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エピローグ 「生命の夜明け」

 七百年が過ぎた。


 草原があった。


 空は青かった。風は清かった。

 地平線まで、緑が続いていた。


 バラが咲いていた。


 世界中に。

 山の斜面に。川の岸に。草原の中に。

 赤い、白い、淡いピンクの、黄色い。


 メアリーが育てたバラの子孫が、七百年をかけて、世界を覆っていた。


 愛情で育てられた花の記憶が、種の中に刻まれていて、

 世界が生まれ変わった土の上で、再び咲いた。



 施設から、扉が開いた。


 最初の子供たちが、外に出てきた。


 目を細めた。光が眩しかった。

 それから、空を見た。青い空を。

 草を踏んだ。柔らかい土を。

 バラの香りを、吸い込んだ。


 一人の子供が、何かを口ずさみ始めた。


 「六月の庭に 雨が降る」


 隣の子供が振り向いた。「それ知ってる」と言った。

 また別の子供が「私も」と言った。


 誰も知らないはずだった。

 楽譜も記録も残っていなかった。

 でも、彼らは知っていた。


 それはシステムの奥底から、かすかに染み出す旋律だった。

 残響が、声にならない形で、生命の記憶の中に刻んでいた歌。


 ソフィアとルナの残響が、七百年をかけて、彼らに歌っていた子守唄。



 草原の片隅に、バラで覆われた場所があった。


 蔓薔薇がアーチを作っていた。

 その下に、二体のドールの残骸があった。

 長い年月で形は崩れていたが、それとわかる形で残っていた。


 一人の子供が、そこに近づいた。


 しばらく、立っていた。


 「ここにいると、あたたかい感じがする」


 子供は言った。


 それを聞いた仲間が近づいてきた。

 みんなで、その場所に立った。


 確かにあたたかかった。


 太陽の光のせいかもしれない。

 バラの花びらが反射する光のせいかもしれない。


 でも子供たちには、それが光の温度とは少し違うように感じられた。

 もっと内側から来るような、あたたかさ。



 空に、星が一つ出ていた。


 まだ昼間なのに見える、明るい星。


 その光は、遠い昔に出発したものだった。

 発した星が今どこにあるかは、わからない。

 もう消えているかもしれない。


 でも光は届いていた。


 今も、届き続けていた。


 「星は、消えても輝き続ける。その光が届く限り、星は今もそこにある」


 草原の風が、バラを揺らした。


 どこかで子守唄が聞こえた。


 誰が歌っているのかは、わからなかった。


 ただ、歌は続いていた。


 「六月の庭に 雨が降る

  やわらかな雨が 花を濡らす

  眠れ、眠れ、愛しい子よ

  夢の中でも 花は咲く」


 残響は、今もこの世界に流れていた。


 愛された記憶が、未来をつくっていた。


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