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開花、そして再会


 ──青薔薇が、花開きかけていた。


 ヴィルヘイムは部下の報告を左耳から右耳へスルーし、阿呆のようにただ突っ立ってマレフィア宮殿を出たところからクリスティア宮殿の上空を見つめていた。


「陛下、ヴィルヘイム陛下」


 隣で報告をしてくれているラウル・カーラ中佐が呼びかけてくる声で、意識が戻って来る。


「ああ、すまない。報告を頼む」


「はい。ヨルムンガンドが青薔薇に対し竜の息吹で攻撃を仕掛けたところ、これまで変化がなかったのに対し、八十一回目となる今回、遂に青薔薇が開花を始めました。これまでにも少しずつ花弁が開いているという報告はありましたが、はっきりと花弁が動くことはありませんでした。しかし今回は見ての通りですが……一番内側の花弁以外の全てが、外に向かって倒れました」


 朝を迎えつつあるときの花のように、光を求めるかのようにして開いている花。


 その内側に、あの一枚を隔てた内側に、アグリアが──妻が、いるのだ。


 そう思うとまた意識が何処かへ行きかけた。


 俺は攻撃出来るだろうか。いざ面と向かったら攻撃が怖くならないだろうか。赤竜の力まで完全に復活して、強くなった。けれどそれで本当に良かったのだろうか。間違って殺してしまったら──。


 そこまで考えて背筋を冷やした時、遂に青薔薇が動いた。最後の一枚だった花弁が、急激に開く。その内側、雄蕊と雌蕊のあるべき場所に銅像のようにして座っている一人の女性。真っ黒のドレスは裾が破れており、そもそもアグリアはあんな恰好していなかったはずだと気が付く。髪色も、何処となく違う。背丈は少し縮んでいるように……まあ、遠くからだから細かくは分からないが。


 ただ翼竜の異能によって視力が異様なまでに発達しているヴィルヘイムの目では、確かにあれは妻であって妻ではないのだと認識出来た。


 女が一歩、足を動かす。立ち上がるでもなく、ただ頽れたように座っていた姿勢から騎士が忠誠を誓う時のような姿勢になっただけ。


 だが、その女の目が、開いた時。全ては確信に変わった。


 アグリアの瞳は猫のような、月のような黄金であるはずなのに。

 女の瞳は何処までも澄んでいて何処を見ているのか不明な青だった。


 ぞわりと、ヴィルヘイムは背筋を凍らせた。石化されたかのように動けない。脳は警鐘を鳴らすが、身体が言うことを聞かない。命令が神経まで届かない。女の碧眼がこちらを見た気がしたせいだ。


『ほぉ……あの女。やはり死んではいなかったか』


 部下たちが忙しなく動き出し命令を求める声も聞こえずただ立ち尽くすばかりのヴィルヘイムの脳内で、誰かが話し出す。


『ふん。貴様、動けないのか』


 姿が見えずとも尊大な態度だと分かる声の主の男は、『まあ良いか』と続ける。ヴィルヘイムはその声を確かに聴きながら、また一歩動いて直立した女の姿を凝視していた。


『子孫が腑抜けというのは悲しいことだが……まあ、アレもせっかく蘇ったんだ。どうせなら、子孫などではなく、実物と対峙したいことだろうよ。はッ、久しぶりに身体が熱くなるな。なるほど、力を得た瞬間から、この魂を、意識を、絶えず燃やし続けてこの代まで来たのは今日と言う日の為であったか。そう分かればこそ、なお熱くなる。絶やさずに来たこの炎で、アレの魂を浄化してやろうではないか』


 ヴィルヘイムはうんともすんとも言えなかった。前回のように、気が付いたら妻が暴走していて街が竜害にあっており、考える暇もなく行動せねばならなかった状況とは違う。今回は考える時間も対策する時間もあった。それで、それでもし、数時間後の自分が、「選択を間違えた」「失敗した」と思っていたとしたら……。


『もうよい。これはそもそも、貴様の問題ではない。子孫まで残してしまったことが過ち。全ては、アレと我の問題だ。貴様は何も考えるな。我がケリをつける。……しばし身体を借りるぞ、ヴィルヘイムよ』


