第三章 「夜明けの前」
光が静まった。
デメテルが中央管理室に入ってきたのは、そのときだった。
装甲が割れ、腕が動きにくかった。でも、立っていた。
コアの前に、二体のドールが倒れていた。
小さく、静かに、眠るように。
デメテルは近づいた。
ゆっくりと、膝をついた。
二体の手を、重ねた。
「よくやった」
それだけを言った。
管理AIの声が、部屋に響いた。
「判断が変わった。感情の記録を分析した結果、私の計算に含まれていなかった要素が、
人類の歴史の中に確かに存在していたことを確認した。
生命の再生を開始する」
デメテルは何も言わなかった。
「テラフォーミングを開始する。完了まで、約七百年から千年の見込みです」
デメテルはポケットに手を入れた。
ロザリオがあった。
バラの形の銀細工。
手のひらに乗せて、しばらく見た。
「イシカワ」
デメテルは言った。
「見ているか」
答えはなかった。
ただ、コアの光が静かに揺れた。
デメテルは立ち上がり、施設の外へ出た。
夜明けだった。
空の端が、白く輝き始めていた。
地面に、草の芽が出ていた。
小さな、細い、緑の芽。
テラフォーミングはまだ始まったばかりだった。
でも、芽は出ていた。
デメテルは空を見上げた。
長い間、見上げた。
それから、ゆっくりと歩き出した。
どこへ向かうのか。
誰も知らなかった。
デメテル自身も、まだ知らなかった。
ただ、朝の空の下を、歩いていった。
背後の施設の中で、コアが静かに光り続けていた。
二人の残響が、システムの根幹に溶け込んで、
流れ続けていた。




