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超・事件18

更新73話目


最初の200でやはり先頭を取りに来たかと思った。

先頭は風が強い場合壁として利用されてしまうが1人で押して行ける能力があれば先頭はレースの主導権を握れる大事な位置だ。

姉ちゃんが走り始めてから一緒に走り力を付け時には後方で見守りがありながら山のコースを1人でTTしていた俺は当然どんな悪条件だろうと自分のレースをする事が出来る。

だからと言って集団で走ると遅くなる訳でもない。

だけど今この国体という大会において俺は初めて婆ちゃんと神楽さん以外で初めて本気の死に物狂いで足利勇旗の背を追っていた。


1000m2分39秒

まるで1500mの大会のような速い通過。

タイムだけなら余裕はある。

だけど足利勇旗という陸上界において将来オリンピックでメダルを取れると言われるほど才を前に無意識とはいえ怖気付いていた事もありいつも寄り呼吸が辛かった。

もう少し体調を完璧に近付けられれば良かったと後悔してる。


1500m3分58秒8

加古先輩、風間先輩、高田先輩の全力とほぼ変わらないタイム。

俺も出そうと思えば普段でも出せる。

だけどやっぱりどうしても足利勇旗という存在に威圧されて上手く足が動いてくれない。

過去に何度かあったゾーンという現象なのか周りが気にならなくなり、音が聞こえなくなって来た。

呼吸も気のせいか楽になった気がする。

同時に楽しくなって来て自然と笑みが溢れた。

今は小野寺先輩とか橘真人の事とかどうでも良いと思う。

ただひたすらに今の俺には足利勇旗の背中しか見えていない。


2000m5分17秒9

完全に世界から音が消えた気がする。

相変わらず足は思うように動かないし呼吸も多少マシになったけど辛いままだ。

正直過去経験したどの大会、練習よりも今すぐ立ち止まってしまいたい気持ちに駆られている。

だけど再来年姉ちゃんのいた高校で男子陸上部を全国優勝させる目標があるから簡単には止まらない。

正直な話特別な目標が無かった俺に出来た先輩達との初めての約束と目標なんだ。

簡単に負けを認める訳がないだろうがっ!!!


必死に力を振り絞り腕を振り地面を蹴る。

そうすると不思議と前に進めた。

足利勇旗との距離が縮まった。



勝てると思った。


「ああぁぁぁぁぁああ!!!」


足利勇旗の後ろにいた橘真人を抜き俺が2番手に着いた。

この時小野寺先輩も全身全霊で3番手に着いている。

顔を見なくても分かる今目の前にいる足利勇旗という男は死力を尽くして自身の目標を超えようと足掻いていた。

本人の才からすれば時が解決する些細な問題なそれを目の前の男は良しとせず今乗り越えようとしている。

カッコいいと思った俺もそこまで強くなりたいと思った。

だけどまだ怖かった。

現に抜けるのに抜いていないのがその最たる証拠なのだ。

姉ちゃんに感じていたコンプレックスも取り除いた!去年より遥かに質の高い練習をこなせた!タイムだけなら小野寺先輩にも追い付いた!

後は追い抜くだけだろう?!?!!!


「………………!!」


最早声を出す余裕すら残っていない。

だけど普段どれほどキツく感じても崩れないフォームが崩れるほど必死に腕を振り地面を踏み締めた。

真っ白な世界で俺と足利勇旗の2人だけの勝負は俺が横に並んだ瞬間動く。

ラストスパートに入っていた足利勇旗は更にスパートを掛けて横に並んだ俺と距離を作った。


今ここで勝たないと、勝ちに行かないとっ!

これからずっと負け続ける気がした。

だから俺は今までで1番の一歩を鐘の音を後ろに聞きながら踏み出した。


「………………………………ぁ」


おかしい、徐々に背が離れて行く。

1m、2mとどんどん距離が開いて行った。

駄目だここで離れたら5000mの距離に置いて致命的になると思ったんだ

だから足を動かそうとしたけど力が入らなかった。

そして


ガァアン!


音が聞こえた。

どこから聞こえたのだろうと思い周りを見ようとした時に世界に色が戻った。

まず1番最初に見たのは赤い地面、競技場に使われるタータンの色そして縁石ブロック。

この時初めて俺は足がもつれて転んだ事に気付いた。

不味い既に負けが確定した距離を少しでも詰めようと立ちあがろうとするが膝が笑っている。

途中聞こえたような気がした小野寺先輩の姿は既に前方にいた。

何とか一歩を踏み出した時視界の一部が赤く染まった。


「………………ぇ?」


少しずつ歩きのようなジョグで足を進めながら自身の額を触ると暖かくヌルりとした感触がある。

これはもしかしてさっきの音の正体が俺が縁石ブロックに頭をぶつけた音だったのかと嫌に冷静な頭で理解した。

俺の額の怪我に気付いたのか係員が声を掛けて来るが煩わしさしか感じない。

手を掛けようとして来る係員を左手の手首で押し退けると左手にべったりと付着した血を振り払いながらほんの少しだけジョグのスピードを上げた。

ジョグと言っているがもう殆ど老人の散歩みたいに遅い。


「ハ…………ハ……!」


掠れた声が漏れる。

時々足が絡れ転ぶが俺はゆっくりと時間を掛けてゴールを目指した。

今この瞬間も周りの声は僅かしか聞こえない。


(何て……気持ちの良い世界……!!)


3000mあった距離も残り100mを切った。

意識が朦朧とし、足に力が入らない故にその場に何度か座り込みながら俺はゴールラインを超えた時意識を失った。


1位 足利勇旗 7分56秒 朔羽高

2位 小野寺哪吒 8分6秒89 花山第一中

3位 橘真人 8分6秒91 駒姫(くき)

4位 佐藤健(さとうたける) 8分9秒 岳南高

15位 小雨陽太郎 13分18秒 陽花附属中






ここまで読んで下さりありがとうございます!!

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