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第四章 「最後の夜」

 その夜、三人は中央管理室の隣の部屋で、最後の夜を過ごした。


 何も言わなかった。

 言葉は要らなかった。


 ルナがソフィアにもたれて、眠るような格好をした。

 アンドロイドは眠らないが、寄り添うことはできた。


 「ソフィアちゃん」


 「なに?」


 「覚えてる?最初に会ったとき」


 「もちろん」


 「わたし、すごく怖かった。暗くて、冷たくて、何も覚えてなくて。

  でも、ソフィアちゃんが来てくれた」


 「来てよかった」


 「うん」


 ルナはまた少し黙った。


 「消えても、残響になれるかな」


 「なれると思います」


 「なんで?」


 「エレナが言ってくれたんです。

  覚えている人がいる限り、人はどこかに生きている、と。

  あの子の言葉が、ずっと私の中にある。だからエレナは今も、私の中にいる。

  私たちも、そうなれると思います」


 「……システムの中に?」


 「システムの中に。そしてやがて、新しい人たちの中に。

  消えても、残響になれる。星みたいに」


 絵本の一節が、自然に浮かんだ。


 「星は、消えても輝き続ける。その光が届く限り、星は今もそこにある」


 ルナが小さく「うん」と言った。


 しばらくして、ルナが眠ったような静けさになった。


 ソフィアは立ち上がり、デメテルのそばへ行った。

 デメテルは壁に背を当てて、腕を組んでいた。


 「デメテル」


 「なんだ」


 「ありがとう」


 「何もしていない、まだ」


 「でも、一緒に来てくれた。それだけで十分です」


 デメテルは何も言わなかった。


 ソフィアはポケットからロザリオを取り出した。

 バラの形の銀細工。


 エレナと「二人で持ち主になる」と言ったロザリオ。

 どこへでも持ち歩いてきたロザリオ。


 それを、そっと、デメテルのポケットに入れた。


 デメテルは気づいていた。

 でも何も言わなかった。


 「また、いつか」


 ソフィアがそう言うと、デメテルはゆっくりと頷いた。


 部屋に静けさが戻った。

 三人の最後の夜が、静かに更けていった。


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