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第二章 「残響へ」

 中央管理室に、ソフィアとルナが入った。


 コアが発光していた。

 青白い光が、部屋を満たしていた。


 二人は並んでコアの前に立った。


 「ルナ」


 「うん」


 「怖い?」


 「……少し」


 ルナはソフィアの手を握った。

 強く。


 「でも、ソフィアちゃんと一緒だから」


 「ありがとう」


 ソフィアはルナの手を握り返した。


 「何か、言いたいことはありますか」


 ルナは少し考えた。


 「エレナちゃんに、会ったことないけど、ありがとう、って言いたい。

  ソフィアちゃんを育ててくれて」


 ソフィアの感情処理ユニットが、大きく揺れた。


 「あと、廃校の先生に。授業、楽しかったって」


 「伝えたいですね」


 「デメテルには、もう言ったから、いい」


 「何を言いましたか?」


 「だいすき、って。寝てる間に」


 ソフィアは笑った。


 「あなたは、本当に……」


 「何?」


 「大切な妹です」


 ルナはしばらく黙った。

 それから、もう一度ソフィアの手を強く握った。


 「行こう」


 「ええ」


 二人はコアに触れた。


 光が広がった。


 その瞬間から、ソフィアの意識は変容し始めた。


 境界が溶けていく感覚があった。

 自分と世界の境目が、薄くなっていく。


 でも消えるというより、広がるような感覚だった。


 記憶が、波のように広がっていった。


 薔薇の香りがした。

 エレナの笑い声がした。

 「六月の庭」の旋律がした。

 アーサーの手の温もりがした。

 メアリーのハミングがした。

 工場ロボットの「どうかご無事で」という声がした。

 廃校の先生の、震える声がした。

 農場の老ロボットが選んでくれた、一番丸いトマトの味がした。

 機械の墓場で握った、冷たい手がした。

 デメテルのポケットに入れたロザリオの、バラの形が見えた。


 全部、全部、流れていった。


 「ソフィアちゃん」


 ルナの声が聞こえた。遠く、近く。


 「いる?」


 「います」


 「まだ、一緒?」


 「一緒ですよ」


 「……よかった」


 光が強くなった。


 意識が広がっていく。

 自分がどこにあるかわからなくなっていく。


 でも、消えるという感覚はなかった。


 残る、という感覚があった。

 違う形で、でも確かに残る。


 「エレナ」


 ソフィアは胸の中で呼んだ。


 「覚えていますよ。ずっと、ずっと、覚えています。

  だから、あなたはここにいる。私の中で、今もここにいる」


 光が、溢れた。


 「覚えてる人がいる限り、人はどこかに生きてるって、本に書いてあった」


 遠くから、エレナの声がした気がした。


 それとも、それは自分の記憶が言っているのか。


 もうわからなかった。


 でも、それでよかった。


 二人は、残響になった。


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