またいつか会う日、会話の続きを
周囲を警戒しながら扉を開き、中を見る。そこには三人の姿があった。父、母、妹カレン。まだ生きている。それどころか、何が起こったのかとこちらを見ていた。アランの父ダグラスもいる。もちろん、兵士たちも無事だ。
「グレアム国王が死んだ。王妃を始めとしたアストレアの人はオーランドを犯人として国王と王妃を、殺した」
驚く顔をする彼らに淡々と、けれど唇を噛み締めながらそう伝える。
「戦争になる。時間がない。国を出るわ」
この国に残ったって、その先に待つのは私に対する人質として利用される日々。ならば三大貴族としての地位を一度捨てるべきだ。
「……ヴィルヘイム王子は」
ようやく口を開いたお父様はそう聞いた。
「アストレアの兵士を撹乱するために動いているわ。他のオーランド兵士は殺された……セイラとラムロスは今頃脱出してる。アランも、そろそろ動いたはずよ」
「ミレイア姉様は……?」
カレンが震える声で呟いた。まだ十四歳なのだ。この突然始まった悲劇に心も頭も追いついていないはず。胸の前でぎゅっとドレスのリボンを握りしめた姿は、姉の私の心を締め付ける。
「会場にいたわ。でも、レイ王子がいるから、大丈夫よ。レオハルトだって弟には手を出せない」
「でも……」
不安そうにするカレンの気持ちは分かる。でも今頃会場は王妃率いる《聖女》で固められているはずだ。戻るのは不策だ。レイ王子を信じることしか、出来ない。
「ごめんね、カレン」
室内のランプが不安を表すかのように点滅する。チカチカと目の端で揺らぐ光を無視して、兵士たちに目線を向けた。
「今すぐ馬車の用意を。私の異能で持ち上げて、国境まで運ぶわ」
「分かりました。おい、お前たち、アグリア王女の言う通りにするんだ」
「「「はっ!」」」
一番格が上の兵士の一言で、他の者が動き出す。三人はその場所の中に窮屈そうに座った。本当ならばオーランドから乗ってきたたくさんの馬車があるのだから全部使ってしまいたいくらいだが、生憎私の異能しかない今全てを動かすことはできない。
「こちら側にもう一人でも異能持ちがいれば……」
カレンの異能《聖女》は水だ。けれどそんなに強い異能ではない。とはいえ三大貴族としての血筋の濃さゆえにクレアなんかよりは強いが。
あ、そうだ、水だ。
「馬車が出ればすぐに誰かが気がついて追っ手が来るわ。だからカレン、空から異能を使って雨を降らせて。そうすれば相手側は炎の《聖女》を使えないはず」
残念ながら異能の中にも貴賤はある。一番重宝されるのは炎だ。その反面数が多いのも炎だ。だからこそ私みたいに三大貴族の炎使いは大切な存在。数多いる炎使いの頂点なのだから、自分より弱い存在が多い者と言える。
「今すぐそこを出ろ!」
「オーランドの者は外へ!」
「小屋は包囲したぞ!」
「十秒以内に出るんだ!!」
いけない。想定よりも早い。
カーテンをそっと動かして窓の外を見た。確かに包囲されている。嘘ではない。
それから馬車を見た。兵士たちとカレンはすでに乗ったが、両親は……何故か乗ろうとしない。
「早く乗って。私が時間稼ぎを」
「ダメよ。大丈夫。三大貴族を簡単に殺したりはしない。しかもレイ王子の妻の親だもの」
「そうだ。カレンを頼む。国内のことは任せろ」
「でもッ!」
どうしてだろう。どうしていつも私の周りの人間は何もかも覚悟したみたいな顔をするんだろう。嫌いだ。こういうのは。だってこういう表情の人はいつも────。
よくない考えが脳をよぎる。
「大丈夫だ」
お父様が私の肩をそっと叩く。その隣でお母様が微笑んでいる。その姿が、ついさっきまでこの世界で最高の王と王妃だった人と重なる。
両親がこれほど真面目な顔をしたことが、過去にあっただろうか。多分ない。命を天秤に乗せて何かを賭けてみせる姿はこれが初めてだろう。
だからこそ、その想いを簡単にはあしらえない。
「──分かったわ。でも、これを最後の会話にしないで」
「ありがとう……ダグラスは息子の元に」
「いいえ、主人に使えるのが執事の役目ですので」
「……そうか」
そうして三人は扉を開けて外へ出た。
「兵士ならば中にいるよ。何かあったのか?」
何も知らないふりをして見せるのが聞こえた。
「国王がオーランドによって殺害された。よってオーランドの者を捉える。アグリア王女はレーランドの者ゆえお前たちも一度捉えられるが、真実を話せば解放されることだろう」
「国王陛下が……了解した。では、小屋の中に」
そのタイミングで私は小屋の背後をぶち破った。夜中だから、何が起こったのか外の兵士は分からなかっただろう。ただ何か大きなモノが突撃してきたと思ったはずだ。これで、両親が小屋に私を隠していた説は消える。
赤い薔薇に乗せた馬車二台にもうひとつ異能をかける。青薔薇の完全防御だ。そのまま空に浮かせていく。私は一人別でそばに浮かせた薔薇に乗った。
「カレン、《聖女》を」
下にいる兵士たちを警戒しながらそう叫ぶ。けれど、カレンは一向に水を出さない。いや、厳密には水は出ている。ただ指の先で生成したそれは一瞬で霧のように消えてしまっているのだ。
「姉様、ダメだわ!」
「なんで……」
もしかして、この青薔薇が原因なんじゃないかしら。《聖女》が突然使えなくなるなんてこと聞いたことがない。だとすればこの防御結界はその無敵さの代わりに、私以外の異能では内部から外部への攻撃ができないのでは……?
と、すると、最悪だ。私の異能では兵士だけでなく三人のことまで傷つける。
「加速するわ、掴まって」
どこに、という顔をオーランド兵士がしているのを無視して私は薔薇を操作した。
下から銃弾やら異能やらで攻撃が飛んでくる。対して攻撃手段を持たない我々は、とにかく飛び続けるしかない。
やがて宵闇に紛れて三人の姿は見えなくなってしまった。




