君は素晴らしかった」
俺と美玖ちゃんしかフォーをしなかったので、彼に注目されてしまう。
「中々の筋肉だね。でもそれはまだ途上だよ、細マッチョなんて存在しないんだ、共に目指そうゴリマッチョ!!」
今の筋肉で十分なんすけど、けっこう気に入ってます。
「次は片方の肘と膝を合わせて、一緒に腹筋を鍛えよう!」
テンテン体操はまだ始まったばかり。
本番の前に疲れたくないんですけど。
ちょっと長くなったので章を弄らせてもらいました。
各自のスキルを用意せねば。あれ見ながらいつも戦闘場面作ってますので。