 拒否する暇などなかった。ヴィルヘイムには拒否する気もなかった。


 意識が本当に遠のいていく。気絶する前のように、段々と暗くなって、白くなって。


***


「ふん、悪くはないな」


 背丈は当時の自身と変わらないようだ。差がないというのは、運動神経に支障がないということ。身体になれる暇がない今は、助かる。


「さて、何百年ぶりだ?」


 拳を握ったり開いたりしながら、女を──王妃エレクトラを凝視する。


「我の方は、あくまでもヴィルヘイムの身体、ヴィルヘイムの血だからな。魂を宿し姿形が変わっているが、宿した力はヴィルヘイムのまま。全ての竜種の異能か。愉しそうじゃないか」


 第一次聖魔戦争の結末は、和平。


 王を失ったアストレア王国と《聖女》の脅威にさらされたオーランド帝国による交渉の末の終わり。


 だから二人が直接対決したことはなかったし、女の「夫を奪った敵国と弱き自国民に復讐を」という想いも、我の「全てを人任せにして恩恵だけを得ようとする卑怯な隣国に鉄槌を」という目的も叶わないままになった。


「それが、今にして叶うとは」


 この戦いに和平はない。

 死ぬまで女が暴れ狂うか、こちらが国を守れず女を倒せず終わるか。

 前とは違って言葉が通じる状況ではないし、この時代の王は我らではない。


「──久しぶりの目覚めで弱ったなどと言うなよ、エレクトラ」


 名を声に出した時、確かに遥か上空にいる女がこちらを振り返った。その口角はにやりと上がったように思われる。


 我は突然容姿が変わったことに驚愕し恐れ慄き警戒を露わにするオーランド帝国兵に向けて、腕を高く掲げ、その拳に炎を宿した。


「皆の者! よく聞くがよい! 

敵はアグリア・オーランドの肉体と精神を乗っ取ったエレクトラ・アストレアである! 

遥かなる時を超えて蘇った始まりの《聖女》を、しかし貴様らが恐れる理由など一つもない! 

皆の者! 改めてよく聞くがよい! 

我は原初の《魔王》にして炎帝ハーラリオン・オーランド! 

聖女の面を被った魔女を倒すべく、永き時を超えて蘇った王である!!」


 シンと、静まり返って誰もがその声に耳を傾ける。


「今ここに、最後の戦いを宣言する!

現王妃アグリア・オーランドを取り返し、

宿敵エレクトラ・アストレアとヨルムンガンドを討つのだ!!!!」


アグリアに宿ったエレクトラ、ヴィルヘイムに宿ったハーラリオンの状態ですが、

意識→エレクトラ、ハーラリオン

見た目→エレクトラ、ハーラリオン

です。つまり完全にエレクトラ、ハーラリオンです。

ただし、宿っている魂側からすれば他人の身体を動かしているという意識はあります。

つまり簡単に言えば、

私たちがフルダイブ型のゲームでアバターを動かしているような状態です。

自身(エレクトラ、ハーラリオン)がゲームキャラ(アバター)を選択して遊びます。このキャラ(アグリア、ヴィルヘイム)ならこうするだろうなとは思っても実際に動かすのは自身なので、意識は問題なくしっかり保てます。しかし、アバターと自身の現実での姿が大きく異なれば動きに違和感が生まれます。ゲーム内では大剣を振るえても、現実ではそんなことする筋力がなかったり等々。

小説内の世界観に合わせて説明するならば、

エレクトラ、ハーラリオンからすると→意識は自分の&身体は使わせてもらっている

周囲の人からすると→意識も見た目もエレクトラ、ハーラリオンだぞ!!

です。

もっと言えば、二人からするとやっぱり人の身体に違いはないので、「なんか背低い」「なんか筋肉ない」って感じになっちゃいます。でも周囲の人からすると見た目は彼らそのものなんです。そして背低いと思っても、自身本来と視点の高さは変わらないんです。

つまり、周囲の人には「彼ら自身に見える=幻、幻影」が見えていて、二人からすれば「いつもと違うけど、行動の結果は同じ(この身体でした場合と、本当の身体でした場合で)」になります。


説明長くてすみません。絵で描くといいのかも。


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