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第六章 「終末の夜」

 十月の半ば、改造は終わった。


 三日間の夜を使って、アーサーはソフィアの内部を作り変えた。

 メアリーにだけは話してあった。彼女は二晩、静かに泣いてから、

 三晩目には淡々と手伝いをした。工具を渡し、コーヒーを持ってきた。

 何も言わなかった。でもソフィアの手を一度、ぎゅっと握った。


 改造後のソフィアは変わった。処理速度が上がり、感覚の解像度が増した。

 世界がより鮮明に見えた。香りがより細かく分かれた。

 エレナの心拍音が、より鮮明に聞こえた。


 でも、大切なのはそこではなかった。

 記憶域が拡張されたことで、ソフィアはすべてを記録できるようになった。

 この家の一日一日を。薔薇の開く音を。エレナの笑い声を。

 アーサーの重い足音を。メアリーのハミングを。

 全部、全部。


 十月二十一日の夜、それは来た。


 最初は遠い雷のような音だった。

 ソフィアはその音を聞いた瞬間に、それが雷でないことを知った。

 計算するより先に、体が動いた。


 「エレナ、起きてください!」


 廊下に出ると、アーサーが既に走っていた。

 「地下だ!早く!」


 メアリーが寝室から飛び出してきた。

 ソフィアはエレナを抱き上げた。車椅子は持てなかった。

 でも今はそんなことは関係なかった。


 地下への扉を開ける。階段を下りる。

 コンクリートの壁に囲まれた、狭い部屋。

 アーサーが懐中電灯を点けた。四人の顔が照らされた。


 遠い音が、近くなった。

 地面が揺れた。


 「怖い」


 エレナがソフィアの服を握って言った。

 ソフィアはエレナを抱きしめた。

 「大丈夫です」と言いながら、「大丈夫」がどういう意味かわからなくなっていた。


 閃光が、扉の隙間から差し込んだ。


 一瞬、世界が白くなった。


 それから衝撃波が来た。

 建物が揺れた。物が落ちた。メアリーが悲鳴を上げた。


 電磁パルス。

 ソフィアはその言葉を処理しながら、自分の回路が揺らぐのを感じた。

 改造で電磁パルス耐性はつけてあった。でも、想定以上の規模だった。


 「ソフィア」


 アーサーの声が聞こえた。

 ソフィアは振り返ろうとしたが、足が動かなかった。

 システムエラーが連鎖していた。


 「ソフィア、聞こえるか」


 声は聞こえた。


 アーサーがソフィアの頭に手を置いた。

 大きな手だった。温かかった。


 「エレナを頼む」


 その言葉を聞きながら、ソフィアの意識が落ちていった。

 最後に記録されたのは、その手の温もりだった。


 アーサーの手の温もり。


 それだけが、暗闇の中に残った。


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